“腐るほど”批判されたIZAM「SNSで誹謗中傷する人はただの弱虫」と語る生き方/「舞台の仕掛人」<後編>


1997年、男性が髪を伸ばしただけで「女みたいな髪して」と言われた時代。ひとつのバンドがメジャーデビューしました。SHAZNA(シャズナ)と名乗る、そのグループのボーカルがIZAM(イザム)さん。女装して歌う『Melty Love』『すみれ September Love』などヒット曲を生み出し、ひとつの社会現象となりました。

そのIZAMさんが、演劇界を軸に移したのが2008年。SHAZNA解散を機に、今はベニバラ兎団という劇団の主宰を務めています。今よりずっと性への偏見が強かった時代。誹謗・中傷を受けながらも、自分のスタイルを貫き通したIZAMさんは、当時の日本に「性の多様性」をもたらした人物とも言えます。

彼が今、SNSでの中傷に悩む人や、認知されつつあるLGBTを見てどんなことを想うのか。そして演劇への情熱は、どこから来るのか。お話を伺いました。

華のあった世界。1990年代は、唯一無二の存在しかいなかった時代

――SHAZNAとしてメジャーデビューされたのが1997年でした。当時はテレビでIZAMさんを見ない日はありませんでした。1990年代後半を振り返って、あの現象はIZAMさんの人生においてどんな意味を持っていますか?

僕は元々役者になりたくて、でもどうやってなったらいいのかわからなかった。ミュージシャンになったのは「売れれば役者になれる」と思ったからなんです。戦略だったんですよ。

僕は小学校時代、洋楽好きだった父の影響で見たカルチャー・クラブのボーイ・ジョージだったり、背の高い男性がキレイなお化粧しているスタイルが好きだった。デュラン・デュランとか、a-haもそうですけど、ニューウェーブ時代の影響でお化粧を始めたんです。

そしたら日本にもビジュアル系、当時は“お化粧形”とも言われましたが、僕たちの先輩にあたるX JAPANさんたちがいた。見たらめちゃくちゃカッコ良かったんですけど、「あれ、みんなお化粧してるのにめちゃくちゃ男だな」と思ったんです。「日本でお化粧してるバンドに“女型”が足りない」、そこがチャンスだと思ったんです。いないならやろうと思って。

当時は、みんなコソコソしてたんです。女装したいのにできなくて特定のパーティーだけでするとか。髪が長いだけでも、「男のくせに、女みたいな髪して」って言われた時代だった。だから僕が女装して歌って、世の中で認められることで、みんなが少しでも生きやすくなればいい。ノーマルな男が女装を「本気で演じれば何かが変わる」。そう思って、IZAMというキャラクターを作り、世に訴えかけようと思ったんです。

そうしたら、それを面白がってくれたプロダクションの社長が声をかけてきて、周りが本気で僕を女性扱いしだしたんですよね。僕も面白くなって重くもない小さなバッグを、マネージャーさんから「IZAMちゃん、重いだろう?」って言われて、「もう重くて、腕折れちゃう~」とかって言って、持ってもらったり(笑)。

認知されてからは、単純に華やかで楽しい時代でしたね。周りにいたタレントさんとか番組で共演したアーティストさんも、他に似てる人がいない、唯一無二の存在しかいない時代でした。

――批判とかはたくさん受けませんでしたか?

腐るほどあります。腐るほど。

一番多く言われたのは「オカマ野郎」ですね。オカマさんの何が悪いのっていう感覚があったし、「僕の何を知ってるんだろう、この人」って、思ってました。真横で「うわ、こいつIZAMじゃん、すげぇカマクセェ」とか、よくわかんないヤツに言われたりしました。その時はIZAMモードじゃないので、「お前もっかい言ってみろ?」みたいな感じで、ニコニコ我慢はしなかったです。「お前に何か迷惑かけた?」「お前ちょっと話そうぜ」みたいなことが、普通にありましたね。

――今、世間にはSNSなどで誹謗・中傷で心を痛めている人がいいます。そんな方々にメッセージを贈るとしたらどんな言葉をかけますか?

誹謗・中傷は、基本的に弱者がやること。弱いから人を責める。自分の顔も名前も存在も明かさないで、SNSでは誰かを批判したり悪口が書けてしまう。それはすごく弱いヤツのやっていることだから、基本的には「気にすんな」としか言いようがないなと思っています。

僕なんて腐るほど言われてますし、マスコミにも言われてるぐらいですからね(笑)。基本的にSNSで誹謗中傷してる人は、単なる弱虫だし、自分を出せない何かにひがんで生きている人たち。だから、むしろ誹謗中傷された人たちは“あなたは世間が気になる存在なんだから、胸張っていいんじゃない”と思っています。

多様性の美しさ。僕がきっかけで世の中の何かが変わればいい

――1990年代後半に思春期を生きた人間にとって、IZAMさんは性の多様性を教えてくれた人だと思っています。女装をしていても男性であっていい、多彩な生き方を日本に持ち込まれました。今、LGBTへの認識が変わりつつある中、世間に対して思うことはありますか?

小さな頃から僕はイギリスに憧れていて、スコットランドのバグパイプを吹いているスカート姿を「カッコいいな」と思ってたんです。彼らの夢や誇りを乗せた戦闘服というイメージだったんです。

だから僕は、デビューする時、絶対チェックのスカートを履こうって決めていた。男性がスカート履いて何が悪いの?って、堂々と言おうと思ってた。だから、僕は常に巻きスカートをメインで履いていたんです。そしたらファッションで、どんどん男性の服にもスカートっぽいものが出てきて、いい風潮ができてきたんです。

自分の中で、何か“生きた証”を残したいと昔から思っていました。僕がきっかけで世の中の何かが変わったとか、世の中のほんの一部でもいいから変わって、それを知ってくれている人が1人でも2人でもいてくれればいいなって。

今も、たまに新宿2丁目とかに遊びに行くと、初めて会った人から「IZAMさんがきっかけでカミングアウトできた」とか言われることがあります。ある人は、すごく悩んでいて親にも兄弟にも言えず苦しかったけど、IZAMを見て堂々とお父さんに告白したそうです。「自分は男性が好きと言ったら、お父さんはすごくびっくりしたけど、ちょうどIZAMさんがミュージックステーションで歌ってる時だったから、IZAMさんと僕と両方見て、『まぁいろんな生き方はあるよな』と認めてくれました。だから、ありがとう」と教えてくれました。僕は何もしてなくて、ただ歌っていただけなんですけど(笑)。

誰かしらのちょっとした役に立てる存在になれたことは、すごく嬉しいことでした。ただ僕は、嘘はつきたくなかったので、「女性が好きです」「お付き合いするのも女性です」とは常に言ってましたね。

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