『猟銃』中谷美紀ロングインタビュー「自分自身の人生そのものを変えた作品」


2011年に日本、そしてカナダのモントリオールで上演された『猟銃』。本作は、ニューヨーク・メトロポリタンオペラやシルク・ドゥ・ソレイユ公演も手がける世界的演出家のフランソワ・ジラールが、日本の文豪・井上靖の著した小説「猟銃」を完全舞台化した作品だ。彼からの熱いオファーで起用された女優・中谷美紀は3人の女性を見事に演じ分け、立ち姿から瞳の奥にまでそれぞれの情念をまとう熱演に拍手が鳴り止まなかった。来る2016年4月、初演から5年の時を経て、『猟銃』が再びパルコ劇場に戻ってくる。「自身の人生を変えた」と語る本作について、中谷美紀に話を聞いた。

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――初演を経て、今回再び作品と向き合われている中で何か変わったことはありましたか?

今回改めて戯曲を読んだ時に、5年前よりも、あるいは最初にこの物語を読んだ10年前よりも、より物語が悲しく思えてきたというか、深く迫ってきたっていうのはありました。自分も歳を重ねたということもありますね。

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――中谷さんご自身にとっても、大きな意味を持つ作品なんですね。

そうですね。『猟銃』という作品に出会ったことで、人生そのものが変わったような気がしています。これまで演技の仕事をしてきた中で、触れたことのない新しい扉を開いたということがとても大きかったですね。それと、この作品に関しては常に矛盾した感情があります。限界を設けていた自分に、一歩踏み出せば可能性が無限に広がっているということを教えてくれた作品。だからこそ、もう一度演じたいという気持ちと、もう二度と演じたくないという気持ちが混在しているんです。

――それでも、再演を選ばれたのはなぜでしょうか?

プロデューサーの毛利さんが、衣装もセットも大切に取っておいて下さって…。それは、つまり倉庫の保管料もかかってるというわけですから、これはどこかで回収しないと!となって…(笑)。

――そんなエピソードが!(笑)。中谷さんは数々の映像作品に出演されていますが、初の舞台作品はいかがでしたか?

実は、初演のお話を頂いてからも5年ほど逃げ回っていたんです(笑)。そのくらい覚悟が要りましたね。観客として観るのは好きだったのですが、素晴らしい作品というものは国内にも世界にも溢れていて、果たして自分がそれを作る側になったときに、そこまでのクオリティのものができるのかという気持ちがありました。

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――ですが、本当に素晴らしい舞台でした。日本はもちろんモントリオールでも大盛況でしたよね!

ビギナーズラックもだいぶあったと思いますよ(笑)。演出家のフランソワ・ジラールさんをはじめ、スタッフの皆さんにもたくさん助けられました。日本語なので演出家にとっては理解が難しい言語にも関わらず、私が発する言葉から、そこに真実が込められているかというのを察して下さって…。真実の感情を掘り起こすというか。

――すごいですよね、言葉が通じるかどうかではなく、もっと深いところでの対話というか。登場人物3人分の感情を掘り起こすのはとてもエネルギーが要りそうですが、具体的にはどんな演技指導があったのでしょうか?

雑談というかブレインストーミングに費やす時間がとても多くて、私自身が心配になってしまうほどでした。1日5時間のお稽古の中で1時間毎にお茶を淹れて下さって、それぞれのキャラクターについて、物語についてどう思うかを話しました。時にはスタッフさんや、プロデューサーさんも交えて。

――意外な稽古風景です!

海外での初舞台の幕開けですし、最初は不安で、稽古したいっていう気持ちがありました。でもそういった、キャラクターについてとことん話し合う時間が、彼女達を演じる上でとても重要なものになっていきました。

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――観る側からすると、決して多くはない稽古時間の中で、あれだけの作品が出来るということに驚いてしまいます。

不思議ですよね。私たち日本人って勤勉ですし、どこかで苦労を伴わないといいものができないとって思っている節があるのですが、海外の方はきっちりお休みされる。この作品も稽古期間は3週間で、スタッフは週に1回は必ず休んでいました。しかも、5時間の稽古で2時間はブレインストーミング。それでも出来上がるという、そういう仕事のあり方も新鮮でしたね。

――そんな中谷さんが思う舞台の醍醐味、魅力とはなんでしょうか?

