『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』井上芳雄にインタビュー!「演劇の“奥深い扉”を開けようとしています!」


1960年代にNHKでオンエアされ、個性豊かなキャラクターと奇想天外なストーリー、誰もが口ずさめるキャッチーなメロディーで一世を風靡した人形劇『ひょっこりひょうたん島』。昭和の時代、多くの人に愛された物語が46年の時を経て“漂流劇”として生まれ変わる! 本作でミステリアスな顔を持つ保安官“マシンガン・ダンディ”を演じる井上芳雄に話を聞いた。

『ひょっこりひょうたん島』井上芳雄インタビュー

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ワークショップ=できれば避けたい?

――『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』のお稽古場ではワークショップが行われているそうですね。

もう稽古が始まって20日くらいになるのですが、最初のうちはかなりワークショップの比重が大きかったと思います。僕は『パッション』(新国立劇場)本番と並行しての稽古参加でしたので、全てに出られたわけではないのですが。

――ワークショップから作品を生み出していくという現場は井上さんにとっても珍しいのでは?

ほぼ初めてですね・・・ミュージカルではまずないやり方だと思いますし。元々、ワークショップというものがあまり得意ではなく、出来れば避けて通りたいくらいなのですが(笑)、そうも言っていられませんので、稽古場でいろいろ吸収出来ればと。特に今回は「こういう演劇の作り方もあるんだ!」と、新しい体験をさせて頂いている感がとても強いです。

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――ほとんどが初共演の方ばかりですし。

ミュージカルですと、歌もダンスもある程度メソッドというか、下地のようなものがあって、それを身に着けてから役の人物を演じるというのが基本なのですが、今回はさまざまなジャンルで活躍する方たちとご一緒ですので発見も多いですね。

例えば「ちょっと動いてみて」という演出サイドからの投げかけに対して、僕の動きはどこかダンスのようになってしまうんですよ(笑)。そんな時にふと横を見ると、思いもかけない体の使い方をしている方もいらして「おおっ!」と。共演者の方のそういう姿を目の当たりにすると「自由でいいなあ、素敵だなあ」と思います。今回の現場ではこれまでの発想と変えていかないといけないんだな、と実感することばかりです。

――本番では新しい井上さんの姿を拝見できそうです。

どうでしょう・・・そうなったらいいなあ(笑)。『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』に関しては、これまでの自分の概念や常識を一回とっぱらってみることが必要なんだと思って稽古に参加しています。

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――『パッション』のインタビューでお話を伺った時に、「演技をするのがつらい時期もあった」と仰って下さった井上さんのお話への反響が凄かったです。

おお、そうなんですね(笑)。今回は更に一段階上に昇るための挑戦です…足を滑らせないようにしないと(笑)。僕にとっては全く新しいタイプの作品ですし、俳優が全員こういう体験をする訳ではないと思いつつ、前向きにトライしていきたいです・・・新分野にチャレンジすることは嫌いじゃありませんし。演劇の奥深い扉を開けようとしている感覚もありますね。どうせ扉を開けるならその世界にきっちり染まって、何かしら「宝」を持ち帰る勢いでいきたいな、と。

――ワークショップで場面を作る中、俳優さん同士でディスカッションをしたりということもありそうですね。

それはかなりありますね。そういう時に大森(博史)さんを中心に、オンシアター自由劇場時代から演出の串田(和美)さんと一緒にやってきた方たちがリードして下さるのはありがたいです。と言っても、皆さん「えー まだワークショップやるの(笑)?」なんてお茶目な感じで、全然ギスギスしていないのがまたいいんですけど。

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――串田さんの演出はどんな感じでしょう?

基本、自由に何でもやらせて下さるスタイルです。だからこそ、自分で考えてアイディアを提示していく局面も多く、そこがある意味怖い部分ではあるのですが。今回、ルーマニアから若い女性の振付担当の方も参加していて、彼女のウォーミングアップがまた面白いんです…ダンスというよりは動き、ムーブメント的なモードで。そういう新しいタイプの動きも演技に取り入れていける現場ですので、ミュージカルでは出来ないこともいろいろやれそうです。

――今回はミュージシャンの方が舞台上で演奏なさるそうですが、井上さんの歌声は聞けそうですか?

