エンタステージ、「演劇と私」について本気出して考えてみた~2号編~


今年も残すところわずかとなりました。エンタステージ編集部では、激動の1年を振り返り、改めて“演劇と自分”について考えるコラムを掲載中。3号の次は、私2号が執筆させていただきます。

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私が演劇を語る上で重要なワードだと考えているのが“共有”です。私はこれを中学、高校、大学時代に所属していたミュージカル部での活動から感じました。生まれも育ちも考え方も違う人間が集まって、全員でゼロから1つの世界を作り上げる、この行為に何事にも代えがたい大きな価値があると信じています。

例えば、稽古が始まっていない集まったばかりのカンパニーや、未来のその舞台の観客に「りんごって何色?どんな味?」と聞けば、我々の住む現実世界にある様々なりんごの色や味を答えることでしょう。

ですが、その舞台に登場するりんごは「紫色で、耐えられないほど辛い」ものだったとします。稽古を重ねるうちに、キャストはそのりんごをかじれば辛いことを表現し、スタッフは「りんごを塗っておいて」と指示されれば紫色に塗ります。観客は、舞台上に紫色の丸いものが登場するとそれをりんごだと思い、辛いものが苦手なキャラクターにはそれを食べて欲しくないなあ、なんてハラハラしたりもします(反応が見たいから、食べて欲しくてワクワクもするかも?)。

当たり前かもしれませんが、改めて考えると、これはとっても不思議なことだと思いませんか? たった数時間同じ舞台を観ただけで、見ず知らずだった隣の席の人とも、共通認識や思い出話ができてしまう。演劇の良さの1つとして、生であることが挙げられますが、これも”共有”。きちんと受け渡されるはずのりんごが、ハプニングで手から滑り落ちてしまった場合、その場にいた全員が、その出来事の目撃者であり証人になります。

架空世界の出来事を、現実世界の人間が共有し合う。人間の伝えること、受け取ることの可能性に限界まで挑戦する、それが演劇のおもしろさだと私は思います。観劇をする際、ただ座っているだけだと思っている観客も、実はその世界を受け入れるための努力を、自然と行っているんです。

新型コロナウイルス感染症の影響で世の中に混乱が訪れました。演劇も残念ながら延期・中止が度重なりました。周りとの繋がりが絶たれ、孤独を感じた方も多いのではないでしょうか? 分かり合える人なんていない、そう絶望している人こそ、ぜひ演劇を観てください。

劇場ではどんな作品であろうともキャスト、スタッフが伝えるために、観客が受け取るためにエネルギーを放出しています。そんな世界に入り込んだ時、自分もその美しい世界の一部であると感じることができるでしょう。

現に私も、自分の思ったこと感じたことは他人には分かってもらえない、価値がない、という孤独感に苛まれたことがありました。ですが演劇に触れ、そこで溢れるエネルギーに背中を押されて、今ここで、皆さんと様々な思いを“共有”するためにエンタステージ編集部として日々活動しています。

と、小難しいご託を並べて2号の演劇性癖(?)を世の中に広めていてもしょうがないので、以下では年末年始にオススメしたい数作品をピックアップ!ぜひ笑いや感動、そして世界を“共有”してください。

◆12人の優しい日本人
三谷幸喜が劇団(東京サンシャインボーイズ)時代に書き下ろした戯曲。「もしも日本にもアメリカのような陪審員制度があったら・・・?」という架空の設定で描かれた法廷劇・密室劇・そしてコメディ。劇団では1990年、91年、92年と度々上演、2005年にはパルコプロデュースでも上演された。また1991年には中原俊監督によって映画化された、東京サンシャインボーイズの代表作の1つ。

【2号メモ】今年の5月には、1992年東京サンシャインボーイズでの上演版のオリジナルキャストを中心に、吉田羊、Prayers Studioの妻鹿ありか、渡部朋彦を加えた豪華メンバーでリモート読み合わせ配信が行われました。映画『十二人の怒れる男』へのオマージュとして描かれた本作。キャラクターの個性、会話のキャッチボールが巧みで物語にするすると引き込まれてしまいます。

 

◆遠野物語・奇ッ怪 其ノ参
超常的な世界観を真骨頂とする前川知大が、異界との共生を綴る「遠野物語」をモチーフに、現代の“奇ッ怪”な物語を紡ぎ出した作品。河童や天狗といった妖怪たちから、死者、神に至るまで様々な異界のものたちと生きてきた人々の記憶の集積が、舞台上に表出する。(観劇レポートはこちら

【2号メモ】私はこれを見て岩手の遠野へ一人旅に出かけました。私たちが失って久しいもの、失いつつあるもの、そしてどこへ向かおうとしているのかを作品を通して考えることができます。原作は柳田国男の「遠野物語」ですが、読んだ方も、そうでない方も作品に没頭できること間違いなし。

◆焼肉ドラゴン
第16回読売演劇大賞、第8回朝日舞台芸術賞グランプリ、第43回紀伊国屋演劇賞、第12回鶴屋南北戯曲賞など多くの賞を受賞。高度経済成長の1970年(昭和45年)に時代に翻弄されつつ必死に生きる焼肉屋を営む在日コリアン一家の姿を通じて、日韓の過去、現在、未来を描く。(観劇レポートはこちら

【2号メモ】「さあ、観るぞ!」と意気込むほど、受け止めるためのパワーが必要ですが、観終わった後に心に残るものが多い一作。重いテーマではありますが、所々には思わずくすりと笑ってしまうシーンも。シリーズ鄭義信 三部作である『たとえば野に咲く花のように』『パーマ屋スミレ』もぜひ合わせて観ていただきたい作品です。

 

◆ミュージカル『夢から醒めた夢』(劇団四季)
好奇心旺盛で元気な少女ピコは夢の配達人に導かれるまま閉園後の遊園地に入り、そこで幽霊の少女マコと知り合う。交通事故で命を落としてしまった心優しいマコ。娘の死から立ち直れずにいる母親を慰めお別れを言うために、一日入れ代わってくれる人を探して夜の遊園地をさまよっていたのだと言う。不思議なことにあこがれるピコは、マコの願いを聞き入れて代わりに霊界へ行くことを決めるが・・・。

【2号メモ】私がミュージカルにハマったきっかけとなる、劇団四季オリジナルミュージカルの代表作。1987年の初演以降、演出が時代に合わせて変化していく部分も見どころです。ファミリーミュージカルとして、子どもから大人まで広く楽しめます。
  

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