僕が一番「左ききのエレン」を美しくできる「舞台の仕掛人」IZAMが演出する“非日常”溢れる空間<前編>


配役の難しさ。オーディションでは「目」と「つま先」を見る

――今回はキャスティングも一般オーディションを行ったんですよね。配役に関しては悩みましたか?

僕、基本的に人を合格・不合格で判断するのが好きじゃないんです。全員出してあげたい。でも、無理だから、基準を考えた時、やっぱり第一印象はすごく大事だなと思います。僕の場合は、その子の目を見ますね。あと、変わってるねと言われますが、その子が立っている時のつま先をずっと見てます。

――本当に変わってますね(笑)。

本気でその役が欲しい、やりたい子は、大体つま先まで踏ん張って立ってる。でも、「多分、大丈夫でしょ」みたいな子は、やっぱりつま先がフラフラしてだらしない。その段階で僕は獲らないです。

今回オーディションで決めた方が何人かいますけど、エレン役の棚橋佑実子ちゃんは、印象深かったですね。モデルさんですけど、入ってきた時は全然「私モデルです」って感じじゃなくて。パーカーとジーンズで、本当にエレンみたいな雰囲気で、人と目を合わせられない。芝居じゃなく普通に、普段からそういう子なんです。

自分の番が来る前に、みんなの踊りを見て「やばいどうしよう」みたいな感じだったんです(笑)。でも、本人が出てきて挨拶して「私モデルしかやってきてないんで、踊りもやったことないです。だから自分を表現するパフォーマンスでいいですか」って言われたんです。「いいよ」って答えました。「じゃあ、ちょっとだけ時間ください」って言われて、ずっと下向いてるんですよ、座って。それで、「音お願いします」って、歌を流して顔をカッとあげた瞬間のスイッチが、尋常じゃなかった。観ていた人全員、その瞬間思ったんです。「この子がエレンだ」って。

――キャスティングに関して、作品の世界観を壊さないようにとの想いもあったと思いますが、どう考えていましたか?例えば岸あかり(圧倒的なカリスマモデル)の選定などは、難しかったかと思いますが。

あかりはすごく悩みました。モデル体型で背が高く、美しくて小悪魔的な男を惑わすような要素もある。そこはやっぱり、キャスティングが一番難しかったです。芸能界を探せばいるんですよ。でも、舞台で岸あかり役に引っ張りたい子はそんなに多くない。

そういう時に立野沙紀ちゃん(岸あかり役)が、オーディションを受けに来たんです。背は小っちゃめだし、あかりみたいな強いタイプではなく、どちらかと言うと素朴。顔立ちはキレイだけど、その割に中身が男の子っぽかったり。だいぶんイメージと違う。でも、4月の公演が11月に延期になった時、そこに至るまでの間に彼女がブレイクし始めたんです。タレントとして。

昨年頭に彼女を見た時に、ちょうどあかりが駆け上がっていく時間軸と同じように、沙紀ちゃんが上がり出しそうな気がすると思ったんです。彼女がそういう表現をできたり、ふとした表情があかりに見えるから、後は稽古で役をどうおろすかだけ。だから、ハマりそうな気がすると思って、決めました。配役に関しては、そんなやりとりがありましたね。

夢を諦めないきっかけ、希望を持ち帰らせてあげたい

――この「-バンクシーのゲーム篇-」では、エレンが渡米して絵を描けなくなる葛藤などが描かれます。ストーリーの面白さはどこですか?

僕個人もニューヨークがすごく好きで、夢もあるし自由もあるし、何が起きてもおかしくない街だと思ってます。良く悪くも。僕も昔一度、夢を叶えるなら1回チャレンジしたいなと思ったのですが、子どもができたりして、ニューヨークに一人で渡って・・・みたいな挑戦はできなかった。

その可能性溢れたニューヨークの舞台を、絶対にカッコ良く描く。そのことしか頭になかったですね。脚本の川尻(恵太)くんと話した時に、「やっぱりニューヨーク篇がメインですよね」という話になって、劇中のパルクール(劇中での逃走シーンで用いられるスポーツ)は外せない要素になりました。

でも、パルクールできる女優さんなんていなくない?って言ってたら、それもまた一般オーディションに来たんですよね。金メダリストの泉ひかりさんが。彼女のキャリアもリスペクトする部分があるし、実は後々わかったんですが、役であるルーシーのモデルがひかりちゃんだったんです。すごい巡り合わせですよね。彼女がパフォーマンスすることで舞台のスケールの「角度」、「奥行き」というより「角度」が変わった感じがします。

――新型コロナウイルスの影響もあり、大変長い期間をかけた作品になっていると思いますが、ここまでやってきて、どんな光景が見えていますか?

