『シラノ・ド・ベルジュラック』インタビュー!章平が語る「想像力に委ねる表現のおもしろさ」


2022年2⽉7⽇(月)のプレビュー公演より、東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて『シラノ・ド・ベルジュラック』が開幕する。17世紀フランスに実在した詩人にして剣豪、勇気のあるシラノを主人公にしたエドモン・ロスタンの戯曲を、マーティン・クリンプが現代的に脚色した傑作戯曲が、谷賢一の翻訳でついに日本で上演へ――。

主演・古川雄大が演じるシラノの親友であるル・プレ役を演じる章平に、この挑戦的な作品の取り組み、日本語として上演することで見えたおもしろさなどを語ってもらった。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

『シラノ・ド・ベルジュラック』インタビュー!章平が語る「想像力に委ねる表現のおもしろさ」

劇場全体でこれを共有できたら快感だろうな

――ローレンス・オリヴィエ賞で最優秀リバイバル賞を獲ったマーティン・クリンプ版がついに日本へ!と喜ばしく思いました。

僕も、賞を獲った作品として知ってはいたのですが、実際に観たのはお話をいただいてからで。ナショナル・シアター・ライブで拝見したのですが「す、すごい・・・!」と圧倒されてしまって。お芝居はもちろん、お客さんの想像力をフルに働かせる演出に感銘を受けました。同時に、英国版があまりにも完成されていたので、これを日本でやるとなったらどうなるんだろう、それに挑戦できることへの期待感が湧き上がりました。

――17世紀フランスに実在した人物を描いた永遠の愛の物語を現代的にするとこうなるのか、という驚きがありましたよね。

俳優同士が相対して台詞を投げかけ合う芝居ではなく、お客さんの方を向いて台詞を発することで、観る側に情景を想像させる抽象的な描き方が印象的ですよね。日本版もそれを踏襲するとしたら、この作品に挑戦することで、自分としても新しい表現方法が見つかりそうだと思いました。

英国版では、途中に暗転の中で台詞を飛ばし合う時間があったんですよ。僕、それを観ている時に自分の中で想像力が一気に加速するのを感じたんです。冒頭からお客さんに想像してもらうことを徹底して作ってきているから、暗闇という視覚の情報がない中でも想像が止まらず拍車がかかる。それほどまでに引き込まれる感覚が新鮮でしたし、「なんておもしろいんだ!」と夢中になっていました。劇場全体でこれを共有できたら快感だろうなって・・・。

――どれだけの試行錯誤があって、あの完成形にたどり着いたのか気になりますよね。

僕もです。日本版に取り組んでいる今でも、英国版の成り立ちが気になっています。まず昔ながらの『シラノ~』を作って、その後に脚色版の『シラノ~』を普通の舞台のように作って、最後にあの抽象的な表現にしたのかな・・・とか。最初から対面しない演出で作っていったら表面的なことで終わってしまいそうで、きっと2、3作品分くらいの労力をかけてあの素晴らしい状態に辿り着いたんじゃないかと想像してしまいました。

英国で観た方々も、きっと「尖ってる」と思ったんじゃないかなあ。でも、作り手は思いついた時から「これはいける!」という絶対的な自信と勝算があったんじゃないかとも思いました。それぐらい、力強さとメッセージ性を感じる作品ですよね。

『シラノ・ド・ベルジュラック』インタビュー!章平が語る「想像力に委ねる表現のおもしろさ」

この作品が目指すものと、日本が古来から持つ表現には共通するものがある

――日本版は、谷賢一が翻訳と演出と手掛けられ、「言葉で戦う演劇」と表現されています。

日本語の豊かさを活かせる、日本語にすごく合う作品なんだと思います。例えば、日本には落語や講談といった、話を聞かせてお客さんに想像してもらうことで物語を共有する表現が昔からありますよね。「言葉だけで想像させる」という、この作品が目指すものって、日本の表現の中にも共通するものがあるのだと感じています。

