不条理劇?いやいや、「これはコメディでは?」TAAC『ダム・ウェイター』大野瑞生×横田龍儀インタビュー


2021年11月3日(水)から11月10日(水)まで東京・すみだパークシアター倉にて、TAAC(ターク)第6弾公演『ダム・ウェイター』が上演される。TAACは、タカイアキフミが主宰するソロプロデュースユニット。今回は、不条理劇の大家と言われるハロルド・ピンター作品に、大野瑞生と横田龍儀の二人を招いて取り組んでいる。

不条理劇・・・というと、一見とっつきにくいと思う方もいるかもしれない。しかし、共に27歳の若者二人は、柔軟な感性で「イヤコメ(観たあとにイヤな気持ちになるかもしれないコメディ)」と読み解いていた。プライベートでもとても仲の良い二人が、真正面からどっぷり演劇に取り組んでいる様子を聞いた。

「するべき」ではなくて「こういう考え方もあるんだ」

――ハロルド・ピンターと言えば、不条理劇の大家として知られていますが、今、取り組んでみてどう感じていらっしゃいますか?

横田:正直、この作品をやると決まった時はすごく不安だったんです。でも、実際に稽古が始まって演じてみると、台本を読んでいた時より分かることがすごく増えたんですよ。「不条理劇ってすごく難しそうだな」と思っていたイメージが相当変わってきました。

大野:僕も、台本を初めて読んだ時は難しいと思ったんですけど、お話としてはものすごく惹きつけられました。作品の持つ魅力をちゃんと僕らの肉体を通して表現できた時は、すごく面白くなるんだろうなって。稽古が進むにつれて、シンプルに見えてくることも多くなっていて、今(稽古1週間あたり)で、目で読んでいた時の6倍くらい面白い!って感じてます。

――不条理劇って、文字を目で追うのと、演劇として目の前で起こることとして観るのとで、全然入って来る感覚が違いますよね。

横田:そうなんですよ。もはや「これはコメディでは?」って思いますもん。

大野:そう!分かる(笑)。

横田:この『ダム・ウェイター』は、ある地下室で仕事の司令を待っている殺し屋のベンとガスが、料理昇降機(ダム・ウェイター)が運んでくる見えない権力者の指示に翻弄されていく物語なんですが、「どっちの生き方をするべきなのか」って考えちゃいます。でも、現代では多様性が叫ばれているじゃないですか。だから、「するべき」ではなくて「こういう考え方もあるんだ」って、まず気づくことが大事なんだよなあって。

大野:二人の登場人物は対局的なんだけど、どちらも必死にしゃべっているんだよね。どちらも世間的には問題点があるように見える人間なんだけど、きっと、観ているうちに二人のことを好きになってもらえるんじゃないかなって思います。

横田:とにかくかわいいんだよね、この二人。

大野:うん。自分と違う考え方に対して「面白いな」って思ったり、違う考えを持つ人に対して「かわいいな」とか、「愛おしいな」とか、観てくださる方がそういう感じ方をしてくれたらいいよね。

二人芝居、役のスイッチング・・・逃げ場のない面白さ

――今回、お二人は初めて二人芝居に挑戦されるとお聞きしました。やっていて、いかがですか?

横田:いろいろと深い話し合いが出来たり、こういう風に演じるんだってじっくり見れるのも楽しいですし、学びもたくさんあるなと感じていますね。

大野:本当にありがたい環境だよね。演出のタカイさんも僕らの考えを受け入れてくださるので、すごく建設的に、ずっと積み上げられている気がします。

横田:あと、二人芝居は逃げ場がないよね(笑)。

大野:あはは、確かにそうだね(笑)。

横田:本番で何かあったら全力で支え合わねばと思いますし、そのスリルも楽しいのかも。決め込んでやるというよりも、相手の芝居を受けてどうするか、なので、稽古中も絶対同じようにはならないんですよ。だから、何回も観てくださる方は「今日はこういう風にやったんだな」とか、「あの台詞、この前は叫んでたのに今日は叫んでない」とか、毎回違う面白さを感じていただけるんじゃないかなと思いますね。

大野:本当にそうだね。毎回、何も逃さないように必死だから・・・今、改めて逃げ場がないんだなあって思った(笑)。

横田:そうだよ、途中でトイレに行きたくなっても行けないよ(笑)。

――(笑)。しかも、今回はお二人が二つの役を回替わりでスイッチングするんですよね。

横田:役を入れ替えると、お互いの解釈の違いがよく分かるし、気づきも多いです。でも、めちゃめちゃ難しい。正直、あれ?今どっちだ?ってなっちゃう時もある(笑)。でも、同じ人間が、中身の違いでこうも違って見えるのかというのを、毎日目の当たりにできるのは本当に楽しいです。

大野:序盤はそれぞれの役作りというよりも、可能性を広げていく時間として取り組んできたんですよ。それから、1日ごとに役を固定してやっているんです。でも、本番は昼公演と夜公演で役が変わる日もあるから、何か自分の中で切り替える方法を作らなきゃいけないなって思ってます。役を作り込んでいくことで、自分の中の切替はもうちょっとはっきりしてきそうです。

27歳の今だから、ハマるものがある

――お二人は、ベンとガス、二人の登場人物をどう捉えていますか?

