藤田貴大(マームとジプシー)×杉原邦生(KUNIO/木ノ下歌舞伎)インタビュー!演劇への疑いと挑戦


京都・京都芸術劇場 春秋座にて、2016年7月にマームとジプシー主宰の藤田貴大が脚本・演出を手掛ける市民参加型企画『A-S』、11月にKUNIO主宰の杉原邦生が演出する木ノ下歌舞伎『勧進帳』(KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2016 AUTUMN 公式プログラム)が上演される。同じ京都芸術劇場 春秋座で公演を行うことを記念し、藤田と杉原の二人に、それぞれの上演にかける思いなどを語ってもらった。

藤田貴大×杉原邦生対談

――まずそれぞれの企画の内容について教えて下さい。

藤田:『A-S』は京都芸術劇場 春秋座主催の市民参加型企画で、出演者とスタッフを公募した作品です。出演者には中学生から81歳までの老若男女が集まりましたが、京都の方が多いですね。スタッフはプロジェクトチームと呼んでいて、京都造形芸術大学の生徒を中心に、服飾に興味のある方など、様々な方がいらっしゃいます。

今回は出演者だけではなく、スタッフも募ったのが一つのポイントになると思っています。これまでも何度か市民参加型作品を創作してきましたが、役者だけを募って、スタッフはマームとジプシーのスタッフで行うというプロセスに違和感があったんです。そこで、今までより一歩踏み込んだ滞在製作にしたいと思い、スタッフも募る挑戦をしてみました。

――杉原さんは木ノ下歌舞伎の演出・美術として『勧進帳』を再演されますね。

杉原:今年は、木ノ下歌舞伎10周年で「木ノ下“大”歌舞伎」と銘打ち、(木ノ下歌舞伎主宰の)木ノ下(裕一)くんと一緒に作品を作ってきた演出家5人全員の作品を連続上演していこうというプロジェクトがありまして。その2作目として、2010年にSTスポット横浜とアトリエ劇研で初演した『勧進帳』という作品をリクリエーションします。

そもそも『勧進帳』は、木ノ下くんとも「いつか再演したい」と話していた作品だったんですけど、弁慶役を演じたアメリカ人が帰国してしまったりして機会に恵まれず(笑)。そんなある日、朝ドラの『マッサン』を見ていたら英会話教師役で出演していたリー5世という吉本の芸人さんを見つけて、「この人が弁慶だ!」って思ってお願いしたんですよね。他にも、出演者を5人から7人に増やしたり、舞台美術も変えようと思っているので、作品の全体の印象も初演とは大分変わると思います。

確立した表現ができない人たちの身体と向き合った時に「やっぱりここからだったんだ」って気付かされる(藤田)

――お二人とも各地で市民参加型公演をされていますよね。それぞれ参加型公演に対してどのような考えを持っているかお聞かせ下さい。

杉原:藤田さんは公募作品を何本くらい経験してきたんですか?

藤田:『A-S』で3作目ですね。小さなワークショップ公演なども含めるともっと多くなるんですが。僕はいつも、市民参加型の企画を行う場合は参加者の年齢制限や経験の有無などは問わず、フラットに募集するようにしています。

――杉原さんも制限なく募集されていますよね。

杉原:そうですね。オーディションすらしないことも多いです(笑)。膨大な稽古日程に同意してくれた人は、全て受け入れています。(2014年に上演した)『レジェンド・オブ・LIVE』はシニア企画だったので初めて年齢制限を設けたんですが、基本的には誰でも受け入れたいと思っています。
藤田くんの場合、俳優と創作するのと演技経験の無い方と創作するのとで、作り方って変わってくる?

藤田:普段マームとジプシーに出ている人たちも、俳優と思ってやってないからアレだけど・・・(笑)。創作における緊張感は変わってきますね。例えば中学生だと、身体の骨格もどんどん変わっていくのでその時にしか表現できない身体がある。結果、マームとジプシーとは少し違った創作になっていったりしますね。

杉原:一般の方と一緒にやる時って、最初は敷居を下げるんですけど、だんだんと作品を仕上げていくため求める基準が上がっていくじゃないですか。それって、藤田くんはどのタイミングなの?

藤田:こういう企画では、マームとジプシーで出来ることをいい意味でかわしていくという作業をするようにしています。市民参加型の作品に興味を持ち始めた時は、マームとジプシーでの活動との境界線がある意味で“曖昧”だったのでイライラしたけれど、そういう方向性はマームとジプシーで出来るので。邦生さんはどうですか?

