観る側にも、それぞれにある物語――『観劇者』外岡えりか×岩佐祐樹×吉田翔吾インタビュー


2021年6月30日(水)より東京・シアターグリーン BIG TREE THEATERにて開幕する舞台『観劇者』。“客席にこそドラマがある”をテーマに、客席開場から終演後までの観劇者たちの姿を、開沼豊が描いた本作では、9名の俳優が“観る側”を演じる。

本記事では、“観劇者”の中から外岡えりか、岩佐祐樹、吉田翔吾の3名にインタビュー。自分たちが“観劇者”として感じたこと、“演技者”として思うことなどを、それぞれの経験を交えながら語ってもらった。

――本作は、劇場に訪れる人々の、客席開場から終演後までの姿を描いた作品ということで、すごく面白い着眼点ですよね。

外岡:私自身も、脚本を読ませていただいた時、「おもしろい!」というのが率直な感想でした。今は、なかなか劇場に来ていただくことが大変な時期ではあるんですけど、お客様のことをそのまま描いた作品なので、出来ればたくさんの方に見ていただきたいと思いました。

岩佐:僕は、豊さんの作品に出演させていただくのはこれが2回目になるんですが、やっぱり豊さんは独自の視点を持っているなあと改めて思わされました。「観る」側を「演じる」なんて!観てくださったら、たぶん登場人物の誰かにすごく共感するんじゃないかなと思います。僕らも演劇を「やる」側として、客席にいてくださる方々って、こういうことを思ってるんだなと、学ばせてもらえるような作品だなと思いました。

吉田:僕も、真っ先に新しさを感じました。僕らが横位置で座って、まっすぐ前を向いてることが芝居になる。それって、今のコロナ禍という状況で演劇をやる上で、不自然じゃない形でリスク回避にもなっているし、すごい手法だなと。豊さん、頭いいな~って思ってしまいました(笑)。

――今回、皆さんには役名と共に、座席番号が割り振られています。それぞれ、演じる役どころをどう捉えていますか?

外岡:私は、たまたま劇場の前を通りかかって、初めて舞台観劇をすることになった女性を演じるんですが、共感できるな~って思いました。ほんの少しのことだけれど、自分の中ではものすごく大きな一歩をちゃんと踏み出そうとしているので。その心意気と、踏み出すという勇気が、すごく魅力的な役になっていると思います。自分としてもすごく寄り添えるキャラクターなので、豊さんと一緒に話し合いながら作っていけたらと思います。

――外岡さんは、当日券で飛び込んだ経験はありますか?

外岡:演劇もそうですし、映画とかはしょっちゅうあります。大学生の頃は、授業と授業の間に時間ができた時に、近くの映画館にずっと一人で入り浸っていました(笑)。

――岩佐さんが演じる役は、観劇を生きがいにバイトを掛け持ちしてがんばる青年ということで、とても身近に感じます。

岩佐:僕も、以前はお芝居をやるためにアルバイトをしていたという経験があります。観るために仕事を掛け持ちするということとはちょっと違うかもしれないんですけど・・・。でもきっと、この役は普段劇場に足を運んでくださったり、僕たちを応援してくださる方々の日常に近いというか、共感値がすごく高い存在だと思うので、お客さんの気持ちに追いつけるようにしっかり役作りをしていかないと、と思っています。ちゃんと「分かるな~」って思ってもらえるようにしたいです。

――吉田さんは、とある事情と戦いながら、何かをずっと我慢しているということで・・・(笑)。

吉田:そうなんです。あることを延々と我慢している役で。多分、僕の役も共感率1位、2位を争う役になっていると思います(笑)。僕も舞台を観ていて、経験したことがあるんです。豊さんには「吉田の役は、結構マンパワーが必要となる役だぞ」って言われました。台本上では、ずっと心の声を一人でしゃべっているんですよ。だから、演じる上では共感を超えるものを自分の中で見つけて、お客さんにさらなる衝撃を与えたいと思っています。

――「劇場でお芝居を観る」ということには、演じている皆さんとしてはどういう魅力を感じていますか?

