『モンティ・パイソンのSPAMALOT』福田雄一&池田成志ロングインタビュー<後編>『ちゃんとした物語を観に来るつもりでいたほうが、倍楽しめる』


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福田雄一、池田成志『モンティ・パイソンのSPAMALOT』

――稽古が始まって少し経ったと思うのですが、再演ということで初演に比べて稽古場の雰囲気などはいかがですか?

福田:ちょっと今、僕、貴水(博之)さんに注目しているんですよ(笑)

池田:まだ始まって1週間だからね。

――貴水さんは今回の再演で初キャスティングですね。

福田:そうです、初めてですね。

池田:初めてだからルール分からないし、なかなか大変なんじゃないですか? まぁ今はセリフを入れてナンボだと思ってるんで。特に福田さんの作品はセリフを覚えて自由になっておかないと、もう絶対面白くないですもん(笑)うろ覚えでやっていても“ドライブ”していかないから面白くないんですよ。ある程度は自由で好きなようにね、相手が言ってきたら適当な返しが出来るように自由になっておかないと。でもミュージカルだから制約も多いんですよね。ここのキッカケは絶対言わないといけないとか。どこまで自由になっていいのかという点が分からないから、貴水さんとか「怖いです」とか言っていて、そりゃ怖いだろうなと思うよね(笑)

福田:成志さんが言ってるような制約というか決めがあるじゃないですか。決めがちゃんと役者さん全員で入ると、ここは遊んでいいというポイントが確実に見えてくるんと思うんですよ。そこを役者さんが遊び始めると、もう貴水さんは耐えられないんでしょうね。

池田:昨日も貴水さんがセリフを言ってたら、ユースケさんって基本的にセリフが入ってようが入ってまいが自由な人なんで、貴水さんをずっと邪魔してましたよね(笑)

福田:…動きとか固まってないのにテキトーなことやり始めるんですよ(笑)

池田:俺はいいなぁと思うんだけど、貴水さんはキョトンとしますよね。「まだ、セリフありますから」って言ってましたね(笑)

福田:普通にユースケを避けて歩いてましたね(笑)

池田:今は駆け足でセリフやダンスの振り付けとかを覚え直しをしているので、もう滅茶苦茶ダッシュでやらなきゃいけないのに、みんなまだ時間があるみたいな感じなんだよね。やがて焦りだすんだけど(笑)

福田:普通の状態だったら稽古終わりまで余裕な感じのスケジュールなんですけど、成志さんがおっしゃられていた“ドライブ”が入る時期を早めたいなと思ってるんですよね。

池田:「1週間で通そう」って言ってたんですよ。そんなの無理だって(笑)

福田:ちょっと反省点もあってですね。節度ある感じで崩していきたいという狙いがあって、ここを遊びたいけど抑えることで、よりその後が面白いというのが絶対的にあるわけで。初演はそこをハメを外しすぎたなと思う所もちょっとあるんですよ。

池田:こないだ一幕の稽古をして思ったんだけど、最初はそうやっていたハズだったんだよ。でも、もう初演の思い出の中でハメ外すことが正しいというのが残っていて。例えば神様が出てくるシーンがあるんだけど。その時はハメを外していても、ちゃんとみんな騎士っぽく神様にひざまづいてたんだよね。それがさ稽古の時は忘れてて、崩しても「俺達は円卓の騎士団なんだ」って戻さないといけないなって思ったんだよね。

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福田:そのグダグダの発起点になってるのはユースケなんですよね。

池田:そうなんだよ。だから俺たちが助けなきゃいけないと思うんだよ。思いださせてあげないと。

福田:ユースケは再演をなめてると思うんですよ(笑)同じことすれば良いんでしょぐらいにしか思ってないんですよ(笑)でも急に絞めると逃げ出す人じゃないですか(笑)ちょっとずつ真綿で絞めていかないと。

池田:初演の最初の稽古では、俺たち周りがそうしてたなと思ったんですよ。

福田:役者さんがそういう空気を作っていくのと、僕もある程度ちょっとずつ言っていかないといけないなと。僕ずっと初演の時に「ユースケはボケなくていいだんよ。ちゃんと王様として偉そうにしてくれていればいいんだ」って言ってたじゃないですか。

池田:あぁ言ってた言ってた。

福田:そこが今の稽古では全然できてない(笑)完全に忘れてるんですよ。

池田:ボケるワードばっかりに向いちゃってね。

――この前の製作発表会見でもユースケさんが「体力的に無理だから降板するかもしれない」と言ってましたね(笑)

福田:そうなんですよねぇ。最初からそういう姿勢で臨んでいるんで、厳しくすると歯とかお腹がすぐ痛くなっちゃたりするんです(笑)

池田:降板したらね、この業界で生きていけませんよ(笑)

