『黒いハンカチーフ』矢崎広&三上市朗インタビュー!「若い世代の人たちに、この作品の世界観を楽しんでほしい」


マキノノゾミの脚本・演出で、2001年に自らが主宰する劇団M.O.P.で初演、2002年にはフジテレビの『演技者。』でドラマ化された、舞台『黒いハンカチーフ』が河原雅彦演出で10年ぶりにリメイク上演。昭和30年代の新宿を舞台に、殺された娼婦・夢子の仇討ちのために再集結した伝説の詐欺師たちの活躍を描く本作に、今回、ジャンルを超えた多彩なキャストが集まった。主人公の日根(ヒルネ)役の矢崎広と、初演で日根を演じ、本作では日根と対峙する銭田役の三上市朗が、作品の魅力、独特の世界観の中で演じる難しさについて率直に語り合った。

矢崎広、三上市朗『黒いハンカチーフ』

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――今回、10年ぶりの上演となりますが、矢崎さんはこの作品についてご存知でしたか?

矢崎:はい。ドラマを見たことがあったので。出演が決まってから最初にいただいた台本は、年齢が割と高めの設定だったので、僕がやるにあたり、どうやっていこうかなと考えましたね。でも、ストーリーは起承転結というか、流れがあって、読みやすいし面白かった。それこそ、マキノさんがハリウッド映画の『スティング』を参考にしたそうですが、まさにハリウッド映画のような展開だなと。…あまりしゃべりすぎるとネタバレになってしまうので、どこまで言っていいかわからないですけど(笑)。

――三上さんは、ご自身が初演で演じられた日根役を、今回矢崎さんが演じることについてはどう思われますか?

三上:自分たちの劇団(劇団M.O.P.)の作品ですからね。劇団の作品をほかの座組でやってもらうのは初めてではないんですけど、今回、『黒いハンカチーフ』という自分でも思い入れのある作品をこういう形でまたできるというのはすごく楽しみ。自分が別の役で参加するっていうのも初めてのことなので。
今作ってる最中ですけど、面白くなると思いますよ。稽古を進めながら、本番までの時間を楽しんでいます。新しく作品が作れることは楽しいですよね。

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――二人は今回が初共演ということですね。三上さんは初演で日根を演じた先輩として、稽古場での矢崎さんをどう見ていますか?

三上:まだ稽古も途中ですけど、矢崎くんはもがいている最中ですよ(笑)。彼はもっといろいろ悩んで、もがけばいいなと思ってます(笑)。自分も一緒です。もっと悩んでもがこうと思っている。もし自分がまた日根をやったとしても、昔やったときとは違うと思うんですよ。さらにいえば、この作品を初演のメンバーが今もう1回やったとしても、初演は超えられない。最初にあった、エネルギーというものが変わってきちゃうから。だから、全く違うメンバーで新しく作るっていうのは楽しいよね。

矢崎くんたち若い人たちが、この作品の、いかにああいう昭和の雰囲気を出すかっていうのを見るのも楽しいし。僕と彼らの間には、20年くらいの隔たりがある。自分たちも、もちろんあの時代は知らなかったから、当時は勉強したり想像したりしたんだよね。だから今回彼らがどうやって勉強して想像するのか、それをどう表現するのかもすごく楽しみだなと。

――矢崎さんは、そんな先輩であり共演者の三上さんの印象はいかがでしょう?

矢崎:今回が「初めまして」で、やっと三上さんのことを知ってきたというか。稽古でやっと一緒のシーンをやり始めたような段階なんです。三上さんが稽古場を引っ張ってくださるので、とても心強いです。また一方で、日根を演じる身としては、銭田役の三上さんと対峙しないといけないので、なかなかの強敵だなと思ってます。三上さんといると、本当になんともいえない安心感があります。

三上:でもやりにくいでしょうね(笑)。自分の役をやったことある人が近くにいたら。そう思いますよ。

矢崎:もちろん、そうなんですけど(笑)。でも、三上さんもそれはそれでやりにくいと思いますし。

三上:教えてあげたいことはあるんだけどね。でも言っちゃったら彼らのためにならないこともあるからな、と黙っています(笑)。まぁ、彼もあまり聞いてこないし…。

矢崎:(笑)

三上:聞いてこなかったら、こっちからいうのもな…でしょ?(笑)。本当にやりにくいだろうと思うんだけども、とにかくどこまで想像力をもってこの役を演じるか、だよね。初演の日根は40歳くらいのイメージで、俺は当時35歳だったんだけど、矢崎くんはもっと若いし、どうするのかなというのはあったんだよ。役作りは大変だろうなと思う。

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――矢崎さんは、実際、役作りについてはいかがですか?