吉田:。よくよく考えると、観劇って枷がいっぱいありますよね。でも、そういう枷を上回る楽しさがあるから、劇場に行きたくなるんだと思います。舞台って、始まる前に暗転することが多いじゃないですか。その暗闇の中で、「自分は舞台が好きなんだな」と自覚したことがあって。それが、僕にとって舞台を好きになった瞬間だったんだと思います。不自由で、お金もかかるんですけど・・・楽しいんだよなあ。

岩佐:ミーハーな言い方になってしまうんですけど、目の前に本物がいるんですよね。同じ時間を共有していると、受け取るものも違うし。今回のお話の中にも出てきますが、前方と後方で全然視点が違ったり、自分の楽しみ方をカスタマイズできたり。制限もあるけれど、あえて制限の中にいるんだと思うんですよね。

外岡:舞台ならではの、生の空気ってありますよね。映像作品の場合、お客さんって出来上がったものを受ける立場になるじゃないですか。でも、舞台はお客さんも同じ空間にいますから、一緒に作り上げている感覚があります。暗転すると一緒に緊張しちゃうとか、この空気を壊さないように咳しちゃだめだ、とか。

例えば、コメディ作品の場合だと稽古場では作品が全く完成しないんです。本番でお客さんの笑い声が入って、初めて「この作品、こういう作品だったんだ」って、演じる側も感じられる。そういう刺激を受けていることが多いです。みんな、知らず知らずのうちにその作品の一員になっていて、かつ、そのエネルギーを直接受ける・・・というより、浴びることができるのが、一番の魅力なんじゃないかなと思いますね。

――ちなみに、皆さんは初めて観劇した時のことは覚えていますか?

吉田:子どもの頃、親が何かに連れて行ってくれたりしたと思うんですけど、物心ついてから初めて一人で舞台を見た場所は、地元の劇場ともいえないイベントスペースでした。そこで「舞台をやるみたいだ」という話を聞いて、なんとなく行ってみたんです。高校3年生の時だったかな。ちょうど、将来について何か悩んでいて、とりあえず理由もなく大学に行くか、とか考えていた時期でした。

すごく小さい、40人ぐらいしか入れないスペースで、居酒屋でずっとご飯を食べながら話が進む・・・という舞台だったと思います。その時、出ていた方のお芝居が上手いのか、その作品がおもしろかったのかも正直分からなかったんですけど、間近で見た役者さんの汗とか、大きな声とか、すごいことやってるな、こんな世界もあるんだ!って衝撃を受けたことを、今も覚えています。

岩佐:すごくよく覚えているね。

外岡:いい話・・・。

――忘れられない経験って、ありますよね。

岩佐:忘れられないというと、僕は、緊急事態宣言中に1公演だけ無観客配信をやった公演が忘れられないものになりました。ワンシチュエーションのシュールコメディ作品だったので、お客さんがいたらどれだけ違ったんだろうと想像すると悔しい思いもいっぱいあったんですけど、それはそれで、すごく心に残る公演になりました。

そのあと、出演させていただいた舞台は有観客でできたんですが、そのカーテンコールで感じた拍手の厚さがすごかったんです。拍手にも、いろいろ表情があるじゃないですか。キャストが出てきて嬉しいとか、作品が本当におもしろかった!とか、拍手の音でこちらにも全部伝わってきます。無観客のあとに味わった、お客様がそこにいることを知らせてくれる拍手をいただけた時、改めてこの空間が好きだなって思えました。

外岡:私は、お客さんとして観に行って「すごく好き!」と思った舞台に、数年後、出演の機会をいただけたんです。観た感動と、それを演じられる感動、どちらも味わえた時、すごく贅沢な経験をさせていただけたなって思ったんです。しかも、自分が好きだった役をいただけたので、幸せでした。

――皆さんにとって、「観劇者」ってどういう存在ですか?

吉田:究極を言うと、キャストとスタッフさんと同じような関係だと、僕は思っています。この『観劇者』に関わらず、どの作品においても。演劇は稽古場だけでは完成しない、お客さんにお見せしてこそのものだと思うので。本当にありがたい存在ですね。

岩佐:きっと、劇場に来てくださる皆さんは、この作品に描かれている「観劇者」と同じように、チケットを取った日を楽しみに待っていてくださると思うんですけど、僕らも皆さんに見てもらう日を楽しみに日々過ごしています。それが重なる日って、お互いの人生の楽しみを共有できる日でもあると思うんですよね。そう考えると、さらに「観劇」が素敵なご縁に思えてきます。

外岡:私たちが舞台に立てるのは、本当にお客様のおかげです。常々思うんですけど、今回描かれてる「観劇者」のように、一人一人、いろんな思いを背負って劇場に来てくださっているんですよね。この作品は、そういうお客さんを描いているので、一層皆さんに寄り添える作品になるんじゃないかなと思います。そういうものになったらいいな、という想いを込めて、精一杯演じたいと思います。

『観劇者』公演情報

上演スケジュール

2021年6月30日(水)~7月4日(日) 東京・池袋 シアターグリーン BIG TREE THEATER

スタッフ・キャスト

【脚本・演出】開沼豊
【出演】堀田竜成、外岡えりか、林明寛、大滝樹、岩佐祐樹、わたなべかすみ、吉田翔吾/斉藤レイ、長戸勝彦

【公式サイト】https://www.kangekisha.jp/
【公式Twitter】@kangekisha2021

 

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