劇場に行けなくても演劇を!配信型演劇フェスティバル「Ohineri」主催 OfficeENDLESS 下浦貴敬氏インタビュー


新型コロナウイルスの感染拡大を予防するため、数々の演劇・ミュージカルが公演中止を余儀なくされている。そんな中、舞台『幽☆遊☆白書』や『巌窟王Le théâtre』などを製作してきた株式会社OfficeENDLESSが、配信型演劇フェスティバル「Ohineri」を開催することを発表した。

同フェスティバルは、キャスト・スタッフらに最大限の注意を図った上で、LINE LIVEを利用した配信形式で、無観客で上演を実施。視聴者はアプリ上で『応援アイテム』を送ることができ、作品の作り手に直接的に支援できる形となっている。

新たな試みに挑戦する、株式会社OfficeENDLESSの代表取締役・下浦貴敬氏に、今回の企画意図、そして演劇界への思いを聞いた。

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――Office ENDLESSとしては、今回の新型コロナの影響はどのような形で実感されていますか?

2月末の時点で、弊社が制作に携わっている舞台『新サクラ大戦 the Stage』と舞台『ゾンビランドサガ Stage de ドーン!』が政府の発表を受けて中止となりました。それから、『BEASTARS THE STAGE』と舞台『SSSS.GRIDMAN』の2本についても先日、中止・延期検討という形で発表させていただきました。なので、舞台だけで4本。弊社はそれ以外にもイベントや舞台の映像収録も行っていますので、それと合わせたら、それなりの損害になっています。

――それら新型コロナウイルスによる大きな打撃があったことで、今回の配信型演劇フェスティバル「Ohineri」が企画されたということでしょうか?

そうですね。もともと、舞台『SSSS.GRIDMAN』をこくみん共済coop(全労済)ホール/スペース・ゼロで公演する予定だったのですが、それが中止となったために、会場が空いていたということがありました。また、弊社の舞台が現在までに4本中止となっているため、キャストもスタッフもかなりの人数の方のお仕事を飛ばしてしまったことになっています。それを考えると、その方たちに少しでもお仕事を提供できないか・・・ということもありました。弊社は映像の収録技術も持っていますし、公演の宣伝のためにこれまでにも配信を行っていたので、それらを活用してできることを考えたのが、今回の企画を立ち上げたきっかけです。

さらに考えを進めていくと、キャストやスタッフ、そして観客のどちら側にとってもこのような機会は必要なのではないかと感じました。演劇の作り手やアーティストの方々は、こういった状況だからこそ与えられるものがあるとみんな思っているはず。

観客の皆さんも数週間にも渡る自粛生活という非日常の中で「ステージが持っている力を感じたい、それにすがりたい」という思いを持っている方もきっといらっしゃると思うんです。だからこそ、お互いのその思いをつなげることができればと思っています。

――演劇フェスティバルという形式をとったことにはどういった意図が?

僕自身が劇団に所属して活動していた時に身近なものだったので、思いついたアイディアです。今は都内でも劇団自体が減ってきているので「演劇フェスティバル」という形式のイベントはあまり見受けられませんが、僕がやっていた頃はたくさん開催されていたんですよ。

イベントには、劇場費が無料になったり、優勝したら公演費の一部をフェスティバル側が負担してくれたりと、若手の劇団が作品を作ることに対する支援という意味合いもありました。現在、コロナウイルスの影響で非常に厳しい状況にある劇団も多いと思います。そういったことを考えても、フェスティバルというのが良いのではないかと思うに至りました。

――「Ohineri」を開催することで、どんなことを期待されていますか?

