第2回企画「舞台の仕掛人」<前編>殺陣師・六本木康弘が繰り出す“動機からの一手”


“いつもとはちょっと違った視点”で舞台を紐解く、エンタステージの新企画「舞台の仕掛人」。舞台にまつわる様々な分野で活躍されている方に、様々な角度からお話を聞いていくこの企画ですが、第2回目のゲストスピーカーには殺陣指導としてご活躍される六本木康弘さんにご登場いただきました。

六本木さんがシリーズ初期から関わっている『メサイア』シリーズを中心に、お客様に募集させていただいた質問を織り交ぜながら、六本木さんに“殺陣”について教えていただきました。前半では、六本木さんの演劇ルーツに見る「殺陣師への目覚め」と、「殺陣ってどうやってつけているの?」といったお話をお届けいたします。

第2回企画「舞台の仕掛人」殺陣師・六本木康弘<前編>

――今回は、取材オファーを受けてくださりありがとうございました。第1回企画の際、アンケート募集を行ったところ、多くのお客様からぜひ「六本木さんのお話を聞いてみたい」というお声をいただいたんです。

とても嬉しいです・・・。ありがとうございます!

――まずは、殺陣師としてこれだけ多くの作品でお名前を拝見する六本木さんが、どのように演劇の世界に入られたのかというところからお伺いしていきたいと思います。

きっかけは、友人の一言がきっかけでした。皆さんもご経験があると思うんですけど、高校卒業後の進路に悩んだんですね。当時の僕は、大学に通おうと塾に通いながら、好きなバスケットボールを続けていたんです。しかも、バスケをやりながら跳び箱を跳んだり、くるくる回りながらやったりということをやっていまして。それを見ていたバスケ部のキャプテンをしていた友人が、何気なく「スタントマンとか、向いてるんじゃない?」と言ってくれたんです。

――そ、それは相当身軽だったんですね・・・!

遊びの延長だったんですけど・・・ノリでやっていました(笑)。その友人の一言から「スタントマンってなんだろう?」と気になり、先生に相談したんです。「とにかく調べてやる」と先生が探してきてくれた分厚い芸能雑誌で、(現在所属している)ジャパンアクションエンタープライズ(JAE)の名前を見つけました。

――そこから、JAEに入られたのですか?

いや、実はすぐに入ったわけではなく・・・。その進路相談をした先生に「ここはオリンピック選手を目指すような人や、一芸に秀でた人が集う場所だから、バスケットボールしかできないお前が急に行っても無理だ。。まずは、何か格闘技をやりなさい」とアドバイスをもらったんですね。
確かに、オーディションを受けるには何か経歴が必要だなと思ったので、大学には行かず一度フリーターになり、テコンドーに取り組んだんです。テコンドーを選んだのは、蹴り技としての美しさ、しなやかさに興味があったから。1年間はがむしゃらにバイトをしながらテコンドーをみっちりやりまして、関東を制するところまでいきました。
1年経ったらオーディションを受けようと決めていたので、そこでJAEの門戸を叩き、養成所に受かり、その後事務所にも入れていただき今に至ります。

――1年で関東を制した身体能力にまた驚きなのですが・・・!スタントマンから役者へは、どのように?

スタントマンとしては、ヒーロー作品に2、3年携わらせていただいていました。役者に興味を持ったきっかけは、同期が舞台に出ていたからです。その姿を観て、「いいなあ」と憧れまして・・・。
そうしていたら、ある時、同期が出演する舞台の1週間前に怪我をしてしまったんです。その代役に、たまたま僕が選ばれました。当時はまだ2.5次元という言葉はありませんでしたが、それは漫画を原作としたミュージカル『エア・ギア』という作品でした。当時の僕は、22、23歳ぐらいだったかな。代役になったものの、アクションはできても芝居は全然できない状態だったんです。でも、現場はすでに通し稽古が始まってる状態で・・・。緊張でパニックになってしまって、台詞が言えず、演出を手掛けられていた茅野イサムさんにめっちゃくちゃ怒られました(笑)。

――なかなか過酷な状況で役者デビューをされたんですね・・・!

