第4回企画「舞台の仕掛人」<前編>CLIE代表取締役社長・吉井敏久が作品に込める“驚き”と“発見”


舞台にまつわる様々な分野で活躍されている方にスポットを当て、お話を聞いていくエンタステージの企画「舞台の仕掛人」。第4回目のゲストスピーカーには、映画製作、舞台公演の企画・提案・キャスティング・制作を行う株式会社CLIE代表取締役社長・吉井敏久さんをお迎えしました。

“ヨシP”さんの愛称で、ファンの皆さんにもおなじみの吉井さんに、演劇との出会いや、作品を作る上で大切にしていることなど、様々なお話を伺いました。

第4回企画「舞台の仕掛人」CLIE代表取締役社長・吉井敏久_前編

――この度は、取材をお引き受けくださりありがとうございました。まず、吉井さんと演劇の出会いについてお聞きしたいのですが・・・。

僕、中学生の時に演劇部に所属していたんですが、それはまったく、今と結びついてなくて(笑)。目立ちたがり屋だったので、本当は役者になりたかったんですけど、才能がないからすぐ諦めたんです。広島の呉の出身ということもあり、演劇を観る機会もほとんどなくて。映画が好きだったので、映画を作りたいと東京に出てきたんですが、その勉強の一環で「演劇も観た方がいいよ」とアドバイスをもらって観始めたのが、本当の意味での演劇との出会いかな。

――それは何歳ぐらいの頃のことですか?

上京したばかり、20歳ぐらいの頃です。最初は、そんなに演劇に感銘を受けた!みたいなことはなかったんですが、下北沢のザ・スズナリで観た遊気舎の芝居が、本当におもしろくて。役者さんのこともまったく知らないし、ストーリーもまったく知らないで行ったんですが、今も強烈に覚えています。それまで、僕の中では映画が絶対だったんですけど、本当におもしろい演劇には、映画はかなわないんだって思ったんです。

なぜかというと、映画はフィルムを通して観る。テレビもそうですよね。でも、演劇は、目の前の出来事を一緒の空間で一緒に感じる。生々しさという点で、どうやっても映像は演劇に叶わないことを意識したんです。でも、まだこの段階では演劇をやろうとはまったく思ってなくて。音楽とか、ファッションとか、たくさんある好きなものの一つという感じでした。

――演劇とがっちり関わったのは?

偶然です。僕、人生全部偶然かもしれない(笑)。一番の理由はマーベラスに入ったことなんですが、最初は映像担当として、ドラマ制作スタッフとして入ったんです。瀬戸丸(瀬戸康史)や、ケンケン(鎌苅健太)などが出ていた『ハッピィ★ボーイズ』という作品です。

舞台では、マーベラスがアニメもやっていたことから、ミュージカル『エア・ギア』が担当でしたのでこれががっちりと関わった始まりです。このシリーズのインタビューでろっぽん(六本木康弘)が、急遽代役で出ることになったという話をしていたかと思うんですが、そのデビューを目の前で見ていました(笑)。

――すごい!歴史が交わりました。吉井さんは、当時は何を担当されていたんですか?

当時のマーベラスは、制作をネルケプランニングさんにお任せして、原作の権利関係とDVDなど映像関係を担当する形を取っていたので、当時の僕は、舞台を制作するというよりは、DVDを作るスタッフとして現場に付いていました。

第4回企画「舞台の仕掛人」CLIE代表取締役社長・吉井敏久_極上文學

――吉井さんがプロデューサーという立場でお仕事をされるようになったのは、どのあたりからですか?

これは微妙なところですね・・・。正式な立場としてではないですが、私としては『メモ・リアル』という作品から、意識的に自分がプロデュースしていたと思います。舞台『弱虫ペダル』の初演も同じ意識で関わっていました。はっきりとクレジットされる仕事をしたのは、CLIEに来てからかな。『極上文學』シリーズが、プロデューサーとしての最初の作品ですね。

――具体的に、プロデューサーさんはどういうお仕事をされているのでしょう?

プロデューサーによって違うかもしれないですが、僕の中では、きちんとお金を儲けられる公演にすることです。これをお客さんに表立って言ってしまうのは、恐縮なんですが・・・。だからこそ、次の作品にお金を回していく、というのが重要なことだと思っています。

――クリエイティブの推進力ですね。

演出家、脚本家、制作スタッフ、キャストと、いろんな人の力に、ちゃんとお金を還元してあげる。良い作品を作ってお客さんが楽しんでくれれば、お金を使ってくれるわけで。そこに、最終的な責任を持つのがプロデューサーなんだと思います。

――商業である限り、そこは切っても切れない関係ですよね。ここまで、吉井さんの経緯を伺ってきましたが、ご自身のターニングポイントというと・・・。

やっぱり、マーベラスに入ったことだと思っています。映画を作りたいと上京しながら、10年ぐらい広告業界でCMを作っていたんです。でも映画への気持ちが捨てきれなくて、最後のチャンスと30代半ばで転職して、初めてエンターテインメント業界に入りました。同じ映像を扱ってきたのに、CMとエンタメでこんなにも違うんだということにたくさん直面して。そこが、一番の転機でしたね。

