ムッシュ・モウソワール第2回来日公演『レッド・ジャケット』西田シャトナー伯×佐藤永典伯にインタビュー!「妄想に国境なし!」


衝撃の初来日公演から約1年―。極上の妄想演劇が、再び日本に上陸!今回、2016年5月11日(水)に開幕するムッシュ・モウソワール 第2回来日公演『レッド・ジャケット』の取材のため、エンタステージ編集部はムッシュ・モウソワール日本公演実行委員会とともに渡仏。稀代の妄想演劇作家・西田シャトナー伯と、今回初来日となる佐藤永典伯にお話を伺ってきた。

ムッシュ・モウソワール『レッド・ジャケット』インタビュー

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※なお、今回の訪問は急遽決まったため、伯たちは平服での撮影となりましたが、予めご了承ください。

『ムッシュ・モウソワール』約1年ぶりの再来日

――本日はお会いできて光栄です。早速ですが、『ムッシュ・モウソワール』来日公演のきっかけについてお伺いできますか?

シャトナー伯:『ムッシュ・モウソワール』は、400年の歴史を持つフランスの伝統演劇であり舞台装置も美術も照明も最小限の空間で行われることが特徴です。この演劇様式を日本に紹介したいという話を、プロデューサーとオラキオ伯と3人でしたのが、来日公演のきっかけです。

ムッシュ・モウソワール『レッド・ジャケット』インタビュー_3

――佐藤伯は、今回の『ムッシュ・モウソワール レッド・ジャケット』が初来日になりますね。

佐藤伯:はい。僕はシャトナー伯の作品への出演も初めてとなります。他のメンバーはすでにシャトナー伯の作品に何度か出演していると聞いていますので、不安もありつつ、すごく楽しみというか・・・。今、いろんな気持ちが生まれています。

シャトナー伯:前回の来日公演の時は、私は宮下伯と初顔合わせだったからね。

佐藤伯:そうだったんですか・・・!僕もこのメンバーに加われて光栄です。

――公演のビジュアル撮影の際は、他のメンバーの方とお話されたりしましたか?

佐藤伯:あまり話す時間はなかったのですが、オラキオ伯とは初対面だったのでご挨拶させていただきました。他のメンバーは、これまでもお会いしたことがあり、お互いに知っていたので。今回メンバーの中では僕が一番歳下なのですが、あまり緊張することはなかったです。

シャトナー伯:オラキオ伯は、「骨の髄から芝居をやれる」ような機会を探していらっしゃる方。彼と一緒に何かやりたいというのも、『ムッシュ・モウソワール』をやっている理由のひとつでもあるんだよね。

佐藤伯:ご挨拶できてよかったです。すごく温かい方でした。

ムッシュ・モウソワール『レッド・ジャケット』インタビュー_2

――前回とはまた違ったメンバーで来日されますが、今回のメンバーはどのように選ばれたのですか?

シャトナー伯:私はいつも、プリミティブな表現に情熱を持てる人を求めています。そういう渇望を持っているというか、ただウケるためにではなく、もっと根源的な、表現に対する炎を燃やしているメンバーを探してほしいと、プロデューサーにはお願いしていました。

――佐藤伯は、ペイント貴族の末裔でいらっしゃるんですね。

シャトナー伯:佐藤伯は、ヨーロッパの印刷技術の発展に大きく貢献した貴族の末裔ですね。佐藤伯はオリジナルのキャラクターも持っているんだよね?

佐藤伯:はい。タコの“墨田さん”といいます。知ってくださっていたんですか・・・!嬉しいですね・・・。

シャトナー伯から見た佐藤伯は“真実”を知る人?!

――シャトナー伯は、佐藤伯に最初に会われた時どのような印象を持たれましたか?

