加藤健一事務所「滝沢家の内乱」稽古場インタビュー。「二人芝居はお芝居の最高峰。登りきるところを見せたい」「髙瀬さんにがんばったって言ってもらえるように」


27年ぶりの出演となる映画「母と暮せば」の公開も控え、多忙を極める俳優、加藤健一。最新作『滝沢家の内乱』は4年ぶりの再演であり、加藤忍との二人芝居だ。6月に急逝した、本作の演出家髙瀬久男の想いを背負って舞台に立つ二人が今想う“芝居”とは? 先ほどまでの稽古の熱気が残る舞台セットの中で話を聞いた。

『滝沢家の内乱』

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――(稽古場の滝沢家のセットにお邪魔させていただいて)今回も素晴らしいセットですね! ここに入ったら演じられる役のスイッチが入るのがわかる気がします。

加藤:そうですね。こんな古めかしい机や衝立も実は美術さんの手作りなんですよ。時代や雰囲気に合わせて、集めたり作ったりしてもらってます。屋根も立派ですが、今回はこの上に登ったり、落ちたりもするんですよ。登ってみますか?

――壊したら大変なので大丈夫です!(笑)お二人とも和服なので大変そうですね。忍さんも前回公演(『バカのカベ~フランス風~』)のカラフルファッションとは打って変わって、お着物、素敵ですね。

忍:今回は私一人だけで衣裳が10着くらいあるんです! 衣裳さんにも1作品でこんなに着替える女優さんはなかなかいないよなんて言われて…(笑)やりがいのある役をさせていただきます。

――舞台上で見るのも楽しみにしています。今回は演出をされる予定だった髙瀬さんのご逝去に伴って、加藤さんご自身が演出をご担当されるとお伺いしました。実際に演出されてみてどうですか?

加藤:そうなんです。生前髙瀬さんが作って下さった方向で勿論やろうとは思っていて、演出を付けて下さっているDVDを見たりもしました。だけど、いない人の演出っていうのはやっぱり完全にはコピーしきれないものですね。僕たちは信じられるものを作るしかないので、最終的には自分の感覚を信じてやっています。

加藤健一『滝沢家の内乱』

――二人芝居で、さらに演出もされるというのは大変そうですよね。

加藤:そうですね。これは再演だからできることだと思いますね。初演だと僕が大変損をしてしまいます。相手役ばっかり良くなってしまって(笑)。そのくらい客観的に見てくれる人がいるっていうことは大きなことだと改めて思います。自分のことは見られないので、信じるしかないですから。演出家って大切ですね。いてくれないと困ります。

――4年ぶりの再演ということですが、忍さんはいかがですか?

忍:この作品の初演で初めて髙瀬さんとご一緒させていただいたので、すごく思い入れのある作品です。当時は本当に手取り足取り演出して下さいました。もう1行ごとに、毎日100個くらいダメ出しがあるような…(笑)

加藤:あはははは! そうだったね。

忍:DVD見たら本当に細かく演出されていて、お路がよく見えてるなってことに改めて感動しました。それに加えて今回は加藤さんがお路をまた素敵に演出して下さいますので、二人が作って下さった役を全うしたいなと思っております。

加藤忍『滝沢家の内乱』

――ちなみに・・・ダメ出しはどういう風にされるものなんですか?

忍:当時は自分の思い込んだ読み方と髙瀬さんの持つイメージが違ったので、キャラクターを探るにあたってのダメ出しが多かったですね。嫁いできたばかりの20代のお路を髙瀬さんはコミカルに捉えていらっしゃったんです。だけど、当初私の頭にはそういうお路像がなかったので、初めは「こんなふざけてていいのかしら」と探りながらやっていましたね。

――なるほど。物語一つにしても、人の持つイメージはそれぞれ違うものですから、そこの擦り合わせは難しそうですね。

忍:そうなんです。だけど、幕があけたら、お路の清純で明るいコミカルさを、お客さんにたくさん笑って頂いて…。最後40代近くになる女性へと成長していくんですけど、そこを見せるにあたっても導入部分は難しく、その分は物語においてとても大切だなって思いましたね。

――物語と同じく、加藤さんと忍さんは長いお付き合いだと思うのですが、お路と忍さんの似ている部分はどこだと思われますか?

加藤:そうですね。女優さんみんなそうですけど、やっぱり気が強いところが似ていますね(笑)。お路も相当気が強くないと、この滝沢家では生きてはいけなかったと思うので。生き残っている女優さんはみんなそういう生き抜く強さがありますから。

忍:ありがとうございます(笑)

加藤:今回の役柄は特に似ているなと思う部分がありますね。馬琴も作家で、お芝居と同じ“ものづくり”をする人ですから。こだわりがある部分や葛藤、自分の経験に重なるところもたくさんありますよ。

――物語と対峙するといった作業も重なりますね。ちなみに、前回、前々回公演と外国人を演じられて、今回はあまり間も空かずに時代劇ということですが、切り替えはどうされているんですか?

