『宮本武蔵(完全版)』山田裕貴&矢崎広インタビュー!「武蔵が一生懸命に“人間らしく”生きている姿を観に来て」


2016年8月19日(金)に東京・東京芸術劇場 シアターイーストにて開幕する、舞台『宮本武蔵(完全版)』。宮本武蔵役は山田裕貴、そして佐々木小次郎役を矢崎広が務める。剣豪として知られる武蔵と小次郎の意外な一面が会話の中で見えてくる本作。武蔵を軸に、人々の思惑が絡まり、思いも寄らぬ展開を迎えていく。いよいよ初日が迫り、熱を帯びてきた稽古の中で体感している作品の魅力、そしてお互いの印象について聞いた。

『宮本武蔵(完全版)』山田裕貴×矢崎広インタビュー

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――この作品に対する印象と、それぞれの役柄について教えてください。

山田:僕がやらせていただく宮本武蔵は、剣の達人で強くかっこいいイメージがあると思います。ですが、(作・演出の)前田(司郎)さんは「人間って根本は変わらないんじゃないか?」と、「たとえ人斬りの時代といえども、本当に斬りたくて人を斬っていたのではないんじゃないか?」ということで、この作品では、宮本武蔵であるから狙われてしまったり、人を斬ってきたことでうまく人との距離を掴めず友達もいなかった悲しさや迷い、葛藤を会話の中で見せていく。それがすごくおもしろいんです。

矢崎:宮本武蔵といえば巌流島の話がありますけど、今回お話をいただいて台本を読んだ時、おもしろい“宮本武蔵”だと思いました。本当はこういうことだったのかもしれないなと、歴史をおもしろく読み解くというか。宮本武蔵を題材におもしろく脚色したのではなくて、「本当はこうだったのかもしれない」というところがこの作品にはあるので、そこを大事にしたいですね。稽古もそんな感じになっていると思いますし、そんなふうにお客様に提供できればいいなと。

『宮本武蔵(完全版)』山田裕貴×矢崎広インタビュー_2

僕は佐々木小次郎を演じます。小次郎も剣豪で強いというイメージがありますが、この作品の中では新しい考えを持っている“侍”ではないかということが、後半に出てきます。名を上げるために商業的に人を集めたり、今で言う戦略的PRみたいなことをする。もしかしたら、そういうことの先駆けだったりするのかもしれないなと思いながらやっています。宮本武蔵をはじめ、この作品に出て来る人と出会って、また自分の中の戦略が変わって行く・・・そんな人物なのかなと思っています。

――稽古に入ってからの、お互いの印象は?

矢崎:山田くんとは2012年に上演された朗読劇『緋色の研究』で、共演はしていないんですけど一緒でした。打ち上げの席で隣になって、話をして以来の共演です。一度出会ってしまうと、どうしてもそれからの仕事も意識してしまい、山田くんの活躍を見ていて、おもしろいなと思っていました。ナチュラルでありつつ、やるところはやるというか、お芝居の緩急があって、素敵な役者さんだなと。今の稽古の中でも、その山田くんの魅力を感じています。どんどんいろんな芝居が出てくるので、僕もこっそり「それ、おもしろいな」と勉強している感じです(笑)。無意識なのか、意識的なのか、緩急の付け方が本当にうまいと思います。

山田:そんなふうに思ってもらっているとは知らなかったです。僕も、その打ち上げで会った時から、同じように意識していました。僕が観劇する舞台に、矢崎さんが絶対いらっしゃるような感覚もあります。稽古場で矢崎さんを見ると、すごく安定感というか、どっしりされている。涼しい顔でお芝居をされているのがより佐々木小次郎に見えてきて・・・すごいなって思いながら見ています。

『宮本武蔵(完全版)』山田裕貴×矢崎広インタビュー_3

矢崎:恥ずかしいですね。

山田:はい・・・こういう話したことないですからね(笑)。

――お二人の印象が似ているなと思っていたんですけど・・・。

矢崎:テレビ局で間違えられたことがあるね。

山田:はい。すごく近くから「矢崎くん!」って声を掛けられて。そこから10秒ぐらいずっと矢崎くんだと思われたまま、話されたことがあります(笑)。

矢崎:(笑)。自分たちでは分からないんですけどね。

――今回の作品は、山田さんが前田さんのワークショップに参加されたことがきっかけなんですよね。

山田:はい。僕がD-BOYSのメンバーということで、現場でたまに「歌ってるの?」「踊ってるの?」と言われることがあり、それがすごく悔しくて。そんな見方を変えるために、中から攻めていこうと、映画監督さんや劇作家さんのワークショップを次々に受けていた時がありました。その時に映画『横道世之介』(2013年)を観て、台詞の言葉が素晴らしいなと思ったんです。その脚本を(監督の沖田修一とともに)書かれていた前田さんのワークショップがあると聞き、やりたいと言って参加しました。前田さんも最初は、「イケメン俳優が・・・」みたいに思っていたみたいですけど、10日間のワークショップを終えた時に「イメージが変わった」と言ってくださり、その後、映画『ふきげんな過去』(2016年6月公開)に呼んでいただきました!そして、いろんな人の助けがあって今回に至ります。前田さんが「山田くんなら『宮本武蔵』」って選んでくれました。

