『露出狂』中屋敷法仁×市川知宏×陳内将インタビュー!「3チームそれぞれ、まったく印象が変わればいい」


強豪サッカー部のプライドを賭けた泥仕合を描いた、劇団「柿喰う客」の人気作『露出狂』。2012年に続き、2016年9月30日(金)よりパルコ・プロデュースにより再演される。稽古が明けた日、3チーム総勢32人の出演者がそろった熱気溢れる稽古場で、作・演出の中屋敷法仁、そして出演の市川知宏、陳内将に話を聞いた。

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『露出狂』インタビュー

『露出狂』は壮大なドッキリのような青春モノ

――初稽古は、マスコミ公開ワークショップで「だるまさんころんだ」などのゲームをしていましたね。

中屋敷:稽古前などによくワークショップをするんです。俳優さんは「自分を見てほしい」という強い個性を持つ方が多い。でも、ちゃんと共演者を見ている俳優さんは共演者に見てもらえるし、共演者から見てもらえていない俳優さんは、お客さんも見る気がなくなる。だから「相手にも自分自身にも興味を広げよう」ということで、公開ワークショップでは「相手を意識するためのゲーム」をしました。いろんな個性あるメンバーが、共演者に対していろんな感情を向けることで、パフォーマンスに繋がると思っています。

市川:楽しかったですね!でも、中屋敷さんが一番楽しそうでした(笑)。初めての本読みの時も、中屋敷さんが誰よりも前のめりで読み合わせを聞いていて、いいなって思ったんですよ。

中屋敷:え、前のめりだった?僕、座ってなかった?

陳内:真ん中に立っていましたよ(笑)。台本に「一同:~~」と書いてあるところには、もれなく中屋敷さんも加わってました。

市川:むしろちょっと食い気味に言ってましたよね(笑)。それが、『露出狂』に対する中屋敷さんの強い思いの表れに感じられて、自分も変わろうってすごく思いました。

『露出狂』インタビュー_3

中屋敷:恥ずかしいな(笑)。でもこの『露出狂』は、自分で演出して自分の好きな俳優さんが出てくれているんだから、「僕が一番楽しくなくてどうする!」と思ってる。もう、今日なんて昨日の晩から楽しみだったからね!そもそも配役だって、僕が観たいキャスティングだから(笑)。できれば2人とも4役くらいやってほしいんだけれど、チームが3つなので、断腸の思いで2役にしました。でも誤解してほしくないのは、2役与えられている人が僕の好きな人というわけではないということ。他の俳優さんも、何役もやってほしいと思う人もいれば、「この人にこの1役だけを突き詰めてもらったらどうなるだろう」と思って役を決めた人もいます。

――『露出狂』をただのサッカー部の青春モノだと思って観に行くと、驚くと思うのですが。

陳内:チラシに書いてある「こんな青春に誰がした!?」というフレーズがすべてを表していますよね。お客さんを巻き込んだ壮大なドッキリのような作品なので、「こんな青春もあるんだ」と感じてもらえたらいいな。

中屋敷:僕としては、これまでの青春モノに対する“アンチテーゼ”だったんですよ。『露出狂』は2010年に書いた作品ですが、それまでのスポーツや青春を題材にしたお芝居は、試合のシーンや勝ち負けがメインになっているなと感じていて。でも、実際の運動部にとっての青春とは、試合中よりもその前だと思うんです。「やった、選手に選ばれた!」と喜ぶ部員もいれば、「あ~ベンチにも入れなかった・・・もうどうでもいいや」という部員もいるかもしれない。チーム内は、人間関係がグチャグチャだったりすることもある。ユニフォームをもらう時やキツイ朝練こそが青春の一番のクライマックスであり、そこに至る人間関係の複雑さを描く方が演劇っぽいんじゃないかと思いました。それまでの青春モノでは描けていない、演劇にしかできないアプローチで、青春における「部活」という巨大な組織を描きたかったんです。

市川:僕も台本を読んで最初に感じたのが、まさに人間関係でした。登場人物のサッカー部員14人にそれぞれの関係性があるし、その14人が集まった時にさらなる化学反応が生まれる。出会いの大切さや、自分が行動すれば関係は変わるという、人と人との関係のおもしろさを実感する作品だと思います。