――同じ映像でも、目的が全然違いますもんね。

そう、CMは自分たちの作品ではなく、クライアントの商品を売るためものなので。最終決断はクライアントや代理店がしますからね。クリエイティブでやることは、多くの制約がある中で、どういう提案をし、理屈が通っていて、楽しく、その上で商品が売れるものを作ることが目的。でも、エンターテインメントは全然違うんですよね。面白いものを作るのが目的。エンタメ業界に来てからは、制限がないことに戸惑いました(笑)。

「おもしろい」とか「楽しい」って、本来、人によって尺度が全然違うものなんですよね。エンターテインメントは、誰にとって楽しいものを作るかが大事なんだと思います。考え方はまったく違うものですが、広告での経験は今に活きているかな。演劇を作る時も、ちゃんと目標を決めて、向かうゴールの旗印を決める。エンタメって、「おもしろい」も「楽しい」も無限にあるから、ゴールを明確にしておかないと、みんながあっちにもこっちにもいって、何を作っているかわからなくなりますから(笑)。旗印があると、どんな未経験の人でも自由に意見を言えるんです。それが、今の僕のこだわりですね。

――CLIEさんの作品はいつも、いい塩梅で演劇好きの人たちのツボを突いてくると思っているのですが、どのように企画立案はされているのですか?

うちは、僕ともう一人の、二人しかプロデューサーはいないのですが、社員全員で意見を出し合っています。
2.5次元作品を作ろうといった場合、ネルケプランニングさん、マーベラスさんといった会社は、お客様からの信頼が絶大ですよね。僕らがそういう会社さんと同じことをやっても、どうしても太刀打ちできない。絶対におもしろいものを作る自信はあるんですが、それだけではお客さんに選んでもらえない。だから、並んだ時に「やっぱりCLIEだね」と気になってもらうものを作って戦おうと、いつも思っています。もちろん、すごくメジャーな作品をやってみたいという気持ちもあるんですけどね。この考えも、広告業界っぽいかもしれないんですけどね。

――そういうチョイスを重ねていった結果が、今のCLIEさんのカラーになっているんですね。CLIEさんが手掛けている作品は、CLIEさんしかできないなと、これまでの作品を振り返っても納得感があります。

それ、お客さんにもよく言っていただくんですよ。とてもありがたいです。

――作品を作る上で、これだけは譲れない点はありますか?

常に、“驚き”と“発見”を入れたいと思ってます。なかなかうまくいかないこともありますけど(笑)。僕がスズナリで遊気舎を観た時のように、生でとんでもないことが目の前に広がっているという驚きが、一番人を魅せられるんですよね。映像だったら編集でどうにでもできますが、演劇という生身の体験ではその瞬間にどうお客さんを驚かせるか、そういうことか!という発見につなげられるかが大事です。もちろん、そういう要素を入れなくても舞台は作れるんですが、自分が関わる作品は“驚き”と“発見”のあるものにしたいという思いを持ち続けています。

――いろんな作品がありますが、観た人が振り返った時に一番残っているのは、そういう部分な気がします。

作り手側としても同じです。例えば、マーベラス時代に作った舞台『弱虫ペダル』は、僕の中でも強く忘れられない感覚が残りました。

――あれは本当に衝撃でした。

当時、東日本大震災以降の流れで、劇場に足を運んでくださるお客さんが減ってしまっている時期だったんです。少しでもお客さんを呼ぶためにゲネの映像を編集してWebで公開したいと(西田)シャトナーさんに相談したんですが、「吉井さん、それだけはダメです」と言われたんですね。何故かと聞くと、「ハンドルしか持ってない状態を、お客さんがいきなり観たら、それは笑います。だからそうならないように舞台は作ってるんです。ごめんなさい」と。これこそ、映像では伝えきれない“驚き”ですよね。そして、それがちゃんとお客さんの中に残っているからこそ、今でも続く素晴らしいシリーズになっているんだと思います。

――CLIEさんのキャスティグについては、吉井さんは関わられていますか?どんなことを大事にされていますか?

もちろん関わっています。でも、最近はできるだけ若いスタッフの意見に任せたいとも思っています。大事にしていることは、お芝居を楽しめる人とやりたいということですね。よく、事務所の方から「中途半端な子はCLIEさんに出せない」とか、「入ったばかりで自信のない子は出しづらい」みたいなことを言われるんですよ。そんなことはまったくないんですけど・・・。でも、目立ちたいとか、有名になりたいというだけの人は、ちょっと違うと思うのかも。でも、本当にそんなハードルが高いわけじゃないんですよ(笑)。

――CLIEさん作品の常連の皆さんは、複数の作品に出られている方も多いですよね。

ご縁は大事にしたいですね。一回ご一緒して、よかったらずっと一緒にお仕事したいですし。多分、何度もお願いをしている方は、いつお稽古場で楽しそうに芝居をしている人なんだと思います。