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――稽古場の雰囲気はどんな感じですか?

山田:2012年に上演した時は前田さんがこの役をやっていたんですね。なので、前田さんが(僕に)代わって台詞を読むと、すごくおもしろいんです。前田さんの宮本武蔵を、僕も目指したいんですよね。ちらっと聞いた話によると、前田さんは自分が演じた役をほかの人に譲ったことがなかったみたいなんです。それを聞いて、すごく責任感とプレッシャーを感じています。

矢崎:僕はわりと、劇団のオリジナル作品の再演ものに参加する機会が多いんです。『黒いハンカチーフ』(劇団M.O.P.)、『ロボ・ロボ』(惑星ピスタチオ)、『フランダースの負け犬』(柿喰う客)とか。でも、なかなか難しいんですよね。なぜならそもそも劇団のものって、演じる人に当て書きしていたりするので。その時の役のニュアンス、その時に生きてたものをまた再現したい、そこまで持っていきたい気持ちがあるんですけど、それが難しい。今回の台本を読んだ時、すごく難しい台本だなと思ったんです。山田くんが言うように、前田さんの台本の言葉って生きてるんですよね。無駄がない。具体的なことを言うと、「え」とか、「あっ」とか台詞にあるんですけど、それが何一つ無駄じゃないんですよね。

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山田:全部に意味がありますよね。

矢崎:そう、一文字一文字が生きているんです。それが伝わってくる台本を書ける前田さんはすごいなって、今やりながら思うし、演出を受けている中で分からないことが出てきたとしても、前田さんが説明してくれると「あ、そういうことか」って一発で解決するんですね。さらに前田さんが自分たちに合わせて台本も書き直してくれますし。だからものすごくおもしろい稽古場です。求められていることは難しいから、山田くんは真ん中にずっといなければいけないので、その大変さは計り知れないんですけど、僕は本当におもしろいなと思いながらやっているところですね。

――ほかのキャストの皆さんの印象は?

矢崎:皆さん強者揃いっていうか。

山田:皆さんおもしろいんです。心が折れそうになるくらい(笑)。

矢崎:きついよね。初主演に先輩ばっかりで。

山田:でも、事務所の先輩でもある遠藤(雄弥)さんがいて良かったです。めっちゃ優しいんです。ほんとにいろいろ・・・この間、稽古帰りに「俺、大丈夫ですかね・・・」って遠藤さんに言ったら、「裕貴のがんばりを知ってるし、皆『なんだアイツ』っていう人たちじゃないから大丈夫」って言ってくれました。

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――心が折れそうになった理由は?

山田:とにかく難しいんです、本当に。セリフ、言葉の一つ一つに意味があるし、それを一つずつ・・・。

矢崎:針の穴を通すみたいな。

山田:そうですね。一つ音が違ったらそうは聞こえない、とか。ただ一つの感情で言っていない。感情を表に出していいところと、それを隠そうとして言っているところ、そこの読み解きがすごく難しくて。だからこそ、逆に解けていけば解けていくほど、正解を当てはめていくほど、どんどんおもしろくなるので、「ちょっと掴んだかな」と思える日と、そう思えない日がすごくはっきりするんですよね。だから心折れそうな時もありますが、メインを張る人がそれではいかんなと思うんです。きっと僕だけじゃなく、ほかの皆さんもいろんなことを考えて、苦労してやってるんじゃないかなって思いますし。

矢崎:そうだね。強者揃いって言ったけど、一つ一つのシーンでそれぞれが自分なりに戦っている姿を見ると、確かに焦る気持ちは分かる。でもそれは、素敵なメンバーが揃ったなって思える瞬間であったりもして・・・。それぞれアプローチの方法は違えど、向かうところが一緒の感じがあって。もっとおもしろくしたいと、先輩たちを見ながら自分を奮い立たせてるところですね。

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――今回の稽古場ならではということや、自分なりの発見があったら教えてください。