杉原:僕も基本的に怒ったりはしないんだけど、入場料に見合った価値のある作品にはしなくちゃいけないと思っています。チケット代が3千円だとしたら、3千円で観る価値のものが作品の中にあればそれでいいって考え方ですね。参加型公演は、その(価値の)内訳が普段と違うからおもしろい。

藤田:そうなんですよね。市民参加型の企画の場合は普段と全く違う客層が来るので、別の設定を敷いていかなくてはいけない。

杉原:そうだよね。やっぱり客層が違うっていうのはならではの部分だよね。

藤田:普段の自分の作品だと観客は(僕の)「名前」も含めて観に来るじゃないですか。それはしょうがないことだし、受け入れていることでもあるのだけれど、僕はそういう現場が本当のところ、苦手なのかもしれないって最近分かって。でも市民参加型の公演の場合、僕のことを知らない人もたくさんいらっしゃるので居心地がいいんですよね。海外公演も同じで、なんだか(マームとジプシーが)STスポット横浜で公演していた無名の頃に戻ることができる感じがあって。

藤田:こういう企画ってある程度、自分の土俵で頑張ってからじゃないと楽しめなくないですか?

杉原:確かに、自分の活動では出会えない俳優やお客さんと出会えるわけで。それは自分を見つめ直すことであり、良い感じのリセットになるというか。
普段、自分が俳優に向けて発している言葉が参加型企画だと通じないっていうことは往々にしてあるじゃない?

藤田:ありますね!

杉原:一から自分の言葉を噛み砕いて説明しなくちゃいけない。

藤田:自分の言葉が通じない時って本当にショックだし、修行になるんですよね。例えば俳優が台詞を発話するプロセス。アシスタントを兼ねて出演するマームとジプシーの俳優たちと一緒に改めて考えさせられたりして、結果自分と向き合うことになる。だからこそいい経験になります。

藤田貴大×杉原邦生対談

本当の「自分」/偽りの「自分」

――『A-S』は“あやか(A)”と“さやか(S)”の存在と痕跡を巡る物語、『勧進帳』は自分を偽って安宅の関を越えていく作品ですよね。そこでお互いの作品について「名前」がどう影響してくるのかを教えて下さい。

藤田:僕の名前は「藤田貴大」なんですけど、母親は僕が女の子に生まれていたら「さやか」という名前をつけようと思っていたらしいんです。しかも、生まれてから数ヶ月は僕のことを「さやか」って呼んでいたらしく(笑)。僕は、女子に対しての想いが強い作家だと思うんですけど、そのことを最近知って、「さやか」と呼ばれていたことが強く影響していたのかなって気がしたんです。だから、東京で演劇を作っている「藤田貴大」って名前もあると思うんだけど、どこかで違う名前で生まれたかもしれない自分がいて、そういった存在の関係を作品化しようと思っています。

――『勧進帳』は名前ではありませんが、自分を偽る話ですよね。

杉原:そうですね。やっぱり『勧進帳』は源義経一行が変装して自分を偽らないといけないっていうのが、おもしろいなって思っています。命をかけてご主人様を守るために自分を偽るというのは、分かるようで分からないし、分からないようで分かる。

――「越境」という行為が現代のイメージとどのように重なってくるのでしょうか?

杉原:まず、キャスティングの時点で「越境」をテーマにしています。弁慶役のリー5世さんは日本語が話せるけれど見た目は外国人なわけだし、義経役の高山のえみさんは、ニューハーフだから性別の境界が混在している。そういう人たちをキャスティングすることで、境界が国や言葉の関係に重なってくる。そうやって原作を暴力的に飛び越えていくと、現代に精通する新しいものが見えるかなって思っています。

定型化されたプロセスを疑うことで作品の質感が変わる

――公募企画においてスタッフ(プロジェクトメンバー)も募集するというのはとてもおもしろい試みですよね。『A-S』においてスタッフとはどのようなクリエーションを行うのでしょうか?

