『ブラック メリーポピンズ』演出・鈴木裕美インタビュー!「俳優の魅力を存分に堪能して下さい!」


2014年に初演された韓国発ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』が、2016年5月14日(土)より再演される。1920年代のドイツが舞台。著名な心理学者の豪邸で起こった火災現場から助け出された4人の子どもたちと、命がけで子どもたちを助け出した家庭教師のメリー。彼らの封印された過去が解き明かされ、衝撃の真実が明るみになる――。演出の鈴木裕美が、初演を振り返りつつ、再演に向けての期待について語った。

『ブラック メリーポピンズ』鈴木裕美インタビュー

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――まずは再演が決まった感想から聞かせてください。

そうですね…稽古が楽しかったので、「あの日々がまたやってくる、嬉しいな」という感じですね。

――キャストはヒロインが中川翔子さんに変わりますが、それ以外のキャストは初演と変わらずの登板です。

変わったのは中川さんだけですけど、それだけでも、キャスト同士の関係性や見え方は全く変わると思うんですよ。ですから楽しみでしかないというか。

――初演の時の稽古は楽しかった?

そう、人数が少ないので一人ひとりと濃密に話し合えたというか。俳優さんたちみなさんが“演劇的”に賢いので、一緒にものづくりするうえで「このシーンはもっとこうできるね」とか、「ここの気持ちはこうだね」っていう話し合いがとてもスムーズにできた覚えがあって、それが楽しかった。

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――もとは韓国のオリジナルミュージカルで、日本版を初演するにあたり、演出面でいろいろと変えていますよね。

ソ・ユンミさんが31歳の時に書かれた作品です。初演したとき、若い荒々しい筆、ということをすごく感じましたね。筆に勢いがあるというか、若い人が作っているだけに筆がのびやかだなというか。ぶっちゃければいろいろとつじつまが合わないところもあって日本版で手を加えてはいますけど、それも良さだと思いました。脚本も楽曲もユンミさんが書かれているので美意識が統一されつくしているし。その勢いとか、統一感というのはそのまま出したいなと思いました。

――セットも韓国版とは少しイメージが違いますよね。

韓国版は少し赤っぽいセットだったような。日本版は真っ白いですね。私にしては思い切ったセットにしたと思います。戯曲と曲の力強さを見せたいなと思っていろんなしつらえを考えました。そのセットは今回の再演でも変わりません。

――再演ということで、作品をこう深めたいとか演出面で手を加えたいと思ってることはありますか?

再演だから、前回と比べてこう変えようとかはいつも考えないんです。再演はほかにもいろいろやってきています。例えば『宝塚BOYS』などは4回再演していますけど、毎回、「変えよう、深めよう」という意識はないんです。ただ毎回、新しい俳優さんと真摯に向き合いたいという気持ちはありますから、そうすると意識せずともおのずと違うものになっていますよね。あまり演出家が「ここを、ここが」って思わなくても勝手に深くなるような気がしています。

――再演が決まってからキャストの皆さんと何かお話は交わされました?

「また来るね」みたいなことは話しました。この作品って、一路さん以外のキャストは一度舞台に上がったら最後まで出ずっぱりなんですよね。だからある意味とてもつらいとも言えます。もしかしたら初演を経験した3人(小西、良知、上山)は「あのまた苦しい日々がくるんだな」って思っているんじゃないんですかね(笑)。

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――初演の時に苦労されたシーンはありました?