でもこの経験が、僕のモチベーションをものすごく高めてくれたんです。この舞台、千秋楽前日に、メインキャストの一人だった上山竜治(当時RUN&GUNのメンバーだった上山竜司)くんが骨折してしまうという大事件も起きたんですね。竜治くん自身も悔しい思いでいっぱいだったと思うんですが、急遽、僕の先輩がアクション部分を担当し、竜治くんが歌と芝居部分をがんばる形でやり遂げました。お客様が見守ってくださったことも含め、皆で一丸となって舞台をやり遂げる。そのことに、ものすごく感動したんです。ナマモノである舞台、お芝居の良さに魅せられて、役者としての活動を始めました。

――現在、殺陣師として多忙を極めている六本木さんですが、その道はどこで開かれたのでしょうか?

殺陣ではないんですが、役者として参加させてもらったミュージカル『DEAR BOYS』(バスケットボールを題材とした漫画原作の舞台)で、リーダーを任されたことがきっかけかな。プロのコーチもついてくださっていたんですけど、僕もバスケが得意ということで、皆に教えたりしていたんです。今振り返ると、人に伝えることが好きだと気づいたのがこの作品でしたね。

殺陣師として、初めてきちんとポジション(アクションコーディネーター)をいただいたのは『メサイア -白銀ノ章-』です。それまでも関わらせていただいていたのですが、先輩の補佐という形だったので。

この時は、定石充役として出演もしていて、そんなに殺陣師というものを意識してはいなかったんですよ(笑)。でも『-白銀ノ章-』で定石が死亡しまして。もう出れないなあ、寂しいなあと思っていたところ、改めて殺陣指導として呼んでいただくことになりました。

――六本木さんのご経歴を拝見すると、ここから怒涛のように殺陣師としてのお仕事が続いていきます。

出演者ではなく、殺陣指導という立場になることで、今までプレイヤーとして作っていたものが、お客様の目線というか、ゼロ目線で作れるようになったんです。印象深かったのが『メサイア -翡翠ノ章-』。この作品で、シリーズ初期から関わってきた海棠鋭利役の松田凌くんと御津見珀役の小野健斗くんが卒業することいなり、「この二人をめっちゃかっこよくするには?」ということを徹底的に追求したんです。丁寧に細かく作り上げた結果・・・本番初日に泣いてしまいました。役者は千秋楽にこみ上げるものがあると思うんですけど、作り手側って、初日が開けた時にガッツポーズするんです。「できた!」って。

あの感動は、未だに忘れられないです。これをずっと続けていきたいと思った瞬間でした。自分の想像したように動いて、しかもそれを超えるてくる役者の姿を見られるなんて、こんな快感ありません。

スタントマン、役者、振付補佐など、蛇行してきた人生ですが、いろいろ経験してきたからこそ、できることがあるんじゃないかと思っていて。一緒にやってきた役者も、お世話になったスタッフさんも仲間。今の僕は、この仕事が楽しくてしょうがないです。

第2回企画「舞台の仕掛人」殺陣師・六本木康弘<前編>_2

――六本木さんご自身が舞台に魅せられた方である、ということが今を作り出しているんですね。

殺陣を手掛ける人って、どちらかというと映像でアクションを追求している方が多いんですよ。僕は舞台が好きですし、役者として舞台を経験してきたスキルを活かしたいと思って、舞台を中心に活動しています。

今回、『メサイア -月詠乃刻-』と同時期に、5作品に携わらせていただいているんですが、どの現場でも、殺陣師と役者の関係ではなく、“仲間”である感覚でいます。相談に乗ったり、飲みながら「明日これやってみよう」と一緒に試行錯誤したり。自分が役者としてやっていた時も、裏方として指導する立場になった時も、スタンスは同じ。経験と技術はまだまだなんですが、その分“同志”として役者、スタッフ、双方に寄り添えたらと思っています。

――実際に、殺陣はどのように考えられていくのでしょうか?

