川口大樹×ペヤンヌマキ×安藤玉恵が語る―福岡と東京、それぞれの演劇事情


谷崎潤一郎の『痴人の愛』を、男女逆転させペヤンヌマキの独自の視点で現代的に描く「ブス会*」版『痴人の愛』。2017年7月に東京・御徒町の古民家でリーディング公演を、12月に東京・こまばアゴラ劇場にて進化させた演劇版本公演を上演。来たる2018年1月21日(日)には、福岡・久留米シティプラザにてリーディング版の上演を行う。

それを記念し、福岡を拠点に活動する劇団「万能グローブガラパゴスダイナモス」作・演出の川口大樹と、長崎出身で演劇ユニット「ブス会*」主宰のペヤンヌマキ、東京生まれ東京育ちの安藤玉恵の3人に、福岡での演劇事情、全国で公演を行うことやお芝居の共通点について、東京小劇場演劇のメッカでもある下北沢・駅前劇場で行われた万能グローブガラパゴスダイナモス『ハダシの足音』公演後の劇場内で話を聞いた。

川口大樹×ペヤンヌマキ×安藤玉恵_対談

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――早速ですが、万能グローブガラパゴスダイナモス(以降、ガラパ)の紹介をお願いできますか?

川口:僕と主宰の椎木樹人が福岡の大濠高校という同じ高校の演劇部で。劇団☆新感線のいのうえひでのりさんが先輩にあたるんですが、そこから旗揚げた劇団ですね。いのうえさんが当時書かれた台本とか、まだ部室にあるんですよ。

安藤:えー、読みたい(笑)!

川口:だから新歓で新感線の映像を「先輩だよ」と見せたり。あと、やたら刀とかがたくさん残ってたり(笑)。エンターテインメント性というか、お客さんを笑わせたいし、楽しませたいという精神がそこで自分に染み込んだ気がします。

ペヤンヌ:確かに、今回の公演も笑いもあってSF要素もあって、ストーリーもわかりやすくて楽しませていただきました。間近で見たらこの(細かく切った新聞紙が敷き詰められている)舞台セットが、“記憶の堆積”を表現しているんですかね?

万能グローブガラパゴスダイナモス『ハダシの足音』舞台写真
万能グローブガラパゴスダイナモス『ハダシの足音』舞台写真

川口:そうそう、そうですね。

ペヤンヌ:ホームページを拝見して、コメディと思って来たのですが、今回はSFというか、ファンタジー成分が多めでしたよね。

安藤:そう、脚本もおもしろかったです。伏線がいっぱい張られていて、中盤からそれが回収されて物語が立ち上がってくる感じとか。

川口:ありがとうございます(笑)。実は今回はいつもよりコメディ要素が少ないんですよ。普段はもっとお茶の間な舞台セットで、1シチュエーションで・・・という感じなんですが、今回初めてこういった抽象的なお芝居に挑戦しました。

ペヤンヌ:私も『男女逆転版・痴人の愛』公演で、初めて抽象的なセットに挑戦したんです。・・・抽象って難しくないですか?

川口:難しいですね。色んな場面が作れる分、どうしたらいいんだろう?って最初は苦戦しました。

ペヤンヌ:それから、自分でブス会*の公演をやっていて、3都市ツアーってどうやるんだろう?っていうのが単純に疑問というか・・・どうしてるんですか?

川口:初めて2010年に東京のこまばアゴラ劇場でやった時は「とにかくやった!」という感じでしたね。普通、全国を回る劇団って、舞台セットももっとコンパクトで、持ち運びやすいもので芝居を作るらしいんです。でも僕らはいつも舞台セットを建て込むので、その時もガッツリ家モノで。なにも分からず「とりあえずフル装備で行くぞ」って(笑)。JR貨物が安い、ということを学びましたね。JR貨物、オススメです。

ペヤンヌ:そうなんだ!勉強になります。今回の公演はなるべく全国いろんなところを回りたくて、それで抽象的なセットを選択したところもあるんですよ。

万能グローブガラパゴスダイナモス『ひとんちで騒ぐな』舞台写真
万能グローブガラパゴスダイナモス『ひとんちで騒ぐな』舞台写真

福岡は、ペヤンヌマキにとって「東京より近い都会」

ペヤンヌ:劇団公演の台本は全部ご自分で書かれてるんですか?オリジナルで24本も?

