劇団鹿殺し『キルミーアゲイン』菜月チョビ&大東駿介インタビュー!「これからのスタートに向けて腹を決めた第一作目です」


2016年に活動15周年を迎える、劇団鹿殺し。その記念公演第一弾『キルミーアゲイン』が、2016年1月9日(土)~20日(水)に本多劇場で上演される。「これが鹿殺しの新しいスタートです」と語る同劇団座長の菜月チョビ、そして今作にゲスト出演をする俳優・大東駿介。二人に本作への意気込みを伺った。

劇団鹿殺し『キルミーアゲイン』インタビュー

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――お二人の出会いは?

大東:今回の出演が決まる前、鹿殺しさんの舞台を観に行った時にご挨拶した時かな?

菜月:そうそう、今年6月の本公演『彼女の起源』を観に来てくれて、その時に劇場で会いましたね。でもずっと大東君の出演した舞台は観ていて、「大東君っていいよね~」と言っていたんです。その後、2014年に劇団員の丸尾(丸一郎)が大東君にお会いして「鹿殺しに合いそうだ」と言うので、絶対に出てもらおうと狙っていたんです。今回の『キルミーアゲイン』が決まった時に、「大東君は本多劇場も似合いそうだし、鹿殺し15周年で区切りもいいよね」と丸尾と相談して、出演を依頼しました。

――『キルミーアゲイン』とはなんとも扇情的なタイトルですが、どんな物語なんですか?

大東:台本はまだ3分の1くらいしかもらっていないので、なんとも言えないのですが……。

菜月:大東君は作家の役です。上京した作家が、田舎に帰ってきたところから物語が始まります。その村の人たちでお芝居を作ることになって、彼が作家として台本を書いたり演出をしていくなかで、その村で育った思い出や現在の悩みが浮き彫りになってくる……という話です。ちなみに私の役はまだ台本に登場していないですが、どうやら妖怪っぽいものになりそうです。でも最近も丸尾と「本当に?」って話していたので、変わるかもしれません(笑)

劇団鹿殺し『キルミーアゲイン』インタビュー_2

――想像が広がります(笑)。稽古次第では、ストーリーにも影響があるんですか?

大東:きっと稽古中に僕がどういう人なのか見られていて、それを受けて台本が変わっていくのではないかと思います。

菜月:そうですね。オーディション参加の方もいますから、まずは台本ができているところまで一度読んでもらって様子を見ますね。それを受けて、「この人はこんな姿勢だから、こういう役がいいんじゃないか」とか、台本を書き直して固めていきます。

大東:今まで経験した舞台だと、まずもらった台本全体をよく読んで、さらに一つひとつ台詞の意味を読み取って役を形作っていくのが基本だと思っていました。でも、今はまだ台本ができていないから、自分が演じる役がどんな人間なのかわからない。だから今は言われた通りにやろうと思っています。最終的に台本が完成した時に、それまで考えながらやってきた事が、ダムが開いたみたいにザーっと器に流れ込んで役が出来上がるのかな、なんて思いながら稽古しています。

菜月:完璧です!(笑)。そういう感じでやってくれる方じゃないと、鹿殺しには合わないかも。丸尾(脚本)も私(演出)も、普段のその人からにじみ出るドラマチックさや哀愁から想像を膨らませて、「この役の人はこういうドラマに向かっていきそうだな」と物語を作っていくから、答えは一緒に探していければいいかな。

――役者さんに合わせて作られていく物語なんですね。稽古が始まってみて、どうですか?

大東:新鮮です。過去に出演した舞台では、脚本家は書く、役者は演じる、演出家は演出をする……というふうにそれぞれの役割がはっきりと分かれていたんですが、今回は演出家も脚本家も音楽監督も真横にいて、一緒に芝居をしています。それに、稽古が始まった段階で台本がほとんどできていないのも初めてで、面白いです。皆で試行錯誤しながらすべてが生まれる瞬間を目の当たりにするという環境が、すごく楽しいです。

菜月:面白がってくれていて良かった! 稽古が始まる前に「とことんやりますよ!」と意気込みを語ってくれていたけれど、初めての体験が多いだろうしどうだろう、と不安もあったんです。でも大東君が初めて稽古に来てくれた時に、この環境を楽しんでもらえてるんだなと安心しました。

大東:音楽稽古をしていましたね。

菜月:そう。鹿殺しではミュージシャンではなく、出演者の中でたまたま楽器ができる人たちでどんなことができるだろうと試行錯誤していくんです。そんな状態を見て、大東君は面白そうにしてくれていましたね。

