東啓介『恋、燃ゆる。』インタビュー!「難しいことばかりで、初舞台に立っているような気持ち」


実際に起きた事件を基にした近松門左衛門作の浄瑠璃『大経師昔暦』を原作とし、秋元松代が書いたテレビドラマシナリオ『おさんの恋』を石丸さち子が上演台本・演出を手がけ舞台化する『恋、燃ゆる。~秋元松代作「おさんの恋」より~』。

京都の大店、大経師彩玉堂を舞台に、おさんと茂兵衛の許されない恋を描いた本作に、東啓介が政之助役で出演する。今回は東に、時代劇ならではの苦労や稽古場の様子、さらには自粛期間を経て活動することへの思いを聞いた。

――東さんは、彩玉堂の店主・永心(西村まさ彦)の異母弟という役どころです。ご出演が決まった時のお気持ちは?

この作品に携われることは、すごく嬉しいですし、豪華なキャストの中の1人として参加できることは本当に光栄だなと思ってます。

――テレビドラマの『おさんの恋』はご覧になりましたか?

はい、おもしろかったです。展開も早く、分かりやすい悲劇が描かれているので、のめり込んで一気に観てしまいました。出てくるキャラクターはみんな素敵で、人間味があって、魅力的です。ただ、僕が演じる政之助は京言葉を話すので、自分がやるとなると難しいな・・・とも思いながら観ました(笑)。

――東さんの和装姿も新鮮で、楽しみです。

これまであまり和物をやっていなかったので、僕自身も新鮮ですね。同時に、時代劇ならではの難しさすごく感じています。和の高尚さを表現するためには、大きく動かず「静」を大切にする必要があるのですが、僕は身長が高くて手足が長いために、その場に立っているだけで何かを意味しているように見えてしまうんですよ。なので、立っていることだけでも難しい・・・(笑)。

――一般的には、身長が高いことや手足が長いことはステージ映えするので、役者にとって強みになると思いますが、それが違和感になるというのは和物ならではですね。

そうですね。ただ、その違和感は、政之助という役柄には悪いことばかりでもないのかなとは思います。彼は、和を大きく乱す存在なので。それから、日本的な所作、方言で話しながら感情を乗せるということも難しくて・・・難しいことばかりなので、初舞台に立っているような気持ちです(笑)。

――所作や京言葉は、お稽古前に習う機会があったのですか?

ありました。2日ほどだったんですが、どう歩けば良いのかとか、お辞儀はどうするのかとか本当に初歩的なところから教えていただきました。京言葉は、デモテープをいただいて、それを聴きながら覚えたのですが、実際に稽古をするとなかなか思うようにいかないんですよ。言葉に気を取られてしまって動きがスムーズにいかなくなったり、言葉はあっていても感情がうまく乗せられなかったり・・・。久しぶりに何をしていいのか分からなくなるという状態に陥っています(笑)。何とか、本番までに掴みたいと思います。

それから、政之助は登場するシーンがそれほど多くないので、その中で、お客さまに政之助がどんな人間なのかを理解してもらわなければいけないのも難しいなと思っています。政之助が心の中で感じているであろう「俺が壊してやる」という気持ちは台本には一切書かれていないのですが、そういった彼の後ろ暗さがお客様にうまく伝えられるように演じられたらと、今、がんばっているところです。

――なるほど。では、東さんが演じる政之助については、現在、どのような人物だととらえていますか?

政之助は永心の異母弟ですが、永心やその母の刀根さんからは、本当の血筋ではないと、あまり良い感情を持たれていません。でも、お仕事ができる上、刀根の旦那さんも何か遺言を残していたようで、政之助を雇わざるを得なくなっています。そんな中で、政之助はみんなに愛されていないのが分かっていながらも、八方美人になって周りとの関係をなんとか保って、仕事が出来ることで認めさせて上まで登ってきた人物なので、ひねくれた部分があるんですよ。そんなところが、今回、人の和を大きく乱す材料の一つになってしまっています。

――演じる上では、どんなところを一番意識されているんですか?

悪過ぎないように見せることが大事かなと思ってます。

――確かに一見悪者だとみなされやすい存在ですもんね。

そうなんです。ただ、僕は、政之助がかわいそうでならないんですよね。本当は、ただ構って欲しいだけ、ただこっちを向いて欲しいからそういうことをしているんじゃないかと思うと、単純な悪者にはしたくないんです。やってしまったことは、結局は悪いことに繋がっているのかもしれないですが、そこに至るまでの経緯や政之助の心情を表現したいなと思います。政之助は、すごくクールなんで、そういった本音が表面に出てきにくい人物ではあるんですが。

――今、お話ししてくださった政之助の人物像は、最初に脚本を読んだ時から感じていたものなんですか?

最初に読んだ時は、政之助のしたことの何が悪いんだろうって思いました。当然、今の時代とは価値観も違うので、この時代ならば、茂兵衛のしたことが良くないことだったはずで、政之助は人のためを思ってしたことだと捉えられる行為だと思うんです。実際には、あえての行動ではあるんですが(笑)。でも、その時代の人からしたら、政之助の行為は当たり前のことだったんじゃないのかなと感じました。文章から読み取っただけだと、悪者だとは見ていなかったです。そこから、その時の政之助の心情をさらに深めていって、作り上げているところです。

――演出の石丸さんとはこれまでにも何度もご一緒していますね。東さんから見て、石丸さんはどんな演出家ですか?

きっと出会った方みんなが同じように言うと思いますが、情熱的で、演劇を本当に愛している方だと思います。

――本作について、石丸さんからはどんな言葉がありましたか?