最遊記歌劇伝

――中でも、CLIEさんの作品に藤原祐規さんが出ていると安心感があるなと思います。

たぶん、プロデューサーには、それぞれに一番信頼する役者がいると思います。何があっても安心できる、任せられる人。僕にとっては、藤原がそういう存在なんです。企画を考えながらも「これは藤原っぽい」とか考えることは多いし、ちょっと困った時は「ふっきーにいてほしいな」と思う、みたいな感じです(笑)。

――信頼感の表れですね。

『マグダラなマリア』とかをやっていた頃は、三枚目というか、楽しい役が多かったんですけど、極上文學の2作目『銀河鉄道の夜』の時、本当に芝居がうまくてかっこいいって思ったんですよ。それがきっかけで、舞台『ペルソナ3』シリーズの真田明彦役や、『最遊記歌劇伝』の猪 八戒役というキャスティングが生まれました。彼は、「重荷です」とか「僕はそこじゃないです」とか言ってましたけど(笑)。彼のもう一つの面を観たかったんですよね。

『うさぎレストラン』

意外な面というと、植田圭輔くんとかも、かわいらしい役をやることが多かった頃、怖い面とかかっこいい面を見せたいと思って、ほかではやっていないような役をお願いしました。それから、おもしろかったのは桑野晃輔くん。『うさぎレストラン』の打ち上げで「僕、まだ女性役やったことないんです」って言ってきたから、次の日に早速オファーを出して、極上文學の6作目『ドグラ・マグラ』で女性役で出演してもらいました(笑)。

――キャスティングする際、難しいと思うことはありますか?

そうですね~・・・。事務所さんの意向と、ファンの皆様が求めることと、僕らの考えが合わないことが、最近少し多くなってきたような気がします。あとは、皆さん本当に多忙で、スケジュールが取れないんです。それだけ、演劇の公演数が増えているということなんでしょうね。

――シリーズ作品を作る時、同じキャストでやり続けるって、大変なことなんですね。CLIEさんの作品は、シリーズとしてコンスタントに上演されているものが多いと感じるのですが、最初からシリーズ化は視野に入れていらっしゃるんですか?

そうですね。あまり単発では考えてないですね。何故か・・・実は、あまりそこを気にしたことはなくて(笑)。マーベラスやネルケさんの作品の中で育ってきたので、わりと当たり前のことで意識してはいなかったんです。
そこで改めて考えてみたんですが、世界の演劇を見渡してみると、シリーズ化されているものってほとんどないんじゃないかと思ったんです。再演はあります。でも、お話が続きのものになっている有名な作品って、世界ではあまり思い当たらなくて。そう考えると、日本の演劇は特殊なのかもしれない。

ブロードウェイでは、人気が出ればロングランで見せていくという文化がありますよね。娯楽として日常に根付いているからこそ、同じものを違うキャストで何度も観る楽しみ方がある。日本だとそこがちょっと違って、同じものを観るなら、違う作品にお金を出すという人が多いんだと。

そして、やっぱり漫画の存在が大きいと思います。毎週、数多くの漫画が週刊誌として作られている。漫画に限らず、新聞でも小説の連載があったり。つまり、僕らは知らないうちに、生活の中でシリーズとして何かを見ることに慣れている。映画でも、「寅さん」シリーズなんてとんでもなく続きましたよね。それが当たり前の国になっているから、舞台に関しても、あまり違和感を持っていなかったのかなと思いました。

――前提としてシリーズ化を考えている場合も、実際にするかしないかの基準は?

また現実的な話をしてしまうんですが、やっぱりお金の面が大きいと思います。それから、お客さんの声。作品がビジネスとして成功したかどうかという点では微妙な作品も、終わったときにお客さんの声が大きく熱量が感じられた場合、この熱量があれば次は成功するじゃない?と舵を切ることもあります。その判断は、勘でしかないのかもしれません。

――やっぱり、お客様の声って大事なんですね。

もちろん。うちで言うと、『極上文學』は続けるつもりなかったんですよ。初演は、あんまりお客さんも入りませんでした。でも、少し経ってからSNS上で「また観たい」という声が徐々に大きくなっていったんです。「お客さんがそう言ってくれるのなら、またやってみる?」と仲間と話し、次の作品を作ることにしたんです。あの時のお客さんの声がなかったら、『極上文學』は続いていなかったです。僕らの中でも驚きの嬉しい出来事でした。

第4回企画「舞台の仕掛人」CLIE代表取締役社長・吉井敏久_前編2

――シリーズ化する際、これだけは譲れないということはありますか?

マンネリ化はさせたくないと思っています。一回成功したものをそのまま上演するというのは、作り手もお客さんも安心するものだと思いますが、僕はそれではダメだと思っています。求められていたとしても何かを変えていくべきだと考えます。マンネリ化したまま続けても、落ちていくばかりですから。常に、チャレンジをしていく姿勢だけは、崩さず、譲らず、でいたいですね。

※後半では、それぞれのCLIE作品の成り立ちについて迫っていきたいと思います。お楽しみに!

『最遊記歌劇伝-Reload-』 (C)峰倉かずや・一迅社/最遊記歌劇伝旅社 2015
『うさぎレストラン』 (C)2014CLIE
本格文學朗読演劇極上文學 第13弾『こゝろ』 (C)2018 CLIE/MAG.net

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