『サンセット大通り』ノーマ役(Wキャスト)の安蘭けいにインタビュー!「役を演じながら、しっかり“自分”と向き合っているんです」


2012年に日本で初演され、ノーマ役の安蘭けいが菊田一夫演劇賞を受賞したミュージカル『サンセット大通り』。『キャッツ』『オペラ座の怪人』など、世界的なミュージカル作品を手掛ける作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェバーが楽曲を提供したドラマティックな作品だ。今回3年振りとなる再演バージョンで、初演と同じく無声映画時代の大スター、ノーマ・デズモンド役に挑む安蘭けいに作品に懸ける思いを語って貰った。

『サンセット大通り』安蘭けい

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――3年振りのノーマ役ですね。

これは本当に幸せなことです。多くの女優さんが憧れ、演じたいと願うノーマという役を再び演じられる喜びは大きいですし、この巡りあわせに感謝しています。

――製作発表の歌唱披露では“スター”のオーラが凄くて震えました。演出の鈴木裕美さんとは『アリス・イン・ワンダーランド』以来のタッグですが、安蘭さんにとってどんな存在の方でしょう?

裕美さんはとても緻密に作品を作られる方です。会見のコメントでは「役者に自由に演じて貰う」とも仰っていましたが、土台の部分は裕美さんの中でしっかり築かれていて、演じる側が辻褄の合わない芝居をしたりすると、何が違うのかという事をちゃんと説明して解決策を一緒に考えてくれます。尊敬する演出家のお一人です。

――この3年の間に、ストレートプレイの『幽霊』や、『ネクスト・トゥ・ノーマル』の様な精神的に深い部分を描いたミュージカルにもご出演されています。これはノーマへのアプローチにも影響を与えるのではないでしょうか。

自分で“3年前とはここが違います!”と、今の時点で明確に説明は出来ないのですが、ストレートプレイをやらせて頂いた事で、より演技をする、芝居をするという事に繊細な感覚を持てるようになったとは思います。

初演でノーマを演じることになった時は、ロイド=ウェバーの音楽に囚われる部分も大きかったんですね。今回の再演では音楽も大事にしつつ、より芝居という部分を大切に扱いながら、歌も演技に寄せたところで歌えるよう譜面と向き合いたいと思っています。

『サンセット大通り』安蘭けい

――『幽霊』は客席で拝見していても、なかなか一筋縄ではいかない作品だと思いました。

森(新太郎)さんの演出も緻密で激しかったですね。稽古場でやった事を家に持ち帰って復習するんですが、翌日稽古に行くと全く違うアプローチに変わっていて、それが最後まで続くんです(笑)。でも、稽古前にエチュードをやったりして私にとっては凄く新鮮で新しい経験でした。宝塚時代はエチュードとか、やらなかったですし(笑)

――ノーマは決して綺麗なだけではない複雑なキャラクターだと思います。演者自身の中にある深い“闇”のような部分が表に出てしまう役柄でもあるのかと。

その点に関しては私はどんどん見せていきたいと思っています、全然大丈夫(笑)。むしろそういう部分をきっちり見せないとノーマの魅力とか可愛らしさも伝わらないんじゃないかと。ただ狂気に走る昔の大女優という“定型”では終わらせたくありません。

女性なら誰しも持っている嫉妬や美への固執…それはノーマを演じる上での一つの手がかりになると思いますし、彼女を表現する上でとても大切な感情だと思っています。

――楽曲に関してはいかがでしょう?

実は私、ロイド=ウェバーの作品には前回の『サンセット大通り』初演まで出演した事がなかったんです。昔は『キャッツ』の世界に憧れましたし、他の多くの作品も観客としては観ていたんですけど。そんな事もあり、初演で『サンセット大通り』のナンバーに改めて触れた時、私にとってはどの曲も耳馴染みがあって、あのロイド=ウェバー節が凄く心地良かったんです。

ただやはり、いざ自分が歌うとなるとなかなか難しくて苦労もしたのですが、またあの音楽に取り組めるのはやっぱり嬉しいですね…ちょっとだけ苦しいけど(笑)

――ノーマ役・Wキャストの濱田めぐみさんとは『アリス・イン・ワンダーランド』の初演と再演でご共演なさっています。

めぐちゃん(濱田めぐみさん)の歌の力は凄いと思うし、独特の感性を持った女優さんだと思います。今回Wキャストとして同じ役を演じるという事で、彼女から学ぶ事もあると思いますし、普段から舞台や演技以外の事についてもいろいろ語ってすごく仲も良いので、ノーマについても二人で話しながら、役を作って行ける部分もあるんじゃないかな、と期待しています。

――製作発表でお二人の歌をそれぞれ聴いて、安蘭さんからは「太陽」の華やかさとエネルギーを。濱田さんからは「月」の秘めた思いと孤独を感じました。

おお、そうだったんですね(笑)。私、宝塚時代は“月”と評される事もあったんですよ。当時の宝塚で“太陽”は湖月わたるさんで…そうか、今日は私、“太陽”だったんですね(笑)