矢崎:今稽古に入って、河原さんをはじめ、先輩方のアドバイスを聞いているところです。そのほかにも、作品の時代を知るために、いまはひたすら昭和の、戦後の映画のDVDを見たり、この作品のモチーフになってる、映画『スティング』とかの“詐欺師もの”も見たり。やっぱり、自分が見てきたもの、育ってきた時代とは違う時代の話だから、少しでもその時代を見て感じておかないと、と思って。

この『黒いハンカチーフ』という作品へ、お客さんを連れ込むためにはそこがすごく大事だなと思っています。今回、本当に僕だけの力では日根はどうにも作れないと思うので…。

三上:(笑)

矢崎:本当にそう思うんです! もちろん本来なら僕自身が作らなきゃいけないんですけど、今回は、僕自身だけじゃ作れないものだと、腹をくくって…(笑)。
まず今は自分でいろいろやってみて、それから三上さんに聞きつつ、やるべきことを二つ三つ、とつぶしていきたいと考えているんです。三上さん、これからいろいろ聞きますのでお願いします!

三上:(笑)。矢崎くんを見てると、ポテンシャルがあるのに、上手く引き出せてないな、って思うんだよね。できるのに上手く表現できてないの。俺もうまいこと伝えられるかわからないけど(笑)、出来る限りうまく伝えていきたいと思ってる。
まだ会って数週間だけど、俺は矢崎くんのことは信頼してるんだ。コイツできるな、できないな、とかって、俺も30年やってきたからそれなりにわかるから・・・偉そうかな(笑)。河原くんや僕を信用してもらえたら大丈夫だよ。

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――これは頼もしいですね! 一方で、三上さんは、日根の計画に気づき、なんとかして尻尾を掴もうと執拗に追いかける警部補の銭田を演じますが、役作りはどのように?

三上:銭田は定年間際だけど、僕は見た目、定年間際じゃないしね。嘘を嘘ではないようにっていうのは基本だから、演技とは別に、見た目は説得力を持たせたいと思ってるけど・・・。あとはどうなるかな? ただ、この物語の世界を、最後の最後までどう話が転がっていくのか、お客さんそれぞれに楽しんでもらうために、作っていくだけですね。

もともと、1人がどうこうしてもどうしようもない、そういう作品なんで、みんなで協力して、っていうのはおかしいけど、時代を、世界を作って、最後まで飽きさせないように、観てもらえるようにするだけです。

――河原さんの演出は『時計じかけのオレンジ』以来、4年半ぶりということですね。

矢崎:4年半前は、ほんと何も出来なかったので、河原さんの目の中にすら入っていなかったようなものです。今回、やっと見てもらえるというところに来たと、今の自分の全力をぶつけられたらと思って稽古場に入ってます。自分を奮い立たせなきゃなって。三上さんもそうですし、河原さんもそうですし、ほかの先輩方も、僕が落ち込んでいたら飲みに誘ってくれる。
若いチームも、主演の僕に愛を持って接してくれるので、それに応えたいなという気持ちがすごくあって。最初はいろいろと落ち込んでいたんですけど、そんな場合でもないなって(笑)。

三上:そう! 主役、真ん中にいる人は、落ち込んでる場合じゃない。そんな時間もないし。なんだろね…真ん中にいるのは上手い下手じゃなくて、きっと別の何かがいるんだよ。それはやらないと分からない。その真ん中の、看板の芝居というものがちゃんと芽生えれば、色んなものがちゃんとついてくると思う。
今はなんかね、芽生えそうでまだ、って感じが見ていてもどかしい気分でもあり、でも来るだろうなという確信はあるから心配してはいないんだけど。

――いまここで、矢崎さんにアドバイスするとしたら?

三上:真ん中にいること、センターの芝居をすること、かな。センターに立つ者は、ほぼ皆と絡むから。会話をしよう、ってことなんですよね。時代のなかで、世界のなかで皆と会話をしてもらえたらいい。これが自分の中にあれば、きっと良い作品になると思いますよ。

矢崎:・・・がんばります!