作品やシーンによりますが、セットと言う空間は絶対に動きませんよね。その中で、まず立ち位置が決まります。それぞれの登場人物は、どういう状態でそこに立っているのか?刃物や銃を持っている場合、それを向ける相手との距離感は?さらに、そこまでの心情などを考えながら、僕も台本を持ちながらその場所に立ちます。

その場所で、その人物の役になる。そうすると、次の一手が出るんです。“動機からの一手”。これを常に考え、全員分、繰り返す。分からない時、迷った時は、役者さんに「俺はこう思うんだけど、どう?」と聞きます。お芝居に慣れていない方だとこちらの提案で先に進めることもありますし、経験豊富な方であればまったく違った意見をもらうこともあります。考えが食い違った時も、僕の考えと役者さんの考えを融合させてみたらもっとおもしろいものになるんじゃないか。僕と役者さんの間でベストだと思うものを作って、演出家さんに持っていくんです。

――演出家さんからの決め打ちではなく、掛け合わせていくんですね。

僕と役陣でベストなものを作って演出家さんに投げる方が、僕の中では新しいものが生まれる感覚があります。演出家さんにも役者さんにも、僕のプランを投げるだけだと、つまらないじゃないですか(笑)。現場によって、演出家さんのプランも違いますし、役者さんの技量も違う。そこには、僕の考えにはないことが常にあって、それを汲み取って舞台に乗せると、絶対新しいものが生まれる。だからやっていて楽しいし、お客様にも伝わるものができると思うんです。このシーンは何を見せたいのか。お客様に何を伝えたいのか。これを忘れず、丁寧に見落とさないでつなげていくために一番良い道を探し続けていくと、役者さんも消化してくれると思っています。

――ちなみに、殺陣をつける相手の性別で、六本木さんのプランは変わったりするのでしょうか?

変わります!これは、僕もモーニング娘。さんの舞台に携わらせていただいて感じたことなんですが、多くの場合、男性は子どもの頃にヒーローものが好きだったりして、アクションに親しみがあるんですよ。だから、殴る、蹴るといったアクションだけでなく、刀や銃を持ったアクションも、男はなんとなく想像がつくもので(笑)。でも、女性はあまりそういう要素を持っていないことに気づきました。

例えば、相手への怒りから、刀を持ち、斬りかかる・・・というアクションがあったとします。これに対し「今、怒ったよね?」「何を持っていますか?」「それをどうするの?」「本当にやるの?」「どういう気持ちで?」「その後はどうするの?」こういった段階で、一つ一つの気持ちを作っていく。“動機からの一手”を、女性に殺陣をつける時は、より丁寧に導いていくようにしました。

モーニング娘。の皆さんも、最初は時間がかかったんですが、プロ意識が高いし、掴むのも早くてさすがでした。掴んだ瞬間、女性ならではの葛藤や苛立ちが際立って・・・。男性にはたぶん表現のできないものが出来上がりました。そういう部分を引っ張り出せたのは、僕としてもすごく大きいことで。男性でも女性でも、もっと観たい!と思うぐらい、化ける姿が見られると嬉しくなります。

――六本木さんが考えた殺陣は、実際にやって見せて伝えるのですか?

役者によりますね。殺陣に慣れてない方の場合は、1回やって見せることが多いですが、それでできたものは僕のコピーなんですよ。僕が実現したいと思っているのは「あなたの身体能力を活かした動き」なんです。僕が想像より、もう一段上へ上がりたいんです。実際にやるのは役者さん本人ですから。本人の良さをできるだけ引き出したい。だから、役者さんががんばってくれて「やっと真似できた・・・」という状態になっても、「余裕ありそうだからもうちょっと難しくしていい?」とやっていきますね(笑)。

――お話を伺っていて、殺陣指導も一つの演出なのだなと感じました。

最近、殺陣を作る上で、台本がすべてではないことがある、ということを学びました。台本には、基本的に台詞やト書きが書かれていますよね。実際にそれをやってみたら、流れが不自然・・・ということがあって。どうしたらいいんだろう?と悩んでいた時に、ある現場の舞台監督さんから「台本を読んでいるだけじゃなく、自分の台本を作れ」と言われたんです。

