第5回企画「舞台の仕掛人」<前編>衣裳プランナー・小原敏博が意識する“届ける先の目”と“バランス感覚”


舞台にまつわる様々な分野で活躍されている方にスポットを当て、お話を聞いていくエンタステージの企画「舞台の仕掛人」。第5回目のゲストスピーカーには、衣裳プランナーの小原敏博さんをお迎えしました。

*pnish*やナイロン100℃、WBB、Dステ、劇団プレステージ、時速246億、少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-、舞台「銀牙 -流れ星 銀-」~絆編~や、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズなど、劇団公演から2.5次元作品まで、数々の舞台の衣裳を手掛けられている小原さん。小原さんと演劇との出会いから、衣裳プランナーというお仕事について、様々な質問に答えていただきました。

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――この度は、取材を受けてくださりありがとうございました。小原さんの衣裳プランナーのお仕事について、いろいろと伺っていきたいのですが、まず、このお仕事に就かれた経緯からお聞きしてもいいですか?

もともとは、舞台の衣裳プランナーを目指していたわけではないんです。服の専門学校に通っていたんですが、卒業まで就職活動をせずブラブラしていて(笑)。そうしたら、当時のバイト先にいた劇団員の人に「うちの衣裳を作ってよ」と頼まれ、僕を含め4、5人でその劇団の衣裳を作ることになったんです。それが、演劇との最初の出会いでした。

――小原さんの経歴を拝見すると、小劇場から2.5次元作品と、幅広いジャンルを手掛けられていますよね。

関わっていたのが早稲田出身の劇団「双数姉妹」さんで、そこから広がっていったのでスタートは小劇場ですね。最初にクレジットに載せてくださったのも、双数姉妹で・・・チーム名だったか、個人の名前だったかはっきり覚えていないんですけど。そのうち、作品を観に来てくださったケラリーノ・サンドロヴィッチさん(KERAさん)が「うちもやってくれない?」と声をかけてくださって、ナイロン100℃などにも関わるようになりました。

――もともと、舞台に興味はあったのですか?

いえ、劇団と言えば劇団四季しか知らない、みたいな状態だったんです・・・(笑)。「とりあえず服を作れるならやってみよう」ぐらいの気持ちだったので、舞台については、右も左も分からないスタートでした。舞台衣裳を作る時は、台本を読み込みながら「この人は絶対これは着ない」と削ぎ落としたものに色付けしていくんですが、やっていくうちに「作品をリアルに基づいて考えた、一歩先にあるもの」の一つに、衣裳がある気がしたんです。そうやって、舞台の世界への寄り添い方が自分の中ではっきりしてきてからは、仕事がとても楽しくなりました。そこまでたどり着くのに10年ぐらいかかっているんですが。

――振り返って、衣裳プランナーとしてのターニングポイントってありましたか?

実は、仕事を始めて1年目で、奇跡的にナイロン100℃から声をかけていただけたことで「こんなにすぐにできちゃうんだ」って、ちょっと天狗になってしまった時があったんですよ(笑)。でも僕は先生について始めたわけではなかったので、しばらくは年に1本か2本しか仕事がない状態でした。しばらくバイトをしながら続けていたものの、だんだんと「これで食べていけるわけがない」と思い始めた頃・・・30歳ぐらいの頃かな、ネルケプランニングさんとアミューズさんがタッグを組んでやった『FROGS』という舞台で仕事をしないかと声をかけてもらったんです。あの作品で、岸谷五朗さんと出会えたことが大きかったですね。そのちょっと前に、茅野イサムさんとも出会っていて「この人についていったらおもしろそう」と思える、信頼できる方々との出会いが重なったことが僕のターニングポイントでしたね。

――「人との出会い」が今の小原さんを作ったんですね。ちなみに、俳優さんのスタイリストとして小原さんのお名前を見ることもあるのですが、舞台衣裳の制作だけではなくスタイリングなども積極的にされているのですか?

