『ジョン王』吉田鋼太郎×小栗旬×横田栄司インタビュー!彩の国シェイクスピア・シリーズ14年ぶり出演の「小栗には演劇の“匂い”がある」


2020年6月に、彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』が上演される。1998年のスタート以来、蜷川幸雄のもとでシェイクスピア全37戯曲の完全上演を目指してきた彩の国シェイクスピア・シリーズ。2017年12月、シリーズ2代目芸術監督に就任した吉田鋼太郎の演出によってシリーズ完結まで『ジョン王』と『終わりよければすべてよし』の残り2作品となっている。

今作『ジョン王』は、英国史上最も悪評の高い王であろうイングランド王ジョンの治世を、先王リチャード1世の“私生児”の存在を通して描いた歴史劇。生命力とユーモアにあふれ世の中をシニカルに見つめる“私生児”フィリップ役には、本シリーズ4作品目にして初の歴史劇への挑戦となる小栗旬、タイトルロールの“ジョン王”役には本シリーズ常連の横田栄司、ジョン王が敵対する“フランス王”役には演出も兼ねる吉田鋼太郎と、そうそうたる顔ぶれに話を聞いた。

014353_2.jpg

――『ジョン王』という作品の魅力を教えてください。

吉田:シェイクスピア劇のジャンルには悲劇、喜劇、歴史劇、問題劇というのがあって、『ジョン王』は歴史劇なんだけど、問題劇のジャンルに入れられることもあるんですよ。それだけ変わった芝居で、起承転結がしっかりしているかと言えばそうではない。キャラクターが掘り下げられて描かれているかというとそうでもない。わりとご都合主義満載なんですけど、ちょっと寓話的にも読み取れるんです。

敵対するイングランドとフランスの間に私生児がいて、彼はイングランド側だけど、自分の主君を批判するし、あるいはフランス側を褒めたりもする。要するに、二つの権力に対して彼はある意味でとても批判的な目を持つことができている。でも、皮肉なことに彼が私生児だからこそ、何にも関与していない人間として冷静な批判眼を持てるのではないか、ということが書いてある気がするんです。

――小栗さんを私生児役に考えた理由は?

吉田:私生児には肉体的にも精神的にもパワーがあって、だからこそイングランドとフランスの間を行ったり来たりして、戦いながら批評する。ものすごくパワーの必要な役で、僕も演じたことがあるんですけど、大変だったんですよ。いわゆる、紙切れだけでモノを言う評論家みたいではないので(笑)。必ず自分らの肉体を伴って、渦中に飛び込んでいくパワーを持っている。

だから、肉体的にも精神的にも今海外で鍛えられている小栗くんは、まさにピッタリだと思ったんです。今はもう蜷川組ではないですが、蜷川組を継承させていただいているので、小栗くんの参加は本当に望んでいたことでもありました。小栗くん、蜷川さんとケンカしちゃって、ある時から遠ざけられていたから(笑)。久しぶりに蜷川シェイクスピアに彼が帰ってきてくれるということは、ものすごく嬉しいことです。

小栗:鋼太郎さんがおっしゃられたように蜷川組だと思って、(シェイクスピア・シリーズに)14年ぶりに帰ってくることになりました。

吉田:長かったね。

小栗:長かったですね(笑)。

吉田:蜷川さんが亡くなる前、ちゃんと仲直りしていたんですよ。小栗と『ハムレット』をやろうか、なんて話をしていたりもして。実現しなくて、きっと残念だと思うんですけどね。

小栗:それをやっていたかどうかで、また僕の演技人生が変わっていたと思うので・・・。こういう形で戻ってこられるのは、非常に感慨深いです。今の話を聞いても、鋼太郎さんが自分を求めてくれていたというのは光栄です。

014353_4.jpg

――横田さんをジョン王とした理由は?

吉田:横田はもっとも信頼する俳優で、シェイクスピア作品に関しては安心して演出ができるという人。もちろん、今回もそういう意味でキャスティングしています。特に今回はタイトルロールということでね。蜷川さんが『ジュリアス・シーザー』というタイトルロールを横田にやらせたんですけど、あれは、タイトルロールとは名ばかりでね!

