舞台『ス・ワ・ン』3軒茶屋婦人会の篠井英介、深沢敦、大谷亮介にインタビュー! 「3軒茶屋婦人会、誕生の秘話をお話します!」


実力派俳優の篠井英介、深沢敦、大谷亮介の三人が「女性を演じる」をコンセプトに旗揚げした演劇ユニット・3軒茶屋婦人会。2003年の『ヴァニティーズ』を皮切りに、さまざまな“女性像”を演じてきた彼らが今回挑むのは時代も国も違う三話のオムニバス作品『ス・ワ・ン』だ。7月3日の初日まで1か月を切った稽古場で、互いの関係や作品に賭ける三人の意気込みをじっくり聞いた。

篠井英介、深沢敦、大谷亮介

関連動画:篠井英介&深沢敦&大谷亮介(3軒茶屋婦人会)から『ス・ワ・ン』なお知らせです♪

――今回はタイトルが『ス・ワ・ン』ですが、スワン=白鳥を題材になさったのはどんな理由からでしょう?

大谷:最初は「タイトル、どうしようか?」というところから始まったんだっけ?

深沢:と言うか、実は衣装ありきで今回の企画が始まったんです。(『ス・ワ・ン』のフライヤーを取り出しつつ)この衣装・・・(バレエの)チュチュを着たいと僕がうっかり言ってしまい(笑)、チュチュなら白鳥の湖だろう・・・白鳥ならスワンだろう・・・今回はオムニバスの三話だから、三文字の間に点を打って『ス・ワ・ン』がいいんじゃないか・・・そんな感じでタイトルが決まりました。ただ、この衣装はチラシだけのもので、本番の舞台では一度も出て来ないんですけど(笑)。

篠井:私たちはチラシに命を賭けているところがありますから(笑)。ここに費やしている根性は半端ないですよ。素敵に仕上がってるでしょ?

――素敵です!劇場でたくさんチラシを頂きますが、凄いインパクトで目に飛び込んできます!

篠井:そうでしょ、良かった(笑)

大谷:良かったねえ!

篠井:このチラシを起点にして、そこから作品を作って下さるのは作・演出のG2さんの僕らに対する思いや愛情、それに職人技とも言える手練手管です。その場のインスピレーションで決まったタイトルが成立するよう、G2さんが“スワン”のモチーフを三話のオムニバスの中にちゃんと入れて下さったんですね。G2さんがいて下さってこその私たち3軒茶屋婦人会・・・という感覚が今回は特に強いんです。

篠井英介

――3軒茶屋婦人会が誕生してから今年で12年になりますが、どうしてこの三人で「女性」を演じるユニットを立ち上げようと思われたのでしょう。

深沢:それはね、この人から(と、大谷さんを指す)。

大谷:もうかなり前になるんですが、ある時「歌舞伎俳優は女性を演じるのに、現代劇ではあまりそういうことをやっている人がいないよなあ」ってふと思ったんです。それで、現代劇でも男性が女性を演じる機会がもっとあったら面白いんじゃないかと考えるようになって。ちょうどそんな時に篠井さんや深沢さんの舞台を観る機会が多くあり、一緒に何かやれたら面白いと思いました・・・あれはもう20年位前だったかな。まあ、それから色々ありまして、結局8年位は何も動かなかったんですけど。

深沢:英介さんは大谷さんのこと、確か嫌いだったはず・・・と思って、なかなか二人を繋げられなかったんですよ(笑)。

――そ、そんな爆弾トーク、いいんですか?

深沢:何度もその事で大谷さんから「英介さんに話してくれた?」と催促されてはいたんですが、実は全然言えてなくて(笑)。

大谷:こっちはそんな事、全然知らない訳ですよ(笑)。それである時、新橋演舞場で英介さんと同じ芝居に出る機会があって、出番が終わった後に楽屋にお邪魔してビールをご馳走になってたんです。そしたら目の前に英介さんが書いた本があって、何となく手に取って読み始めたら僕のことが出てきて「お、なんだ?何が書いてあるんだ?」って読み進めていくと「あの人とは二度と一緒に演りたくない」って文字が目に飛び込んできて・・・もうめちゃめちゃビックリしましたよ!「英介さん、僕のこと嫌いだったの?」ってほぼ涙目で聞いたら、その時初めて“わが意を得たり”って顔で「そうよ、皆アナタのことが大嫌いなのよ」「アナタだけが気付いてなかったのよ」・・・って(全員大爆笑)。

大谷亮介

――篠井さん、真相は?