――確かに、夏目漱石が「I LOVE YOU」を「月が綺麗ですね」と訳した逸話があるように、細かな感情の機微が乗せられるのが日本語の魅力でもありますよね。

台本を読んだ時、翻訳された谷さんも楽しんで訳されたのではと思いました。僕は、翻訳劇をやらせていただく時は必ず元の言語版も当たるんですが、今回「ここはこういう風に訳されたんだ」と照らし合わせて読み解くことがすごく楽しくて。そういう意味でも、日本語を扱っていることが誇らしくなりました。

――まさに、お客さんとの「想像力の戦い」が始まるわけですね。

本読みの段階で銀粉蝶さんが谷さんと「『シラノ~』を作るんだけど、『シラノ~』という題材を使って何を伝えたいか、それを明確に届けることが大事なんだよね」とお話されているのを聞いて、すごく腑に落ちたんです。それはどの作品でも普段から考えていることではありますが、より濃く反映される作品なんだと。

だからこそ、お客さんに食いついて観てもらえるように僕たちはがんばらなければならない。的確な表現がなかなか見つからないのですが、僕はナショナル・シアター・ライブを観た時に、すごく上質な絵本を見ているような感覚に陥ったんです。削ぎ落とし、洗練された視覚の刺激と言葉から、お客さんの中で完成している絵はきっと一人一人まったく違う。

これは僕自身のチャレンジとしているんですが、自分の中で「伝えたい」ことを「表現」としてすべてを出力せずに、お客さんの中に生まれる選択肢にゆだねて共有できたらと思っているんです。例えば、「怒り」と一口に言っても「真っ赤な怒り」と「真っ青な怒り」では違うものになりますよね。観る側にその受け取り方も楽しんでもらえるような、そんな表現ができたらと、稽古をしながら考えていました。それには、普段自分がチョイスしないような表現をしても、この作品はいいのではないかと思えて、稽古がすごく楽しかったんですよね。

――演出自体は、英国版を踏襲されているんですか?

谷さんは「いいところは踏襲していいと思う」とおっしゃっていました。それも、日本人である僕らが作って、日本でお客さんが受け取ることによって、日本版として別の形で確立するんじゃないかと。言葉のリズムも英語と日本語では違いますから、日本語ならではの言葉選びによって生まれるリズム、聞き心地によって、受け取り方も全然違うものになるんだと思います。

『シラノ・ド・ベルジュラック』インタビュー!章平が語る「想像力に委ねる表現のおもしろさ」

アプローチを変えることでひっくり返った人物造形

――章平さんが演じるル・プレ役はどんな仕上がりに?

シラノの親友であるル・プレを、英国版で演じていた方は、かなりそぎ落として表現されていたんですよね。ほかの人とは異質だけど、絶妙な距離感を保っている。僕のアプローチは、全然違うものになっていると思います。シラノ役の古川さんとは実年齢4つ違いと近いこともあって、その近い距離感でル・プレを作っていけた気がしています。

日々変わっているので、今この場で話していることと、本番でお見せしているものは全然違うかもしれないんですけど(笑)。抽象的だからこそいろんな角度から試してみたいと思っていて、稽古場でも毎日「これもありなんじゃないかな?」と、古川さんといろんなチャレンジをしてきました。根っこの感情と関係性が掴めてたから、多方面に模索することができたなと感じています。

――シラノもル・プレも、実在の人物でもありますからね。

調べたら、ル・プレはシラノと6歳の頃から一緒にいて、学校も一緒に通い、一緒に軍隊にも入っているんですよね。軍隊を辞めたあとは弁護士になって、その後は国会の議長に。めちゃくちゃインテリです。

もとの『シラノ~』を読むとそういう印象を受けるんですけど、この脚色版の中で役作りをしながら僕が思っていたのは、「この人は自分の命よりもシラノの命を優先する人間だろう」ということでした。シラノの才能に一番惚れ込んでいるし、一番認めてる。だからこそダメなところはダメだと言える。一番大事に思ってくれている人って、多分本気で怒ってくれる人なんだと思うんです。削ぎ落したからこそ、浮き彫りになった熱さみたいなものを僕は感じてきました。

――演出の谷さんとはどんなお話をされてきましたか?