どうでしょう・・・その辺りもこれからどんどん詰まっていくと思います。ただ「これ、マシンガン・ダンディの歌になると思うから」と言われている曲もありますので、何かしら歌わせて頂くことにはなると思いますよ。

――井上さんが考える「マシンガン・ダンディ像」も伺いたいです。

謎めいた人物ですね。ひょうたん島の人たちはみんな仲が良くて、いつもワイワイ楽しそうにしているのですが、彼らとはちょっと距離を置いたところでクールな佇まいを見せる…マシンガン・ダンディはそんな存在でしょうか。彼は元々はギャングなのですが、過去に何か傷のようなものもありそうです。いろいろなことを背負いながら、今は島を守る保安官としてその場にいる・・・僕としては、ちょっとハムレットをイメージしている所もあります。

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『正しい教室』への出演で得た感覚

――今年は『モーツァルト!』のファイナル(大阪公演)から始まって、『SHOW-ism VIII ユイット』『正しい教室』『エリザベート』『パッション』『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』、そしてWOWOWオリジナルドラマ『海に降る』や『僕らのミュージカルコンサート』等、怒涛のような一年だったのではないかと。

こうして並べていただくと凄いですね(笑)。今年は常に誰かを演じているか、何かを覚えている…そんな一年だったような気がします。

――こんなにお忙しい日々の中で、素の“井上芳雄”さんに戻るのはどんな時なのでしょう。

基本的には稽古中や舞台の上にいる時以外は素のつもりですが…ああ、でも作品に入っている時はふとした瞬間に「…ダンディは…」とかやっぱり考えちゃいますね。うーん、どんな時に素に戻ってるんだろう…あ、今年、確実にお酒の量は増えた気がします(笑)。

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――お酒でふわっとする感じ?

うん、そういうところもありますね。どうしても舞台の本番中は興奮した状態になりますし、ハッピーなこともそうでないことも抱えた状態で帰ってきますので、クールダウンしたり、疲れを取る為にお酒を飲むってことはあります。結果、飲み過ぎると翌日はもっと疲れちゃってる訳ですが(笑)。

――全部だとは思いつつ、2015年のお仕事で特に印象深い作品はなんでしょう。

全部です…これだけのことをやらせていただいて、全てが心に残ってますね。『エリザベート』にトート役で出演させていただいたのも大きな出来事でしたし。ただ、個人的には『正しい教室』に出させていただいた事で俳優として大きな何かを得られたような気がします。と言うのも、この作品に出演してから“ただその場にいる”ということが自然に出来るようになったんです。『正しい教室』は、リアルな感情を少しずつ丁寧に積み重ねていく作業の連続で、それは大変だったし、稽古中は不安もあったんですが、あの経験をさせていただいた事は俳優として大きな糧になりました。

以前はミュージカルの舞台が続くとストレートプレイの稽古に入った時に少し戸惑いがあったり、舞台の現場から映像の現場に行くとすぐに演技の方法が思い出せなかったりもしたのですが、『正しい教室』以降はそういうブレが無くなった気がします。

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――もう、ずっと先のスケジュールもお決まりだとは思うのですが、今後挑戦してみたい役柄がありましたら教えて下さい。

これまでなかなか演じる機会がなかった「悪い人」っていうのも面白いですよね。ただ、こういう作品をやりたい、こういう役をやりたいと思うより、今はその現場現場でガッチリ染まっていきたいんです。今回の『ひょっこりひょうたん島』も、僕にとっては全く新しい分野でのチャレンジですし。あえて与えられた環境に浸かって、その中で毎回変わっていきたいと思います。人ってそれくらいシビアな環境に置かれないと変われないんじゃないかって。

本当は一つの舞台が終わって、すぐに次の稽古に参加するのもなかなかシビアだったりするんですが、そういうことも全て自分の心の持ちようでプラスの感情に転換していくんです。そんな発想でこれからもいろいろな挑戦が出来ればいいですね。

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“ミュージカル界のプリンス”そう呼ばれて15年になる井上芳雄は今年も全力でショービズ界を駆け抜けた。ウィーンミュージカルの大作から、ソンドハイムのエッジの効いた作品、そして日本の劇作家と組んだ濃密なストレートプレイ。今の演劇界でこれだけの幅を見せられる人材は他にいないのではないだろうか。

そんな井上が満を持して挑戦する『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』。「ワークショップは苦手。できれば避けて通りたい」と照れた笑顔で語ってはいるが、きっと彼はまたこれで階段を一段上がるのだろう。「今年のテーマはセクシー」と秋に宣言した井上が、どんなマシンガン・ダンディを見せてくれるのか…幕が開くのを楽しみに待ちたいと思う。

シアターコクーン・オンレパートリー2015-2016+こまつ座
◆『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』◆

東京公演:2015/12/15(火)~12/28(月) Bunkamuraシアターコクーン
東京2月公演:2016/2/3(水)~2/11(木・祝) Bunkamuraシアターコクーン
松本公演:2016/1/9(土)~1/10(日) まつもと市民芸術館 主ホール
大阪公演:2016/1/15(金)~1/17(日) シアターBRAVA!
福岡公演:2016/1/23(土)~1/24(日) キャナルシティ劇場

特設サイト
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/15_hyotan/index.html

ヘアメイク・佐藤裕子〈スタジオAD〉 スタイリスト・ヨシダミホ
撮影:高橋 将志

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