僕は、基本的には舞台衣裳のみです。俳優さんのイベントで、スタイリングをすることもたまにありますが。でも、僕の中ではそういうお仕事も舞台の延長線上にあるものです。

――なるほど。では、次に「衣裳プランナー」のお仕事について、具体的にお聞きしていきたいと思います。舞台は様々なクリエイターの方が関わって作られていきますが、小原さんの立場からはどんな提案をされるのでしょうか。

台本を読んで「僕はこう思いました」という意見をデザイン画で提示するんですが、その段階では、いろんな方向からアプローチしてみます。例えば、知っている演出家さんやプロデューサーさんの場合は「これは好みそうだな」と思うものを入れて提案したりします。もちろん、好みそうなものも、僕の味を出したものも、ある程度予想の上で出してみるようにしています。初めてご一緒する方の場合は「この人はどういうものを好んでやっているんだろう?」と調べてから、案をまとめます。そうやって考えていった方が、話が早いんですよ。時間は無限にあるわけではないので。

――初めての方でも、その方の関わった作品を見れば思考が分かるものなのですか?

ものによりますが、その方が「何を大事にしているのか」は分かるようになりましたね。当然、世の中にはいろんな衣裳があるので、こだわりも見えますし、その逆も見えます。もちろん、提案をする際はそればかりを意識しないようにはするんですが、要素としては考えています。

――衣裳プランナーさんというのは、一つの作品をお一人で担当されているのでしょうか。

基本的には一人だと思います。昔、一度だけ氣志團さんのライブで僕は2曲だけ担当・他にも衣裳プランナーさんが数人いる、という経験をしたことがあるんですが、それはライブだったので曲によってテイストが違ってよかったから成立していたと思うんですよ。舞台衣裳の場合、一つの作品に衣裳プランナーが複数人ついてやると、おかしなことになってしまうような気がします。

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――今回の取材をお願いしたきっかけでもあるのですが、舞台「銀牙 -流れ星 銀-」~絆編~のビジュアルを見て、衣裳の力を強く感じました。小原さんが、衣裳プランナーとして一番大事にしてることは何ですか?

ありがとうございます。大事にしていることは、たくさんありますね・・・当然、かっこいいとかも大事なんですが、お客様が楽しい、見やすいことが、まず大事にすべきことだなと思っています。最終的にどこに届けるかといえば、お客様の目ですから。舞台衣裳を作る上では、作り手の自己満足になってしまうことが一番嫌だなと思っているんですよ。「俺が作りたかったのはコレだ」「俺が思う“かっこいい”はコレ」といった提示がしたいのならば、普通のファッションをやればいい。衣裳とファッション、一番の違いはそこだと思っています。

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――観る側にとって衣裳は作品を構成する要素として大きいものだと思うのですが、例えば、つかこうへいさんの作品などで見る「全員ジャージ姿」といった、衣裳の持つ要素を極限まで削ぎ落とした舞台もありますよね。

あれも一つの「コンセプト」だと思います。細かくきれいに、一つ一つを作り込むことも大事なんですが、「プラン」という大きな意味で、あの形はとても素晴らしいです。衣裳にとらわれない。とても潔い。僕はそういうのが好きだったりします。

――お話を伺っていて、小原さんは演劇が大好きなんだなと感じました。

仕事を始めてから演劇に触れましたが、小劇場に育ててもらった身なので。小劇場って、やっぱり独特の熱さがありますよね。今、2.5次元作品に携わっているスタッフさんも、僕と同じように小劇場を愛し、かつ、そのスピリッツを持っている人が多いんですよ。特に、ミュージカル『刀剣乱舞』に関わっている方は、そういう方が多いんじゃないかな。僕らが持っているそういう熱が、作品からも伝わっているといいなと思っています。

――2.5次元作品は元の絵がある場合が多いですが、オリジナル作品の場合はどのようにイメージを膨らませていくんですか?

