マキノノゾミ、霧矢大夢インタビュー!約20年ぶりに手がける『東京原子核クラブ』は「ベストキャスト」


2021年年明けすぐの1月10日より、下北沢・本多劇場にて『東京原子核クラブ』が上演される。今作は東京国際フォーラムのこけら落としとして初演され、読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞したマキノノゾミの代表作。昭和7年に、下宿屋「平和館」に集う風変わりな住人たちを描いた群像劇。約20年ぶりに本作の演出を手がけるマキノと、風変わりななかでも飛びぬけて変わった住人・富佐子を演じる霧矢大夢に話を聞いた。

くだらない下宿モノが書きたかった

──約20年ぶりに今作を演出されますが、なぜ今、再演を?

マキノ:そんなに大それた理由があったわけじゃないです。何年か前までずっと俳優座劇場で上演してもらっていたんですけど、しばらく観ていないからそろそろ上演できたらいいなと思って。自分で演出したのも22年くらい前の話だし、ちょっと久しぶりにやってみたいなと。そう思って脚本を読み返してみたら「あれ、この本は初演の時よりもむしろ今の方が切実な感じがするな」と。それで「ぜひやろう」と決めました。

──たしかに戦争や原子力についての様々な考えの方が登場し、現代に照らし合わせて考えられる作品ですね。

マキノ:そうでしょ?でも書いた当時はそんな意図はなくて、ただ過去にこんな時代もあったということを書いたつもりだったんです。それなのに今読むと、ちょっと近未来のことが書かれてるって感じがする。こんなことってあるんだね。だいたいの戯曲は、時間が経つほどに内容が古びて時代に合わなくなっていくのが自然だと思うんだけど、逆に現代の方がより切実になる。世の中的には決して良いことではないと思うけれど(苦笑)。

霧矢:マキノさんがおっしゃるように、今において現実的ですし、重苦しい時代を描いているのですが、文字で読むだけでそこに生きている人達の情景がありありと浮かんでくるんです。すごく素敵な群像劇だなぁと思います。この作品に出てくる方々は、戦争の脅威や、兵器を作るのか作らないのかという議論といった、世の中がすごく大きなうねりを持っているなかで普通に生活していかなきゃいけない。仕事もしていかなければいけない。そういう逞しさや生命力を感じました。私自身、今年はコロナウイルスで予想もしなかったような事態になって、いろいろなことが止まってしまったり、演劇界もなにもできなくなってしまった。

でもその中で、普通に生きていかなければいけないっていう開き直りのような気持ちもあるんです。だからこそ、上演した舞台を観て「近未来的な話だね、怖いね」というよりも、今ここで生きている我々を観てほしいです。

マキノ:そうだね。別にテーマを決めて書いたわけじゃないから。書き上がったら、たまたまそうなっちゃったってだけだから。当初は、くだらない下宿ものが書きたかっただけなの。アパートにムサい男達が暮らしてて、くだらないことばっかしてるっていう(笑)。当時そういう芝居をやってたカクスコという劇団が大好きで、だからカクスコみたいな芝居を書きたかったんだけど、設定を現代にしちゃうと被ってパクリみたいになっちゃうから、「時代を過去にしてみよう。昭和初期はどうだろう?」と考えたってだけなの。

その時にたまたま、理化学研究所のことを書いた本を読んでいて、その中にあった朝永振一郎博士(ともながしんいちろう/ノーベル物理学賞を受賞した物理学者)が東京で下宿していた時のことを懐かしそうに書いてあるエッセイの一節がすごく楽しそうでね。で、この2つのアイデアをくっつけて、朝永博士がいた下宿をモデルにしようと思いついたわけです。だからしつこいようだけど、ただ愚かな青春の日々をやろうとしただけで、別にシリアスなテーマが先にあったわけではないの。

霧矢:えっ、そうだったんですね。

マキノ:実はさ、初演の稽古開始の時は台本が半分しか書けてなかったんだよね。今回も舞台美術を担当する奥村(泰彦)君が、その台本を読んで「マキノさんにしては淡泊な台本ですね」って言ったの覚えてるよ。「まだそれ半分だから」と言って、「え、そうなんですか?」なんて驚かれた(笑)。後半の展開がどうなるかなんて、書き出した時にはまるで決めてなかったし。ただ戦時中の理化学研究所について書くなら、やっぱり原子爆弾の研究をしていた話に触れないわけにはいかないなぁとは思ってたかな。でも本当の話、自分でもラストがどうなるか、書き上がるギリギリまでわかってなかったです。

霧矢:そうなんですか!

マキノ:まぁ、僕の場合はたいていそうです。原作があれば別だけど、オリジナルの新作の場合はたいていそう。どんな話になるか書いてみないと自分でもわからない。劇団やってた頃は稽古しながら書き進めていくのが普通だったし。だからラスト近くになってくると、俳優たちも「もう俺に台詞はいらん」って言い出す。本番3日前くらいに長台詞をもらっても大変だしね(笑)。だからこの作品も実はちょっとそうなってる。最後の方にある長台詞は、覚えなくてもいいように、紙に書いてあるものを読むようになってるとか(笑)。だから何というか、新作を書く感覚ってのは遺跡の発掘作業に近い。最初は一部分しか見えていなくて、掘っていく途中でやっと「あ、意外と大きい物が埋まってるかも!」と気づくん感じ(笑)。

年始一番に、演劇の喜びを取り戻したい

──登場人物の会話に活気があって、みんなかなり個性的ですね。

霧矢:当て書きだったんですよね?