記憶を無くしていた子どもたちがどこまで思い出すのか、その段階をものすごく話しあった覚えがあります。「このセリフはどう響くんだろう?」みたいなことを。
あと、この作品は1回も拍手が来ない系のミュージカルなんですよ。普通はナンバーを歌いあげたら拍手がもらえたりしますよね。この間までやってたミュージカル『花より男子 The Musical』も、ここは拍手をもらわないと芝居が弾んでいかない、とかありましたけど、『ブラック メリーポピンズ』はそうじゃないんですよ。芝居のテンションのまま地続きで歌って、そのまま地続きで芝居に戻らなければならないんです。だから、普通のミュージカルの歌い方とはちょっと違うというか、芝居と違う声で歌うわけにはいかないというか。そのあたり、俳優さんたちはみんな歌い方に相当苦労したんじゃないかと思います。すごく叫んだあと、そのまま歌にいかなければいけない場面もありましたし。腕がいるんですよね。

――一路さんが演じるメリーの役割も韓国オリジナル版とは違ってより際立った存在になっていますよね。

特にこうしてと言ってはいないんですが、すっとやってくださった感じでした。ほかの4人が稽古場からわちゃわちゃやってるのをリアルに見守っていただいた感じがあります。だからあまり役作りは必要なかったんじゃないでしょうか。ひどいこと言ってますよね?私(笑)。でも、本当にすーっとやってくださいました。
韓国ってまだミュージカル文化の歴史が浅いから、一路さんクラスのミュージカルの女優さんがいないんですよね。だから、韓国では若い女優さんがメリーを演じている。母親的目線をもったメリーという意味では日本版のほうが当然存在感が出ると思います。

――ユ・ソンミさんとはお話しされたことあるんですか?

初演の初日を観に来てくださった時が初めてでした。この間は『花より男子~』を観にきてくださったんですよ。

――何か印象に残ったコメントはありますか?

初演を観たときは、ただただ感動して泣いてくださっていました。あとは舞台のセットとかしっかり見ていかれましたね。「このセットはいくらかかったの?」といった実務的な話もしました(笑)。さっきの『花男』もそうですけど、あれ以来、日本には結構いらしてて舞台をご覧になってるみたいです。

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――『花より男子~』のご感想は?

(上山)竜治に、「あなたはあなたのまんまで出てたね」とおっしゃったそうです(笑)。それを言われた竜治本人は、「2回しか会ったことないのに、俺の何を知ってるんだ?」と返したそうですけど(笑)。
そのあと一緒にご飯もして、「この俳優はこんなふうに見えた」、「あの人はこういう人?」とか(笑)、やっぱりそう見えるんだって共感するところもありました。彼女は演出家でもありますから、話していて楽しいですよね。

――初演では、その上山さん含め、小西遼生さん、良知真次さんの男性3人の演技にも注目が集まりましたね。

この3人はなんていうんですかね……初演の時も、DVDのコメンタリーでも言ってるんですけど、ボケているんですよね、3人とも(笑)。でも本人たちは絶対にボケてないと思ってるんですよ。

――3人ともボケですか?

私に言わせたら、一路さんも含めて出演者全員ボケです。ボケ散らかしてる(笑)。自分たちは絶対にツッコミだと思ってるんですよ。私の友人も初演を見たとき、とても見目形美しい方々だけど、みんなボケ散らかしてるメンツだねって言っていました(笑)。
男性3人で言えば、全く個性が違うんですけど、どこか間が抜けてるんですよね。でもそれだけじゃなく、お互いの尊重のし合い方が非常に賢いとも思います。俳優として相手役を尊重することがとてもバランスよくできる方たちです。

――では3人の魅力をあげるなら?

まず、3人ともすごく真摯です。役とか舞台ということに対して、すごく真面目で情熱もあるし愛情深いです。小西さんは、ご覧になるお客さんも分かると思いますけど、すべてのアプローチが繊細で丁寧。人にも音符にも言葉に対しても、非常に丁寧に熟考するタイプ。ものすごく家で考えてきていて、質問も丁寧です。竜治はわりと大雑把で、「どうしよう、わからなくなっちゃった!」とか言っちゃう(笑)。
良知もすごく考えてくる、プランを立てるタイプの人。感覚が変わっていて、「どこから出て来るんだその発想は」ってことがあって。人と面白がるところが違うんですよね。稽古場で一人で笑っていることがよくあったんですけど、何が面白いのか周りはさっぱりわからない(笑)。でも、そういう面白いものを見つけ出す感覚が人と違うところは魅力だし、彼が演じるヨナスという役に合ってるんじゃないかと思いますね。俳優さんが役に寄って行った部分もあると思うんですけど、3人それぞれが演じるキャラクターに通じるところがあるんですよね。小西くんの繊細さや感覚的なところが役に合ってるし、竜治だったら、人を守ってあげたいとか、彼の魅力の男らしい感じが役に合ってるんですよね。