中屋敷:『露出狂』には、僕の考える演劇のエッセンスをかなり込めています。例えば、演劇のおもしろさや演劇にとって大事なこと、俳優さんにとって大事なこと、人間関係の作り方やチームの組み方など、すごくいろんな要素を潜ませているんです。僕が“演劇を信じている理由”をたくさん込めた作品なんですよ。

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32人で創る、3つの『露出狂』

――今作は2012年に続くパルコ再演で、劇団公演も含めれば何度も公演されている作品ですね。

中屋敷:もともとは女性14人の芝居だったのですが、2012年のパルコ公演にあたって、男性14人の脚本に書き換えました。

『露出狂』インタビュー_6

市川:女性版は観たことないですけれど、2012年の公演はお客さんとして劇場に観に行きました。だから、出演が決まったのは「嬉しい!」の一言ですね。

中屋敷:でも、過去作は気にせず、いろんな俳優さんが集まってくれたことを大切にして、3チームそれぞれの『露出狂』を見せられるように豊かな作品にしなきゃと思っているよ。僕が「青春はこうだ」と押しつけるわけでなく、俳優さん一人一人の体から出てくるものを作品にしたい。どのチームを観たかで、作品の印象がまったく違うものになればいいですね。

市川:ぜひ3チーム観て、違いを感じてもらいたいですね。

陳内:ほんと、違いを楽しんでほしいよね。お客さんも出演者も、何チームも観ると他のチームと比較してしまうと思うんです。でも、そこで「あっちの方がダメだ」と悪いふうに考えるのではなく、「じゃあうちのチームはこうやろう」「あれ良いな、取り入れよう」というような、足し算をしていきたい。人数も多いし、複数チームあるので、埋もれたら負けだと思う。でも舞台上でガンガン前に出るのではなく、引く演技だって攻め。役者それぞれが自分のやり方を前向きに探して、作品を創っていくという意味で“攻めて”いきたいな。チームは「露(あらわ)」「出(いずる)」「狂(くるう)」と分かれているけれど、根っこにあるものは同じ『露出狂』であればいいなと思っています。

――チームそれぞれの個性が楽しみです。お二人は「露」「出」それぞれに出演されますね。

市川:僕は、「チーム露」では好戦的な佐反町(サソリマチ)を、「チーム出」では一見まともな御器(ゴキ)という、まったく違う役を演じます。同じ作品で2役を演じるのは初めてなので、どうなるのか想像がつきません(笑)。覚えることも多いから不安もあります。

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陳内:僕は1つの舞台で2 役を演じるのはこれが5回目。市川くんが御器を演じる「チーム出」で佐反町(サソリマチ)を、もう一つの「チーム露」ではIQ300の頭脳派・白峰(シラミネ)を演じます。大変だけど、2役を通して2つの角度から1つの台本と向き合えるので、作品全体がクッキリ見える気がします。2役だからこその利点を楽しみたいな。

市川:楽しもうという意識が大事なんでしょうね!不安と同時に、ワクワクもしています。それに、僕は実際にサッカー部だったけれど下手くそだったので(笑)、全国優勝を狙えるチームの部員を演じられるのはとても嬉しいですね。

陳内:佐反町役を演じる時、すごく気持ちが入るんじゃない?「シュートだシュート!」「球拾いなんてやってらんねーよ」なんてね。

市川:最初の一言から気持ち入りますよ!でも僕自身は佐反町に似てないからなあ・・・。むしろ陳内さんは佐反町っぽいイメージ。

陳内:え、暴れん坊な感じ?そういう役を演じることは多いけど、普段の僕はものすごくおっとりしてるよ(笑)。

市川:できれば御器のような、他人に対して適度な距離を取るフラットな人になりたいな。それから、破天荒で自分の衝動に忠実な香森(コウモリ)のような伸び伸びとした人にも憧れるな、ちょっと女好きすぎるけど・・・。どのキャラも濃いですよね。稽古に向けて、家で14人全部の役に一人でなりきって読んでみたんですけど、全員ちょっと狂ってるなあと(笑)。

中屋敷:個性豊かなメンバーだよね。みんな一丸となって戦うんだけど、“右向け右”のような統制のとれたチームではなく、どの役も意思の疎通ができていないから。恋愛のことだけ考えている人とか、サッカーに異様にのめり込んでいる人とか、いろんな人がいて。それぞれのキャラクターが立てばいいな。

