有澤樟太郎が挑む二人芝居『息子の証明』インタビュー「この作品は僕のターニングポイントになる」


2021年8月25日(水)から8月29日(日)まで、東京・博品館劇場 で上演される舞台『息子の証明』に出演する有澤樟太郎。ミュージカル『刀剣乱舞』和泉守兼定役やミュージカル『17 AGAIN』スタン役など、活躍の幅を広げている彼が、次に挑むのは女優・山下容莉枝との二人芝居。

完全オリジナルの脚本による“母と息子”の物語は、デジタルによって容易につながる現在だからこそ「家族をつなぐのはなにか?」を観る者に問いかける作品となっている。今までとはタイプの違う作品、そして初めて経験する二人芝居――。新境地に挑む有澤に、本作にかける意気込みを聞いた。

(取材・文・撮影/近藤明子)

母と息子の物語は、挑戦したいテーマだった

――最初に、有澤さんがこの二人芝居に出演するきっかけからお話を伺えますか?

とある作品の打ち合わせ中、プロデューサーさんに「有澤くんは一人芝居に興味ある?」と聞かれて、「一人芝居は自分にはまだちょっとハードルが高いけれど、二人芝居ならやってみたいなと思います」みたいな話をしたことがあったんですね。その後、しばらくして今回のお話をいただいて「本当に実現した!」と驚きました。

今まで朗読劇でキャスト二人というのはありましたが、ストレートプレイの二人芝居は今回が初めてです。今の自分にとってハードルが高い舞台になるだろうという覚悟はしていますが、初めての経験に対するワクワク感も感じています。

――発表された時、「有澤さん、こういう作品にも出るんだ!」と新鮮な驚きがありました。ちなみに有澤さんが当初イメージしていた二人芝居とは、どんなものだったんでしょう?

特にイメージはなかったんですが、この1年はコロナの影響もあって「今後は少人数の舞台の需要が増えるんだろうな」と漠然と考えていたんです。家族の絆を描く作品・・・同世代の役者との兄弟の絆を描く物語もいいけれど、母と息子の物語というのは僕自身の中でもすごくしっくり来たし、自分でも挑戦したいと思うテーマでした。

――今回の脚本を読んだ印象は?

率直に“いい話”だなと思いましたし、そのいい話の中に“ひねくれた要素”も入っていて、演劇的な面白さが詰まったシーンもふんだんにあるなと。何より、登場する母親と息子が強烈な個性を放っているのが読んでいて楽しいなと思いました。

――有澤さんが演じる来栖現実(リアル)は、女優・来栖小梅を母にもつ青年。とある理由から母とは疎遠になり、10年ぶりに仕事を依頼するために実家を訪れるシーンから物語が始まります。細かいことにこだわる現実(リアル)に対し、実際の有澤さんはのんびりしたタイプという印象なのですが、ご自身と役の共通点はありますか?

確かに僕は細かいことにはこだわらない性格だけど、気にしいではあるので、リアルくんのことは理解できます。台本には「言えない人の気持ちを、もっとわかった方がいいよ」というニュアンスの台詞が出て来るんですけど、その言葉は「あ~、わかる!」って心に刺さりましたし、リアルというキャラクターを象徴する言葉だと思っています。

――でも、母親の立場としては「言ってくれなきゃわからない」んですよね。

あはは!そうですよね。僕も他人に対して言いたいことを言えないタイプですけど、家族には気持ちをぶつけてしまうこともあります。そんな僕のワガママも母は全部受け止めてくれたし、大人になった今は母の気持ちも少しはわかりますけど・・・。でも親子ならではの甘えというか「言わなくてもわかるでしょ?」みたいなところは、やっぱりあるんですよね。

――母親役を演じる山下容莉枝さんの印象を伺えますか?

山下さんとは今回が初共演で、包容力と優しさにあふれた素敵な女性だなというのが第一印象でした。数々のドラマや映画にも出演されている素晴らしい役者さんと一緒にお芝居が出来るなんて、本当に幸せだなと思います。ガッカリされないようにがんばらなければと気持ちが引き締まりましたね。

――稽古はどんな雰囲気なのでしょう?普段は優しい山下さんも、お芝居に入ると厳しかったりしますか?

そんなことないですよ。山下さん、しゃべり方がすごくおっとりしていて「あら~、そうなの?」みたいな優しい口調で、すごくホワホワした感じなんです。だからこそペースに飲まれちゃいますね(笑)。今回は厳しい母親の役を演じられますが、「あ、スイッチ入ったな」と周囲を緊張させることなくスッと役に入られるし、山下さん本来の芯の強さみたいなのが自然と役にも出ている気がします。

――お互いの役について意見を交換することもありますか?

