【役者名鑑】第3回:新納慎也<後編>「これでなくてはいけないということはない」自分を縛らず、リアリズムを大切に


役者さんの人生を辿り、演じることにかける情熱をお聞きする新企画「役者名鑑 on Youtube」第3回の後編。今回のゲストスピーカー、新納慎也さんは、今年、芸能生活30周年を迎えました。

インタビューの後編では、作品の記憶を交えながら、新納さんのこれまでを振り返っていただきました。代役として務めた役を20年以上続けている『ラ・カージュ・オ・フォール』、9年ぶりに取り組んだ『スリル・ミー』、そして三谷幸喜さんの都市伝説から、2022年に控える3度目の大河出演『鎌倉殿の13人』まで。

「これでなくてはいけないということはない」と、ご自身を縛らず、自然体で明るい新納さんの今を言葉にしていただきました。

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「やりたいからやるんだ!」と貫く作品愛

――後半では、作品ごとに記憶に残ることを振り返っていただきたいのですが、最も印象深い作品といったら何でしょう?

いっぱいあるんですけど、最初に挙げるとしたらやっぱり『ラカージュ・オ・フォール』ですね。代役として演じた役を、思い入れが強すぎて20年以上演じ続けています。

――ご出演のきっかけは、やはりオーディションだったんですか?

オーディションって、顔見せのような受け方もあるんですね。僕は1997年から2年間、NHKの「うたのおにいさん」をやっていました。何年か続くお仕事だと分かっていながらも、舞台に出たかったのでオーディションは「顔見せ」のために受けさせてくださいって言っていたんです。もし通っても出られなかったんですけど。

その中で、某有名作品のオーディションがあったんですよ。当時の僕は20歳ぐらいだったので、事務所からは「某若手青年の役で出しておきますね」って言われたんですが、「どうせ思い出受験なんだったら主役でお願いします!」って頼んで、有名な某おじさんの主役で受けたんですよ(笑)。もちろん落ちるんですけど。その時に見ていたスタッフの方が、「今度『ラ・カージュ・オ・フォール』っていう作品のオーディションがあるんだけど来ない?」と声をかけてくださって。それがきっかけでした。

アンサンブルとして受かって、その公演の初日前日に、役をやっていた方が入院される事態が起きまして。当時の演出家、リンダ・ヘイバーマンさんが何故か、カーテンコールで一番後ろの一番端っこにいたような僕に「新納に(代役を)やらさせたい」と言ってくださったんです。名古屋公演のために名古屋入りする前日の夜に連絡が来て、「できるか?」と言われ、「できます!」と即答しました。みんなより何時間か早く劇場に入っていろいろ叩き込まれて、その後1ヶ月、その役を務めることになりました。それが今もやっているシャンタル役です。

大好きな作品でもあるし、そういう役の掴み方をしたために、思い入れが強すぎて(笑)。その後何年も経って、制作さんやマネージャーに「今の新納慎也がやる役じゃない」と言われたこともあったんです。こういう言い方はしたくないですが、そんな大きな役ではないので。でも僕は「今の僕がどうとか関係ない!やりたいからやるんだ!」って続けさせてもらっているのが、『ラカージュ・オ・フォール』です。

――『ラカージュ・オ・フォール』は、長く同じ役を続けてくださっている方が多いですよね。

そうですね。個々のキャラクターがとても強いし、愛すべき作品なので。でも、上演が決まる度に、お客さんは「大丈夫?」って不安にもなっているかもしれない(笑)。

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――同じく、長く関わられている作品『スリル・ミー』にも久しぶりのご出演となりました。

日本初演10周年で9年ぶりになるんですけど。それはもう、本当にびっくりしました!
9年前に、年齢的にそろそろ・・・という感じで、僕も「ですよね」と言って卒業したつもりだったので、まさかまたやる日が来るとは思いもしなかった。お話をいただいたのは数年前なのですが、思わず「いやいや、その頃僕いくつだと思ってるんですか?」って返すぐらい、冗談だと思ったんですが・・・本気だった(笑)。

でも、嬉しい気持ちでいっぱいでした。初演を立ち上げたというのは、やはり思い入れが強くて。初演の時は、譜面も手書きで、訳詞もまだ出来上がっていなくて。「ここの歌詞は何がいいと思う?」とか、「あなたの役だったらどういう言葉を発する?」とか、いろいろ話し合っていたんです。例えば、英語で「YES」と書かれていても、日本では「はい」と言うのか、「うん」と答えるのか、「ああ」なのか、「おお・・・」なのか。そういうことを積み上げてきたんです。

卒業してからも、作品がどんどん有名になっていくのを、ホームステイに行っている我が子を「どんどん立派になっていくな・・・」と言う気持ちで見守っていたんですけど、まさかの「10年ぶりに帰って来た!」って感じですかね(笑)。

――久しぶりに「彼」役と向き合ってみていかがでしたか?