めぐちゃんとは共通点も沢山あって…私もアイーダ役(『王家に捧ぐ歌』)を演じているし、めぐちゃんも作品は違うけれど、同じアイーダ(『アイーダ』)を演じています。今は同じ事務所に所属していて、宝塚と四季の退団時期も近い…いろいろな所が似ているんです。
そして、実は二人ともなかなか「闇」が深かったり(笑)

――今回、ジョー役も初演の田代万里生さんから平方元基さんに変わりますね。

二人とも全く個性の違う俳優さんなので、比べるという事はないんですが、初演でジョー役を演じた(田代)万里生君の方が大変だったのかも、という気はします。と言うのも、彼はお父様もオペラ歌手をなさっていて、ある種のサラブレッドとしてこの世界に飛び込んできたんですよね。そういう“王子様”のイメージを持たれながら、『ボニー&クライド』のクライドや、ジョーのようなキャラクターを演じたのは彼にとって大きなチャレンジだったと思います。

(平方)元基君は、親しみやすさとか明るい所がジョーに近いのかな、と(笑)人懐っこさもありますし、本人と役の距離が近いような気もします。二人とも俳優という職業に就いて、若くしてジョーと言う野心を持った青年の役に出会えたという事に大きい意味があると思いますね。今回はノーマとジョーの組み合わせが固定なので(安蘭×平方・濱田×柿澤)、そういう意味ではチーム毎に関係性をより深めていけるかな、と思います。

『サンセット大通り』安蘭けい

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――安蘭さんご自身の中で、ノーマとご自分を繋ぐ1番の糸…キーワードは何でしょう?

うーん、それはやっぱり「女優」ということですよね。宝塚歌劇団を退団して、女優として再スタートをしたキャリアは6年位なんですが、ノーマと方向性は違えど、トップとして頂点に立った経験があり…そこは大きな共通点です。私は(宝塚男役)トップスターとしての立場が永遠に続くことはないと分かっていましたが、ノーマはトップ女優としての自分の立場が永遠に続いていると信じている…。

ノーマはとても純粋な人です。普通だったら、女優としていつまでも純粋でいることは叶わない。でも彼女は周囲の人たちに守られて、少女の様な純粋さをいつまでも保っています。そして私はそういう世界がある事を、自分がいた場所と照らし合わせてリアルに感じることが出来るんです。

――ノーマを演じるために、ご自分の心にしまっていた色々な箱や引き出しを開ける作業は苦しくないですか?

うん…結構深い所を開けますよね。でも平気…あれ?私、もしかして「M」なのかな(笑)?皆がそうなのかは分かりませんが、私は役を演じながら同時に“自分”を見つめているんです。その作業をしっかりやって、役と自分とがしっかり向き合わないと薄っぺらな演技になってしまうと思っていますし、それは絶対に嫌なので。

――ノーマみたいな役とそこまでガチで向き合えるのは…やっぱり…「M」で決定かと。

ああ、やっぱりそうなのかな(笑)…でもそれを見出しにしないで下さいね(笑)。でも女優も俳優も、どこか皆「M」なんだと思いますよ。追い込まれて責められて違う人間(役)になっていく過程を楽しめないと無理な仕事でしょう。

――ノーマもそうだった?

それはなかなか難しい質問ですね(笑)。彼女はどうだったんだろう…今回の課題の一つにします。

――そこがどうなったか、客席でしかと拝見させて頂きます!

ですね(笑)。私、本当にこの作品の再演を待ち望んでいましたので、いつその時が来るんだろうと思っていました。でも『サンセット大通り』は年月をあけて再演した方が、ノーマという役をもっと深めたところでやれると思いましたし、だから3年経った今なのかな、と。この役は5年後、10年後も演じられる…本当に、人間の“深味”が必要な役ですよね。

――初演の製作発表の時にご自分の事を“ラッキーガール”と仰っていましたが、今も同じお気持ちですね?

もちろん!めちゃめちゃラッキーガールですよ!だってこの役をもう一度自分がやれるんですよ!

宝塚男役トップスターという輝かしい経歴を経て、退団後もそのパワフルな歌声と端正な容姿を武器にさまざまな舞台や映像で活躍する安蘭けい。自分が置かれた立場を過信せず、自らを「Mかも」と笑いながら、こちらに深く切り込む言葉を鋭く投げかけてくるその様子に「なんてクレバーな人なのだろう」と心打たれた。

そんな彼女が熱望していた『サンセット大通り』の再演で、ある種の“闇”を持つ大女優・ノーマ像をどう新たに構築するのか…その答えを客席で見つめたいと思う。

◆ミュージカル『サンセット大通り』◆
【東京公演】2015年7月4日(土)~7月20日(月・祝) 赤坂ACTシアター
【名古屋公演】2015年7月25、26日(土・日) 愛知県芸術劇場大ホール
【大阪公演】2015年7月31日(金)~8月2日(日) シアターBRAVA!

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