僕たちスタッフ・キャスト側と観客側が両方向からパワーを出し合って、みんなでステージを作り上げていくことを実感したいということが一番に望んでいることです。僕は、20年近く舞台製作の仕事をしていますが、そうすると、どうしても僕たちが一方的に観客に向かって作品を提供しているという感覚に陥りがちです。しかし、本来、興行・ステージというものは、キャスト・スタッフ・観客という3者で作っていくものです。今回、配信という新たな形をとることで、それを改めて実感できるのではないかと思っています。

この企画を発表したところ、知り合いの役者、演出家、脚本家からたくさんの連絡をもらいました。それぞれがこの状況に対して思うことも多かったようで、彼らの思いをうまく形にしていければいいなと思っていますし、今回の企画によって、僕自身にも新しい出会いが生まれるんじゃないかという期待もあります。

――企画を開催することは様々なリスクのあることだとも思いますが、それについてはどうお考えですか?

もちろん、感染拡大の面でいえば、(企画を発表してから開催するまで)時間があるので状況も変化するでしょうし、リスクを全く背負わずに開催できるとは思っていません。配信のため、本番時のスタッフは必要最低限の人数で行うことができますが、稽古など、問題は出てくると思っています。それについては、それぞれに真摯に対応し、できる限りの感染予防を行い、リスクを減らしていこうと思っています。

正直に言ってしまうと、金銭的な部分でもリスクはあります。弊社にとって、この企画は黒字にはなりません。ただ、新しい出会いもあると思いますし、この環境で物ごとを作ったという経験はきっと3年後、5年後に活きてくると思うので、それでもやりたいと思って実施を決めました。

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――具体的な開催概要についてもご質問させてください。まず、参加団体は、プロアマ問わず?

はい。学生でもプロの方でも構いません。芸能事務所に所属していても、事務所の許可があれば問題ございません。多くの皆さんに応募してもらえればと思います。

――例えば、今回の新型コロナウイルスで公演が中止となってしまった作品をこちらに応募するのも問題はないですか?

権利関係の問題はクリアしていただく必要がありますが、それができていれば応募していただいて構いません。ただ、音響や照明がどれだけ複雑なものであるかという点では打ち合わせが必要になると思います。今回、基本的には音響と照明のスタッフはこちらで信頼できる方にお願いしておりますが、複雑な作業が必要な場合には、作品にも関わってくることですので、例えば元々の公演で担当する予定だった方にもご協力いただくなどして、お互いに良い形で上演できればと思っています。実際に、コロナウイルスの影響で公演が中止になってしまった作品を短いバージョンに作り直して応募したいという相談も受けました。

――今回、出演作品は、書類審査で決定するんですよね。

一応、そのような形を取らせていただきます。というのも、僕自身は演劇は一番自由な表現が許されているものだと思っていますが、今回は配信を前提としているため、それにそぐわないものがあった場合にはご出演をいただくのは難しいのです。それから(開催期間が)1週間と決められていますので、時間内に収まる団体数にしなければならないということもあります。現段階ではまだ何とも言えませんが、ただ、できる限り多くの作品を、できる限り多くのお客さまに触れていただきたいとは思っています。そのためにショート部門も作りました。

今回、ショート部門は20分程度の作品になりますが、これは平日の夜であれば3〜4団体の作品を配信できるということを考えての長さになります。演劇はチケットの単価も高いですし、決められた場所で決められた時間に観なければならないため、広がりにくいジャンルです。テレビのように流れてきたものをふと観て、気に入ったから次も観ようと思ってもらえる機会は、演劇ではありません。ですが今回、多数の作品、団体を配信することで、お客さんがテレビ番組を観るような気持ちで、気軽に観てもらえる形を作れたらと思っています。

――では、現時点では、何作品を上演すると決めているわけではないのですね。

はい、ロングを何本、ショートを何本ということは謳っておらず、それは応募状況をみて考えさせていただこうと思っています。

――ちなみに、OfficeENDLESS製作の作品は参加しないのですか?

今回は、企画の部分に本腰を入れようと思っているのでOfficeENDLESSとしては出品しません。もちろん、企画のお手伝いや作り手同士をブッキングするといったことはやっていますが。ただ、弊社のラインナップで名前を見る演出家の方々は、この企画に賛同してくださっているので、そういった方たちの作品はあがってくると思います。

――参加する団体に望むことは?