劇団鹿殺し『キルミーアゲイン』インタビュー_3

大東:その音楽稽古の時に、すごく安心感を感じたんですよ。というのは、僕が「もうこんなに良い曲ができているんだ」と思った時に、誰かが「良い曲だけど、何が残るかって言ったら、分からへん」と突っ込んだんです。そうすると誰かが「今までやってない事をやりたい」と言い、またそれに対して他の人が「“今までやっていない事をやる”という事に意識がいきすぎてワケのわからない事になったら、それはちょっと違うんじゃないか?」と、どんどん厳しい意見が出てくる。

菜月:どんどん自分の首を絞めてくという(笑)。全員が、それはもっとこうなんじゃないか……と突き詰めすぎるんです。

大東:そうそう。発言の内容は的を射ていながらも、自分達が後ですごく大変になるような意見なんですよね。その様子を見てすごく安心したんです。
もし誰かが「どうしようどうしよう」とソワソワしていたら、僕も「本番に間に合うのかな?」と不安になると思うんです。でも、どんな芝居になるのか誰も掴めていないのに、一人も浮ついた人がいない。この人達はここに留まろうとか、今が最高だとかまったく思っていなくて、もっと良いものを生み出したいんだって感じました。今、稽古場で起こっているすべてを拾い上げて皆で試行錯誤している感じがして、舞台を作っているという実感があります。

菜月:しんどいんだけど、それが楽しい。音楽稽古にしてもアーティストとしてセッションを気軽に楽しむという感じはなくて、「稽古でどのレベルまで到達できるか」「もっと良いものができないか」と全員が突っ込み合っていくので、自分たちがどんどん辛くなっていく。

大東:突っ込まれた人はちょっとイライラしちゃったり(笑)

菜月:そう。1日でかなり完成度の高い曲を作ってくれたのに、すぐに「それで何が残るの」とか突っ込むから、さすがに可哀そう(笑)

大東:でもすごく面白かったですよ!出来上がった曲に対して「ちょっとメロディー違うんじゃない?」と1回ゼロに叩き返したり、互いにヒートアップしていく。ハッキリ言えるってすごく良い関係性だと思います。それに、誰かを追い詰めるために言っているわけではなくて、発言した自分達が追い詰められていくわけですし。

菜月:そう、「それ言ったってことはお前もやるんやで~」ってね(笑)

劇団鹿殺し『キルミーアゲイン』インタビュー_4

――熱量がありそうな稽古場ですね!

大東:熱量ありますよ!まず、アップがマジでしんどいです(笑)

菜月:初めての顔合わせの時から、「ちょっと動いてみよう」って筋トレが始まったもんね。

大東:しかも、こんなガチな筋トレする?って思うくらいハードなんです。3日前の筋肉痛だってまだ残ってますよ。

菜月:筋トレするのは筋肉をつけたいわけではなくて、まず一度、一緒に作品を作る人達で呼吸の深さのようなものを共有しておきたいからなんです。一番深いところまで作品を突き詰めていくためには、皆でせーのでやるぞ、という感覚が欲しいんです。だから全員で一番しんどいところまで運動して、呼吸を合わせようとしますね。

大東:確かに、舞台上に目的地が違う人がいると、客席からでもわかりますからね。

菜月:そう。小さい声の人も大きい声の人も、呼吸の深さがそろっていると一緒に舞台を作っているなあって感じる。役者は役者、演出家は演出という風にそれぞれが自分の仕事を完璧にこなすというよりも、一度深く呼吸を合わせた上でバラバラにやっているのが好きだから、全員で運動するんです。

―― 一度呼吸を合わせた後は、アドリブなどもあるんですか?

菜月:基本的には無いですね。やったとしても丸尾さんくらいかな。鹿殺しって意外と真面目な人が多いんですよ。

大東:真面目ですよね。ベロベロに酔って稽古に来る人とかいないですし。

菜月:そういうアナーキーな人はいないね。本番前に体調悪いというのもない。本番前も皆でちゃんとアップしたりとかするよ。皆めちゃくちゃ真面目だし、めちゃくちゃ気が弱いんです(笑)

劇団鹿殺し『キルミーアゲイン』インタビュー_5

――真摯に突き詰めていった結果、鹿殺しの作品ができあがるんですね。だからこうして15周年を迎えられたのかもしれないですね。

菜月:15年も続くとは思ってなかったですよ。でも、この先はもう鹿殺しを辞めることはないなと強く感じています。この人達とずっとやっていくと覚悟を決めました。だから『キルミーアゲイン』は、これからのスタートに向けて腹を決めた第一作目なんです。お互いにもっと可能性を広げあって成長していくぞと肝が据わったので、上手さよりも伸びしろを見せたいです。

――これからも劇団を続けていくと決意したのは、昨年、菜月さんがカナダへ留学していた影響もありますか?