そこで、悩んでいたシーンを、一言一句、すべて紙に書いてみることにしました。役者さんでも台詞を“書いて覚える”という方がいると思うんですけど、同じようなイメージです。書いていくと「ここにこういうアクションを入れれば、不自然じゃないのでは?」とか、「このワードは、この行動の後に出てきた方が自然では?」とか、いろんな違和感の正体が見えてきて。それを演出家さんに話して、変えてやってみたら、すごくおもしろい仕上がりになったんです。

この経験をするまで、台本がすべてと思ってやってきたのですが、そうではなかった。台本はパズルのようなもので、動きという要素を加えて再構築することで、皆がゴールに向かっていきやすい流れを作る。演劇って、なんて自由なんだ!と思いました(笑)。現場によって、いろんな考えや縛りもあると思うんですけど、目的は一つ。おもしろくて、いい作品にするために、アクション以外のことも気を配るようにしています。

――お客様からも、六本木さんのつける殺陣はすごくリアルだという声が多数寄せられたのですが、その理由が分かった気がします。

『メサイア』シリーズをやる中で役者さんに常に言っているのは、「アクションも大事だけれど、その前後も大事に」ということなんです。「戦う」「殺す」といったお芝居は、決めどころから残滓の姿まで、前後の心情がしっかり表現できていないと、お客様の目をぐっと惹きつけるアクションに持っていけないですから。前後の繊細な部分を含めてアクションなんだということを、伝えるようにしています。『メサイア』は特に、最初から最後までその状況が続くので。観てくださったお客様がそれを一緒に感じてくださっていたのなら、とても嬉しいです。

※次回は、よりぐっと『メサイア』の世界に踏み込んだお話を聞いていきます。お楽しみに!

【後編はこちら!】第2回企画「舞台の仕掛人」<後編>殺陣師・六本木康弘の描く“エンタメ性と生き様”

関連記事:舞台『メサイア -月詠乃刻-』杉江大志×長江崚行×山沖勇輝インタビュー「いい意味で、観たことを後悔するぐらいの作品に」

関連記事:【動画】舞台『メサイア -月詠乃刻-』公開ゲネプロ

舞台『メサイア -月詠乃刻-』ビジュアル

◆公演情報
舞台『メサイア -月詠乃刻-』
【東京公演】4月14日(土)~4月22日(日) シアターGロッソ
【大阪公演】4月27日(金)~4月29日(日) メルパルクホール

【原作・ストーリー構成】高殿円「MESSIAH -警備局特別公安五係」(講談社文庫)
【脚本】毛利亘宏(少年社中)
【演出】西森英行(Innocent Sphere)
【音楽】大内慶
【殺陣指導】六本木康弘
【キャスト】杉江大志、長江崚行、山沖勇輝、橋本真一、山本一慶、小谷嘉一、伊藤孝太郎、石渡真修、豊嶋杏輔、西野龍太、三原大樹、村上幸平、内田裕也、大澄賢也

◆舞台『メサイア -月詠乃刻-』ライブ・ビューイング
【日時】4月22日(日)17:00開演
【会場】全国各地の映画館にて上映(予定)
【価格】3,600円(全席指定・税込)

【公式サイト】 http://liveviewing.jp/messiah/
【公式HP】http://messiah-project.com
【公式Twitter】@messiah_project関連記事:@messiah_project

事前の質問募集では、たくさんのご参加をありがとうございました!
皆様の聞きたいこと、お伝えできたでしょうか?
よろしければ、記事へのご感想・ご意見などお寄せください。

フォームがうまく表示されない方は、こちらよりアンケートフォームに飛べます。
アンケートフォーム

(C)MESSIAH PROJECT (C)2018 舞台メサイア月詠乃刻製作委員会

チケットぴあ
最新情報をチェックしよう!
テキストのコピーはできません。