篠井:事実ですね(笑)。でもこの人(大谷さん)は変わりましたから。劇団の座長でいらした時と、その劇団を解散して少数精鋭のメンバーたちと新しい集団を立ち上げたり、プロデュース公演に一匹狼として参加したりして、いろんな人に揉まれたことも大きいと思うんです・・・この人、本当に変わったんですよ。今は出会った頃の面倒くさい人では全くないですね。

――まさかそんな壮大で素敵な経緯があったとは存じませんでした。女性が三人集まると難しいってイメージもありますが、男性三人だと普段はどんな感じでしょう?

三人:全然面倒くさくないですよね。

篠井:すごくサッパリしていて僕はいいと思うんです。

深沢:稽古や本番に入ると一緒にいる時間も長いですが、終わればそんなに会うこともないですし。

篠井:グチャグチャした“裏”がないから、とても楽だよね。

大谷:そうだね、芝居で一緒にいる時はその事だけに集中できる関係だね。

篠井:芝居のことでいろいろ言い合っても、お互い真摯に人のいうことを聞けますし、何とか良い方向に持って行こうと努力しますよね。とても楽です。

大谷:芝居の話しかしなくていいんですよ。変な所に気を遣わなくてもいい。この3軒茶屋婦人会も、無理してやっている訳ではなく、なんとなく三人の気持ちが一致して「そろそろやる?」みたいな感じで6回目の公演まで来ました。すごく健康的だと思いますよ。

深沢:前回公演までは(作・演出の)G2さんがいらしたG2produceさんにいろいろ助けて貰っていたんですが、今回はまるで劇団みたいな感じでやっています。

篠井:G2さんがG2produceを解散なさったこともあって、個人的にはこれで(3軒茶屋婦人会の活動も)一区切りなのかなあ、と思ってはいたんです。でもG2さんの方から「そろそろやらない?やろうよ!」と声を掛けて下さって。劇団ではなくユニットという形態で、作・演出家の方がこういう風に言って下さるのは稀有なことだと思ったんです。そのG2さんのお言葉や、苦労を一緒に背負おう、というお気持ちが嬉しくって・・・じゃあ、その思いになんとか私たちも応えないといけないんじゃないかと。

――『ス・ワ・ン』は三話のオムニバスですが、戦国時代、現代の中国、戦後すぐの赤坂とバラエティに富んだ内容になっています。

深沢:二話目の『広東の林檎』は、実際に中国の工場で起きたことを参考にG2さんが更に詳しく調べて書いてくれました。

――お衣装も楽しみです!

深沢:三人が三話のオムニバスに出る訳ですから合計9パターン・・・大変だ!(笑)。

篠井:僕が個人的に一番難しいと思っているのは二話目の『広東の林檎』なんですね。というのも“女らしい女”を演じる方がある意味分かりやすくって楽なんです。でも二話の工場で駒のように働かされている女性たち・・・身も心も荒んで、変な話、男だか女だか良く分からなくなっている人を演じるというのは・・・難しいですね。

まだ若いのに、職場の工場と家との往復で無味乾燥な毎日・・・そんな彼女たちをお揃いの作業着を着て演じますので、これはある意味チャレンジなんです。もしかしたらお客様は「ん、オッサンじゃないか」なんてお感じになるかもしれないですが、これが上手く行ったらちょっと面白いと思うんです。

深沢:新たな冒険だね。

篠井:僕は自分のことを女形の役者だと思っていますので、この物語ではあえて女性としての所作とか柔らかさをなるべく捨ててやってみよう、そうしたらどうなるんだろうとも考えています。

深沢:でも二話の女の子たちの中身が三話の中で実は一番女っぽいんですよね。自立も出来ていないし、どこか男に頼って生きている。そんな見た目と内面のギャップがきちんと出せたら面白いのかな、と。

――そして三話目はガラッと変わって逞しい女性たちのお話です。

深沢:きっと色んな男にだまされて、酸いも甘いも全て知っちゃった女たち・・・ね。最初に台本を読んだ時は、分かりやすくてシンプルなお話だな、と思ったりもしたのですが、実際に稽古に入ってみたらとんでもない!三話とも全て難しかったです(笑)。

深沢敦

――大谷さんは舞台で女性を演じられる機会が少ないと思うのですが、何か意識なさっている事はありますか?