昨年の2月ぐらいから動き出して稽古とか始まって、4月の箱入りした初日に、コロナウイルスで飛んだんですよ。絶望でしたね。当時はコロナウイルスについてあまり分かっていない頃だったから、延期した段階で制作費は飛ぶし。お客様には関係ない話かもしれないですけど、キャストに支払わなければいけないものとか、セットとか、返ってこないお金がいろいろある。

1回延期しただけで赤字になるから、僕も死に物狂いで動きました。でも、どうしようもない事情から涙を呑んだ人もいる。そういう気持ちがあるからこそ、今も続けてるのがありますね。諦めた方が楽なんですよ。赤字が何百万で済むなら、1000万以上になる前にやめようって。

でも、それで上演を諦めてしまったら、関わる予定だった人たちがご飯を食べられなくなってしまう。生きていけなくなってしまうかもしれない。1ヶ月、路頭に迷うかもしれない。そう考えたら、「希望を持って稽古をしたり、希望を持って生活できるのが、何よりも俳優やスタッフの心の栄養になる」。それを一番に考えなければダメだと思ったんです。最悪、大赤字になって首が回らなくなったら、僕が死に物狂いで働けばいい。そんな感じで、エンタメの灯を消してはいけないと思って、今も動いています。

――この舞台でお客さんにどんなことを感じて欲しいですか?

まさに、今この状況は試練じゃないですか。仕事も思うようにできなかったり、給料もひかれちゃったり。みんな、いろんな苦労や試練を抱えて毎日生きている。

『左ききのエレン』も、まさに出てくる人たちが、みんなそういう感じなんですよね。僕らは現実でコロナウイルスと戦ってますけど、登場人物たちは自分の人生と戦っている。そこがすごくリンクするので、ぜひ舞台の『左ききのエレン』を見に来て、こんな風に頑張っている人もいるんだと、共感できる部分を1ミリでもいいから感じて欲しい。

夢を諦めないでいられるきっかけとか、希望を持ち帰ってもらいたいなと思っています。みんなやりたい仕事で生きていくために、その背中を押すような作品になっているので、それを見に来てもらいたいです。

今回の劇場、昨年末に、客席からロビーまで全て抗菌ウイルス対応のものに変えてくださったんですよ。空気清浄機も尋常じゃない数ある、ちょっと寒いくらい(笑)。安全を第一に考えて、万全の状態でお客様を迎えられると、劇場さんも胸を張って言っているので、ぜひ見に来てください。

 

公演レポートはこちら:「諦めそうになってる人は、絶対に諦めないで欲しい」fromエレン。『左ききのエレン -バンクシーのゲーム篇-』ゲネプロレポート

公演情報

舞台『左ききのエレン -バンクシーのゲーム篇-』
2021年1月21日(木)~1月24日(日) 六行会ホール

【原作】かっぴー
【脚本】川尻恵太〈SUGARBOY〉

【演出・プロデュース】IZAMANIAX〈ベニバラ兎団〉
【振付】青井美文

【出演】
朝倉光一:吉田翔吾
山岸エレン:棚橋佑実子

神谷雄介:久下恭平
加藤さゆり:舞川みやこ
三橋由利奈:西葉瑞希
岸あかり:立野沙紀(劇団4ドル50セント)
岸あやの:真島なおみ

流川俊/ハンク:大見洋太
柳一/ジャック:日比博朋(ベニバラ兎団)
朱音優子/マチルダ:新川悠帆(ベニバラ兎団)
園宮千晶/ナタリー:青野楓花(ベニバラ兎団)
沢村孝/トンプソン:井上翔(ベニバラ兎団)
斎藤咲千代:谷茜子(ベニバラ兎団)

エイブリーキャンベル、ほか:高橋孝衣
キーラ、ほか:榎本愛子
ソフィア/スカーレット:遠藤しずか

ルーシー:泉ひかり

ジェイコブス:丸山正吾

岸アンナ:葛たか喜代

<舞台版オリジナルキャラクター>
佐倉恵:飯田南織(ベニバラ兎団)

【公式Twitter】https://twitter.com/ELEN_ofSOUTHPAW
【ベニバラ兎団公式ブログ】https://ameblo.jp/benibara-de-paris/

 

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