ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』ロナン役の加藤和樹にインタビュー!「僕、足の遅いうさぎなんですよ」


18世紀末のフランス。民衆は貧困にあえぎ、貴族は贅沢に溺れていた。父を貴族に殺された農夫・ロナンはパリへ飛び出し、革命派の三人…ロベスピエール、ダントン、デムーランらと出会うことで新しい時代に希望を燃やしていく…。

2012年にフランスで上演され熱狂を呼んだフレンチロック・ミュージカルがいよいよ帝劇に登場!本作『1789 -バスティーユの恋人たち-』でWキャストの一人としてロナンを演じる加藤和樹に話を聞いた。

ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』加藤和樹インタビュー

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――『レディ・ベス』から3年…いよいよ帝劇の芯に立たれます。

いよいよ…なのか、いやいやまだ早いのか、今の時点では不安で分かりませんが(笑)、ロナン役に選んで頂いたからには精一杯務めたいと思います…頑張ります!お話をいただいてからすぐにフランス版の映像を観て、全く新しいエンターテインメントが生まれるんだ!と思ってわくわくました。衣裳も素敵ですし、ダンスもアクロバティックで華やかなのですが、主軸にはバスティーユ陥落というきっちりしたドラマもあり、多くの方に愛していただけるミュージカルになると思っています。繊細さとダイナミックさが混在するこの作品をちゃんと演じられたらカッコ良いですよね。

――今の時点で、ロナンについて加藤さんが抱かれている印象や思いを伺えますか?

ロナンは権力者に父親を殺され、自分の中に湧き上がる感情と共にパリに向かいます。そこで志を共にする仲間と出会って世の中を変えようと葛藤する…僕はロナンってすごく素朴な人だと思うんですよ。農村で育って、本当なら政治や社会情勢にさほど興味もなかった一人の人間が、体当たりで革命を成し遂げようとする訳で。そういう真っ直ぐさや懸命さを大切にしながら演じていきたいです。

ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』加藤和樹インタビュー_2

――ロナンと恋に落ちるオランプ役の神田沙也加さん、夢咲ねねさんとは初共演ですね。

実はお二人とはまだ全然お話できていないんです(注:11月下旬の取材)。その辺りの関係性も稽古が始まってからじっくり作っていければと。ロナンとオランプとの出会いって、世の中が革命に向かわなかったら存在しなかった事象ですよね。不安定な情勢の中、大勢の人々が倒れて行き…そんな毎日でも全てが悪いことばかりじゃない…ロナンとオランプの愛っていうのはそういう状況の中の一つの希望だと思うんです。作品を通してですけど“愛”って儚いものだな、と改めて感じています。

――『レディ・ベス』では悲恋に終わった花總まりさんと全く違う立場での再共演です。

本当ですね(笑)。ただ今回は花總さん演じるマリーと同じ場面に立つことはほぼないんじゃないかなあ…寂しいですが、お互い違う相手と恋に落ちることになります。これまで同じ方と再共演する機会があまりありませんでしたので、マリーの恋の行方をそっと目で追ってしまいそうです(笑)。

『レディ・ベス』加藤和樹

(写真提供:東宝演劇部)

小池先生をいつか「ぎゃふん」と言わせたい

――演出の小池(修一郎)先生は加藤さんにとってどんな存在でしょう。

僕はご一緒させていただくのが『1789』で3作目なのですが、小池先生のアイディアや着眼点には毎回驚かされます。誰も考えないような方向性をポンと示されるんですよね。そのことに毎回感動しつつ、やはり芝居の部分ではいつか「ぎゃふん」と言わせたいという野望もあります(笑)。演出家として常に厳しいオーダーをなさる方なので、そこを超えて行く役者でありたいといつも思っています。

『ロミオ&ジュリエット』では全然太刀打ちできなくて、『レディ・ベス』の時は後半でほんの少し「やれたかな」という思いはあります。と言っても、きっとまだまだなんですけど。だから『1789』では、小池先生の想像を超えるロナンを生み出していきたいです。

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――これまでのオーダーで一番インパクトが強かったのは?

オーダーとは少し違うかもしれませんが、僕、ある稽古の時に赤いスニーカーを履いていたんですよ。そしたら小池先生が「赤いスニーカーが目立ち過ぎ!替えて!」とおっしゃって。最初は「ん?」って思ったんですけど、これにはちゃんと意味があるんです。小池先生の目が僕の芝居より赤いスニーカーにいってしまうということは、僕の演技がそこまでのレベルだったということで。それに自分で気づいた時は「このままじゃダメだ」と強く思いました。

ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』加藤和樹インタビュー

――小池先生の真意をちゃんと受け取った加藤さんもすごいです。

『1789』もそうですが、衣裳や舞台装置がゴージャスな作品の場合、演じる人間の中に“芯”がきっちりないと、衣裳やセットに負けちゃうんですよね。衣裳や装置もより良い舞台を創ろうと一流のスタッフが精一杯作ってくださる訳ですから。どんな衣裳を付けても、どんな装置の中に立っても、それに負けない“芯”を持った俳優になりたいと、スニーカーのことをきっかけにより強く意識するようになりました。

――そんな加藤さんがご自分が演じる役とどんな距離でいるのか気になります。

最近は役を自分に寄せるようになったと思います。役に入り込む、とか、役になり切るという方向ももちろんありだと思いつつ、役の人物に自分の心情を重ねて演じるということも大切なのだと白井晃さんの演出を受けてから強く思うようになりました。“加藤和樹”の中に生まれた感情を活かして役と向き合えたら良いですね。

僕、あまり役を自分の中に作った状態で稽古に行かないんです。もちろん、ある程度の肉付けというか、自分が考える“ボール”のようなものを持って現場には行くのですが、それも稽古の途中でどんどん形が変わっていきますし。芝居というのは自分一人で成立させられるものではないので、相手との言葉と気持ちのキャッチボールをなにより大切に考えます。

ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』加藤和樹インタビュー_6

――ストレートプレイでの経験は大きかった?