シャトナー伯:初めて佐藤伯と会った時は、あまり時間がとれず少しだけしかお話しができなかったのですが、とりあえず、“常識的な世界に生きていては見ることのできない真実”を見ている人だということはわかりました。普通の会話しかしませんでしたが、そうとしか思えなかった(笑)。だから、彼と一緒に芝居をやりたいと思いました。

佐藤伯:あの時は死ぬほど緊張してたんですよ(笑)!もはや、このまま帰りたいって思うぐらい緊張してて。

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シャトナー伯:宮下伯も、同じ“真実”を知っている人なんだよね。私にもそういう部分はあると思うんだけど、日常生活の中では決して開けることはない扉が、すぐそこに一枚ある人たち。そういう向こう側の真実を知っている人たちと一緒に芝居を作ることは、とても価値があります。

佐藤伯:宮下伯と僕は、歳がちょっと離れているんですが、時々一緒にお酒を飲んだりします。芝居の話もくだらない話も熱く語れる仲間や先輩方と一緒に芝居をできるのは嬉しいですし、稽古を重ねていくうちに、いろんなことができるんじゃないかという楽しみが、今膨れ上がっています。これを突き詰めたら、それこそ“常識的な世界に生きていては見ることのできない真実”を見ることができるんじゃないかな。

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演じ手と観客の間に作り出すひとつの現実

――『ムッシュ・モウソワール』では、皆さん“妄想”と戯れられていますが、作品はどのように作り上げられていくのですか?

シャトナー伯:私の頭の中にあるものを具現化するという作り方ではなく、演じ手と一緒にただただ作っていくのみです。私の頭の中を汲み取ろうというスタンス一辺倒の俳優もたまにいるのですが、それでは作品にならない。人の頭の中は、誰かに読み取ってもらえるほどそんなシンプルなものじゃないですし。だから、俳優と演出家の双方が、第三の現実をそこに作り出すしかないですよね。我々が集合知として作り出す世界だけが“演劇”なのだという考え方です。

佐藤伯:なるほど・・・。

ムッシュ・モウソワール『レッド・ジャケット』インタビュー_7

シャトナー伯:佐藤伯は音楽もやっているからわかると思うけど、例えばピアノを弾く時。もちろん頭の中にある曲を弾くというタイプの音楽家もいると思うけど、やっぱりピアノ触って初めて出てくる音もあるよね。それは、ピアノと演奏者の共同作業。演劇もそうだし、もっと言えば、ものづくりは全部そういうものだと思います。もちろん(作品作りの)きっかけは演出家から出そうと思いますけど、演じ手からきっかけが来てもいいと思っています。そんな風に作っていますね。

――観ている人それぞれの頭の中で完成するのが『ムッシュ・モウソワール』なのでしょうか。

シャトナー伯:うーん・・・、それぞれ頭の中で作るといえば確かにそうだけど、見ている人ごとに別々のものを頭の中で作る、というわけでもないんです。経験的に言うと「観た作品をスケッチしてみて」と言って、お客さんにスケッチしてもらうと、それぞれ、結構似た絵になるんです。そんなに食い違ってはいない。

佐藤伯:・・・!!(聞き入りながら、目を丸くする佐藤伯)

シャトナー伯:お客さんは座っている位置も違うから、もちろんそれぞれ観ているものは違うのですが、それを全部合わせたものが、みんなの真実であって、我々が劇場で行っているのは、演じ手と観客の間にひとつの現実を作り出すということなのです。そういう集合知での認識を生み出すのが“演劇”なのだと思います。ですから、お客様に僕らの持っているイメージを伝えるというよりは、お客様とみんなでないものを作り上げて、それを信じた上で劇場から散会する・・・そういう試みが、『ムッシュ・モウソワール』と言えますね。

――佐藤伯は、次回来日公演についてイメージが沸いてきましたか?

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佐藤伯:僕はこれまで、シャトナー伯がお話されたような作り方をする作品に触れる機会があまりなかったので、きっと初めて体験することがたくさんあると思います。目に見えるものが多いという、それに慣れている良さも、もちろんあると思うのですけど・・・。今回の作品は稽古の仕方から通常のお芝居と違うのでしょうか?

