池松壮亮×寺島しのぶ共演 dTVドラマ『裏切りの街』配信開始!三浦大輔監督インタビュー「映像にするつもりで舞台を作りました」


2010年にパルコ劇場で上演された舞台『裏切りの街』。出会い系サイトを通じて出会い、ダラダラと不倫を続ける男女を描き好評を博した本作が、池松壮亮・寺島しのぶという実力派俳優をキャストに迎えドラマ化された。舞台版で田中圭と秋山菜津子が熱演した二人のラストシーンも変更し、2016年2月1日(月)より映像配信サービスdTVにて配信がスタートする。自身の岸田戯曲賞作品『愛の渦』を2014年に映画化し、2016年には『何者』(朝井リョウ原作)脚本・監督も決まっている演出家・映画監督の三浦大輔に、このどうしようもない不倫と裏切りの物語について話を聞いた。

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映像化を前提に書いた『裏切りの街』

――『裏切りの街』はずっと映像化したかった作品だそうですね?

実はこの作品を書く時、最初に映像が浮かんだんですよ。いつも舞台を作るときは「こんな舞台表現をやりたいからこういう話にしよう」という作り方をするんです。でも『裏切りの街』は、はじめに風景や実際の場所のイメージが生まれて、それに合わせて物語を考え、舞台に置き換えたんです。僕にしてはちょっと珍しい作り方でした。
最初からイメージが先行していたので、映像向きかなとは思っていたんです。だから舞台が終わってからも「いつか映像にできたら」という思いは持っていて、今回それが叶いました。街の風景が前提としてある話なので、演劇を観た方も、その場の風景を想像しながら観たんじゃないかな。今回はそれをしっかり映像に収めました。

――ですが、ラストシーンは舞台と違っています。

舞台を観た人にも楽しんでもらえるように、ラストは変えました。あと、この物語は、さらに先があってもいいのかなと思ったんです。舞台では、不倫関係にある菅原(池松)と智子(寺島)が、妊娠してもダラダラと離れられないままに終わるんですけど、そこからさらに突っ込んで、テーマに踏み込んでいます。

――「裏切り」というテーマを、映像化にあたってより突き詰めたんですね。

そうですね。そもそもこの作品は、人が人を裏切る瞬間を描いているドラマなんです。主役の菅原と智子はお互いのパートナーを裏切って会い続ける。でも、二人にはお互いに対する執着があるわけではない。人が裏切る瞬間って“なんとなく”なんじゃないかな、というのを描きたかったんです。
人って「ま、いっか」っていう感情の積み重ねで流されてる。確固とした理由や明確な不満もなく、なんとな~く会って、なんとな~く裏切って、人は生きているのかなって思っているんです。そんな裏切りを、二人が悪人に見えないよう、愛おしく描けたらなと意識しました。

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――ダメダメな二人なのに、どこか共感もしてしまう・・・。

不倫とか浮気と言うと嫌悪感を示す人もいるかもしれないけれど、みんな絶対になにかしら小さな裏切りの経験はあるはずですよ。その時に相手のことをなにも考えないで裏切るって人はあまりいないだろうから、一応ためらいながらも「だけどまぁいいか~」と揺らいでいる感じが人間っぽい。裏切る瞬間って、けっこう人間らしくて愛らしかったりもするんじゃない?っていう価値観を描いています。善人でも悪人でもない中途半端さが、人間の生々しい姿なのかなと。

――登場するほぼ全員が誰かを裏切っているし、菅原と智子は自分自身をも裏切っていますよね。

自分でも何がなんだか分からなくなっていく、その曖昧な感じっていうのがリアルかなと。だけど深刻な事態にはならずに、なあなあとやり過ごして生きていく。こういう作品って珍しいかもしれませんね。不倫劇とは言っていますけど、今まで世の中にあるそういった類の作品とは、ちょっと感触が違うと思います。

――『裏切りの街』の舞台を「中央線・荻窪」にしたのはなぜですか?