横田:ベンは「忠実」なんですけど、それも一つの個性で悪いことではないなって思います。でも、ベン自身はそこに不満を感じていたりする。その不満を外に出さないように、出さないように・・・って生きてるけど出ちゃう(笑)。素直になれないものなんだなと思うのと同時に、人間味がすごく溢れているなあって思います。

ガスは、ちゃんと考えを言葉にする男なんですが、自分の意見を言うのって、実は怖いことじゃないですか。否定されるのも怖いですし、間違っていたらどうしようという恥ずかしさがある時もある。でも、ガスはそれを素直に言える。強いなって思うし、そういうところが魅力的に映ります。

大野:権力に忠実なベンは、忠実にいようとしすぎて、何か予想外のことが起きた時の反応にすごく素が出ているんですよね。本当に忠実なのではなく“忠実に生きる”ことを選んでるだけ。だから、その素が見えた時に「面白い!」ってすごく感じるんだと思います。相手の言葉に右往左往したり、プライドをちょっと壊されたり、そういう時にちょっとだけ垣間見える素、繕っているからこそ見える素。それが本当にかわいいんです。

ガスはいろんなものに「それはどうなんだろう?」って疑問を持つし、だからこそ、意外と図星なことも聞いちゃう。そこがかわいい(笑)。二人は人として一番合わない人間なのかもしれないけど、作品上では一番合う二人なんだなと思います。人間って、本当にかわいい生き物ですね。

――この戯曲、日本ではこれまでお二人より上の年代の俳優さんが演じられることが多かったですよね(※本作は過去に堤真一&村上淳、浅野和之&高橋克実、伊礼彼方&河内大和といった組み合わせで上演されている)。

横田:確かに、そうかもしれない。

大野:今、僕らは27歳なわけですが、この年齢って環境が変わってくる年齢だなあと思ったんですよね。特別、周囲が変わるという意味ではなく、環境の“見え方”が変わるから、世界が変わったように見えるのかもしれない。今までやってきたことに疑問を感じたり、やりたいこととやれないことがはっきり見えてきたり。自分の仕事で言うと、「こういう俳優になりたいのに」というジレンマに直面することもありますし。皆さんも、キャリアをある程度重ねると、仕事に対しての見え方も変わってくる経験があるんじゃないかと思うんですよね。

だから、今の僕たちが演じることによって、ダイレクトに投影できるものがあると思うんです。きっと40代とかになってから演じるのと見え方が違うものになるし、やっていて、いい意味で“ハマった”ものになるんじゃないかなという自信は芽生えました。

横田:今、たくさん一緒に考えることができるし、芝居にどっぷりと向き合える時間をもらえているなと思うんです。今まで自分の足りなかったところを指摘してもらえたり、自分で発見できたり、勉強になることがたくさんあって。そういう僕たちがやるからこそ、自分の感情だけでやるのではなく、お客さんにちゃんと“伝える”ものにできるんじゃないかなと思っています。

大野:本を読んだ時に感じた「難しさ」を、「難しい」ままやるのも一つの正解だと思うんです。でも、今回はお客さんにもちゃんと分かってもらいたいなという気持ちがあります。難しかっただけの感想で帰ってほしくない、という気持ちを込めて取り組んでいます。

横田:分かりやすくすることを意識するけれど、その表現が嘘にならないようにするにはどうするか、すごく考えていますね。ちゃんと感情がついてこないとそれは嘘になってしまいますし、自分自身としても嘘にしたくないですから。今の僕らから素直に出てきたものを、膨らませていくことが、今回これを僕らがやる意味なんじゃないかなって思います。

自分の一番大切なものを見せるのは、心を渡すようなものだから――

――もともと仲良しのお二人が演じるからこそ、にじみ出てくるものもあると思うのですが、お二人がここまで仲良くなったきっかけは何だったんですか?

横田:きっかけは、変なダンスです(笑)。

大野:(笑)!