僕がル・プレとしてどう立ち回っていけばいいのか掴めるまで、谷さんは静観してくださっていたんです。多くを与えないというスタンスでいてくださることが、僕にとってはとてもありがたくて。いろいろハマって自由に動けるようになってきた頃から、リクエストやディスカッションができるようになってきました。

例えば、もともとル・プレって、シラノのコンプレックスである「鼻」についてまったく触れないんですよ。僕は、親友だからそんなことは眼中にないこと、人として「お前はお前」として見ている。そういう感覚でシラノと相対しているんだろうなと考えていたんです。でもある時、兵士たちがシラノの鼻をいじるシーンに「ル・プレも参加してみようか」と谷さんからリクエストがあって。

僕の中では、ル・プレがシラノの鼻をいじらないことは、人物造形の中で大事にしていることだったので、意を決して試してみたんですけど・・・やってみたら「これもありだな」という感覚になったんです。また、その挑戦をしてみたことで、シラノのコンプレックスである鼻を「腫れ物に触れない」のではなく、「まったく気にしていない」というスタンスが生まれたんです。谷さんのリクエストによって、自分が考えていた人物造形がまったく違うものになる。それは、僕の中ですごくおもしろいことでした。この挑戦が、本番でどうなっているのかは稽古次第なのですが(笑)。

――捉え方次第で、考え方の幅が広がりますね。

演じる側としては常に役として「一本通す」ことを考えていくので、自分が考えていたことと真逆のことをやる中でも「一本通す」にはどうするのか、模索するんですよね。今回のような抽象性の高い表現の場合は、その想像ができる幅がぐんと広がるんだなあと思いました。「それもありだよな」と考えられることで、今まで思いつかなかったようなアプローチができるし、それを許容してもくれる作品の幅がある。とても有意義な稽古時間でした。

――章平さん演じるル・プレと、古川さんが演じるシラノの関係性がどう見えるのか、楽しみです。

古川さんは膨大な台詞の中を自由に泳いでいて、とてもかっこいいです。ル・プレとシラノのシーンは、毎回やる度に違うものになっていくんですよ。お互いに「これもありなんじゃないかな?正解は分からないけどね」と言いながら、二人でいろんな道を辿り、シーンを作ってきました。すごくいい雰囲気と信頼関係を持って、本番を迎えられますし、心地よい時間を一緒に過ごさせていただいています。

『シラノ・ド・ベルジュラック』インタビュー!章平が語る「想像力に委ねる表現のおもしろさ」

つかこうへい作品を観た時の感覚に近いものを感じた

――もう一つ、大きな特徴として本作ではRAPを表現の一つとして取り入れていますよね。

YO!YO!YO!と入ってきますから、びっくりしますよね。伝える手段として、音楽のあり方も多岐に渡るんだなあと。最初、RAPというと『ハミルトン』とか『イン・ザ・ハイツ』のようなイメージをしていたのですが、バックに音楽が流れて、ビートが刻まれているところに、言葉をはめていく。それも一つの歌のあり方であり、言葉を伝える手段の一つだなと、この作品に触れて初めて感じました。表現って、無限の可能性がありますね。演劇って壮大だと改めて思わされました。

――観る側も想像する余地を持っていると、より豊かな時間になりそうですね。

僕、客観的にこの作品を観た時に、つかこうへいさんの作品を観た時の感覚に近いなって思ったんです。言葉に圧倒されて、言葉だけで保管できるからいろんなことへと想像が広がっていく。あの想像力の食いつき方は、近いものがあると思います。