川口:ほぼすべて、僕が書いてますね。

ペヤンヌ:すごいですね~。ブス会*、まだ7本しかやってない(笑)。私は長崎出身で、長崎にいる時に地元の劇団の作品もいろいろと観ていたんですが、既成の戯曲で公演していることが多くて。今、福岡でオリジナルでやっている劇団ってどれくらいあるんですか?

川口:うーん、継続的に公演をやってるのは30とか40とかですかね?

安藤:そんなにあるんですね!

ペヤンヌ:福岡は都会ですもん。長崎に住んでた時、そういうイメージを持っていました。東京まで行けない時に行ける、ちょっと近い都会。同じ九州でも違うなって、うらやましかった覚えが。

川口:今は九州内での演劇人同士の交流もさかんで、九州内でツアーをやったりしますよ。九州演劇人サミットといって、各都市で劇団をやってる人が集まって情報交換したり。

ペヤンヌ・安藤:へえ~。

安藤:お芝居の中で方言は使わないんですね?

川口:そうなんですよ。何ででしょう。自分の台本に方言があると、何故か違和感を感じて・・・。今まで影響を受けてきたお芝居が、標準語だからかもしれません。ブス会*さんも標準語ですよね。

ペヤンヌ:上京したら方言を普段の生活で使わなくなって。その流れで芝居も標準語で作ってたんですが、『お母さんが一緒』という公演で初めて方言を使いましたね。自分の家族の話を描こうとした時に、方言じゃないとしっくりこないなと思って。

川口:なるほど。もしかしたら、福岡の人って、割と自分たちは標準語に近いと思っているところがあるかもしれません。「都会だぜ?俺ら」みたいな。「標準語、別に話せるぜ?」みたいな(笑)。

一同:(笑)。

『男女逆転版・痴人の愛』7月に行われたリーディングより(写真/宮川舞子)
『男女逆転版・痴人の愛』7月に行われたリーディングより(写真/宮川舞子)

会話劇はファミレスで書く!?

――1月に久留米シティプラザで行われる、ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕40周年記念ブス会*リーディング『男女逆転版・痴人の愛』公演について伺えますか?久留米では再びリーディング版の上演となるんですよね。

ペヤンヌ:安藤さんと私は、早稲田大学の演劇サークルからの20年来の付き合いなのですが、10年前、お互いが30歳の記念に『女のみち』という企画公演をやったんです。それをきっかけに2010年にブス会*を旗揚げして今があるので・・・今回、40歳の記念に公演をやって、これを節目の年ごとにやっていくライフワークにしていこうかと。谷崎潤一郎の小説「痴人の愛」の登場人物を男女逆転させて、原作では「譲治」という男性の主人公を「洋子」という40代の女性に。美少女「ナオミ」を美少年「ナオミ」にし、さらに時代を現代にしています。

安藤:ペヤンヌマキ×安藤藤玉恵 生誕40周年記念・・・ってねえ(笑)!大げさでお恥ずかしい。生誕○周年って、基本的には亡くなった偉人に対して使う言葉らしいじゃないですか。

川口:夏のリーディング(の映像)を見せていただきました。東京のこまばアゴラ劇場でやった本公演と、1月に上演される久留米のリーディングのキャストは一緒なんですよね?チェロ演奏の方も。本公演も見たかったなと思って。

安藤:そうですね。キャストは全部一緒。全国でまずリーディングを観てもらった後に、同じところで演劇版もやらせてもらえたらいいですよね。あ!全然コメディじゃないですよ。大丈夫ですか?

川口:あはは(笑)!大丈夫です。

安藤:かぶらない。今回のブス会*とガラパは競合しないですね(笑)。

ペヤンヌ:でもブス会*は「コメディ」と言われていたんですよ。

安藤:今まではそうだね。

ペヤンヌ:今までは女性だけの集団で巻き起こる人間関係だったり、会話だったり、いざこざだったりを描いてきたんですが、原作があるは初めて。しかも谷崎潤一郎だし、かなり作り方が違いました。例えば、脚本は今までずっとファミレスで書いてたんですけど、今回はファミレスでは書けませんでしたね(笑)。

一同:(笑)!