それはありますね。ストレートプレイの現場で得たものをきっちりミュージカルの舞台でも活かしていかないといけないな、と思っています。

――ミュージカル『タイタニック』のアンドリュース役もシビアでした。開場と同時に舞台上でずっとタイタニック号の設計図を引いていて、その船が沈む様子を目の当たりにするという。

『タイタニック』はとても大変な作品でした。とにかくリアルに演じるということを演出家からは求められましたし。タイタニック号の悲劇は実際に起きたことで、大勢の人も亡くなっていますので、背負うものも大きかった気がします。

アーティストとして、俳優としての10年間

――2016年は加藤さんにとってデビュー10周年の年でもあります。

いろんな“たまたま”が重なって僕は今ここにいられるのかもしれませんね(笑)。そういう全てのご縁が繋がっての10周年、そしてその年に『1789』という作品で大きな役をやらせていただくという機会…大切にしたいです。公演中にライブもあるという、なかなか精神的にも体力的にも大変な年にはなりそうですが。

…と言いつつ、どこかでちゃんとその状況を楽しんでいる自分もいます。フランス革命の世界でロナンとして生き、ライブでお客様と触れ合える時間が持てるのは自分にとっても楽しいことです。両極端の加藤和樹を見ていただければ嬉しいです…逆に来ていただくお客様の方が“大変”かもしれないですよ(笑)。

ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』加藤和樹インタビュー_5

――アーティスト活動とミュージカルやストレートプレイなどの舞台作品では心持ちも違ってきますよね。

アーティストとしてライブのステージに立つ時は、なにが起きても、どんな泣き言を言おうとも、結局自分が全てを背負ってやらなければならないですよね。ある意味逃げ場がない状態です。でも、ミュージカルやストレートプレイの舞台には共演者がいてくれて、その人たちから気持ちのボールを受け取り、演じる役を介在して台詞を語ったり歌を歌ったりします。だから舞台作品では極端に“自分”が強く出てしまったらそれは成立しないんです。その辺りが特に大きな違いでしょうか。

――加藤さんにとって10年の間でターニングポイントとなった作品はなんでしょう。

やはり多くの方に僕の存在を知っていただいたという意味では『テニスの王子様』ですね。映像だと『ホタルノヒカリ』かな…『ロミオ&ジュリエット』の存在も大きいです。でも、僕自身がどの作品をターニングポイントだと思っているかより、お客さまがどの作品で僕の存在を知ってくださったのかということの方が大切だと思ってます。そういう意味でも『1789』でまた多くの方と出会えるのが楽しみなんです。

――舞台で拝見する度に、全く違う色彩をまとう方だな、と。

そう言っていただくとちょっと恥ずかしいです(笑)。毎回違う人物を演じる訳ですから、いくら同じ人間がやるとはいえ、全部が同系になってしまったらつまらないという思いはあります。

ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』加藤和樹インタビュー_7

――今後、演じてみたい作品や役がありましたら是非!

なんでしょう…インド人もやりましたし、次はフランス人ですし(笑)。ハジけたコメディも面白いかも、と思いつつ、実は僕『テニスの王子様』や上島(雪夫)先生の作品を除くと、舞台でそんなに日本人の役を演じていないんですよ。折角日本に生まれたんだし、日本にも面白い時代がたくさんあったと思うので、日本を舞台にしたオリジナルミュージカルに挑戦してみたいかも…って、今ちょっと思いました(笑)。

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――お話を伺って、加藤さんはとてもご自身に厳しい方なのだと感じました。

いや、そんなことはないです、全然甘い方ですよ(笑)。僕、自分のことを「足の遅いうさぎ」だと思っていますから。

――それはどういう意味ですか(笑)?

やれば速く走れるんですけど、たまにちょっと休みたくなる時もあって(笑)。そういう時は「まあ、本気出せば走れるんだけど、今日はこのくらいにしておくか」ってぼーっとしつつ、何か起きると火事場の馬鹿力で猛ダッシュを決めるんです(笑)。

ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』加藤和樹インタビュー_4

今の演劇界で、ミュージカルとストレートプレイの両方で活躍できる人材は実はさほど多くない。そんな状況の中、その道を着実に踏みしめ歩んでいるのが今年でデビュー10周年を迎える加藤和樹だ。

決して饒舌に語る人ではないが、言葉をじっくり選びながら丁寧に話す様子に惹きこまれる。それは人柄に由来するものであろうが、さまざまな道を通り、巡り会った舞台というフィールドで誠実に仕事をしている彼のバックボーンにも関係あるのかもしれない。

取材の最後に「加藤さんは取材する側に“好かれる”方だと思います」と伝えると「え“疲れ”ちゃいましたか?すみません!」と天然トークで返してくれる機転も大きな魅力。そんな彼が帝劇の芯にロナンとして立つ姿を早く観たいと思う。

◆『1789 -バスティーユの恋人たち-』◆
2016年 4月11日(月)~5月15日(日) 帝国劇場
※4月9日(土)・10日(日)はプレビュー公演

(撮影/高橋将志)

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