――確かに、つかさんのお芝居はジャージで、今回の『シラノ~』の衣裳も現代的なものを採用していますから、通じるものがあるのかも。

衣裳については、僕が演じるル・プレは衣裳案が決まるまで2、3回衣裳合わせをやったんですよ。さきほどお話したように、ル・プレの人物像には「インテリ」とか、「熱血」とか、いろんな捉え方があって幅が生まれたので、衣裳にもいろんな選択肢が出てきて。

ナショナル・シアター・ライブではプロデューサー風の格好をしていましたが、今回は僕の身体の大きさを活かしていただく感じで、1パターン目はオーバーオールをストリート風にアレンジしたスタイル、2パターン目はつなぎにGジャンを羽織るスタイルが提案されていたんです。本番ではそのどちらでもない感じになっていると思うんですけど。役の作り方、提示の仕方によって、人の印象ってすごく変わるんだなあと衣裳合わせからも感じることができました。

――視覚的な面でも、想像力を刺激されますね。

想像をフル回転するラインと、想像をやめてしまうラインって、紙一重だと思うんです。衣裳もそうですし、表現全体としてそこにチャレンジした作品ですので、本当に劇場でしか味わえないものがそこに生まれるんだろうと思います。

最近、『天保十二年のシェイクスピア』がコロナで公演中断してしまう時に、高橋一生さんがお客さんの前で「僕は、劇場はお客さんと想像力を共有する場だと思ってます」と言っていたのをしきりに思い出すんです。これは、まさにそれを体現している舞台。もちろんほかの作品もそうなんですが、より“想像する”ことにフォーカスした作品だなと思います。想像に間違いなんてないので、観てくださる方には、自分の中に生まれるその世界観を楽しんでいただきたいですね。それが許される作品であり、劇場という場なんだと思います。

――今、少し想像力が乏しくなっている気がする時代ですが、言葉がどう伝わるのか、想像筋が刺激されまくりそうです。

僕も職業柄、自分の想像筋を鍛錬していきたいと思っているんです。今、人を楽しませるものが溢れていて、視覚化されているものがいっぱいありますよね。それはとてもいいこと。でも、提示されたもの、自分が信じているものに対して「本当にそれでいいのかな」「違う道もあるんじゃないかな」と考え、いろんな選択肢を持っていくことがすごく大事になってくると思うんです。

――言葉で「戦う」というと少々物騒ですが、言葉を武器に、想像力を盾にしていけたら、人生豊かになりますね。

それが体験できるものの一つが演劇であり、この作品なんだと思います。演劇では、悪いことも客観的に観られます。作品の中で起こったことに対して、いろんな想像を巡らせて、自分なりの解釈をしていく。想像を共有するということは、人間がにしかできないことだと思うので、それを存分に活かすことができるこの作品を、存分に楽しんでくださる人がどんどんどんどん増えていくといいなと思います。

 

『シラノ・ド・ベルジュラック』公演情報

【東京公演】2022年2⽉7⽇(月)~2⽉20⽇(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
※2⽉7⽇(月)はプレビュー公演
【大阪公演】2022年2月25日(金)~2月27日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホール

スタッフ・キャスト

【作】エドモン・ロスタン
【脚色】マーティン・クリンプ
【翻訳・演出】谷賢一

【出演】
シラノ・ド・ベルジュラック:古川雄大
ロクサーヌ:馬場ふみか
クリスチャン:浜中文一
リニエール:大鶴佐助
ル・プレ:章平
ド・ギーシュ:堀部圭亮
マダム・ラグノ:銀粉蝶

秋葉陽司 植田順平 函波窓 西山聖了 花戸祐介 福原冠 ホリユウキ 村岡哲至

【公式サイト】https://www.cyrano.jp/



チケットぴあ
『シラノ・ド・ベルジュラック』インタビュー!章平が語る「想像力に委ねる表現のおもしろさ」
最新情報をチェックしよう!
テキストのコピーはできません。