ケース・バイ・ケースです。台本ができていても、キャストが決まっていない場合やその逆、プロットだけで進め始めなければならない時もあります。そういう場合は、演出家さんと話をしたり、脚本家さんにプロットからもうちょっと踏み込んだことやオチが決まっているなら教えてもらいます。その答えによって考えを変えることもあるんですけど、優れた台本には、直接的に書かれていなくても、答えがすでにそこにあるんですよ。多分「この本読んだら、みんなこう思うだろうな」という答えが。

――読めば分かる、ということですか?

そうじゃない台本が優れていないと言うわけではないんですが、衣裳屋にとっては、優しいんです(笑)。例えば、ト書きに「彼は白いスーツを着ている」と書いてあるわけじゃないんですが、性格がちゃんと書かれていればのキャラクターの輪郭が分かるんですよね。それはもう、あとは実際に服を着るだけ、ということですから。

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――昨年末に上演されていた『僕らの未来』や、最近上演された時速246億さんの『ラビトン』を拝見して、小原さんはイメージを掴み取る力がとても強い方なんだなと思ったのですが、もともと小説などを読んでイメージするのが好きだったとかあります?

もともとは本をたくさん読むタイプではなかったんですが、若い頃、暇でお金がない時は結構読んでいたかな。よく、出てきた登場人物を友達のビジュアルで考えて「こういうのを着せよう」とか勝手に当てはめて遊んでいました(笑)。もしかしたら、それが少しは今に役立っているのかも。

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――オリジナル作品の場合は、既製服を使うことも多いんですか?

そうですね、ストレートプレイの場合は既製服を使っていることも多いです。作品によりますが、その方が見ている方にも見やすいのではと思います。「こんな色のこんなもの」は探すより作った方が早いけれど、市販のものでイメージに近いものがあるならばそれを加工すればいい。台本に書いてある通りに「この人はこんな服着ないだろう」「この人はこういうのを着ているよね」と考えた結果、「Tシャツにジーパン」だったら、既製服の方が絶対いいですから(笑)。

――もう一つ、小原さんの作る衣裳はシルエットがとてもきれいですよね。お客様からも、そういった声が多数ありました。何かこだわりがあるのでしょうか?それとも、別のところに重きを置いた結果、きれいなシルエットが生まれるのでしょうか?

これもまた、2.5次元作品とそうでないもので変わってくるんですが、2.5次元作品でないものに関しては、キャストのスタイルに合わせて考えたりしているので、おのずといいシルエットが出来やすいんだと思います。「顔が小さい」とか「肩幅があるけど細い」とか、いろんな体形の方がいますが、「こうしたら一番キレイに見せられる」というノウハウがあるので。

2.5次元作品はキレイに仕上げるのが本当に難しい。元のキャラクターみたいな人は、現実にはほとんどいないじゃないですか(笑)。今の若い子たちはみんなスタイルがいいんですが、それでも2次元には追いつかない。バランスを優先すると足りない部分が出たりしますが、それでも近づけるというのが本当に難しいですね。

――しかも、舞台ではその衣裳で「動」きますからね。

作るのが大変な衣裳ほど、動いた方がかっこいいと思うんですよ。ミュージカル『刀剣乱舞』とか、毎回「うわ~、これ作るのか・・・」と気が遠くなるんですけど(笑)。でも、そこを考えるのも、2.5次元作品に携わる上で楽しいところです。設計はアシスタントがやってくれたりするんですが、基本、見た目のバランスは全部自分でとって、仕掛けも全部考えるんです。「ここにジョイントを付ければ邪魔にならない」と小道具さんに仕様を伝えて頼んだり、演出上見えないものはすべてカットする方法を取ったり。本当はいっぱい着ているんだけど、見えないんだったらTシャツで済ませる、その分上の生地を厚くする、とか。ハイブリッドな衣裳作りを心がけながら、動きと重厚感を両方出せるように毎回考えています。