大谷:3軒茶屋婦人会の舞台が決まると、なるべく女性がたくさんいる場所で飲みますね。女子会に参加して彼女たちをじっと見つめたり(笑)。

篠井:それ、大きく間違ってますからね(全員爆笑)。

大谷:後は“その気になる”事ですね。雑踏を女性の気持ちで歩いたりしますよ。乗ってくると歩き方や鞄の持ち方も女性モードになっちゃって、家内に気持ち悪がられたりします(笑)。

――三話の「炎のスワン・シスターズ」はかなり濃いモードになりそうです。

篠井:それはもう数々の経験を積み、男たちを渡り歩いた三人の女のお話ですから“これぞ女形”という雰囲気でいきます。男たちにもてあそばれ、男たちをもてあそんできた・・・そんな空気感が滲み出たら良いですね。

大谷:別のモノが滲み出ないようにしないと(笑)。

深沢:今回は舞台上にずっとミュージシャンの方たちがいらして音楽を付けてくれるんですけど、それがとても素敵なんです。

大谷:あの音楽を聴くだけでも価値があると思いますよ。

深沢:ゴージャスですよね。

――G2さんの演出はいかがですか?

深沢:本読みの時からとても細かくお話して下さいますし、立ち稽古でも私たちのことをちゃんと見て下さっているんだなあ、と強く感じます。

大谷:最初の立ち稽古から(演出が)細かいよね。初めのうちは大変な所もありますが、早い段階で演出の意図が分かるので助かります。

篠井:三者三様、お稽古中もいろいろ言うのですが、G2さんはそれをちゃんと受け止めて丁寧に聞いて下さいますね。

篠井英介、深沢敦、大谷亮介

――では最後に、お互いの「大好きなところ」と「できれば直して欲しいところ」を教えて下さい。

深沢:大谷さんの大好きなところ・・・「声」かなあ。篠井さんの「声」も大好きですね。大谷さんに直して欲しいのは「先走ってしまうところ」。準備も早い分、正確に覚えていないことがあったりして、たまに困りますね(笑)。間違って覚えていることがあっても直すのが大変!英介さんに直して欲しいところは・・・ないですね。お一人で抱え込んでしまうところがあるので、何かあった時は言って欲しい・・・それくらいでしょうか。

篠井:“芝居を一緒にやっている”という繋がりで考えると、お二人の“女性役”を間近で見ていられるのが毎回とても幸福です。僕は女形の役者ですので、二人が鏡になってくれているというか・・・。あっちゃん(深沢さん)の明るさが大好きですね、救われることが多いです。大谷さんもとても真面目で真摯。一直線であるところが困ったちゃんでもあるのだけど、それは一生懸命だからですよね。

直して欲しいところ・・・あっちゃんにはお芝居中、もっと綺麗な顔をして欲しいと思います。懸命にやるから、どうしても顔に力が入ってしまうのが勿体ないなあ、と。大谷さんは・・・頑張って下さい!(全員爆笑)。僕はこう見えて気力も体力も弱めなところがあるので、お二人にはいつもエネルギーを頂き、助けて貰ってます。

大谷:僕も深沢さんの声が大好きです。歌も上手い!一緒に歌っていると分かること、伝わることが一杯あるんです。後は旅公演に一緒に行ってあっちゃんがお薦めの店に入ると絶対にハズレがない!直して欲しいところ・・・ないなあ・・・思い浮かばない。

篠井さんは“気遣いの達人”で、お手本にさせて頂くことが多いですし、もちろん演技も大好きです。直して欲しいところ・・・やっぱり思い浮かばない。

深沢:強いて言えば、休憩時間に一緒に煙草を吸って欲しいことくらいじゃない?

大谷:そうそう!今は吸わなくなっちゃったからね。でも英介さん、前も俺と一緒に煙草を吸うのは嫌だったみたいなんだよね。ゆっくり休憩できないって(笑)。

篠井:憩いの時間に(大谷さんが)にじり寄って来るわけですよ。で、隣ですごい勢いで喋り出すの(笑)。分かった分かった、今はお休みの時間だから静かにして~って(笑)。

大谷:じゃあ、僕のお陰で篠井さんは禁煙出来たんじゃない?良かったねえ(全員爆笑)

篠井英介、深沢敦、大谷亮介

毎月のようにどこかで生まれる演劇ユニット。だがそのほとんどは一年も経たぬうちに、いつの間にか消滅していく。そんな中、個性も実力もある大人の俳優三人が立ち上げた「3軒茶屋婦人会」は演劇界でも稀有な存在・・・レジェンドである。本作『ス・ワ・ン』で三人が挑戦するのは、時代も国も違う三話のオムニバス。もちろん、表題の「スワン」=白鳥がキーワードになってはいるのだが、それと同時に「残された人たち」の物語でもあると感じた。大人の観客が劇場でふと自らの人生を振り返る・・・きっとそんな甘やかさとほろ苦さを同時に感じられる舞台になる筈だ。

3軒茶屋婦人会『ス・ワ・ン』は2015年7月3日(金)~12日(日)まで東京・下北沢 本多劇場にて上演。東京公演終了後は石川、大阪、北九州、神奈川の各地で上演される。

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