横田:(笑)。

吉田:ほとんど出てこなくて、途中で死んじゃう。蜷川さんがそういう非道い仕打ちをしていたので(笑)。今度こそタイトルロールを・・・と思うんだけど、ジョン王という役もタイトルロールだけど、らしくない。ジョン王は周りに振り回されすぎるんですよ。そこを横田の演技力でどう演じてくれるのか、ものすごく楽しみです。

横田:そういうスケールの大きい小さい男なら、任せてください(笑)。

吉田:それを演じさせたら右に出るものはいないよね(笑)。

横田:(笑)。もちろん呼んでいただけたことは嬉しいです。旬とは『タイタス・アンドロニカス』で共演してるからね。ほかの芝居で一緒になったこともありましたけど、『タイタス・アンドロニカス』では一緒にイギリスのストラトフォードへ行ったりして、鋼太郎さんを筆頭にまだ若かったし、にぎやかにやっていたよね。

小栗:若かったですよね。あの時の横田さん、今の俺より若いんだもんな。

横田:そんなことも思い出し、蜷川さんの意思も鋼太郎さんを通して引き継ぎながら。本当に大げさじゃなくて、このシリーズでやることが一番の喜びだし、命がけで精一杯、ジョン王を目指してやっていきたいと思います。スケール大きく、中身は小さく(笑)。

こういうマイナーなシェイクスピアの芝居こそ、鋼太郎さんのシェイクスピアに対する造詣や理解度が真に発揮されると思います。『アテネのタイモン』や『ヘンリー五世』をご覧になってくださった方はお分かりだと思いますけど、こんなにおもしろいものだったのか!と驚くはずです。僕はそう信じていますし、お客様もそれを信じて劇場に足を運んでもらいたいなと思っています。

014353_3.jpg

――今回、3人で共演することについては?

小栗:ものすごく嬉しいですよ。ずっと一緒にやりたかったですしね。鋼太郎さん、横田さん、(藤原)竜也はいろんなところで共演しているので、それを観る度に「俺はもうあそこに入ることはないんだろうか・・・」と過ごしてきたので(笑)。まずそこに入れることが嬉しいです。

横田:旬は観終わると、俺たちの楽屋で必ずやさぐれていたもんね。だから、旬が帰った後はいつも「あいつ、うらやましいんじゃないの?」と言っていた(笑)。

小栗:そうですね(笑)。俺は、いろんなところで演劇論を交わしている人みたいに思われていますけど、ほぼそんなことしてないんです。でも、この人たちと一緒にいると演劇の話になるんですよ。それはすごく有意義な時間だし、自分では想像できないようなことをいろいろと話してくれるんですよね。そうすると体験したくなる。いろいろと言える場所であり、純粋に話し合える場所に入れることがすごく楽しみです。

――待ち望んでいたことがついに実現したという感じですね。

小栗:そうですね。みんなの芝居を観に行った時、一緒に酒を飲みに行っても、みんながあるシーンについて語っているところに入れなくて、やさぐれていたぐらいですから(笑)。今度は自分も共通意識を持って話せるので嬉しいです。

吉田:『ヘンリー五世』を観に来た時も、終わってから楽屋で浮かない顔をしていたんだよね。つまらなかったのかなと思ったら「おもしろかったんだけど、このシリーズ、俺に出来るかな・・・」と心配していたんすよ。あんなに声が出るかなとか、あんなにシェイクスピアの台詞をしゃべれるかな、とか。しばらく舞台やシェイクスピア劇から離れていたから、すごく不安になったみたいで、浮かない顔をしていたんだよね。

小栗:間違いなくその筋肉は衰えているので、確実に、急ピッチでビルドアップしていかないといけないです(笑)。

吉田:僕は言いたくはないんだけど、今こうしているだけでも、すごく嬉しい(笑)。

一同:(笑)。

吉田:映画『人間失格』を見に行ったんですよ。もちろん、監督が蜷川実花ちゃんだということもあるかもしれないんだけど、小栗くんには“匂い”があるんだよ。今の若い人たちは技術的に優れた人がたくさんいるけれど、時代の“匂い”や、演劇をやってきた“匂い”を持っているひとはあまりいない。