――初演時のSPAMALOTの裏話ではたびたび「体力がもたない、ツライ」と皆さんおっしゃられてますね。大変なミュージカルなんだと印象を受けるのですが。

池田:ツライのはツライです。真面目な言い方をすると、人を楽しませようと思ってやってるからね。そういうのって観てるお客さんだけじゃなく、相手の共演者がしらけた顔してるのが嫌だから(笑)まず、目の前にいる半径2メートルぐらいの人を楽しませようって必死になるんですよ。

福田:マギーとかツッコミ役じゃないですか。マギーは人がボケた時に自分が面白しろいと思って、乗っかってツッコむ時が一番面白いんですよね。成志さんがどう思ってるか分からないですけど、マギーが笑いツッコミしてる時が一番ノッてるんですよ。それを皆がやろうとするから、それはやっぱり面白いですよね。

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池田:でも、俺もそうしなきゃいけないんだと思うんだよ。だから、疲れるんだけど(笑)昨日も稽古を2、3回ずつやるじゃん。俺も一応セリフは入ってるからさ、なんとなくネタを変えるわけなんですよ。でも、通し用の気持ちじゃなくて、2、3回やるようのネタみたいな感じの具合で。マギーはマギーで全力のツッコミの体制じゃないしね。でも、「俺はギアを上げていくぜ」って感じでやらないとダメなんですよ、なぁなぁな感じになっちゃって(笑)

福田:皆川(猿時)君の時は最初から全力でしたね(笑)

池田:皆川が来た時に、「よし。これでもう置いてけぼりになる奴は置いてけぼりにするからね」という感じで。

福田:「俺も行くぜ!!」みたいに(笑)

池田:そうしておかないと、やっぱり全体の推進力が無いとギャグって全然面白くないからさ。皆川も声を枯らすんじゃないかと思ったけどね(笑)

福田:本当にノドを3日間ぐらい潰すんじゃないかと思ったんですけど。

池田:声、強いねアイツ(笑)

福田:全力で来ましたね。本当にビックリしたなぁ(笑)とにかく、成志さんと皆川君とマギーのOKが取れた時点で、再演は確実にGOだと思いました。この三人がこのミュージカルの中核を成しているのは間違いの無い事実なので。

池田:たぶん、皆川はね、50%とかはできない人間なんだよ。それじゃ何も伝わらないんだよ(笑)

――稽古の時点でそんなに飛ばしてるんですか(笑)

池田:もうアクセルを踏むか踏まないかしかない(笑)

――皆川さんもマギーさんも製作発表会見で、再演が怖くて引き受けるべきかどうか悩んだっておっしゃられてましたね。

福田:いや、本当ですよ。ムロに関しては一回、断られてますからね。本当にみんな、「うわぁ…あれをまたやらなきゃいけないのかぁ…」という感じだと思いますよ。

池田:おとといの稽古もそうだったな。ネタをどう変えようかって考えてた時に、「初演の時はこうだったからなぁ・・・」とかクヨクヨ考えてたのよ。だけど、本気出して台本に書き込みし始めて(笑)そうすると、もういいやって吹っ切れた。だからね、みんなも芝居の鮮度が落ちてるなって、それがちょっぴり怖いと思うんですよ。だけど、芝居ってさ別に変えなくていいんだよね。

福田:そう思います。

池田:鮮度があると思ってやらないといけないんだし。

福田:俺も本当にネタとか小っちゃい問題じゃないんだなと思ったのが、昨日の皆川君が演じる黒騎士を見た時に「あっこれだけで再演する意味あるな!」って。皆川君の顔だけで(笑)

池田:ネタとかじゃなくて、テンションとかそういうことなんだよね。みんな各々がキツイというのもあるんだけど、初演で出し切っちゃったから、新しいことは浮かばないやって怖さがあったと思うよね。だけど、そういう事じゃないよねというのがドライブしだすと、ノっちゃって訳が分からなくなってやってることだから。あんまり考えてこなくていいわけじゃん。入口だけ考えておけば。あとはマギーがツッコミ入れてくれるから(笑)

福田:結局、厳しい状況に置かれるのはユースケじゃないですか。成志さんのフリを受けて、どういう返しをするのかという。そこをちゃんと上手く面白くやってくれるのがユースケ・サンタマリアなんですよね。それがやっぱりこの作品の一番の醍醐味なんですよね。

池田:だから、まだ稽古中は固定せずにやっていこうと思います。どうせ福田さんは指示を出さずに言うじゃん、「僕はあれが良いと思います。好きです」って(笑)

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――話は変わりますが、私は福田さんの作品で『勇者ヨシヒコ』のシリーズが好きなんですが。あの作品にもSPAMALOTの原作『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』のオマージュが色々と見受けられますね。