山田:稽古が終わると、皆で一緒に稽古場で飲んだりするんですよ。前田さんの家に皆で上がらせてもらってご飯食べたりとか。これは前田さんの作品ならではですよね(笑)。この作品を通しての自分の発見は、「偉人だったらすごいんだ」みたいな簡単なことではなくて、より物事を深く見るようになったというか。見えているものだけを信じていてはダメだなというのをすごく思いましたし、イメージや第一印象というものが、いかに当てにならないものかをより強く感じるようになりました。ちゃんと人とコミュニケーションを取りたいです。イメージだけで物事を決めることは本当にやめようと思いましたね。

矢崎:前田さんというか、五反田団の作品は特にそうなんですけど、繊細なお芝居が求められるなと思っていて。つい先日まで『ジャージー・ボーイズ』の公演をしていたから、そのギャップがあるのかな(笑)。僕はずっと舞台をやってきましたが、最初はこの作品に対して、自分がやってきたものとはまた違うものなのかなと思ったりもしたんです。でも、それは違うなと。今までやってきた感覚をさらに研ぎ澄ませながらやらせてもらっているなというところがあります。今までいろんな演出家の方に言われてきたことも、今回の作品では前田さんが細かく台本の中に、どういう理由で、その感情でいるかを書いてくれているので、「ああ、こうやって埋めていくんだ」、「こんな状態でいるんだ」と気がつけて、今まで積み重ねてきたことをブラッシュアップさせてもらっています。この作品で、この感情のお芝居を絶対身につけたい、使えるようになりたいということが自分の課題です。

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――前田さんの演出はほかの演出家さんとは違いますか?

山田:まだ比べるほど舞台経験はないですけど、前田さんの指摘はすごく例えがうまいというか・・・。

矢崎:役者に分かりやすくね。

山田:そう、話をしてくれる感じ。それが、すごくよく伝わります。

矢崎:作品の向かうところが違うだけで、おっしゃっているところはいろんな演出家さんに言われたことと一緒だなと思います。ただ、前田さんの演出は役者にとって分かりやすい。ここの感情でこうなって、こうなるから次の感情にこうなってほしいって説明をしてくれるので、「なるほどな」「こういうことってあるな」ってなる。もっと、こういうことにどんどん気がつける役者になろうって。前田さんに対しても憧れがありますね。

山田:それ分かります。すっごく。

――お二人が演じる宮本武蔵と佐々木小次郎ですから、殺陣を期待してしまいますが。

山田:殺陣は・・・。

矢崎:殺陣あるよね?皆さんが想像する殺陣とは違うけど。

山田:最初は殺陣をやると前田さんから聞いていたんですけど、稽古入って台本開いてみたら・・・。まあ、期待していてください(笑)。

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――最後に、舞台を楽しみにしている方々へ向けてメッセージをお願いします!

矢崎:今回、完全版ということで、新しい“宮本武蔵”を皆で作り上げているところです。初演をご覧になった方、五反田団のファンの方、それぞれの役者のファンの方、どんな方が観ても、新しい発見ができる舞台になっているんじゃないかと思います。観終わった後に、いろんな考えが生まれる作品だと思います。メッセージ性もたくさんありますし、「こうだったらいいな」、「こうだったらおもしろいな」ということも詰まっています。そんなことがお客様に伝えられたらと思っています。ぜひ劇場にご来場ください、お待ちしています!

山田:もう全部言ってもらった感じですが(笑)、この『宮本武蔵(完全版)』を観たら、これからいろんなものを見る目が変わって、本当に真実ってどこにあるんだろうって気分になると思います。これが本当の宮本武蔵の姿なんじゃないかっていうのを表現している作品だと思いますし、人間らしさが出ている部分がすごくおもしろいです。宮本武蔵が人間関係で悩んだりとか、恋人のことで悩んだりとか、一生懸命、人間として生きているだけなんですよ。ラストに向かっていく儚さや寂しさも、すごく感じられると思います。必ずしもこう観てほしいと押しつける作品ではないので、いろいろ感じてもらえるはずですし、すごくおもしろい作品だと思うので、ご覧いただきたいです。そしてこれは僕の個人的なことですが、この作品を成功させられたら、本当に“俳優”としてまだ進化できそうだなって感じています。だから、ぜひ観に来てほしいです!

◆公演情報◆
『宮本武蔵(完全版)』
8月19日(金)~8月29日(月) 東京・東京芸術劇場 シアターイースト
【作・演出】前田司郎
【出演】山田裕貴、矢崎広、遠藤雄弥、金子岳憲、鮎川桃果、大山雄史(五反田団)、山村崇子、内田慈、志賀廣太郎

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