マキノ:そう、初演の時は僕が本当に大好きな俳優ばかりに集まってもらったからね。

霧矢:だからこそ読んでいて生き生きしているんですね。その役者に合わせた描き方をされているから、脚本を読んでいてすごくリアルに浮かんできます。

──霧矢さんの演じられる富佐子という人物は、ずば抜けて個性的というか、不思議な役ですね。

霧矢:すごく面白い人ですよね。キムラ緑子さんが演じられた役だと思うと、さぞ素晴らしかったんだろうなというイメージで読ませていただきました。

マキノ:キムラはそれまで主役かメインの役が多かったの。すると台詞の量がすごく多くて大変じゃん。「ちょっとしか出てこなくてオイシイ役をたまにはやらせて」と言われてこの役を書いたんです。だから出番も短いし、そんなには喋らない。登場人物の中で一番変わっている人で、この芝居の “救い”にもなっている。天使のようなポジションにいる人です。何を考えているか全然わからないし、ちょっと人間離れしてるかもしれない存在だけど、この人物がいるおかげでいろんな局面でちょっと救われたりするような、そんなスパイスみたいな存在かな。

──なぜ霧矢さんにこの役を?

マキノ:実は最後まで悩んだんです。というのも、富佐子は本当か嘘かわからないけれどレビュー小屋で働いているという設定なんですけど、霧矢さんてそっちは本職だものね。

霧矢:レビューガールで、男装の麗人ということですよね。

マキノ:そう、男装の麗人なんて似合うに決まってるやん(笑)! 初演の時は、似合わない人間が化けるというギャップが面白かったのに、霧矢さんがやると最初から似合ってしまう。でもこの際だから思いきりスキルの高い方にグイグイやってもらったらすごく良いんじゃないかなという考えに至って、お願いしました。きっとかなり愉快になると思います。

霧矢:それはそれでプレッシャーですが……良い線に持っていっていただけるように頑張ります!

──ほかのキャストの方々も、かなり時間をかけて選ばれたそうですね。

マキノ:僕の中では現時点でのベストキャストです。オーディションを4日くらいやって、それでも決まりきれなくて、さらに探してこのキャストになりました。初演のメンバーに対する思い入れというのは僕の中ではやっぱり格別なんで、それを払拭するためにはまったく新しい人と一緒にやりたかったし、ワークショップでは、僕が役に持っているイメージとどう響き合うかを時間かけて見させてもらいました。その上で「ああ、この人面白いな!」と思える方をキャスティングしました。

霧矢:稽古で皆様にお会いするのが楽しみです。唯一水田君は何度か共演していて、知っている方がいて良かった(笑)。でも、いろんな人が集う下宿という設定なので、初めましての人達がいらっしゃるのはいいかなと思います。

──これから年末年始はずっと稽古ですね。

マキノ:そうなんですよね。本番もけっこうすぐなのでビックリ(笑)。今年は大変な年だったから、来年は芝居をとり返したいです。芝居を観る楽しさ、作る楽しさ、喜びみたいなものをみんなで取り返しにいきたいですね。人と会っちゃいけない、人と話しちゃいけない、人と触っちゃいけないって、今まではなかった。どんな災害でも、そこから逃れて無事を喜べば、肩を組んでも、抱き合っても、歌っても良かったけれど、それをしちゃけないというのは珍しい事態だもの。リモート演劇というのもあるけど、ぜんぜん意味が違う。やっぱり演劇は、その場で目撃すること、その場で体験することで成り立っている。これだけ長きに渡って劇場が中断したのは、近代演劇史の中でも特別な年だと思うよ。

霧矢:日本はまだ上演できている方ですよね、ブロードウェイやウエストエンドに比べたら。私は自粛が明けてから、朗読劇はあるけれど、演劇に出るのは初めてなんです。しかも下北沢という演劇の聖地で舞台に立つのも初めてなので、嬉しいですね。

マキノ:水田も言ってたな、本多劇場に立てるのが嬉しいって。僕も過去2回くらいしかやってない。それも25年くらい前の話で、本当に久しぶりです。

霧矢:劇場がどこであれ舞台に立つことには変わらないんですけれどね。でも、このような社会の状況のなかで、脚本を書かれた方みずからがちゃんと演出してくださるというのは役者としては贅沢なことです。もともと当て書きで違う方が演じていたものを演じるということにはプレッシャーを感じますし、挑戦でもありますけれど、なにより幕が開きますように、健康に留意して臨みます。

マキノ:そうだね。気をつけていこうね。

公演情報

『東京原子核クラブ』
2021年1月10日(日)~1月17日(日) 本多劇場

【作・演出】マキノノゾミ

【出演】
水田航生、大村わたる、加藤虎ノ介、平体まひろ、霧矢大夢、上川路啓志、小須田康人、石田佳央、荻野祐輔、久保田秀敏、浅野雅博、石川湖太朗(登場順)

【公式サイト】http://tokyogenshikakuclub.com/

チケット購入:チケットぴあ https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2068777

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