第5回企画「舞台の仕掛人」<後編>衣裳プランナー・小原敏博の考える2次元としての『ウソ』と3次元としての“ゴール”


“いつもとはちょっと違った視点”で舞台を紐解く、エンタステージの企画「舞台の仕掛人」第5回のゲストスピーカーは、衣裳プランナーの小原敏博さん。小原さんといえば、*pnish*やナイロン100℃、WBB、Dステ、劇団プレステージ、時速246億、少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-、舞台「銀牙 -流れ星 銀-」~絆編~や、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズなど、劇団公演から2.5次元作品まで幅広い作品の衣裳を手掛けられています。

インタビュー後半では、小原さんの担当された作品の衣裳について、より深く聞いてみました。刀ミュのあの衣裳の意外な秘密(?)から、驚きを呼んだ舞台「銀牙 -流れ星 銀-」~絆編~のあの衣裳誕生の秘話まで!(前編はこちら:衣裳プランナー・小原敏博が意識する“届ける先の目”と“バランス感覚”

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――後半では、「2.5次元」の衣裳についてより深くお聞きできればと思います。2.5次元作品は、衣裳を含む“ビジュアル”の力が非常に強いと感じるのですが、小原さんは「2.5次元」における衣裳をどうとらえていらっしゃいますか?

2.5次元作品って、ほとんどがビジュアルのゴールが決まってるんです。そこを目指して、スタッフも役者さんも突き進んでいく。これが、前半でもお話した役者さんと一緒に“2.8次元”まで持っていくというような感覚なんですが、オリジナルの作品は「結果こうなった」とゴールも自分たちで設定する感じなんですよね。だから、2.5次元作品の衣裳は分かりやすいと言えば、分かりやすいです。ゴールの共有ができているという部分が大きいですかね。

――2.5次元作品での衣裳づくりは平面から立体に起こす作業でもあると思うのですが、原作の平面の絵から立体化する際の情報をどうやって得ているんでしょうか?絵って、描いた人しか分からない部分もあるのでは、と思うのですが。

「資料がどれぐらいあるか」というのは、作品やキャラクターによってばらつきがあります。例えば、割と資料を多くいただけるミュージカル『刀剣乱舞』(以下、刀ミュ)でも、キャラクターによって資料の数が違う。キャラクターと演じる役者さんの違いもありますし、絵として描かれているものが実際に着る物としては成立していないものもある。だから『ウソ』をつかねばならない時もあるんです。

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――『ウソ』、とはどういうことを指すのでしょう?

今度、双騎出陣する髭切・膝丸の場合を例にお話しますと、髭切も膝丸もデザイン的には同じようなジャケットを身につけているのですが、髭切の方はジャケットを肩にかけていますよね。二人とも同じ形のジャケットを作ると、あの肩にかけているジャケットの「ふわっ」とした感じが出ないんです。だから、髭切の白いジャケットは、設計段階から裾を広げたり、カーブをつけて前を長くしたり、肩も大きくしたりしているんです。そうすると、肩にかけて少し動くだけで「ふわっ」とした感じが生まれる。その分、実はちゃんと袖を通して着るとあんまりかっこいいシルエットじゃないんですよ(笑)。2次元を3次元として見せる「動き」のため、見栄えのために『ウソ』をついていることが結構あります。

例えば堀川国広は、イラストのままでは肩の部分に縫い目がないので物理的に動きません。衣裳を作る段階で、それを原案元さんに「このままだと動くことは不可能です」とお伝えした上で、相談しながら動ける形を模索していきました。パーツを革で作ったり、別パーツとして作って組み上げたりしているので、舞台衣裳としては普通に動けてすとんと肩が落ちるものになりました。

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――なるほど・・・!その『ウソ』をつく上で、一番難しいと感じた作品、キャラクターをお聞きしてもいいですか?