はい。山下さんから「自分はこう思っている」とお話しいただけたり、僕の話を「うんうん」って深く頷きながら聞いてくださるんです。二人芝居は通常の舞台よりも密に意思の疎通をはかることが大事だと思うので、遠慮せずにたくさん相談したいなって思います。

――ところで、有澤さん自身は“どんな息子”ですか?

どうですかね・・・僕、弟がいるんですけど、弟とは真逆なんですよ。弟は天真爛漫タイプで、僕はどちらかというと自分から積極的にいけない大人しいタイプ。昔から人見知りだったので、遊びに行く時は母も一緒に付いて来て「ねぇねぇ、一緒にドッチボール入れてあげてよ」って声をかけてくれて・・・。母がいないと何もできない子でしたね。逆に弟は一人でどっか行っちゃう目が離せない子でした。

――お母さんとの思い出で特に印象的だったことは何でますか?

僕、上京して8年になるんですけど、東京に引っ越した時、母が生活に必要なものを買いそろえるなど手伝ってくれたんです。いざ地元に帰る時に空港で僕が号泣して、それを見て母も泣いちゃって。弟は僕と母の顔を交互に見て「何で泣いてるの?」みたいな感じだったんですけど(笑)。

母が泣いている姿ってほとんど見たことがないので、その時の事は特に印象に残っていますね。その後も僕が出演する舞台を観るために度々上京してくれるんですけど、ふとした瞬間に「なんか歳取ったな」って感じて切なくなっちゃう。親が年取ったって感じる時って一番切ないですね。

最近は父も白髪が増えて「もっと若作りしてくれよ」って思います(笑)。父のことは大好きだし尊敬もしていて、昔から何でも好きなことをやらせてくれるんですよ。父に会うと子どもに戻れますね。

――有澤さんはお母さんや弟さんのことはよくラジオとかで話していますが、お父さんのことを話すのは珍しいですね。

僕、あまり父のことをしゃべらないから、裏でめちゃめちゃ嫉妬しているらしいです。「なんで俺の事を言ってくれないのかな」って言ってたって母から聞きました(笑)。

――それこそ「お父さん、直接言ってくれないとわからないよ!」じゃないですか?

あはは!本当ですね。

ジャンルにこだわらず、様々な役にチャレンジしたい

――稽古の話に戻りますが、どのような役にしようと考えていますか?

リアルくんは“仕事”で実家を訪れたものの、話しているうちにどうしても息子の部分が出て来てしまって、言い争いたくないのに本音がポロッと出てしまう。それをお母さんがいちいち拾って喧嘩になっちゃうんですよね。本題からどんどんズレて追い込まれてしまう素直になれない“ちょっと優柔不断な男”が表現できたらいいなと思っています。いざという時にウジウジしちゃうところとか、言わなくていい余計な一言を言っちゃうところとかは自分にも思い当たるし共感できるところですね(笑)。

――親子の絆がテーマと聞いてシリアスなストーリーを想像していのですが、笑える要素が多くて面白い作品になりそうですね。

でも、その笑えるシーンが難しくて・・・。稽古中に楽しくなって“目的”を見失っちゃいそうになることがあるので、そこは楽しみながらもぶれることなくしっかり演じたいですね。リアルくんが子供の頃にかわいがっていたぬいぐるみを使って腹話術でお母さんと会話するシーンは、「この台詞は、どういう気持ちで言ってるんだろう?」と思いながら、いろいろ模索しています。自分の想いをちょっとふざけて言うことによって「本当はこう思っているんだよ」って伝える面倒くさいヤツ、いるじゃないですか。まぁ僕の弟がそうなんですけど。

――身近に(笑)。

母が本気で怒っているのに、弟は素直に「ごめん」が言えなくて、わざと母の部屋に下着を脱ぎ捨てるって聞いて「なんでわざわざそんな嫌なことするの?」と思ったけど、それも弟なりのメッセージがあるんでしょうね。

――そのメッセージは伝わっていない気が・・・(笑)。

話が脱線しちゃいました(笑)。そのぬいぐるみのシーンは、そんな感じでちょっとふざけながらも「俺、本当はこう思ってるから」みたいな心情を伝えられるシーンにしたいですね。そこは腕の見せどころというか、気合を入れてやらなければいけないシーンだなと思っています。

それから、ぬいぐるみ以外にも小道具や会話の中に出て来るキーワードが物語の後半で「アレにはそういう意味が!?」ってピタッとはまる謎解き的な爽快感もあるので、ドキドキしながら観ていただけるんじゃないかと思います。

――演出の高羽さんとは今回初めてのお仕事になりますが、どんな方ですか?