僕は昔ずっと荻窪に住んでいて、不遇だった当時の経験を元に書いたんです。中央線沿いの街って、曖昧な感じの人達が右往左往とうごめいているイメージがあるんです。偏見かもしれないですけど、僕もそうだったんで(笑)。それが、菅原と智子のキャラクターや作品のテーマにも合っていると感じました。ルミネもあってちょっと栄えているんですけれど(笑)、やはり、どこか廃れてる雰囲気がある。そんな荻窪という街のよく分からない中途半端さが丁度いいかな、と。

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――本作で三浦さんがこだわったシーンはどこですか?

二人がヘラヘラするところは大事にしました(笑)。キスする瞬間とか、ラブホテルに行く前のヘラヘラは、この作品の見どころです。そのダラダラ感をなるべく失くさないようにして、カットもなるべく割らずに、状況や二人の演技をしっかり見せるところにこだわりました。とにかくヘラヘラしてる(笑)。

――こういう人、よくいますよね。

そうですね。普通の不倫ドラマだと、あまり描かないと思うんですけど、実際はこんな感じかなって。キスする瞬間も「すみませんすみません」とヘラヘラ笑っちゃうみたいな空気感は大事にしましたね。
普段「不倫」と聞くと、多くの人は遠目から見るような感じになると思うんですよ。あまり自分に置き換えたくないでしょうし、不倫や浮気を描く作品ってロマンチックだったりするので。でも、もうちょっと身近に感じて欲しかったんです。菅原と智子に共感してほしくて、敢えて、ドラマチックにならないように、常にダラダラさせることを心がけました。

――「こういう瞬間ある!」というようなシーンがたくさん出てきますが、普段から周囲を観察してネタを集めているんですか?

そういう感覚はないですね。机の前で「こういう時あるよなぁ~」って普段のことを思い出しながら書いているだけで。もしくは、みんなが「この瞬間って作品にしてもしょうがないだろ」と思いがちなところを突っ込んで書く。みんなが普段から感じているけど、気付かないことをあえて見せるのが作品の面白さに繋がるのかな。だけど書いている時は、「この感覚って理解してもらえるのかな?俺だけじゃないかな?」とちょっと不安になるんですよ。でも作品にして、見てもらうと「わかるわかる」と言ってもらえるので、そこで初めて「あ、みんな同じことやってるんだなぁ」と実感します。

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――菅原と智子にモデルはいるんですか?

菅原についてはほぼ僕ですね。人妻と不倫はしてないですけど(笑)。でもヘラヘラしてごまかしたり、何かから逃げる時の態度は、そのまんま自分です。「俺ヘラヘラしちゃうなぁ、こういう逃げ方するなぁ」って思いながら書きました。智子は、それを女性に置き換えました。なかなか結論を出さなかったり、問題を先延ばしにするような自分の要素を振り分けたので、二人とも僕の分身です。

――だから菅原も智子もどこか似ているんですね。

彼らは似ているから一緒にいるんですよね。二人にはしっかりとしたパートナーがいて、その相手に執着もあるし生活の中においては大事だから別れる気はない。でも、菅原と智子はお互いの怠け心を許してくれる存在で、とにかく楽だから、一緒に居る。それは人が人に会う動機として、とても強いものだと思うんですよね。二人は離れられずにダラダラと会い続ける。お互いに、何か関係性が発展することは求めていないんです。恋愛関係でもなく、絆でもなく、友達でもない曖昧な関係を描きたかったんです。

――ダラダラ続く関係にも、智子が妊娠するという大事件が起こりますが・・・。

大ごとになったとしても、お互い、なんだかんだで、それを許してくれるんですよ。妊娠したとしても「堕ろしましょっか?」「そうですね~」みたいな会話で終わっちゃうし、お腹が大きくなっても「どうにかなりませんかねぇ?」って結論を出さない。

――お互い結構ひどいこと事を言っていますね。

そうそう(笑)。でも、それで二人の関係性が揺らぐわけでもなく、お互いのずるずるした感じが事の深刻さを和らげてくれるから一緒にいるんでしょうね。似ているから気持ちも分かるし、自分についてなにか責められることもないし。

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――そのダラダラした関係を、池松さんと寺島さんがものすごくリアルに演じています。