「期待してるから応えてね」という一言をいただきました。「はい、がんばります」としか応えられませんでした(笑)。

――信頼関係がよく分かる一言です!共演者の方々もそうそうたる顔ぶれですが、皆さんの印象をお聞かせください。

檀れいさんは、いつもキリっとされていて、とにかくおきれいな方。格好良くて、美しくもあって・・・。同じシーンが少ないので、まだあまりお話しできていないのですが、優しいオーラをまとっていて素敵な方だなと思います。

(中村)橋之助くんは同い年なんですよ。僕、同じ年齢の方と一緒に舞台に立つという経験があまりなかったので、まずそれが嬉しかったです。すぐに気が合って、稽古の初日から愛称で呼び合う仲になりました。

――制作発表では、橋之助さんと「自粛期間中に何をしていたかという話で盛り上がった」とお話しされていましたが、その話とはどんな内容だったんですか?

歌舞伎座も休演になっていたので、「どうでした?」と僕から話題を振ったんです。(橋之助は)「怖かった」と話していました。橋之助くんは、普段はアウトドア派で、休みの日には野球をしたり歌舞伎仲間とゴルフに行ったりするらしいのですが、そういうこともできず、ひたすら家にいて、何をしていいか分からなかった、と。それで、弟さんからゲームを借りてやっていたと話していました。僕も同じように気力が湧かず、ひたすらゲームをしていた時期があったので「それ分かります!」って盛り上がりました(笑)。

――実際に、東さんも今回の新型コロナウイルスの影響をたくさん受けましたよね。

ミュージカル『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~』は途中で公演中止になってしまい、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は一度も上演できずに中止となりました。『ジャージー・ボーイズ』はその後、コンサート形式での上演ができましたが・・・。

――初めての経験だったと思いますが、こういう状況を経験されて、演劇に対してや舞台に対しての思いに変化がありましたか?

公演が中止になって、自粛している期間は、映画もドラマも舞台も、何も観れなくなりました。1ヶ月以上かけて作り上げてきたものが目の前でなくなっていってしまうのを見るのがツラくて・・・すべてのスイッチをオフにしていましたね。無力感でいっぱいで…とても何かを吸収できる状況ではなかったので、自粛期間中はそれこそゲームをしたり、舞台とは距離を置いて過ごしていました。

――そのようなツライ状況があったからこそ、今回の久しぶりの舞台に対する想いは大きいのでは?

そうですね。『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』を8月に帝国劇場でやらせていただいたのですが、その時に久しぶりに舞台に立って、お客様のパワーをものすごく感じられて楽しかったので、また芝居をしたいという想いがより強くなりました。まだまだ、状況は不安定だと思うので不安な面もありますが、カンパニーが一丸となって一つのものを作り上げる瞬間が大好きなので、今回も作品を作り上げていきたいと思っています。

――久しぶりの舞台というキャストさんも多いと思うので、より熱のこもった稽古が行われているのだと思いますが、東さんから見て、稽古場の雰囲気はいかがですか?

稽古場での食事や私語も控えていたりとコロナ対策のための制約も多いので、なかなかコミュニケーションがと取りにくいのですが、だからこそどうやったらスムーズに進行できるのか、どうやったらもっと良い作品になるのかを、カンパニー全体で考えています。このお芝居のためにみんなでがんばろうという思いが溢れている稽古場だと思います。コロナという条件があるからこそ、一致団結する思いがより強いのかもしれないなと思います。

――ところで、本作ではおさんと茂兵衛の許されざる恋が描かれていますが、東さんはお二人の恋をどのように感じますか?

めちゃくちゃ素敵です!キレイで、儚くて・・・。やっちゃいけないということをやりたくなるというのは、人間のサガなんですかね(笑)。それがすごく素敵なものに見えるんですよね。きっとお客さんも、二人が殻を破って、一緒になる瞬間には拍手を贈りたくなると思います。改めて、良いお話だなと思います。

――ちなみに東さんご自身の理想の恋は?

おたまのように、好きになった相手に一直線に向かっていくというのは、男性からしたら嬉しいですね。嫌だと思う人はいないんじゃないかな?茂兵衛が羨ましいです(笑)。

――たくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました。では、改めて、作品の見どころを。

まさに、おさんと茂兵衛の禁断の恋の物語が描かれています。茂兵衛がどのようにして、窮地に追い込まれていき、そこでおさんに思いを伝え、おさんがどう決断するのかを楽しんでいただけたらと思います。それから、永心の気持ちやおたまの一途な思い、それからその周りにいる手代や奉公人たちの仕事っぷりなど、茂兵衛とおさんを取り巻く人たちにもぜひ、注目してもらえたら嬉しいです。

僕が演じる政之助はさりげなく、でもずっと嫌味を言っているので、そんなところも見ていただけたら(笑)。それから、僕のこの身長で和物をやるという違和感をいい意味で捉えていただけたら良いなと思います。

公演情報

『恋、燃ゆる。~秋元松代作「おさんの恋」より~』
2020年10月19日(月)~11月15日(日) 明治座

【原作】秋元松代「おさんの恋」
【上演台本・演出】石丸さち子

【出演】
檀れい
中村橋之助、東啓介、多田愛佳、石倉三郎
西村まさ彦、高畑淳子
大石継太、妹尾正文、武岡淳一、篠塚勝
みやなおこ、及川いぞう、塚本幸男、中村橋吾
上野哲也、山沖勇輝、百名ヒロキ
羽子田洋子、難波真奈美、安奈ゆかり、中村橋三郎
塚越健一、丸山雄也、水野直浩、舩山智香子
小見美幸、小早川真由、武田一馬、荒澤守
津賀保乃、石毛美帆、内藤好美

【公式サイト】https://www.meijiza.co.jp/lineup/2020/10/

チケット案内:https://enterstage.jp/database/2020/10/65076.html

(取材・文・撮影/嶋田真己)

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