私はどちらかというと、本番よりも稽古の方に舞台の魅力があると思っていて。やはりこれだけ台詞を細かく噛み砕いて、贅沢に時間を使って一つの本を読み込んでいくことって、映像ではなかなか味わえない魅力だと思いますね。

――たしかにそうですよね。読み込むたびに、登場人物にも新たに見えてくるものがあったりするのでしょうか?

そうですね。たかが一人の人間が演じるものなので、己のことすら理解できていないのに、人様の事などそう簡単に理解できないものだと思います。なので、自分がすべての役を本当に理解しているのかといったら、頷けません。きっとこれから演じていく上で新発見もあるだろうし、自分の人生に照らし合わせて解釈もどんどん変わっていくと思うので。到底理解し得ない“人間”というものを深く探る作業って面白いです。果てしない探求ですね。

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――どの登場人物も話す言葉がとても濃いものだと感じました。台詞を発する上で、日本語として大切にされていることはありますか?

どんな言語でも変化しながら存続していくものだとは思うのですが、とはいえ、日本の古き良き言葉は、大切に守りたい、美しい言葉です。井上靖さんの言葉が美しいので、一つひとつの言葉を丁寧に大切に発したいなと思っています。とても言葉は丁寧なのに、含んでいる内容は毒々しい。そこがまた恐ろしいところでもあります。

――そこは『猟銃』の見どころの一つですね。他にも注目すべき点はありますか?

内容はもちろん、セットも素晴らしいです。木と石と水を使ったもので、本当にミニマルな世界。ミニマルだからこそ、お客様に想像する余地を残しているので、お客様の感性も試される作品だなと思いますね。

――最後に、公演を観に来る方へメッセージをお願いします。

初演に引き続き、ちょっと無謀とも言える賭けをやらせて頂きます。女性のお客さまは、おそらく全ての方が、私が演じるこの3人の誰かしらには共感していただけるかと思います。男性のお客さまにも是非…、女性の恐ろしさを感じていただけたらと思います(笑)。「あなたは愛することを望みますか?愛されることを望みますか?」という作品の問いかけの答えをゆっくり探していただければと思います。

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<公演詳細>
『猟銃』
2016年4月2日(土)~4月24日(日)
PARCO劇場
2016年5月4日(水・祝)
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
2016年5月7日 (土) ~2016年5月9日 (月)
ロームシアター京都 サウスホール
2016年5月14日 (土) ~2016年5月15日 (日)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2016年5月21日 (土) ~2016年5月22日 (日)
兵庫県立芸術
文化センター 阪急 中ホール
2016年5月27日 (金) ~2016年5月29日 (日)
北九州芸術劇場 中劇場

原作 井上靖『猟銃』
翻案 セルジュ・ラモット
日本語台本監修 鴨下信一
演出 フランソワ・ジラール
出演 中谷美紀 ロドリーグ・プロトー

<あらすじ>
ひとりの男の13年間にわたる不倫の恋が、妻、愛人、愛人の娘の三通の手紙によって浮き彫りになる。それぞれの胸に秘められた、ひとりの男への想いとは―?

<中谷美紀プロフィール>
1976年1月12日生まれ。東京都出身。自身初の主演テレビドラマ『ケイゾク』をはじめ、近年は『JIN-仁-』、『ゴーストライター』、『軍師官兵衛』などのドラマで様々な役柄を好演。2006年、映画『嫌われ松子の一生』では、日本アカデミー最優秀主演女優賞をはじめ、数々の賞を総ナメにした。その後も『阪急電車~片道15分の奇跡~』や『繕い裁つ人』など話題作で主演を演じる。2011年『猟銃』で初舞台に挑戦。第19回読売演劇大賞優秀女優賞、第46回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。4月より主演ドラマ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系金曜22時)が放送開始。

撮影:阿部章仁

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