ミュージカル『HOPE』で初演出の新納慎也にインタビュー!演出卓に座って見えた景色


本多劇場で上演されるミュージカル『HOPE』にて、俳優の新納慎也が演出家デビューを果たす。本作は、ベストセラー作家が残した原稿の所有権をめぐって、イスラエルで長きに渡り行われた実際の裁判をモチーフとした法廷劇。新納は、本作の上演を自ら決め、自ら上演台本・訳詞も手掛けた。

本作のどこに惹かれたのか?座組の作り方から、演出卓に座ることによって感じた稽古場の景色の変化など、率直に語ってもらった。

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コロナ禍で考えたアイデンティティのあり方

――新納さんにとって初の演出作品となりますが、手応えはいかがですか?

海外戯曲の日本初演の時って、ゲネプロで初めて通せたというようなケースが多々あるんですが、今回は何度も通し稽古ができていて、状態としては早めに仕上がっていました。いい状態で本番を迎えられたと思います。

――いくつか作品の候補がある中で、この『HOPE』を選ばれたそうですが、新納さんはこの作品のどんなところに惹かれたのでしょうか?

コロナ禍にあった、というのが一番大きかったかもしれないです。コロナ禍で、僕たちは人生について考えなきゃいけない、生き方を変えなければいけない、そんな機会を与えられました。この『HOPE』という作品は、ホープがずっと大事に持っていた原稿の所有権をめぐる裁判のお話なんですが、「手放すのか」「手放さないのか」ということを通して、一種のアイデンティティが問われています。

仕事や家族、恋人・・・人って、実にいろんなものに囚われているんですよね。囚われていることは、アイデンティティでもあり、呪縛でもあり。自分にとってそれは何かと考えた時に、それは「新納慎也である」ということだなと思いました。僕は、「新納慎也である」ということにアイデンティティを感じており、同時に囚われてもいる。それを手放すってどういうことだろう?と考えてみたんです。そうしたら、意外にも素敵な未来を想像できたんです。楽しい、自由なんだって。

「生きる」上でそういうことを考えてみることが、この作品にとって一つのテーマだったりするので、コロナ禍で多くの人がいろんなことを考えた今、やる意味のある作品だなと思って選びました。

――今回、初の演出だけでなく、上演台本・訳詞も手掛けられましたよね。

僕自身が、俳優として「言葉」を大事にしているんですね。今回、この『HOPE』という作品を選んで上演したいとなった時に、「言葉」も自分でチョイスして組み立てていけたら、一番俳優さんに伝えやすいなと思ったんです。だから、経験があったわけではなかったんですが、挑戦の意味でも「自分がやります!」と言いました。

――新納さんらしい、責任感を感じるお考えです。

責任はすごく感じました。でも、稽古場であちゃ~!ってなることもしばしば(笑)。

想像を超え、心を動かす俳優の力

――実際に俳優さんの身体を通すと分かることが多いということでもありますね。俳優さんたちが演じるのを見て、新納さんの考えた「言葉」の力はより膨らみましたか?

稽古初日の段階ですでに僕の頭の中には出来上がっていた『HOPE』があったんですが、皆さん、それを一瞬にして超えてきました。読み合わせなのでただ読んでいるだけだったんですが、一瞬でバーン!と心を動かしてくれたので、やっぱり俳優さんの力ってすごいなあと思いましたね。

――ちなみに、ご自身も出演するという選択肢は持っていらっしゃらなかったんですか?

10年くらい前から「出演だけではなく演出もやってみませんか」と声をかけていただくことがあったんですが、僕は、現段階では“自分が演出する作品に自分は出ない”スタイルを取りたいなと思っていたので、お断りしていたんです。今回は演出のみのご依頼だったのでありがたくお受けしたので、自分も出るという選択肢はなかったです。

――出演者の方々はどのように選ばれたのでしょう?

ほぼオファーさせていただいたんですが、K役の二人だけは、ある程度決め込んだ中ですがオーディションをさせていただきました。

――永田崇人さんと小林亮太さんを選ばれた決め手は?

崇人に関しては、こちらから「オーディションを受けてもらえませんか?」と投げかけて来てもらいました。実は、崇人の事務所のチーフマネージャーさんが、以前、僕を10年以上担当してくれていた人なんです(笑)。ということもあり、「新納が初めて演出するならぜひ!」と参加しに来てくれました。

オーディションは、結構一人に時間をかけるワークショップみたいなやり方をしたんです。歌ってもらったり、台詞を読んでもらったり、エチュードをやってもらったり、ゲームみたいなことをやってみたり。いろいろやってもらったんですが、その中で垣間見えた崇人の心根みたいなものがとても良くて。こういう心を持った人じゃないとKはできないと思って、選ばせていただきました。

亮太とは、運命的で。この話の前に、プライベートでちらっと挨拶をしたことがあるだけだったんですが、K役を探しているタイミングで、たまたま別作品の稽古をしている時に、稽古場で再会したんです。その時に「この子、めっちゃKっぽいな」ってピンときて。ちょうどマネージャーさんも一緒にいたから「スケジュール空いてる?」「歌える?」って聞いて。とにかくオーディションに来てもらったんです。そうしたら、オーディション会場に入ってきた瞬間「Kが入ってきた!」と思える感じだったので、スタッフみんなで惚れ込んでお願いすることになりました。

――Wキャストで、物語の見え方は変わったりしますか?