――変なダンスというのは・・・?

大野:初めて共演した時、たまたま僕が変なダンスを踊っていたんです・・・。そしたら突然、龍儀がそれを真似して踊りだしたんですよ。当時はほとんどしゃべったこともない間柄だったのに(笑)。

横田:しかも、それがルーティン化しちゃってたんだよね。それ踊らないと本番が不安になるぐらいね(笑)。まあ、最初のきっかけはそんなふざけたことだったんですけど、公演が終わったあととかも当時は一緒にごはんに行けたりしていたので、よく行くようになって。瑞生はいろんなことを知っているので、話していて本当に勉強になることばかりなんです。気づいたら、ごはんに行くたびにお芝居の話しかしないというぐらいの仲になっていました。

――全然接点のなかった横田さんから、突然ダンスでアプローチされた時、大野さんはどう思われたんですか?

横田:そうだ、実際どうだったの?いきなり気持ち悪かったよね(笑)。

大野:気持ち悪いけど、気持ち悪いって言える関係でもなかったでしょ。気持ち悪いって言えるのも、ある程度仲がいい相手じゃないと。楽しむしかないじゃない(笑)。

横田:(爆笑)!!

――(笑)。波長が合ったんですね。

横田:ある時、瑞生が一冊の本を貸してくれたんですよ。正直に言うと、僕はあまり本を読むのは得意な方じゃないんですけど、瑞生と話してから読むとまた違った発見があって、面白くてすぐ読んじゃって、即感想を送ったんですよね。そうしたら、「こういう映画もあるよ」「これ観た方がいいよ」っていろいろ教えてくれるようになって、いろんな話ができるようになりました。

大野:その本、僕が俳優としてすごく大事に思っている方からいただいたもので、俳優が存在する意味のようなものを描いた戯曲だったんです。それを、龍儀は分かってくれるだろうかって・・・。それを読んでくれるかどうかって、僕の中ではすごく大きなことだったんですよ。自分の一番大切なものを見せるって、心を渡すようなものじゃないですか。

龍儀は「なかなか読めないと思う」って言っていたんですけど、渡してすぐ、その日のうちに「読んだよ」って感想を送ってくれて。その時、龍儀の存在が自分の中で大きく変わりました。

――そんなお二人だからこその空気感が作品にどう作用するのか、楽しみです。

横田:自分が観る側だったら、このタイトル難しいかなって構えちゃうと思うんです。僕自身も、Twitterとかで難しい!って言っちゃってたし(笑)。でも、実際に稽古に入ってみたら、自分が感じたものを素直に出せばいいんだ、それが面白いんだって僕が思ったように、観る方も、素直に受け取ってもらえたらいいなって思います。

大野:僕、この作品をどう紹介したらいいだろう?っていろいろ考えたんですけど、きれいに当てはまる言葉がなくて。一番近いなと思ったのが、小説で言う「イヤミス」ってジャンルができたじゃないですか。読後、イヤな気持ちになるミステリー。これは、ミステリーではなくて「イヤコメ」じゃないかと。観たあとに、ちょっとイヤな感じが残るかもしれないコメディ、だと僕は思います(笑)。

演出のタカイさんは、上演する劇場の空気を大事にされている作風をお持ちなので、劇場の中で見たいところを観て、想像を膨らませて、たくさん笑って、龍儀も言ったように素直に受け止めたものを一人で考えたり誰かと共有したりしてもらえたら、僕らが狙ってるとおりになるんじゃないかなって思っています!

横田:イヤコメ、いいね(笑)。目の前で起こっているのが、演劇の最大の魅力だから。それこそ、今回上演するすみだパークシアター倉は、客席から僕らを見下ろすような感じで観てもらう作りになっているので、まさに「ダム・ウェイター」なんです。

こういうご時世なので、劇場まで来づらい方もいらっしゃると思うんですが、足を運んでよかったなって思ってもらえるように僕たちも試行錯誤していくし。何より、劇場に行くと心が豊かになりますよね。僕も最近特にそう感じているので、皆さんにもそう思ってもらえたらいいです。

TAAC『ダム・ウェイター』公演情報

上演スケジュール

2021年11月3日(水)~11月10日(水) すみだパークシアター倉

スタッフ・キャスト

【作】ハロルド・ピンター
【訳】喜志哲雄
【演出】タカイアキフミ

【出演】
大野瑞生 横田龍儀

【チケット取扱】
ローチケ:https://l-tike.com/taac_06/
Lコード:33799
※ローソン店内端末Loppi直接購入可能

Confetti(カンフェティ):https://confetti-web.com/taac_06/



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