シャトナー伯:やることは、実は誰もが経験している子供時代の遊びとほぼ一緒。磨き抜いた技術の上に存在するものではなくて、“妄想”という極めて原始的なものを、今の我々の技量でやるだけなのです。例えば、15年間磨きぬいた肉体で演じるバレエも素晴らしいけど、幼稚園の子どもたちが2週間稽古したお遊戯も素晴らしい。もっと言うと、子どもが初めて聴いた音楽に合わせて踊るダンスは本当に素晴らしい。つまり、人間が持っている本来の“素晴らしさ”というのは、必ずしも鍛錬方法にあるわけではありません。丁寧に原始的なところから発掘したり、内面から心を鍛えたり、そういうところに立ち返る稽古になるかな。

第二回来日公演『レッド・ジャケット』とは

――今回上演される作品は、シャトナー研の『たとえばなし砦』を原作にされているんですよね。

ムッシュ・モウソワール『レッド・ジャケット』インタビュー_11

シャトナー伯:原作はもともと即興劇でしたが、今回、僕がきちんと戯曲として仕上げます。

――前回上演された『ブラック・ベルト』は、柔道の黒帯から付けられたタイトルでしたね。今回の『レッド・ジャケット』というのは・・・?

シャトナー伯:今回は、わりと最初から赤いジャケットを着て出てきますよ(笑)。

佐藤伯:僕、すでにチラシで赤いジャケット着ていますよね。どういう意味なんだろう・・・未知の世界です。まだ(配役は)決定はしていないんですか?

シャトナー伯:誰がどの役を演じるかは、稽古に入ってからね。

佐藤伯:(チラシのあらすじを見ながら)「瀕死の男」、「外へ出たがる男」、「中に居たがる男」、「軍人」、そして「化け物」・・・。これを見ると、僕ら誰でもそれになりうる気がするし、想像がつかない。

――そこからすでに妄想が始まってしまいますね。

ムッシュ・モウソワール『レッド・ジャケット』インタビュー_12

佐藤伯:お客さんもきっと、みんなそう思っていらっしゃるでしょうね。

シャトナー伯:我々の日常でもたとえ話でしか通じないことがあるじゃないですか。「その音量、80ホンぐらいで」と言われてもぱっと分からないけど、「車のクラクションぐらいで」と言われたら通じることがある。「時速50キロでジャンプして、30センチ離れたところに少し速度落として時速3キロで着地して」と言われてもイメージがわかないけど、「ウサギのように跳んで、ワシのように着地して」と言われたら、なんとなくわかる。

佐藤伯:確かに!

シャトナー伯:たとえ話って、あやふやなことの代名詞みたいに言われるけど、実際はたとえ話じゃないと通じないことがある。それは何故かと言うと、たとえの対象がお互いの心の中にあるからなんだよね。だから、コミュニケーションというのは、実はたとえ話でしか通じていないんじゃないだろうか・・・そういうことを考え抜いていくと、我々の住んでいる世界自体が、何かのたとえ話なのかもしれない。我々は本当にここにいるのか?それとも、すべてが何かのたとえ話なんじゃないのかと・・・。

――お話を伺って、ますます公演が楽しみになりました!最後に、来日を楽しみにしている方へメッセージをいただけますか?

シャトナー伯:我々の遊びにお付き合いくださる皆様に、しっかりと遊びきっていただける作品を作ります。前回の公演よりもさらに、単純に表面がおもしろいだけでなく、内部にしっかりとえぐりこんでいって、認識の世界を揺さぶろうと思っています。一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。“妄想”に、国境なし!

佐藤伯:来日を待っていてくださる方だけでなく、まったく僕らのことを知らずに観に来てくださる方にとっても、楽しい遊びになったらいいなと思います。これからみんなで一緒に作り上げて、全力の“妄想”をお届けしたい。期間は短いですが、最高の5日間にしたいと思います。楽しみにしていてください!

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◆プロフィール
西田シャトナー伯
「妄想それは人類に残された最後の開拓地である」との家訓を守るスペース貴族の末裔。別名ムッシュ・T・カーク。先祖は未来から時間を遡行して16世紀フランスに来た一族との噂がある。

佐藤永典伯
ヨーロッパの印刷技術の発展に大きく貢献したペイント貴族の末裔。秘伝の黒インクは決して退色せぬことから「悪魔のインク」とも言われ、実際にその製造法も悪魔に関係があるという。別名ムッシュ・イン・ブラック。

◆ムッシュ・モウソワール第二回来日公演『レッド・ジャケット』公演情報
【劇場】東京・草月ホール
【日程】
5月11日(水) 19時公演
5月12日(木) 14時公演/19時公演
5月13日(金) 19時公演
5月14日(土) 13時公演/17時公演
5月15日(日) 13時公演/17時公演

(C)ムッシュ・モウソワール第二回日本公演実行委員会

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