「彼」役はやっぱり、消化不良の役ですね。『スリル・ミー』は「彼」と「私」、二人の話なんですが、基本は「私」の回想で進む物語なので、「彼」という存在は、「私」が語る「彼」なんですよね。だから、実際にどうだったかという「彼」の真実はそこにない。実話だけれど、物語としては「私」からはこう見えていた、ということしかないので。「彼」としては真実が分からないままで、着地をしなければいけないから、今回も消化不良です。

でもこれは「彼」あるあるなんですよ。韓国の役者さんが日本に『スリル・ミ―』をやりに来てくれた時も同じことを言ってたし、歴代の「彼」役をやった人はみんな同じ気持ちだと思う(笑)。消化不良は続いていますが、やっぱり大好きな作品だし、思い入れも深いので、やっていて楽しいです。

転職しないでよかったよね、とりあえず今のところ(笑)。

――「私」役の田代万里生さんとも、9年ぶりの共演ですよね。

そう。『スリル・ミ―』でしか共演していなくて。二人で作り上げてきたし、栗山民也さんの演出も身体に染み込みまくっているし、「そうだったよね」「そうくるなら『彼』はこうだよね」って、共通した世界観の中で進む稽古は心地よかったし、懐かしいというよりは、ぱっと時間が戻った感覚がしましたね。

匍匐前進のような人生を送る僕の前に三谷幸喜が突然現れた

――多くの作品に携わる中で、気づきをもたらしてくれた作品はありましたか?

映像作品になりますが、NHKの大河ドラマ『真田丸』かな。僕はそんなに映像経験が多くない中で出演させていただいたんですが、自分でも制御できない感情になって涙が溢れ出したり、自分でも見たことのない表情で映っていたりするのを、オンエアを見て驚いたんですよね。

舞台は、稽古場で感情をキャッチしていくんですが、そういう奇跡的な感情が舞い降りてくる瞬間があるんです。でも、長い公演期間で、なかなか全公演で再現出来るわけではないんです。もちろん全公演出来るように努力はしていますが。映像はそういう奇跡的な瞬間をカメラが撮ってくれている。その面白さですね。

映像作品は一回きりの奇跡を撮って披露するもの、舞台は鍛錬を重ねて積み上げたものを披露するもの。って感じなのかな。

――『真田丸』と言えば、新納さんは三谷幸喜さんとの縁が深いですね。

僕は役者として、何か大きなヒット作で突然売れたというわけではなく、地道に1つ1つ、1歩1歩、匍匐前進の様に地道に歩んでいる人生なんです。三谷幸喜さんは、そんな僕の人生にたまに現れて「ちょっと新納さん、こっちの方向進んでみてください」って言ってくれるような人です(笑)。いつも新しい経験、楽しい経験をもたらしてくれるので、すごくありがたいですし、感謝しています。

――三谷さんとの出会いは?

『恐れを知らぬ川上音二郎一座』という、シアタークリエのこけら落とし公演が最初です。それが決まる何年か前に、三谷さんが突然、僕の楽屋に現れて、「あの、新納さん、僕と一緒に芝居しませんか?」って言ってくださったんです。僕はもう「三谷幸喜だ!」って驚くばかりだったんですけど。

当時、「三谷幸喜さんは、自分の目で見て“いい”と思った役者がいたら楽屋に声をかけに来る」という、都市伝説みたいなものがあったんです。今はもうそうではないかもしれないんですけど。だから「本当に来た・・・!」って驚きが(笑)。

「ここ2、3作連続して見させてもらってます。一緒にやりませんか?」と声をかけていただいたので、「ぜひ!」と即答したら、次の日、本当に事務所にオファーがありました。声をかけていただく度に、「僕の何を気に入ってくれたのかな?」と疑問に思うんですが、僕は単純に三谷さんの作品が大好きなので、本当にありがたいですね。

――三谷さんとは一緒に海外公演もご経験されましたよね。

はい。『TALK LIKE SINGING』っていう、香取慎吾さん、川平慈英さん、堀内敬子さん、僕という4人で、ニューヨークのオフ・ブロードウェイで公演をしました。当時も「もうこんなこと一生ない!」って思いながらやっていましたけど、今思い出しても本当に良い経験でした。

――来年、3度目となる大河作品も三谷さんの作品ですが。

『真田丸』に続き、2022年の『鎌倉殿の13人』にも呼んでいただきました。本当に光栄なことです。今はまだ仮の台本が少し届いたような段階で、僕が演じる阿野全成も登場していないので、どういう役になるのか全然想像できないんです。
勉強はしているんですけど、三谷さんって、歴史ものでも全然違うアプローチで書かれる方なので、その勉強があまり参考にならなかったりするんですよね(笑)。