川口:ファミレス!僕もそうです。家で書いてるとそもそも「会話って何だ?」と思って煮詰まっちゃう。そういう時にファミレスで、隣の高校生が何でもない会話してるのを聞くと「これだ!」ってヒントになったりします。

安藤:今回は今までのブス会*とは明らかに文体が違いましたからね。文語というか。確かにファミレスでは書けないでしょうね。旅館の和室にこもって書けたら良かったね、予算があればね(笑)。

リーディング『男女逆転版・痴人の愛』ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕40周年記念ブス会*(写真/宮川舞子)
(写真/宮川舞子)

福岡で『男女逆転版・痴人の愛』はどう映る?

川口:どれくらい原作の「痴人の愛」のままなんですか?

ペヤンヌ:結構忠実です。特にリーディングは、私が原作を読んで「共感する!」って箇所を抜き出していったら、かなり多かったんですよ。原作をそのまま置き換えても成立するな、と思って。

川口:綺麗に成立してました。無理やり何かを変えたりしなくても現代版として成立するんだなと。

安藤:これ、福岡でも受けますかね?

川口:受けると思いますよ!谷崎潤一郎って、ちょっと構えるかもしれないけど、ストーリーがシンプルにおもしろいし。それから、エロティックというか、ドキドキするあの感じ。福岡の人、好きだと思うんですけどねぇ。ナオミ役の福本雄樹さんの背中とか(笑)。

ペヤンヌ:(劇場が)和室だから、至近距離で堪能できますね。

川口:僕、正直難しい演劇とか苦手なタイプなんですが・・・。

ペヤンヌ:私も苦手。「わけが分かるものしか作らないようにしよう!」と思ってます(笑)。

川口:実はリーディングの映像を観るまでは「対談が決まってるけど、難しい作品だったらどうしよう・・・」と思っていて(笑)。うわ~!共感します。嬉しいですね。

ペヤンヌ・安藤:ははは(笑)。

川口:観てみたら「わけの分かるもの好き」な人間として、すごくおもしろかったです。僕は演劇マニアではないし、福岡の普通の人の目線に近いと思うんですけど・・・僕が見ておもしろかったから、きっと福岡の人も好きだと思いますよ!

ペヤンヌ:やった!

安藤:「川口さんのお墨付き!」って書いておこうよ!

川口:僕でよければ!

川口大樹、山岸門人

――『男女逆転版・痴人の愛』に出演している山岸門人さんも、以前からガラパの皆さんとはお知り合いなんですよね?(ペヤンヌさん安藤さんと同じ回を観劇されていたため、同席していただきました)

山岸:そうなんです。前に所属していた劇団鹿殺しの福岡公演の時などに、すごくお世話になりまして。
川口:リーディングの映像を見た時に「あっ、門人さんや~」と気づいたんですが、「アレ?しばらく見ない間に芝居のアプローチが随分変わったな・・・どうしたんやろ」と思いまして。後から考えたら、(以前観たのが)オネエの(BARの)マスター役だったって事に気付きました(笑)。

一同:(笑)!

安藤:門人くんはリーディングでは3役やっていたけど、12月の公演ではもう1役増えて4役になりましたからね。

川口:その役は久留米のリーディング公演ではどうなるんですか?

ペヤンヌ:考え中なんですよね・・・観ていただいてのお楽しみですね。その役は原作を改変した役なので、朗読にした時にバランスが難しくて。

川口:変えたところといえば、ラストシーンもね・・・「女性は怖いな」って思いましたよ。なんたる執念!と。男にはあんまり思いつかない発想じゃないかな。

ペヤンヌ:ありがとうございます。原作のままだとなんだか成立しないと思ったんですよね。お客様から十人十色の感想をいただくポイントの一つです。

――最後に、読んでいる方へメッセージをお願いします。

川口:今回初めてブス会*の映像を見させていただいて、勝手にシンパシーを感じました!リーディングも、ブス会*の今後の本公演もぜひ見させていただきたいですね。劇団万能グローブガラパゴスダイナモスは、来年もまた東京を含めた全国ツアーをやりたいと思っているので、その時はぜひ観にいらしてください!