演劇をやっていて、座席に人がいない状態でステージに立つという経験はあまりないと思います。僕自身もこれまで「演劇は生で観てこそのものだから劇場に来てください」と言い続けてきましたが、今回は無観客の配信なので「劇場に来ないでください」と言わなくてはいけないという初めての経験をしています。みんな初めてのことばかりだとは思いますが、座席に観客がいなくても、その先にはいるということは忘れないでいただきたいです。

僕は、観客がいなければステージは絶対に成り立たないと思っています。観客は作品の最後の1ピースなんです。きっと、舞台を作っている方々は、今までの人生において、それを実感してきたと思います。今回、最後の1ピースとなる観客は座席にはいませんが、携帯やパソコンを観て繋がっています。それを実感することができれば、今後もクリエイティブを続けていけるという自信ややりがいを感じてもらえるのではないかと思っています。

今は、役者やアーティスト自身が携帯片手に自宅で配信することもできます。それももちろんファンにとっては嬉しいことだと思いますが、でも、やはり作り手である彼らは板(ステージ)に立った姿を観せたいと思っていると思いますし、僕も1観客として板の上に立っている姿を生で観たいんです。今の日本の状況を考えると、生でお観せすることは難しいですが、それに近い形を提供するには・・・と考えた時に、必然的にこの形に至ったのだと思います。

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――今回の企画が成功した暁には、継続的に企画を開催する予定でしょうか?

それもおもしろいかなとは思っています。先ほども言いましたが、僕はやはり演劇は生でとは思いますが、現実的には地方に住んでいる若い子たちは東京で上演される芝居をなかなか観ることはできないと思いますし、その逆に僕たちが地方の若手の劇団の芝居を観る機会も限られています。それを観ることが可能になるツールなのであれば、こういった機会を設けるのもいいなとは思います。

ただ、この企画がどこをもって成功と言えるのかは、きっと最後の最後まで分からないとも感じています。そもそも、通常の舞台においても、お客さまが入って興行的に成り立ったから成功かというとそれだけじゃない側面もあります。今回も同じように、何が成功かは分かりませんが、でも、お客さまがまた次も観たいと言ってくださり、出演者が次もやりましょうと声をかけてくれ、スタッフさんがありがとうと言ってくれたら、もしかしたら成功なのかもしれないと今は思っています。

――最後に、視聴者へのメッセージを。

今回の企画には「ステージからパワーを。ステージへパワーを。」というキャッチコピーをつけましたが、この言葉が全てです。この「パワー」という言葉には、「元気」だったり、「精神的な繋がり」だったり、「活力」だったり、「仕事を続けていくための力」だったり、「経済的なもの」だったり、たくさんの意味を込めています。

イベント名の「オヒネリ」は「役者を続けていくために応援の気持ちとしてお渡しするもの」という意味のある言葉ですが、観客の皆さんが作品から、役者からパワーをもらって、その対価を払ってもいいと思ってくださったら、応援してもらえると嬉しいです。そうして、コロナが終息した頃に、観客の皆さんがまた劇場に足を運んでくださり、ステージに立つ人間はより一層のパワーを客席に届けてくれたらと願っています。これはいい意味で、その助走になると信じています。

◆配信型演劇フェスティバル「Ohineri」
タイトル:配信型演劇フェスティバル「Ohineri」
公演日程:2020年5月26日(火)~5月31日(日)※予定/5/5~5/10予定より変更
会場:こくみん共済 coop ホール(全労済ホール)/スペース・ゼロ
※本公演は【無観客】【生配信】で実施
参加団体:随時発表
視聴料金:詳細は後日公式サイトで発表

【公式サイト】http://officeendless.com/sp/ohineri/
【公式Twitterアカウント】@Ohineri2020

【公式LINEアカウント】
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(撮影:tomo)

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