二人だったらやってくれるだろうなと信頼して出演をお願いしたんです。特に、菅原に関しては僕そのものだから、僕のこと事をよく分かってくれて、僕、個人の価値観に共鳴してくれる役者さんじゃないと演じられないなと思って、池松君に託しました。オリジナル作品ですし、どうしても一番信頼している俳優である池松君にお願いしたかったんです。

――寺島さんも昨年の舞台『禁断の裸体』でご一緒されていますね。

その時にすごく価値観が通じるなと感じました。直後に『裏切りの街』の映像化が決まったので、「これ、寺島さんにお願いしろってことかなぁ」と思って依頼しました。良い出会いが繋がってキャスティングできたんですよ。

――智子の旦那さんを演じる平田満さんとも、過去にご一緒していますね。

平田さんとは、また一緒にやりたいなと思っていました。今回は、良い人ではなく、掴みどころのない、狂気じみた平田さんを見たかったので、すぐにお願いしました。他のキャストの皆さんも一度は一緒に仕事をしている方ばかりなので、僕の価値観をすぐ理解して、演技してくださいました。

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映像配信サービスdTVという新境地

――劇団ポツドールとしてもご活躍ですが、2003年には「ぴあフィルムフェスティバル」で審査員特別賞を受賞されたりしています。もともと映像を撮りたいというお気持ちがあったのですか?

いえ、映像をやりたいという思いはまったく無かったんですよ。でも最近は、映像の仕事が増えるなかでいろいろと勉強してきたので、自分の中で「コレだ」と思うものを見つけるまでやってみたいとは思っています。もしかしたら、自分にしかできない映像表現が見つかるかもしれないという期待も込めて、いろいろ模索しています。

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――『裏切りの街』はR-15指定ということもありますが、布団の中とか独りでこっそり観たい作品だと思いました(笑)。だからテレビではなく、映像配信のdTVという場は合っていますね。

そうですね(笑)。テレビだと、誰か一緒に住んでる人がいると気になりますしね。
dTVは通勤途中の電車で気軽に見ることもできるし、一人でこそっと隠れて見ることもできる。僕の作品はわかりやすいドラマじゃないから、集中して観ないといけないと思うんです。だから、映像配信というジャンルに向いてるとも、そうじゃないとも言える。
ただ、普遍的なことをやっているという自負はあるので、きっかけはどうであれ、観てくれれば多くの人が楽しめるものだと思っています。ドラマチックじゃないところが逆にエンターテイメントだったりして、あまり観たことがないような作品になってるはずです。映画でも演劇でもドラマでもない曖昧さも面白いと思いますよ。

――では最後に、今後はどんな作品を作りたいですか?

自分が書いたオリジナルの物語をやりたいですね。映像でも演劇でもジャンルは問わないです。もちろん他の方の書いた原作を作品にすることも楽しいんですけど、最終的に一番やりたいのは、自分の作った物語を多くの人に知ってもらうことなので。『裏切りの街』も、こういう物語があるということを多くの人に届けられることが一番嬉しいですし、やりがいもあるんです。
最近は、僕がよく描くミクロの世界を、もっと広げていけないかなと思っています。例えば国とか政治とか(笑)。漠然としてますが、小さな世界観が壮大なテーマに広がっていくような作品を作りたいと思っています。

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dTVオリジナルドラマ「裏切りの街」はdTVで独占配信中。
他にも、三浦大輔が監督を務めた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(2月6日配信予定)や、
70タイトルを超える舞台作品も見放題で配信中
くわしくはこちら→https://video.dmkt-sp.jp/ft/s0004376

◆三浦大輔プロフィール◆
劇作家、演出家、映画監督、劇団「ポツドール」主宰。1975年、北海道苫小牧市出身。1996年、早稲田大学演劇倶楽部を母体にして演劇ユニットポツドールを結成。2003年、『はつこい』で第25回ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞受賞。2006年、第50回岸田國士戯曲賞を受賞した『愛の渦』は、2014年に自身が監督し映画化された。その他の作品に、映画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(2010年/脚本・監督)、舞台『禁断の裸体』(2015年/演出)『母に欲す』(2014年/作・演出)などがある。

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