三上:簡単なことではないと思うよ。でも、一人で上手くやるんじゃなくて、みんなと絡んでほしいし、みんなと話してほしい。みんなを愛で包んでほしいんだよね。

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――これから本番まで、稽古場では濃密な会話が交わされそうですね。

三上:ほんとはね、ゆっくり食事しながら話したいよね。そういう時間をこれから、ね。

矢崎:はい。ぜひ!

三上:どっか連れてって!

矢崎:えっ、俺が?! 俺なんですか?

三上:うん。焼き肉連れてって(笑)。

矢崎:また高いものを・・・

三上:(爆笑)

矢崎:稽古場の近くにもんじゃ街があるので、もんじゃ焼きは・・・?

三上:えーっ。安いのはヤダな(笑)。

――そのあたりの打ち合わせは、後ほど(笑)。最後にメッセージをお願いします!

三上:初演を観て、この作品だから観たいと思ってくれる人も、初めてだけど面白そうって思っている人もいるでしょう。ちょっと期間が短いけど、ぜひ観に来ていただけたら。M.O.P.の時よりも、みんな上手いですよ(笑)。女性陣も楽しいですよ・・・皆いいキャラクターといったらおかしいけど、いい子たちばかりなので。僕も楽しみですし、皆さんも期待して観に来ていいと思います。

矢崎:僕からすると、大先輩から同世代で闘ってる人たちまでが一緒の舞台に立ってる作品です。バラエティに富んでるというか、いろんなジャンル、世代のキャストの人たちが集まっていて。なかなかこんな風に入り乱れることはないなと思っています(笑)。
多くの人に観に来ていただきたいですけど、特に、僕と同じ同世代の人に観に来ていただいて、『黒いハンカチーフ』の時代の面白さ、僕が今、同じ時代設定の映画を見て面白いなと思っているように、面白さを感じてもらえると思うんです。そう思ってくれるところまで、お客さんを連れて行きたい、一緒に楽しんでいただけたらなと思います。劇場でお待ちしています!

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◇矢崎広(やざき・ひろし)プロフィール◇
1987年7月10日生まれ、山形県出身。2004年、ミュージカル『空色勾玉』でデビュー。以降、映画、舞台、ドラマなどに出演するほか、声優としても活躍している。最近の主な舞台出演作に、『SAMURAI7』、ミュージカル『タイタニック』、『嵐が丘』、『女中たち』。10月末より、主演舞台『BIOHAZARD THE STAGE』が控えている。

◇三上市朗(みかみ・いちろう)プロフィール◇
1966年2月15日生まれ、京都府出身。マキノノゾミ主宰の劇団M.O.P.の主要メンバーとして活躍するほか、数々の舞台、映画、ドラマに出演。最近の舞台出演作に、『コンダーさんの恋~鹿鳴館騒動記~』、ミュージカル『ファントム』、『私のホストちゃん〜血闘!福岡中州編〜』、『ペール・ギュント』。

◇『黒いハンカチーフ』◇
2015年10月1日(木)~4日(日) 新国立劇場中ホール
脚本:マキノノゾミ 
演出:河原雅彦
出演:矢崎広、いしのようこ、浅利陽介、村岡希美、吉田メタル、
鳥肌実、三上市朗、伊藤正之ほか

昭和32年、「関東菊壱組」の下っ端チンピラの宮下(浅利)が、組から政界へ渡った賄賂の証拠をネタに大物政治家の海老沢(鳥肌)をゆすった。しかし、宮下の婚約者で娼婦の夢子が取引現場に向かう途中、車にひき殺されてしまう。宮下と夢子の娼婦仲間の女たちは、夢子の仇討ちをしたいと、医師の日根(矢崎)に助けを求めるのだった。日根は彼らの頼みを断りきれず、新聞に三行広告を載せる――【黒いハンカチーフ拾った。落とし主の連絡を乞う】と。それはかつて、日根の父で、戦前の天才詐欺師「フジケン」が大きなヤマを仕掛ける時だけに使っていた暗号広告。高度成長期の日本を舞台に、世紀の詐欺事件が遂行されようとしていた。

撮影:高橋 将志

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