演劇というのは、ある意味で社会性とはまた次元の違う仕事じゃないですか。むしろ、少しモラルが欠けているぐらいの方がよく見えるなんてこともある。そういう空気感をまとっている俳優には、なかなか最近お目にかかれない。小栗くんはその空気をすごく持っているんですよ。

やっぱり蜷川さんのところで鍛えられてきた俳優・・・、藤原竜也もそうだけど、そういう空気を持っているんだよなあ。シェイクスピア劇は、リアルさも含みつつ、あくまでも“劇”である禍々しさがないといけない。特に、蜷川さんがやってきたシェイクスピア・シリーズには。それを小栗くんという男が表現してくれるということは、もう楽しみでしかない。

横田:僕ももちろん楽しみなんですけど、どこまでがんばらなきゃいけないんだろう・・・という一抹の恐怖が(笑)。お二人は強大な大スターですし、そこに勇気と知恵と工夫で立ち向かって行くような気分です。

小栗:僕は、23歳で『タイタス・アンドロニカス』をストラトフォードで上演した時に、勝手にお二人のことを戦友だと思ったんです。正直、あれほど興奮するような時間がその後にあったのかと言われると、ほとんどなくここまで生きてきたので。それを一緒に味わっている人たちと、また同じチャレンジができるというのは自分にとってはすごい出来事だなと思います。

014353_7.jpg

――現段階で考えている演出プランを教えてください。

吉田:まだ先の話ですが、『ヘンリー五世』では立ち回りが必要だったのでそこを重視したんですけど、今回は立ち回りがあまり必要ではないような気がしています。それよりもイングランド側とフランス側の駆け引きや、それぞれの心理、その真ん中にいる私生児がどういう心理状態で二人の権力者を見ているのか、どういう心理状態でそれを止めようとしたり、けしかけたりするのかという心理合戦のような気がするんです。なるべく立ち回りはやらずに、心理劇的なところを強めに押し出すとおもしろいかもしれない、と思ったりもしています。

――エンターテインメント的な面で考えているところはありますか?

吉田:心理劇的なところがエンターテインメントになるかどうかは置いておいて、ビジュアル撮影で今回のスタイリストの方がとても素敵な衣裳を用意してくれたんです。それを見ると、衣裳、装置、照明などの視覚的な要素の遊びができそうな気がするんですよね。

この時代はこうだったからこうだ、と決めつけるのではなくて、少しそれを飛び越えた芝居にできるのではないかと。もちろんジョン王は実在した人なんだけど、イギリス人でもあまり詳しくはないみたいなんですよ。マグナ・カルタを発行した人として有名だけど、それ以外ではあまりピックアップされない。だから、少し飛躍してもいいかなと思っています。

014353_5.jpg

――横田さんから見た、吉田さんの演出のおもしろさはどんなところですか?

横田:蜷川さんの演出手法とは違いますが、魂みたいなものが似ています。鋼太郎さんは、すごいものを作りながら、人を導いたり、若い人を教育したりということを同時にされていて、そこがすごい。こちらも学びがあって、言葉のチョイスがおもしろい(笑)。必ず爆笑させてくれます。こうやって育てたら若い人たちが育つんだな、と思う部分もありますし、作品の解釈や役に関しての深め方は俳優として傍にいて本当にありがたい存在です。

蜷川さんは、蜷川さんとして素晴らしかった部分もあるけど、鋼太郎さんはやっぱり当代随一の“俳優”としての部分がありますからね。「一流の俳優の俺だったらこう演じる!」ということを、つまびらかに教えてくれるわけじゃないですか。同業者として、それは味わい深いものなので、いい思いをさせてもらっていて得している気分です。

――小栗さんは吉田さんの演出を初めて受けますが、楽しみにしていることは?

小栗:たかだか3か月ぐらいの世界ですけど、その間だけは鋼太郎さんの脳みそを覗けるので、どれだけ吸い尽くせるかということですね(笑)。それがとにかく楽しみです。

――吉田さんは、お二人にシェイクスピア劇を演じてもらうにあたって、どのような期待をしていますか?

