創立60周年記念公演のトリを飾る『鑪-たたら』山路和弘インタビュー


1954年に結成され、2014年に創立60周年を迎えた劇団青年座。これを記念して創立60周年記念公演が上演されているが、第6弾にして記念公演を締めくくる作品として新作書下ろしの『鑪-たたら』が上演される。そこで舞台俳優、映画・ドラマ俳優、声優としてマルチに活躍する主演の山路和弘に話を伺ってきた。

山路和弘

――劇団青年座の創立60周年記念公演の最後を締めくくる作品にご出演されるということで、今のご心境はいかがでしょうか?

劇団が創立したのがちょうど、僕が生まれた年なんです。僕も60歳なので、ちょうどその締めくくりにもなります。青年座劇場の舞台に立つのが20年ぶりぐらいなんですよ。そんな事もあって、懐かしさがこみ上げて来ていろいろなことを思いだします。目の前にお客様がいる空間で60周年記念公演を楽しめたら良いなと思います。

――山路さんの青年座の舞台出演は2008年の『MOTHER』以来ですね。そして、山本龍二さんとのご共演も青年座創立50周年記念公演として2004年に上演された『深川安楽亭』以来になります。

青年座の芝居をする度に山本がいる気はするんだけど(笑)

――山本さんとはご共演が多いと思いますが、本作のご共演についてはいかがですか?

もともと山本とは「Y2企画」という企画をやっていて、「劇団の中のアングラを目指そう!」という訳の分からない企画だったんですが(笑)。その企画で3本やったんですけど、ジリ貧になっちゃって「こりゃもうダメだな、続けられねぇな」って状態になり、しばし企画を止めた頃にお互いに忙しくなったんですよ。それ以来、二人が中心で演じるのは久しぶりでして、そろそろ、そういう事もやりたいなとも思ってもいたんですけど。今回も一緒になって、新作ですからいろいろと問題あるじゃないですか。脚本がどうのとか、若い演出家がこうのとか、二人でいろいろと言っているうちに「やっぱり、Y2企画をやろうか」って話が出てます(笑)

山路和弘

――もし「Y2企画」が復活したら、山路さんのファンの方にとっては非常に嬉しいお話ですね。

やっぱり観たい!と思ってくれるか、本作を観に来てカクンとなるか(笑)。下手はできないですね。まだ、復活させたいなという気持ちはあるって段階ですが。

――本作の作者の早船聡さんと、演出の須藤黄英さんとは今までにご一緒にお仕事をされたことはあるのでしょうか? お二人のご印象とかはどうですか?

今回が初めてです。早船さんの話はサラサラしているんですけど、どこか引っかかるようなトゲが刺さった印象を受けるんですよ。その辺が上手く出るといいんですけどね。

――早船さんの特徴として、言葉の使い方や笑いのセンスが独特な点を挙げられていたりしますが、その辺は何か感じることはありますか?

やっぱり、今の作家の本だなと感じます。今までは自分より年長の方が書いた本を頂いて、それを演じるというのが多かったものですから。若い作家の本を演じるというのは、そうは無かったんですよ。ただ、若い人が書いている作品を観に行って、「こいつのやりたいなぁ」と思うときはよくありますよ。まぁ作品にもよりますし、タイミング的なものもありますけど。

――そろそろ舞台に立ちたいなという気持ちになったりするということですか?

そう。狭いところでやりたいなという時に、そういう作品に出合うと無性にやりたくなりますね。TVなどの出演が続くと思いますよね。「芝居してねぇなぁ…」って、飢えてくる感じはあります。

山路和弘

――本作の山路さんと山本さんの役柄は同い年の幼なじみということで、お二人の現実的な面も重ねているのではと感じたのですが、いかがですか?