(※菜月さんは2013年11月より文化庁の新進芸術家海外研修制度によるカナダへの1年間の派遣留学へ。その間、劇団鹿殺しは充電期間)

菜月:ありますね。留学して一番実感したのは、自分は自分でしかないという事です。「自分が一番好きで面白い舞台はこれだ!」と信じて作っていく以外に道はないのだと分かりました。今まで他人のいろんな事が羨ましかったり、「この道は正しいのだろうか」「他の道があるかもしれない」と心配しながら進んできました。でも、大東君も含め今まで見つけてきた仲間は、自分達がこの道を歩んできたから出会ってきた人達だから、今の自分達の武器だと思えたんです。そんなふうにシンプルになりましたね。たくさんの事とか周りの事をあまり気にしなくなりました。そういう気持ちの切り替えもあって、劇団鹿殺しにとって新しい始まりが迎えられたんだと思います。

劇団鹿殺し『キルミーアゲイン』インタビュー_6

――大東さんは、劇団鹿殺し15周年という節目に参加することについてはどうですか?

大東:僕もちょうどデビュー10周年なんです。そんな節目の年にこの舞台に出会えてすごく嬉しいです。
しかも、僕にとって今のタイミングで鹿殺しの舞台に参加できるのは、とても良いことだと感じています。というのも、本来なら稽古が始まって台本がほとんどできていないって不安で仕方ないはずなんです。

菜月:そうだね(笑)

大東:でも、皆はあまり不安に思っていない。それは多分、滲み出る嘘のない人間臭さが鹿殺しにはあるからなんです。愛想笑いや同調のような、“何故やらなきゃいけないか分からないけど、やらなきゃいけないもの”が一切無いんですよ。皆がより良いものを作るために本気でぶつかりあって、生々しくて、人間臭い。鹿殺しの稽古場に入ってみて、俺はなんて体のなまった小さい奴なんだろう、と思い出させられました。

――そんな環境は、なかなかないですね。

大東:そうなんです。ここは人を人に帰してくれる場所だと思います。だから、僕が30歳までにいろいろな物を見て、いろいろな人と接してきた間に身体に溜まったサビを、一度振り払ってくれるカンパニーに出会えたな、という印象です。
そんな鹿殺しの環境を利用させてもらうつもりと言うと言葉が悪いですけど、すごく良い関係性でやっていけそうなので、安心しています。こんな出会いは、きっとこの先何回もある事じゃないと思います。
しかも、新しいスタートを切った鹿殺しは、『キルミーアゲイン』でしか観せられません。お互いに今しかできない事をやれる舞台に出会えたから、それを早く観てもらいたいです。『キルミーアゲイン』にしかない、生々しい真実を観に来てほしいと思います。

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大東駿介 プロフィール
大阪府出身。2005年日本テレビ『野ブタ。をプロデュース』で俳優デビュー。その後、NHK大河ドラマ『平清盛』、『花燃ゆ』、映画『クローズZERO』シリーズ、『海難1890』など数々の作品へ出演。舞台では宮本亜門、串田和美、河原雅彦など有名演出家の作品へ出演。2016年3月には劇団☆新感線いのうえ歌舞伎《BLACK》『乱鶯』への出演や、映画『グッドモーニングショー』の公開などが控える。

菜月チョビ プロフィール
福岡県出身。2000年劇団鹿殺し旗揚げ以降、全作品に演出・出演。客演として、劇団☆新感線プロデュース(歌唱参加)、G2プロデュース、キャラメルボックスなどに出演。2014年、新進芸術家海外派遣制度により1年間カナダに留学する。帰国後、舞台「曇天に笑う」の演出を務める。また、ニッポン放送「チョビラジ~明日もファイト」でメインMCを務めるなど、幅広く活動中。

劇団鹿殺し 活動15周年記念公演『キルミーアゲイン』
【東京公演】2016年1月9日(土)~1月20日(水)本多劇場
【大阪公演】2016年1月28日(土)~1月31日(水)ABCホール

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