藤田:まず、稽古場に来てもらうっていうことが大事な作業です。ここ数年、マームとジプシーは俳優からスタッフまで全部のコミュニケーションを等価にすることを目指していて。だから、『A-S』では役者さんとコミュニケーションするようにプロジェクトメンバーとコミュニケーションしてみて、メンバーから出てくる言葉を採用していきたいなって。照明に関しても「ゼロから一緒にやっていきたい」と言ってくれた子が応募してきてくれたので、大変だろうけどその子とトコトン作り込んでいこうと思っています。

日本の演劇って、現代演劇でも形式が強く残っているじゃないですか?スタッフさんとのやりとりにおいても、数回のミーティングのプロセスを経れば、プラモデルみたいに舞台が出来上がっていくという定型がある。それはいいことでもあるんだけど、形式にのっとってばかりいると、やっぱり違う質感の作品は生まれてこないんですよね。今回は、役者と稽古をするだけの創作ではなく、作品との関わり方から、作品の質感を変えていきたいと思います。

――京都造形芸大学でも教鞭を執っていた故・太田省吾さんは「劇の希望」(筑摩書房)という著書の中で「プロセスを疑うことで新しいものが生まれる」と言っていますよね。歌舞伎には根強いプロセスがあるように感じますが、太田さんに教わっていた杉原さんは、その点はどのようにお考えでしょうか?

杉原:僕らは歌舞伎ではなくあくまで現代劇を作っているという意識だから、演劇創作のプロセスと比較するとかなり異質なことをしていると思います。それこそ京都造形芸大に入学してすぐに太田省吾さんの授業で演劇の固定概念を壊されてしまっているので・・・(笑)。「疑え」とか「社会と繋がれ」とか、演劇を作る上で大切なことを多く教わったと思っています。

藤田:作品って誰だって作れちゃうんですよね。高校の演劇部の先生だって作れるわけですから。だから、作品を作ることに意味はないと僕は考えています。それよりプロセスを見直して、新しい質感を獲得していくことの方が大事なことだし、基本なんじゃないかなって。だから太田省吾さんのように、疑うことを学校教育でやれたらいいんですけどね。

杉原:やはりシステム化するっていうことはアーティスト教育にとっては弊害がありますよね。あくまで“アーティスト”を育てるということに関してですが。

藤田貴大×杉原邦生対談_3

活動を監視する目

――京都芸術劇場 春秋座が15周年を迎え、木ノ下歌舞伎は10周年、マームとジプシーも来年で10周年とそれぞれ節目の時期ですが、今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか?

杉原:経済的な面においても一緒に活動できる人や場にしても、やっと自由に選択できるところまで来たなって感じがしてきたので、そこは最低限キープしつつ、どれだけ自分の活動を広げていけるかに挑戦しようと考えています。

藤田:僕も、20代の時より余裕をもって考えられるようになってきました。でも、同時にこのまま歳を取っていくことに対して危機感も抱いていて。いわゆる演劇作家のルートがあると思うんですが、僕の中で、この定型化されたルートってなんなんだろうっていう違和感があって。それを早いうちに疑いたいんですよね。

それで、今年から「ひび」という公募をして集めたメンバーに対してワークショップをするプロジェクトを始めました。そこには、演劇というジャンルに囚われず、創作をしたい人に集まってもらっています。内容としては、学校の授業というよりインターンシップに近いのかな。僕は、自分の活動を世代が上の人からも下の人からも監視されたい“欲”があるんです。だから、「ひび」を通してそれぞれの視点で監視してもらおうと思っています。邦生さんの創作の場には、絶えずいろんな人の目があるじゃないですか。マームとジプシーもそうなりたくて。これからは表現を監視されながら、自分の進むルートについて悩んでいきたいと思っています。

――お二人の京都芸術劇場 春秋座での公演楽しみにしています。ありがとうございました。

◆藤田貴大 演出作品『A-S』公演情報
7月30日(土)・7月31日(日) 京都芸術劇場 春秋座 特設客席
※前売り券完売、当日券は各回若干枚数あり。
【出演】飯田一葉、今井菜江、大石貴也、木下朝実、小林千晴、佐藤拓道、四方いず美
四方みもり、白鳥達也、髙田大雅、谷田真緒、辻本達也、中澤陽、中田 貞代
西村瑞季、南風盛もえ、森史佳、安田晋/川崎ゆり子

◆木ノ下歌舞伎『勧進帳』公演情報
KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2016 AUTUMN 公式プログラム
11月3日(木・祝)~11月6日(日) 京都芸術劇場 春秋座 特設客席
【出演】リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉
【演出・美術】杉原邦生
【監修・補綴】木ノ下裕一
【チケット発売】8月8日(月)

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