そうですね、だいぶ違うと思いますよ。二人にも、どちらかにダメ出しをする時には「ちょっと耳塞いでおいて」って言うぐらい、全然違うことを言っているし。全然違うKを作っているつもりはないんですが、やっぱりそれぞれの俳優が持つ良さをできるだけ活かしたいと思っているので、おのずとアドバイスすることも違ってくるんです。それによって、おのずと最終的な見え方も違ってくる、という感じですね。

――そして、初のミュージカル出演となる高橋さんを抜擢されたのは?

HOPEを演じられる女優さんは、一定の年齢を超えていなければいけません。つまり、それだけ人生を重ねてきた重みのある人じゃなければいけなないし、哀しみと強さと生きるエネルギー、そして人間としての美しさを持っている人でなければ、この役は生きられない。

そういう意味で、ミュージカル経験があるなしにこだわらず、高橋惠子さんにとお願いしました。惠子さんは、今でもどんどん新しいことをやってみたい、チャレンジしてみたいという、すごく前向きな方で。そういうところもホープっぽいなと思ったんですよね。

――そういう姿勢、とても憧れます。

この作品、とても女性が美しく見える作品でもあるんです。実は、3人の女性キャストさんがメイクも衣裳も一番貧相な状態で舞台に立たされるんですよ。でも、それでもとてもとても美しく見えて。表面的ではない、人としての美しさが際立つ。人間って愚かだけれど、とても美しくて、愛おしいものなんだということを、僕は稽古場で日々感じています。

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演出卓に座っていると、稽古場の中で動く感情のすべてが手に取るように分かる

――キャストさんもスタッフさんも、新納さんが今まで積み上げた中で感じたことが色濃く反映されているように感じました。

スタッフさんに関しては、初演出なので、とにかくいっぱい味方をつけようと思って(笑)。いろんなミュージカルがあって、みんな好みがありますよね。僕の好みと、センスが合うなと思う方たちにお願いしました。

俳優さんに関しては、本多劇場でやるということも含めて、ミュージカルに長けているよりも、本多劇場で、そこにいるお客さんに向けて感情を飛ばせる人かどうかということに重きを置きましたね。

――本多劇場でミュージカル、というのもいいですよね。

僕は『リトルショップ・オブ・ホラーズ』という作品で、本多劇場でミュージカルを経験したんですけど、実は本多劇場でミュージカルをやるのって非常に良くて、とってもオフ・ブロードウェイっぽさが出るんですよね。

この『HOPE』は、まさしく大劇場でやる作品でもなく、客席まで感情を手に取るように伝えて観ている方々にヒリヒリしてほしい作品なので、とてもいい空間でやらせていただけるなと思っています。

――演出を経験して、稽古場の景色は変わって見えますか?

すっごく変わりました。今まで、演出家って人の心を見抜く特殊能力があるんだって思っていたんです。僕にはそんな特殊能力はないんですが、演出卓に座ると、それが手に取るように分かるんです。

僕も、今まで演出家の人から「昨日の方が良かったけど、なんで今日はそれができないの?」とか、「今、君はこの人のこと愛していないでしょう?」とか、いろんなダメ出しをされてきました。言われて初めて「なるほど!」と気づけていたことが、演出卓に座っていると、稽古場の中で動く感情のすべてが、手に取るように分かる。それは、作品への取り組み方がだいぶ違ったから見えてきたのかなと思います。そういう意味で、俳優としても演出を経験することでいっぱい勉強させていただいていますね。

――今後の新納さんご自身にも影響がありそうですか?

たぶん今、自分が一番それを楽しみにしているかもしれない(笑)。この経験を経て次に自分が舞台に立った時に、自分はどれぐらい変わっているんだろう?って。役作りへのアプローチも違ってくるんだろうなあとか、それぐらい、すごい経験ができているぞって思っています。

――新納さんの初演出、楽しみにしております。

95%は、ヒリヒリ心が傷んでくるし、観ていて苦しいと思うんです。でも、ほんのちょっとの光に心がとても浄化されるので。この経験は、劇場で没入するからこそ感じられる、物語の人物たちと同じ空気を吸うからこそ感じられるものだと思います。本多劇場はぎゅっと近くに感じられる劇場でもあるので、そういう意味でも没入しに本多劇場へ来ていただきたいですね。

Musical『HOPE』公演情報

Book & Lyrics by Kang, Nam Composer & Arrangement by Kim, Hyo-Eun
Original Production by R&D Works

上演スケジュール

2021年10月1日(水)~10月17日(日)
下北沢本多劇場

キャスト・スタッフ

【出演】
高橋惠子 永田崇人・小林亮太(Wキャスト)/清水くるみ 白羽ゆり/
中山昇 縄田晋 染谷洸太 木暮真一郎/上山竜治/大沢健

【上演台本・訳詞・演出】新納慎也
【振付】木下菜津子
【音楽監督】落合崇史

公式サイト:https://www.musical-hope.com
公式Twitter:@MusicalHOPE2021



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