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――重厚感と言えば、小原さんは布選びに注目している声もありました。

布選びは重要ですね。刀ミュを例に出すと「変わった生地は避けてほしい」という希望があったので、なるべく普通のものの中から選んでいるんです。黒ならちゃんと真っ黒、みたいな。一方で、少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-の場合は、プロジェクトの立ち上げと同時に舞台があるという企画だったので、アニメの絵しか無いという状況だったんです。じゃあ、舞台衣裳として舞台少女たちのパーソナルな部分を踏まえて立体化しようということで、和の雰囲気が強い子は和っぽい生地、活発な子には迷彩柄など、照明が当たった時にキレイに見えるようにと考えました。舞台では、平面的なものより立体感があった方が、照明がキレイに乗るんです。

少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-の場合は、もう一つ「みんなが役を好きになってくれたらいいな」という思いもありました。演じる子たちはそのキャラクターのオーソリティーになるわけですし、皆さんがキャラクターを初めて目にするのも舞台上でしたから。キャラクターを好きになってもらうために、布選びから力を入れました。

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――同じ作品が再演されることもありますが、キャスト変更など以外の要素で、衣裳をブラッシュアップしているんですか?

します。衣裳を作る時は、もちろんキャラクターごとに掘り下げて作るのですが、本当に出来上がるのって、役者さんが着てからなんです。公演を重ねていくと、役と役者さんがどんどん同化していくので、最初に僕の考えのもとで作った衣裳に違和感が出てくることもあるんですよ。その度に、役と役者さんの間をちょっとずつ詰めていく・・・これは2.8次元ぐらいの作業かもしれません。

だから、一度登場したことのある衣裳でも、最初から同じものというのは少ないんじゃないかな。元絵に沿うと「裾が長すぎて殺陣ができない」なんてこともあるんです。でも、だんだんと役者さん側の技量が上がっていくと、逆に「上手くなってきたから伸ばそう」ということになったりもします(笑)。

――それは、日々の公演の中でも行われているんですか?

僕の場合、見た目については同一公演の間、一切変わらないようにします。初日と千秋楽で違うものになってしまうのはどうかなと思うので。ただ、機能面はどんどん変えていきます。だから、見た目は変わらないけど役者さんは快適になっていっているのではと思います。

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――一つの公演が終わるまで、小原さんの仕事は続いているんでしょうか。

もちろん問題が発生したら都度手を加えていくのですが、他の案件も平行してやっているので、僕的には初日までです。稽古場で衣裳付き通しをやって、劇場に入って場当たりをして、ゲネプロがあって、初日。本当は、ゲネプロの時にはすべて解決していないといけないので。理想は、稽古場の衣裳付き通しで全部クリアにしておいて、本番の舞台ではどうかと試す時間をしっかり確保した上でゲネプロに臨む。そういう意味で、僕の仕事は初日までって思っています。

――後半では、小原さんが手掛けられた作品について、もう少し具体的にお聞きしてみたいと思います。たくさん質問もいただきましたので!

劇場って広いから、舞台に近い席にも遠い席にもお客様はいらっしゃるじゃないですか。だから、近くだけを意識すると遠くまで伝わらないし、遠目だけを意識しすぎると近くで見た時におかしくなってしまう。良いバランスに落とし込むことを、常に意識してテーマにもしているので、質問から皆さんがしっかり見てくださっているんだなあと分かって、とても嬉しいです。

後編:衣裳プランナー・小原敏博の考える2次元としての『ウソ』と3次元としての“ゴール”

※後半では、小原さんが手掛けられてきた作品にフォーカスを当て、より深く聞いていきます。どうぞお楽しみください!

【舞台「銀牙 -流れ星 銀-」公式HP】https://www.ginga-stage.com/
【公式Twitter】@stage_ginga

(C)高橋よしひろ/集英社・舞台「銀牙 -流れ星 銀-」

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