刀ミュの千子村正ですね。これは誰も悪くないことなんですが、絵と演じる役者さんのスタイルが違いすぎたんです(笑)。絵はがっちりとした筋肉質のキャラクターだけど、演じるのはどちらかと言うと細身の太田基裕くん。最初はどうしよう・・・って悩みました(笑)。演出の茅野(イサム)さんと話していく中で、「これはこれとして成立させよう」という話になり、刀ミュの千子村正が誕生しました。ゲームで実装されて間もなかったことも、トライ出来る幅が広がった要因かなと思います。spiさん演じる大きな蜻蛉切と並ぶ、シュッとしたもっくんの千子村正。原案とはまた違ったベクトルでのアプローチになり、ビジュアルを「作る」という意味でもバランスが難しかったんですが、皆さんはどう受け取られましたか?僕は出来上がった時、かっこいいなあ!と思いました。

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――一方で、上演が控えている舞台「銀牙 -流れ星 銀-」~絆編~のように、2.5次元作品として元絵をそのまま再現するのとはまた違ったアプローチとなるケースもあります。こういった場合のイメージは、どのように作っていったのでしょうか?

舞台「銀牙」の場合は、お話をいただいた時に「キャッツのようなイメージではなく?」と確認したんです。そうではないと聞いてすぐ、思い浮かんだビジュアルイメージが“軍服”でした。銀たちは闘う犬です。銀(佐奈宏紀さん)は、ぴょんぴょん跳ね回るからフライトジャケット・・・パラシュート部隊のようなのイメージで。ベン(郷本直也さん)やジョン(安里勇哉さん)のビジュアルは分かりやすいと思うんですが、二頭の犬種の原産国が「ドイツ」であったことからイメージを得ました。

赤目(荒木宏文さん)はもちろん忍、リキ(坂元健児さん)は銀と親子ということに重きを置いて銀との共通イメージで膨らませていきました。甲斐の3匹は、奥羽軍という犬の軍団なのでノラ軍人みたいなイメージで。舞台「銀牙」については、元となるビジュアルがコレというものはありませんでしたが、「軍服」というキーワードが浮かんでからは結構すいすい出てきましたね。

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――原作は犬の絵なのに、人が演じるということを踏まえた上でのキャラクター性が衣裳から見えて、すごい!と感動しました。リキの傷なども衣裳の「破れ」として表現されていて。

リキに関しては、暴走族の特攻服のような感覚で、威厳を出すためにコートを着せてみました。あえてトレンチっぽいコートにファーを付けたり工夫もして。僕はリキの衣裳を身に纏った坂元さんを見て「いつか銀もこうなるのか・・・」と勝手に想像しました(笑)。コートからもリキの生き様が表現できたらかっこいいなと思っています。

――「ベルトに原作の首輪の要素が取り入れられているのでは」という声もありました。

そうです、ベルトは首輪です。原作で唯一身につけている首輪をどこかに活かしたいなと思って。それから、ベンの衣裳は少し引いてみると、衣裳の配色でなんとなく犬の顔が見えてくるようにしてみたんです。ポケットを目に見立てると、ちょうど首輪の位置がベルトになる、とか。

赤目は襟元に赤を差し色で入れているんですが、目の赤いメイクと反応したらいいな、とか。ちなみに、ジョンの衣裳だけは唯一汚しを入れていないんです。一応、飼い犬なのでちょっとキレイにしてもらっているイケメン担当です(笑)。

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――ちなみに、インタビューの前半で衣裳プランナーさんはお一人でイメージを統率していると教えていただきましたが、パーツによって担当は変わられるんですか?

分担については、結構細かいんですよ。例えば、手甲は僕が作るんだけど、ほかのパーツは別のチームに作ってもらって、僕たちで縫い付ける、というような感じです。

――連携作業なんですね。

最初にチーム全体の会議があるんですが、そこで、原作側にもスタッフさん側にもたくさん質問するんです。キャストの採寸は僕がするので、事前に小道具さんと話しておいて、「どこ」を採寸するか、ボリュームをどうするのか、色の方向性などをある程度決めておく。僕は採寸した上で全部のバランスをとって、それを担当の方にお伝えしていきます。

例えば「この革で作ってください」と指定したり、金具の色がバラバラになってはいけないので基準を決めて合わせたりします。全体の監修というか、衣裳に関するものをすべてまとめるのが仕事ですね。

――色の再現というのも、衣裳を作る上での重要な点であり、難しそうなイメージがあります。イチから染めたりすることもあるんですか?