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――ヒロインで初参加する中川翔子さんはこれが初舞台ですよね。

この間中川さんと食事をご一緒する機会があったのですが、ほんと見た目がかわいい(笑)。初演の音月桂ちゃんがかわいくなかったということではないですよ!もちろんかわいかったんだけど、桂ちゃんはものすごくハキハキしゃべる人で、人に対してオープンマインドで華やかな方なんです。中川さんは、簡単に開かない感じで、男性陣の「かばってあげたい、守ってあげたい」という感じがものすごく強くなるんじゃないかなと。黙っていても守ってあげたくなる感じなので、ある意味“僕たちのお姫様”という気がすごく濃くなる感じがします。

――中川さんとどんなお話をされたんですか?

今まではチームプレイを一切やってきていないので、舞台でみんなで作る感じがどんなふうなのか不安だとおっしゃってましたね。私は「たぶんバラエティとかと一緒ですよ」と言いました(笑)。中川さんが番組に出演していくなかで、ある日「俺たちこういうふうに作っていけばいいんだ」ってすっとわかる瞬間があると言っていたんですが、そういうことは演劇の稽古場の途中にもあるんです。だから舞台上でも稽古場でもそういう日がいつか来ますよ、と話しました。

――最後に、公演を楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします!

ちょっと変わった、あまり観たことのないタイプのミュージカルです。ストレートプレイでは話がキツすぎて観ていられないと思いますけど、音楽がとても救いになっているんです。新しいタイプのものなのでぜひ観ていただきたいし、ミュージカルの“いきなり歌う感じ”がダメな人も、この作品はいきなり歌わないので大丈夫だと思います(笑)。また、出演者の誰か一人でも興味があるなら絶対に観て損はないです。かっこいいところも、情けないところもチャーミングなところも、すべてご覧いただく事が出来るので存分に堪能出来ます。ぜひ劇場へお越し下さい!

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◆プロフィール
鈴木裕美(すずき・ゆみ)
日本女子大学在学中に「自転車キンクリート」を結成。小劇場から大劇場、 ストレートプレイ、ミュージカルと多種多様なジャンルで精力的に活動中。近 年の主な作品に『アンナ・カレーニナ』『英国王のスピーチ』『アリス・イン・ワ ンダーランド』『パパのデモクラシー』『宝塚 BOYS』『フランケンシュタイン』 『夜中に犬に起こった奇妙な事件』『ブラック メリーポピンズ』『ウインズロウ・ ボーイ』などがある。2011 年には個人ユニット「鈴木製作所」を立ち上げた。 紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀演出家賞、千田是也賞、菊田 一夫演劇賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞演劇部門など受賞歴多数。

『ブラック メリーポピンズ』キャストビジュアル

◆公演情報
ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』
脚本・作詞・音楽:ソ・ユンミ
演出:鈴木裕美
上演台本:田村孝裕
訳詞:高橋亜子
出演:中川翔子、小西遼生、良知真次、上山竜治、一路真輝

【東京】2016年5月14日(土)~29日(日)世田ヶ谷パブリックシアター
【兵庫】2016年6月3日(金)~5日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【福岡】2016年6月9日(木)福岡市民会館
【愛知】2016年6月17日(金)愛知県芸術劇場 大ホール

☆オフィシャルサイト
https://m-bmp2.com

☆告知映像
https://www.youtube.com/watch?v=tFzgNCvKd68

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