加藤:前回の「バカのカベ」も風間杜夫さんと一緒で、今回も声で出ていただくので、そういった意味では作風はガラリと変わりますが、スムーズに切り替えられましたね。出演も忍さんとですし、高畑(淳子)さんも声の出演をして下さるので、頼りにしています。

加藤健一『滝沢家の内乱』

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――二人芝居という点で他の公演とはまた少し印象が変わりますよね。

加藤:僕は二人芝居をわりと多くやってきているので、慣れている部分はあります。それからやっぱり二人芝居が好きなんですよ。出たがりですね(笑)。相手がいて初めてキャッチボールが成立するという意味で、最少の二人芝居はやはり役者にとってやりがいがあります。1人で8本二人芝居やってるって、相当出たがりじゃないとやらないですよ(笑)

――タフでないと出来ないと思います! 稽古中とくに気を払われている場面ややり取りはありますか?

加藤:忍さん演じるお路っていうのは読み書きの出来ない娘なんですけど、僕が演じる馬琴は頑固一徹で口述筆記が嫌いで。にもかかわらず、どんどん目が悪くなって書けなくなる。28年書いてきたけど、もう作家人生も終わりかっていうところで、お路が「書きます」といって馬琴に文字を教わりながら脱稿に向かっていくんですね。その二人三脚が見せ場なんですよ。

忍:そうですね、私は初演の時にその見せ場をやりきれなかった感がすごくありまして…。お路の成長をどうやったら表せられるんだろうっていうところで、悩んだ部分があったまま終わった感じがあったので。

加藤忍『滝沢家の内乱』

――たしかに1人の女性が約20年もの月日を経て成長する過程を一人で演じられるのはとても難しそうに思います。

忍:今回はその部分を特に丁寧にやっていますね。こういう方向性にしたら、自分の中のお路の役作りにつながっていくんじゃないかとか、ちょっとずつわかってきた感じで。それが自分の中でも大きく変わった部分だと思います。

――きっと髙瀬さんも見ておられますね。では、最後に公演に向けて意気込みをお聞かせ下さい。

加藤:二人芝居っていうのは、場面も出演者も変わらないので飽きるんじゃないかって思われがちです。逆に言えば、役者の力量がものすごく問われるということ。上手な噺家さんの落語をずっと聴いてられるのと同じで、うまくいくととても深い次元までお客さんを引っ張っていけるんです。今回はそういう高い山を登ることになりました。人が失敗する山だから面白いっていうのもあるし、その山を登りきるところを見せたいと思います。二人芝居はお芝居の最高峰ですから。

忍:やり残したところが多かった分、この作品の再演を私自身とても嬉しく思っています。年を取ると考え方や周りの風景が変わったり、経験も増えます。そういった私自身の変化を滲み出せるのは再演だからこそ。髙瀬さんと作った作品の中でも、これは共に苦労した作品なので、今回は、最高峰に登る覚悟で頑張ってます。髙瀬さんに「よし、がんばった」って言ってもらえるように、お路を生きたいと思います。

加藤健一、加藤忍『滝沢家の内乱』

<プロフィール>
加藤健一

1949年10月31日生まれ。静岡県出身。高校卒業後、半年間のサラリーマン生活を経て、劇団俳優小劇場の養成所に入所。その後、劇団新芸を結成し、劇団つかこうへい事務所の作品にも出演。1980年に一人芝居『審判』を上演するため、加藤健一事務所を設立。1986年には加藤健一事務所俳優教室を開設し、若手俳優の育成にも力を入れている。これまで文化庁芸術選奨新人賞、第11回読売演劇大賞優秀男優賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞など、さまざまな賞を受賞。2007年には紫綬褒章を受章。年間3、4本のペースで公演を行い、主役を演じ続けている。

加藤忍
1973年10月22日生まれ。神奈川県出身。加藤健一事務所俳優教室出身。2004『コミック・ポテンシャル』『バッファローの月』で第39回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。2007に舞台『コミック・ポテンシャル』の再演で第62回文化庁芸術祭新人賞(演劇部門)を受賞。2007年度岡山市民劇場賞受賞。現在は舞台、映画、テレビ、ライブ等で活動中。NHK海外ドラマ『トンイ』では、トンイ役ハン・ヒョジュの声を務める。

髙瀬久男
1957年山形県生まれ。玉川大学芸術学科演劇専攻卒。文学座研究所第20期/1985年、座員に昇格。大胆にして緻密、緊張感溢れる舞台を次々に生み出し、気鋭の演出家として確固たるポジションを確立する。
『マイ・シスター・イン・ディスハウス』(文学座アトリエ)での成果により第8回 読売演劇大賞優秀演出家賞。これまで芸術選奨文部科学大臣新人賞、毎日芸術賞〈千田是也賞〉、児童福祉文化賞(厚生大臣賞)など数々の賞を受賞。2012年『NASZA KLASA』では、第20回読売演劇大賞最優秀作品賞も受賞。

<公演情報>
2015年8月26日(水)~8月30日(日) 下北沢・本多劇場
※この他、関東・東海・関西での公演もあります。

『滝沢家の内乱』

<『滝沢家の内乱』あらすじ>
文政十年。「南総里見八犬伝」執筆中の滝沢馬琴(加藤健一)の、息子・宗伯のもとに嫁いできたお路(加藤忍)。高名な先生のお家と安心しきっていたが、そこはとんでもない家だった!!
一癖も二癖もある滝沢家の人々とのしっちゃかめっちゃかな毎日の中で、読み書きのできなかったお路が、目を患った馬琴に文字を教わりながら「八犬伝」を脱稿へと導く―――。

<出演>
加藤健一、加藤忍

<声の出演>
風間杜夫(友情出演)、高畑淳子(友情出演)

<作>
吉永仁郎

<演出>
髙瀬久男(代行:加藤健一)

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