陳内:学年によっても関係性が違うしね。先輩後輩の上下関係もあれば、それを越えて一人の人に執着しちゃう人もいる。実は稽古前に、(チーム露で野宮役を演じる)砂原健佑くんが「僕、陳内さんといっぱい絡む役なので、よろしくお願いします」って挨拶しに来てくれたんですよ。ああ、役での関係性をちゃんと意識してくれているんだと思って、台本の読み合わせ中、ニヤニヤしながら砂原くんを見ちゃいました(笑)

中屋敷:でも、砂原くんは陳内くん(演じる白峰)のことを一方的に追いかける役だから意識しないといけないけれど、逆に陳内くんは砂原くんにはあまり興味のない役だから、意識しすぎたらいけない。絡むけれど、両想いというわけじゃないから。お互いに興味のあることが違うからこそ作品に彩りが生まれるので、自分の役だけの視点を大事にしてほしいな。

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――3チームもあると、稽古も大変そうですね。

中屋敷:一応予定は立てていますけれど、崩れるだろうな・・・。でも、観る方もやる方も楽しいですよ。楽屋はバタバタしそうだけどね(笑)。

市川:バタバタするでしょうね。どんな感じになるんだろうなあ。

陳内:上演時間が2時間くらいだから、(複数公演ある日は、2役を演じる人は先の公演が)終演して1時間半後には違う役を演じているってことですもんね。その間に着替えている人がいるかと思えば、もう帰る人もいるってこと・・・?

中屋敷:帰る人は帰るだろうし、観客として観る人もいるだろうね。一日3公演の時には、間で1公演分の時間を待ってる人もいる。

市川:うわあ・・・大変だ(笑)!

陳内:人によってそれぞれ大変さが違うよね。2チームに出演する人もいれば、1チームに集中する人もいる。(23歳以下の俳優のみによって構成された)U-23のチーム「狂」の場合には、「露」「出」はそれぞれ6回公演だけど、3回しか公演できないことに対する思いもあるだろうな。それぞれの大変さが違うから馴れ合うことはできない。

中屋敷:人によって出演チームが被ったり被らなかったりすることで、人間関係がまだらになることからは逃れられないよね。チームが違えば、ほとんど会わない人がいるかもしれない。その状況はおもしろいけれど、同じ作品に関わっているということは意識しないといけないね。誰も孤立せず、大人数に埋もれたり、流されたりする恐怖を持たず、平均点で落ち着かないために32人で創っているという事は忘れてはいけない。すごく難しいけれど、みんなが別の方向を向きながらも1つのチームワークを組めたら、僕たちもお客さんも気持ちのいい舞台ができるだろうな。

『露出狂』インタビュー_2

◆公演情報
『露出狂』
2016年9月30日(金)~10月10日(月・祝) 東京・Zeppブルーシアター六本木

◆プロフィール
市川知宏(いちかわともひろ)
1991年9月6日生まれ、東京都出身。第21回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞。2010年にTVドラマ『クローンベイビー』(TBS)で初主演を務める。主な出演作は、ドラマ『家族狩り』『ヒガンバナ~警視庁捜査七課~』、映画『銀の匙 Silver Spoon』『好きっていいなよ。』、舞台『ピグマリオン』學蘭歌劇『帝一の國』シリーズなど。また、2017年に公開予定の映画『曇天に笑う』への出演が決定している。

陳内将(じんないしょう)
1988年1月16日生まれ、熊本県出身。主な出演作は、ドラマ『特命戦隊ゴーバスターズ』『刑事110キロ』『HiGH&LOW』Season2、映画『メサイア』『ガチバン NEW GENERATION 1&2』、舞台『TRUMP』『十二夜』『怪談・にせ皿屋敷』『ロボ・ロボ』『東海道四谷怪談』『また逢おうと竜馬は言った』など。2016年11月からミュージカル『黒執事』~NOAH’S ARK CIRCUS~への出演を控える。

中屋敷法仁(なかやしきのりひと)
1984年4月4日生まれ、青森県出身。劇作家、演出家、劇団「柿喰う客」・代表。高校在学中に発表した『贋作マクベス』にて、第49回全国高等学校演劇大会・最優秀創作脚本賞を受賞。2004年に柿喰う客の活動を開始し、2006年に劇団化、全作品の脚本・構成・演出を手掛ける。劇団以外の主な舞台作品は、青山円劇カウンシル ファイナル『赤鬼』(演出)、トライストーン・エンタテイメント『女中たち』(演出)、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』(脚本)、『「黒子のバスケ」THE ENCOUTER』(脚本・演出)など。

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