池田:SPAMALOTもそれでいいんだよね。山田(孝之)君みたいなノリでいればいいんだよ。

福田:そう。山田君がいつも『勇者ヨシヒコ』の話をするときに、「あんなドラマなんだけど、自分の周りの役者はふざけていいのに、僕だけ絶対ふざけさせてもらえないのが苦しい」と。例えるなら、すごく小さい穴をずっと深く深く掘っていくという、つまらない作業をずっとさせられているというね。

池田:あれがいいんだよね。

福田:そう、それで山田君がそれに徹しているから、ちゃんと『勇者ヨシヒコ』は面白く保てているんですよ。

――『ホーリー・グレイル』のグレアム・チャップマン演じるアーサー王だけはふざけることもなく、意外と真面目に王様してましたね。

福田:そうなんですよ。チャップマンは周りのおかしな奴らに振り回されているだけなんですよ。SPAMALOTの原版もそこは同じでアーサー王がボケるということは無いんです。でもやっぱり、ユースケを雇った以上はもったないと思って、僕が足してるんですよ。別にフランスの城で、フランスの歌を唄うシーンなんてどこにも無いんですよ。やっぱりそこはユースケにやって欲しいと勝手に足してるんですよね。

――そこは日本版SPAMALOTの一つの楽しみですね。

福田:そうです。マギーが「僕はSPAMALOTのワールドツアーの中で一番面白いパッツィでありたい」と言っていたんですよ。それで、初演が終わった後にマギーがオリジナルのSPAMALOTの最初に翻訳された台本を読んだらしいですけど、パッツィのセリフが少なくてびっくりして「結局、福田さんが書き足しただけだったんだね」って(笑)いろいろなことをお客さんに伝わりやすいようにパッツィが全ての笑いを噛み砕いてお客さんに届けるって役をマギーにやって欲しくて。僕はずっとマギーとやってるから分かるんだけど、そこは彼は天才的に上手いので。マギーと「U-1グランプリ」でコントをずっとやっていて、僕は毎日全然違うことを言ってるんですよ。だけど、マギーがちゃんと受けてツッコんだ時にどっと笑いが来るということは、そこはもう天才じゃないかと。

――その才能を受けて、日本版はパッツィのセリフが足されているんですね。

福田:そうなんです。もともと日本版の台本ではパッツィのセリフは増えてるんですけどね。SPAMALOTの初演の初日に、僕は緊張しすぎて吐きそうになっていて。本番始まる5分前はまともに立っていられない状況で、マギーに「頼んだ、マギー」って言って去って行きました(笑)

――それでは最後に、観に来て下さるお客様へメッセージをお願いいたします。

福田:ミュージカルと書いてありますけど、ミュージカルというジャンルに収まらない作品です。ドリフターズの公開収録が無くなった現在、いわゆるそういうものを観る機会も無いでしょうし、そんな軽い気持ちで同じTBSの近くでやります(笑)観に来ていただければという気持ちですかね(笑)

池田:僕はちょっと誤解されるかもしれませんけど、USJとかディズニーランドとか好きなんですけど。ディズニーランドのシンデレラ城に行ったらシンデレラ城の気持ちになりますし、USJのターミネーターの案内嬢の話って何回聞いても絶対笑うんですよ。そういう気持ちでまず観て頂ければ、絶対楽しめると思うんですよ(笑)だから、一緒になって没入して下さいとしか言いようがないんですが。最初から、くだらない寄席を観に来る感じではなく、ちゃんとした物語を観に来るつもりで来ていただいた方が、上手く騙されて倍ぐらい楽しめると思います(笑)

福田:チラシもね。これから冒険活劇が繰り広げられるそうなチラシですよね。でも、大した物語じゃないんですが。

池田:大した物語じゃないってことは言い過ぎないようにしよう(笑)

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ミュージカル『モンティ・パイソンのSPAMALOT featuring SPAM(R)』は、イギリスの人気コメディ・グループ、モンティ・パイソンの大ヒット映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』を原作とした世界的大ヒット・ミュージカル『SPAMALOT』の日本版。近年最も活躍するお笑い作家として活躍中の福田雄一が企画・脚色・演出を行い、2012年1月の日本初公演では話題が話題を呼んで、東京公演千秋楽には立見客も続出した大ヒットギャグ・ミュージカル。モンティ・パイソン好きにはもちろん、そうでない人でもコメディ好きにはぜひオススメの作品だ。

ミュージカル『モンティ・パイソンのSPAMALOT featuring SPAM(R)
2015年2月16日(月)~3月1日(日)東京・赤坂ACTシアター
2015年3月6日(金)~3月8日(日)大阪・森ノ宮ピロティホール
2015年3月14日(土)~3月15日(日)福岡・福岡市民会館 大ホール

撮影:高橋将志

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