吉田:演出が何をしようとできない人はできないのですが、二人ともこちら(演出)がある程度説明したことを千倍にしてくれる俳優なので、それは演出家として大変ありがたいです。

特にシェイクスピア劇に関して言うと、言葉の壁がどうしてもありますから。テレビドラマに比べれば、千倍ぐらいの難しい台詞があるんですよ。それを一言も逃さず、観客に届けなきゃいけないという第一段階の作業がある。そこに、その人の個性も乗せなきゃいけない。その人の生きてきた人生も乗せなきゃいけない。その人にしかしゃべることができない台詞を言わなきゃいけない。やらなきゃいけないことが山積みなんです。

ただ、この人たちがそれを出来るというのは最初から分かっているので(笑)。こんなにありがたいことは演出家としてはないです。俳優として体現する二人を、共演者の若手の人たちは見て学んでいくと思うので、そういう点では二人にしっかりがんばってもらわないといけないという気もしています。

014353_6.jpg

――吉田さんと横田さんは“舞台人・小栗旬”の魅力をどんなところに感じますか?

吉田:テクニックもあって、いろんなことが出来るんですけど、やっぱり、さっきも言った“匂い”かな。色気も、人間のクズみたいなダメなヤツ感も出せるし、いわゆるイケメン俳優が何も苦労しないまま二枚目の中年になりました感ではなく、いろんなものを身にまとっている俳優ですね。

その片鱗を蜷川さん演出の『カリギュラ』の時に感じていたんですよ。最近、さらに磨きが掛かってきて、いい傾向なんじゃないかと思います。善人の役や謙虚な人の役を見ていて、もちろん成功しているケースもありますけど、俺はあまりワクワクしないんですよ。そうじゃないときの小栗くんが好きですね。

横田:鋼太郎さんがおっしゃったように、魅力が服を着て歩いているような感じですよね。人をノックアウトするぐらいに魅了する。舞台で、そういう俳優さんはあまりパッと思い浮かばないんですよ。おもしろい人、上手い人、楽しい人はいますけど、旬はやっぱり総合的にかっこいい。男から見てもほれぼれします。ストラトフォードで街を歩いていた時も、旬が通るとイギリス人が振り返っていましたから。

吉田:いろいろと勉強していて、とても論理的だよね。ワイルドな色気とはまったく逆に、とても緻密で論理的にものを考える人ですよ。自分の人生をとても考えていて、決して行き当たりばったりではなく、今の年齢だったらこれをやらなきゃいけないとか、今の自分にこれが足りないとかを考えていて、いろんな面を持っている。とてもおもしろいね。

――お二人の話を聞いて、小栗さんはどう思いましたか?

小栗:・・・どうしても隠せない魅力があるんですよね。

一同:(笑)。

小栗:しばらくそういうことはないですけど、24歳で『カリギュラ』をやった時は、自分は本当にモテるなと思っていました(笑)。

一同:(笑)。

014353_8.jpg

◆公演情報

彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』
【埼玉公演】6月8日(月)~6月28日(日) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
【名古屋公演】7月3日(金)~7月6日(月) 御園座
【大阪公演】7月10日(金)~7月20日(月) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

【作】W.シェイクスピア
【翻訳】松岡和子
【演出】吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)

【出演】
小栗 旬 横田栄司
中村京蔵 玉置玲央 白石隼也 植本純米
間宮啓行 廣田高志 塚本幸男 飯田邦博 二反田雅澄
菊田大輔 水口てつ 鈴木彰紀 竪山隼太 堀 源起
阿部丈二 山本直寛 續木淳平 大西達之介 坂口 舜
佐田 照/心瑛(Wキャスト)
吉田鋼太郎

【公演詳細】https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/7700 
【ホリプロHP】https://horipro-stage.jp/stage/kingjohn2019/

【公式Twitter】@Shakespeare_sss

チケットぴあ
最新情報をチェックしよう!
テキストのコピーはできません。