早船さんがそういう所を思ったんでしょうね。昔は仲が良くて、今は仲が悪いというのも良い感じで演じられますしね(笑)。と言いつつも、しょっちゅう一緒に飲むんだけど(笑)人物としても山本の役は硬派で、私の役はヘラヘラして書いてあって、それも近いと言えば近いし。脚本と共通項はありますね。

――本作のテーマは「男と男」「父と息子」「家族」となっていますが、今回演じる役とご自身とを重ねて思うことはありますか?

自分の私生活はあまりしゃべれないけど、本の中にいろいろと痛い言葉がいっぱいありますね。「これ、俺に言わせるのかよ」って(笑)早船さんはいろいろと調査するタイプだから、ひょっとしたら周りに聞き込みしたのかってね(笑)

――本作は鑪(たたら)という鋳物の“職人”を扱っていますが、山路さんも俳優というある種の“職人”だと思うんです。演じることで共感できる部分などありますか?

“職人”という言葉は昔から好きな言葉なんですよ。こういう商売をしていて、いろいろなタイプがあるじゃないですか。スターもいるし、そうじゃない人もいるし。我々はどういう立ち位置にいたらいいんだろうと考えた時に、自分がやりたいものは若い時から“職人”だと思ったんです。そして、その方向に走ってきたんですが、ふと気が付いた時に“職人”の「技」にこだわってしまった時期があったんですよ。今、年を重ねて肩の力を抜きたいなと思った時に、“職人”として「技」でやっていくんだと言ってたことと逆の方向に関心が来たのかなと思います。

何を求めているのだろうかと揺れる毎日です。それを若い時に知らずにやろうとしていたことを中年の頃に気が付いて、さぁ今どうしようかと、あっちに行ったりこっちに行ったりとブレていたりするんですよね。“職人”という言葉を聞くたびにそのブレを思いだします。

山路和弘

――それでは、まだ目指すべき道というのは?

全然分からないですね(笑)。一生分からないでしょうね。

――テーマの一つにもある「父と子」ですが、本作に登場する息子は引きこもりでネット中毒という今風なキャラクターですが、どう思われますか?

未知ですからね。理解できないんだけど、自分の行き場が無い時に引きこもろうと思えば、今の時代はいくらでも引きこもれるじゃないですか。可能性としては分かるんですよ。自分とは世代も環境も違うから、共有しようとしてもこれは無理だなとは思うんですよ。
僕には息子が一人いるんですが、親としての感覚はあまり無くて(笑)同じ位置で言い合ってる親子なんですよ。どんな小さな子どもでもそうなんですけど、大人として子どもに言い聞かせるというのがダメなんだよね。どんなヤツに対しても、同じ位置という状態でいたいと思うんですよ。今回演じる役も息子に対して、そういう視点で見るしかないとは思っています。親としてなんとかしたいと思っていながら、それをきっちりと話せないけど愛情は感じている、という。今回演じる役はそういう付き合い方しか出来ない人なんでしょうね。

――「父と子」というテーマで少し話がそれますが。先日、アニメ・外画の演出家である福永莞爾さんとお話する機会がありまして、たまたま山路さんが息子さんと台本の読み合わせをされていたという話を伺ったのですが。

どこから話が来るんだか、危ないなぁ(笑)結構前の話ですよ。アテレコのリハーサルは家でするんですけど、子どもが小さい時に横から相手役のセリフを読むので「お前、上手いなぁ」って、そういうことがあったんですよ(笑)

山路和弘

――本作でも目的を見失った息子が、かつて父親が目指していた仕事に興味を持つ、というストーリーですが、山路さんの息子さんは山路さんと同じ役者を目指そうとされていたりはしないんですか?

全くうちは無かったです。我々の商売って必ず一回、もしくは最終的に役者を目指すらしいんですが。うちは反面教師だったのか、全くそうはならなかったですよ。もし「役者を目指す」と言い出したら、死んでも止めなきゃいけないと子どもが小さい時には思ってたんですけど、あまりに何も無くて。逆に寂しくなった思い出があります(笑)

――事前に台本を読ませて頂いたのですが、あるシーンにて山路さんが妻役で、山本さんと夫婦を演じられるのが非常に気になったのですが(笑)

どうなんですか、いかがなもんなんですかね(笑)。最初に台本を読んでいて、「俺がやるのかよ!?髭を剃るの??」と言ってたんですけど。ある意味、コントかって(笑)。どうも、早船さんが観たいらしいんですよ。「ぜひ、お二人にそこはやっていただきたいです」と言われてね。

――山路さんは、女性役のご経験はあるんでしょうか?