阿野全成は頼朝の異母弟であり、義経の同母兄なので、源氏の人間です。源頼朝役の大泉洋さん、源義経役の菅田将暉さん、源範頼役の迫田孝也さん、源行家役の杉本哲太さんと、ものすごく濃い! 源氏チームでスピンオフやりませんか?って思うぐらい(笑)。

今年の夏前あたりから撮影に入ると思うんですが、そこからは1年弱、大河漬けです。前回もそうでしたけど、大河の撮影はすごく楽しいです。普通のドラマとも違うし、期間は長いけど舞台とも違うし、1年という長い時間をかけて、一つの作品を作り続けられるということは、他ではなかなか経験できないので。

「これでなくてはいけないことはない」と囚われず、リアリズムを大切に

――いろんな経験を積み重ねてきて、コツコツ匍匐前進をしてきた新納さん。座右の銘を掲げるとしたら?

うーん、そうだなあ。「これでなくてはいけないことはない」・・・深いでしょ?そうでもない(笑)?もちろん生きていく中ではルールもあるし、守らなきゃいけないこともあるんだけど。

例えば「ミュージカルってこうなんだよね」「ミュージカルの人ってこうだよね」とか。女性はこうあるべき、男性はこうあるべき、とか。40歳を過ぎると「なんで結婚しないの?」ってよく聞かれるんですけど、逆に「なんで結婚しなきゃいけないの?」って思うし。そういう「これ!」みたいな概念、いろんなことが決まっているのが嫌なんです。固定概念や、謎の決まりごとに囚われないでいたいなと思っています。

――役者として、譲れないことはありますか?

あんまりないなあ・・・。僕、すごくこだわりが強そうとか、なんかいろいろルールがありそうとか、ルーティン決まってそうとかいろいろ言われるんですけど、全部ないんです(笑)。ジンクスもないし。結構好みも変わるし、それこそ「自分はこうあるべき」とかもない。

でも一つだけあるとしたら・・・ちょっとカッコいいこといますよ(笑)?「リアリズム」かな。役者を続ける上で、一番大事にしているのはそれかも。「その作品の世界観の中でのリアリズム」は、大事にしています。

――役者として、まだ実現していないことはありますか?

いっぱいあります。ああいう作品やりたいとか、あの役やりたいとか、こういう映画に出たいとか、そういう意味ではいっぱい。でも、僕は目の前にあることを一生懸命やるだけ。今までもあまり先のことを考えずに、目の前に与えられたことだけに真摯に向き合ってきました。多分、こうやって生きていくんでしょうね。だから、目の前で起こることに常に驚いて、実際それをやったあとに「ああ!これがやりたかったんだ」って気付くのかなとか思います。

――30周年を迎えた新納さんの今後も、楽しみにしております。最後に、ぜひ読者の方にメッセージをお願いします。

まず、新納慎也の“ファン”ってわけでもないのに、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。そういう人が大半だと思うんですけど。ファンになってほしいなんておこがましいことは思いませんので、こういう俳優がいるんだなぁ、難しい漢字だけど「新納(にいろ)」って読むんだぁ、と覚えていただけたら幸いです。

そして「私は新納慎也のファンだ!」という稀有な人。僕から言わせると、ものすごく変わった人だなと思うんです(笑)。ファンクラブの集いで「変わり者集団」とはっきり言ったこともありますけど、「新納慎也のファンだ」と言うと、いろんなところで「えっ、新納慎也のファンなの?」とマイノリティ側に押しやられることも多いと思います。それでも長くファンでいてくださってる方々、本当に本当にありがとうございます。好き。
僕、そんな皆様のことを家族のように思っていますから。僕に対して、いろいろ要望も不満もあるかもしれない。でもごめん!もう僕はあんまり変わらないと思うから、こんな感じで共に墓場まで行こう!(笑)これからもよろしくお願いしますね。愛してる。

新納慎也さんの今後の出演作品

ミュージカル『スリル・ミー』

2021年4月5日(月)~5月1日(土) 東京芸術劇場シアターウエスト
2021年5月16日(日) ウインクあいち大ホール
2021年5月21日(金)~5月23日(日) サンケイホールブリーゼ

【原作・音楽・脚本】STEPHEN DOLGINOFF
【演出】栗山民也

シス・カンパニー公演『日本の歴史』

2021年7月6日(火)~7月18日(日) 新国立劇場中劇場
2021年7月23日(金・祝)~7月30日(金) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
【作・演出】三谷幸喜

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』

2022年1月スタート 阿野全成役
【脚本】三谷幸喜

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