髪の色もファッションもポップで個性的な方です。山下さんとはまた違ったタイプの芯の強さを持った女性で、頭の回転がとても速く、言うことが的確なので、初めて本読みをした時から「この人を信じてついて行けばいいんだ」って明るい気持ちになりました。

――役作りのヒントになった言葉などはありましたか?

当たり前のことですけど「どういうシーンにするにしても、目的を忘れちゃダメだよね」という話をしてくださって、台本を読んでいくうちに「この台詞、なんで出て来るんだろう?」っていう場面があった時に、「こう演じて」と決めつけることなく、一緒に迷いながら“答え”を見つけていこうみたいな言い方をしてくださって、すごく優しい方だなと思いました。稽古場でのコミュニケーションも大切にされている方なので、スタッフの皆さんとたくさんコミュニケーションをとって、濃い舞台を作れたらいいなと思います。

――コロナの影響が出て約1年半ですが、有澤さん自身はお芝居に対する想いや仕事に対する姿勢は変わりましたか?

いつ舞台が出来なくなるかもしれないという不安の中、舞台の幕が開くことが奇跡だと思うようになりました。でもそれは制作さんを始め作品に関わる方々が感染対策を徹底して、日々サポートしてくださっていたり、観に来てくださるお客様も気を付けてくださっているので僕らは安心して舞台に立つことができるわけで、単に“奇跡”と言ってしまうのは失礼かなっとも思うんですけどね。

――“奇跡”を起こすための“努力”を皆さんがしてくださっているんですよね。

はい。本当にありがたいなと思っています。

――観劇の仕方も、今までは面白いシーンで笑い声が起きたり、カーテンコールで声がかかることもありましたが、今は手が痛くなるくらい叩いて拍手を送るっていうのがスタンダードになりつつありますね。

でも、たまにこらえきれずに客席から笑い声がちょっと漏れて来ると「よし!」って思います(笑)。今回の二人芝居では「空気作り」「空間作り」を大事に、山下さんと二人で作る空間に皆さんを巻き込んで、一緒に素敵な時間を過ごせたら最高だなと思っています。

――ワンシチュエーションということは、ひとつの部屋のセットの中だけで、膨大な台詞量のお芝居になるんですよね。

今のところ、それが自分にとって一番でかい壁であり不安要素です(笑)。でも、その壁を超えたら、すごく見晴らしのいい景色が見えると思うんですよ。稽古スタートした時は、富士山に例えると五合目くらいだけど、一つ一つの台詞をちゃんと理由付けすることで登っていける感覚があるので。

――台詞は、どんな方法で覚えるんですか?

僕はとにかく台本を読み込みます。何度も読みながら各シーンのシチュエーションを理解することで感情と同時に台詞も入りやすくなるんですよ。あとは相手の台詞を携帯のボイスレコーダーに録音して、それを流しながら台詞の掛け合いをして覚えるようにしています。でも、毎回台詞を入れるのは本当に苦労します。

――有澤さんが思う“二人芝居の魅力”についても聞かせてください。

二人芝居の魅力は、バディ(相棒)によって作品の温度も空気もガラッと変わるのが魅力であり楽しさだと思います。会話劇だからいいテンポ感でサラッと聞けるのかと思いきや、ち密な計算の上に一つ一つの動きがあって、「この台詞を立てるために」という意図で芝居を構築していくところが二人芝居の魅力じゃないでしょうか。今作をやり遂げることは僕にとって大きな自信になりますし、間違いなく僕のターニングポイントになる作品だと思っています。

――今回のようなストレートプレイ、2.5次元舞台、そしてミュージカルなど、作品の幅を広げていらっしゃいますが、今後の有澤さんの目標は?

ジャンルに執着することなく、いろんなことに挑戦したいです!2.5次元、ストレートプレイ、朗読劇、映像作品やドラマ、そしてミュージカルと、全部違う良さがありますし、それぞれの作品や、出会う人から学ぶことも多いですし、どんな役でも幅広く演じることができる役者が目標であり理想ですね。

<公演情報>
上演スケジュール
2021年8月25日(水)~8月29日(日)
博品館劇場
8月29日(日)ライブ配信が決定

【出演】
有澤樟太郎 山下容莉枝

【脚色・演出】高羽彩
【脚本】下亜友美

<あらすじ>
「さようなら、お母様。
あなたの息子になったことが、
この哀しき運命のはじまりでした」

これは目には見えない
「家族の絆」を描いた母子の物語。

来栖現実(リアル)は「郭公」の上演許可をめぐって、
母親であり、女優の来栖小梅と対話を重ねる。

家族は何をもって「家族」となり得るのか。
目ではみえない「つながり」がその証明となるのか。

【公式サイト】https://proof-of-son.com/
【公式Twitter】@Toei_stages

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