随分やりましたよ。『盟三五大切』の芸者役で面白いなとやり始めて、「Y2企画」の旗揚げの『東海道四谷怪談』ではお岩・お袖の二役とか演じてますよ。

――早船さんはそれをご存じだったのでしょうか?

知ってるんじゃないかなぁ。そういう役をやっていたと直接は言ってないんだけど。早船さんは調べる方だから。作家のイタズラかもしれないね(笑)

山路和弘女性役の話になると昔の公演写真が次々と…

山路和弘
山路さんも懐かしそうに眺めてました

――それでは、まとめとして本作の見所と劇団青年座の創立60周年記念公演に向けての意気込みをお願いします。

この作品はどうなるかまだ分からないんですけど、僕らが信頼しているメンツが集まることができて、こういう目まぐるしい作品を演じることになりまして、これは下手したら上手くいくぞ(笑)という読みがあって、そこが逆に楽しみでもあります。このメンツでこのような展開の速い作品をやったことが無かったので、割とサラっとして「ジクジクしたものを表には出さないけど、実は腹の中で思っている」という形でやっていく方が面白い作品になるので、もしそういうところが表現できたら相当おもしろい作品になると思います。

――本作はオリジナル新作ですので、全くお客の反応というのが読めないところがありますが、逆に大バケする可能性もありますね。

そう、読めないですけど、それは凄く思っています。イケるかもしれないし、失敗して大コケかもしれない(笑)。60周年記念公演と言っても、まだ続くわけですから、「当たればおもしろいけど、コケてもしょうがねぇ!」という覚悟を持ってやろうと…これ宣伝にならねぇじゃん、大丈夫?(笑)

――大丈夫です(笑)では、最後にファンに向けてのメッセージをお願いします。

劇団青年座 創立60周年記念公演『鑪-たたら』。メンツもおもしろく、本は展開が速く、目まぐるしく何が出るか分からない芝居になっています。上手くいったら相当おもしろいですから、楽しみに来てください!!

山路和弘


<山路和弘 プロフィール>
1954年6月4日生まれ。三重県出身。1977年に青年座研究所の1期生として入所。以来、舞台はもちろん、TVドラマ、映画、洋画・海外ドラマの吹き替えなどで活躍中。最近の出演作は、『灰色のカナリア』『Woo!!man』『三文オペラ』、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』(安国寺恵瓊役)、『HAWAII FIVE-0』(ダノ役)『ウルヴァリン:SAMURAI』(ウルヴァリン役)など。

<『鑪』あらすじ>
かつて鋳物の町として栄えたK市は、今は都会のベッドタウン。今西康平は親から継いだ鋳物工場を早々に手放し、今は不動産ブローカーとして暮らしている。若い頃、康平と一緒に鋳物の修行をしていた水沼鉄三は、別のところで職人を続け現代の名工として活躍していたが、息子の死をきっかけにK市に帰ってくる。同じ頃、離婚により妻に預けた康平の息子・佐伯幹生も父を頼ってやってきた。息子の扱いに困り、娘の佐伯瑞穂に事情を聴くと、幹生は職を転々とした後、どこにも就職出来なくなり、ひきこもりになったという。そんな折、斉藤賢治が経営する小さな鋳物工場は倒産の危機に瀕し、康平に売却する相談を進めていた。しかし康平の部下・高岡翔太の情報から意外な売却先が明らかになり――。

劇団青年座『鑪-たたら』
2015年3月20日(金)~29日(日)東京・青年座劇場にて上演

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