安藤:ペヤンヌさんと「この作品で全国を回りたいね」って夢みたいな話をしていたんです。今回久留米に呼んでいただいたことで、一つ夢が叶ったというか、駒を進められたような気持ちがしています。私、この公演で日本全国の女性を元気にしたいと思ってるんですよ!その野望の第1弾です。なので、久留米の皆さんにはぜひ観ていただきたいですね。

ペヤンヌ:自分の出身地である九州で、ブス会*初の地方公演が出来て嬉しいです。舞台ってやっぱり“生”で観てこその良さがあると思います。今回は特に和室という空間なので、役者さんのお芝居を間近で見れるチャンスかと。ぜひ足をお運びいただけると幸いです。

◆公演情報
リーディング『男女逆転版・痴人の愛』ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕40周年記念ブス会*
2018年1月21日(日) 福岡・久留米シティプラザ 和室「長盛」
【翻案・演出】ペヤンヌマキ
【出演】安藤玉恵、福本雄樹(唐組)、山岸門人/浅井智佳子(チェロ)
公式HP:https://kurumecityplaza.jp/events/684

【『男女逆転版・痴人の愛』あらすじ】
仕事人間の40歳独身女性の“私”は男性に対して独自の理想を持つようになる。それは未成熟な少年を教育して自分好みの男に育て上げるというもの。ある日“私”は美しい少年ナオミと出会い、「小鳥を飼うような心持」で同棲を始める。人見知りで垢抜けない少年だったナオミは次第にその美貌を利用して奔放な振る舞いを見せるようになり“私”はナオミに翻弄され身を滅ぼしていく・・・。

万能グローブガラパゴスダイナモス『ハダシの足音』*公演終了
【福岡公演】2017年11月15日(水)~11月19日(日) イムズホール
【大阪公演】2017年11月24日(金)~11月26日(日) in→dependent theatre 2nd
【東京公演】2017年12月27日(水)~12月30日(土) 駅前劇場
公式HP:https://www.galapagos-dynamos.com

【『ハダシの足音』あらすじ】
記憶へのアクセスが容易になった近未来。
行き場をなくした「記憶」がうろつく奇妙な森で、大切な思い出を探そうとする姉弟。
恋人の愛情を確かめるため、今は禁止された違法な記憶の売買に手を染める女。
中途半端な月が浮かぶ、曖昧な森の不思議なコメディ。

◆プロフィール
川口大樹
1983年生まれ、福岡県出身。劇団「万能グローブガラパゴスダイナモス」所属。高校時代演劇部に入ったのをきっかけに当時の後輩である椎木樹人と、2005年ガラパゴスダイナモス旗揚げ。以降、ほぼ全ての脚本・演出を手掛け、一貫してコメディを上演し続けている。福岡を拠点に、東京、大阪、九州各都市でも積極的に公演を行っている。他団体への書き下ろしや演出、演技講師なども務める。

ペヤンヌマキ
1976 年生まれ、長崎県出身。ブス会*主宰/脚本・演出家。早稲田大学在学中、三浦大輔主宰の劇団「ポツドール」の旗揚げに参加。AV監督として活動する傍ら、2010年、演劇ユニット「ブス会*」を旗揚げ。以降すべての作品の脚本・演出を担当。現在はフリーの映像ディレクター・脚本家としてTVドラマなども手がける。著書に『女の数だけ武器がある。』(幻冬舎文庫)がある。

安藤玉恵
1976年生まれ、東京都出身。俳優。映画『夢売るふたり』(西川美和監督)で第27回高崎映画祭最優秀助演女優賞受賞。最近の作品に映画『探偵はBARにいる3』(吉田照幸監督/公開中)、『羊の木』(吉田大八監督/2018年2月3日公開)。さらに2月に舞台『夜、ナク、鳥』(瀬戸山美咲演出)が控える。現在、北日本新聞にて「安藤玉恵のたまてばこ」(毎月第三金曜日更新)連載中。

(インタビュー・文/枝山理子、編集/エンタステージ編集部)

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