確かに、衣裳を作る上で一番バランスを取るのが難しいのが、色ですね。ほとんどはあるものでなんとかなるんですが、時々染めたり、プリントもしたりします。グラデーションをかけたりすることもあったり。持っていった生地で「もう少し青っぽい」と言われたら、少し青く染めるなど、調整することもあります。

――衣裳というと、その仕組みもすごく気になるのですが・・・どうやったらあんな短時間で早替えができるのだろう?と思って観てしまいます。

仕組みも全部、僕とアシスタントで考えています。そこから、キャストさんと本番の衣裳進行さんも交えて「どうしたら着替えやすいのか?」という相談を重ね、どんどん改良していきます。早替えに関して僕らは、刀ミュで「2分でライブ衣裳から戦闘服に6振り全員着替える」ということを成し遂げたので、もう何にも怖くないって状態になっています(笑)。僕的に気に入ってる早替え衣裳があるんですけど、お客様に全然伝わってないかもしれない・・・。

――どの作品のどのシーンか、お聞きしてもいいですか?

刀ミュの「つはものどもがゆめのあと」で、武蔵坊弁慶が山伏の格好になって出てくる勧進帳のシーン、分かりますか?あのシーンは流れのゆったりしたシーンなので体感時間はあまり早く感じないのですが、源義経と弁慶は2分で着替えて出てこないといけないんです。義経役の荒木健太朗さんと弁慶役の田中しげ美さんは、舞台袖に入った瞬間から着替えなければいけないような状態で。だから、弁慶の着ている山伏の衣裳は、つなぎというか、ワンピースにしたんですよ。背中がジッパーになっているので、バッて開けたら入れるんです。で、すぐに笈を背負って舞台に戻る。そのシーンの早替えが、僕の中ではとってもツボです(笑)。

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――まさか、弁慶のあの衣裳がワンピースになっているとは思いもしませんでした!

刀ミュの刀剣男士たちの着物は、基本、前が開かないようにしているんです。後ろをジッパーにするなどして、衿が閉まっている衣裳は縫い留めちゃう。だから着崩れない。陸奥守吉行みたいな前が大きく開いた衣裳だとそうはいかないので、留める箇所を作ったりしていますが。キャラクターごとの都合に合わせて工夫しています。

――下世話な話になってしまうのですが、衣裳って、一着いくらぐらいかかるものなのでしょうか・・・?

一概にこれぐらいという、決まった目安はないんですよね。どんな作品かにもよりますし、予算にもよりますし。1000円で作れたものもあれば、10万円かかったものもある、という感じです。意外と、生地よりも装飾のラインの方が高かったりすることもあるんですよ。細い金のラインで、1メートル数千円とかするものもあるので。意外と細かいところの方が、お金がかかっているかもしれません。やっぱりシンプルにいいものはいいので、予算がある時は、しっかりお金をかけて作りましょう!という気持ちになります(笑)。

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――衣裳プランナーを目指している方に、何かアドバイスするとすれば?

僕は、なりたくてなったタイプではなく、気づいたらなっていたタイプなので、ここまでくるのにかなり時間がかかってしまったと思うんですが、誰か先生につくことが一番勉強になると思います。今、僕についてくれているアシスタントは10年目ぐらいなんですけど、その子も僕の現場でいろんなことを経験して、ぐんぐん成長していったので。僕の成長速度の倍ぐらいのスピードで成長していると思います。誰かに師事できることは、僕としては羨ましいことだなって思います。

――小原さんのお話を伺って、「衣裳」を通して舞台を観ることがますますおもしろくなりそうです。

よく見ると「いろいろやってるな」って、思ってもらえていたら嬉しいです。

前編はこちら:衣裳プランナー・小原敏博が意識する“届ける先の目”と“バランス感覚”

【舞台「銀牙 -流れ星 銀-」公式HP】https://www.ginga-stage.com/
【公式Twitter】@stage_ginga

(C)高橋よしひろ/集英社・舞台「銀牙 -流れ星 銀-」

【公式HP】https://musical-toukenranbu.jp/
【公式Twitter】@musical_touken

(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

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