劇団四季ミュージカル『コーラスライン』 竹内一樹にインタビュー!「苦しくてボロボロになって立ち上がる過程を楽しみました」


ブロードウェイの舞台に生きるコーラスダンサーたちの人生を描いた劇団四季のミュージカル『コーラスライン』。1979年から35年以上に渡って上演され、上演回数2000回を達成した四季のレパートリー作品だ。新作ミュージカルのオーディションで最終選考に残った17人のダンサーたち。演出家・ザックは彼らに自らの言葉で語るよう求める。「どうしてダンサーになろうと思ったんだ?」戸惑いながらも心情を語り出すダンサーたちの“人生”とは…。本作でボビー役を演じる一人、竹内一樹から「リアル・コーラスライン」な舞台裏の話を聞いた。

『コーラスライン』 竹内一樹インタビュー

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◆4年振りに『コーラスライン』ボビー役と向き合う

――竹内さん、4年振りのボビー役ですね。

4年前に初めてボビーを演じると決まった時は、本当に自分にこの役が務まるのか正直不安もありました。『コーラスライン』は劇団四季が大切に上演してきた作品で、ボビーは錚々たる先輩方が演じられた役でもありますし。

他の多くの役柄はソロナンバーがあって、その中で心情を表現できるのですが、ボビーはほぼ“話術”で気持ちを伝えなくてはいけません。4年前は“台詞”という壁にまずぶつかって、何とかその壁を乗り越えようともがきました。

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――ボビーはある意味、とらえどころが少ない…難しい役だと思います。

僕も客席で初めて『コーラスライン』を観た時は、ボビーという人間の内面がどうなっているのか、彼の心情を必死で追っていました。例えばなにか悲しい事やつらい事があった時に、ボビーはそれを真正面からストレートに受け止めるのではなく、少し斜めの方向からかわすように受け容れていく人なんじゃないかと思うんです。彼がそういう風に生きているのは、家庭環境や父親との関係も影響しているのでしょうね。

――一緒にオーディションを受けているシーラとの関係性も改めて面白いと感じました。

シーラとはオーディション仲間です。年代も同じという設定ですし、二人の関係は“戦友”と表現して良いかもしれません。他にもザックを始め、アルやキャシー、グレッグもほぼ同じ年代です。皆、共に戦ってきた仲間なんですね。

――今回の公演では、コーラスダンサーたちの細かい人間関係がより明確に現れていた気がします。

それは嬉しいです!ありがとうございます。これまで『コーラスライン』に出演してきた先輩方から、17人のメンバーの中での細かい人間関係についてのお話はありました。僕の場合、4年前にボビーを演じた時は、ラインで隣に並んでいるビビと劇中でそんなに交流はしていないんです。今回の公演ではビビ役の出演経験者でもある礒津ひろみさんから「ボビーとビビもオーディションで顔を合わせたことがあって顔なじみ」と伺って、その辺りの関係性も心に置いて演技をするようにしています。

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――演出家・ザック役のお一人、荒川務さんもボビー役の経験者ですよね。

荒川さんからは本当にたくさんのアドバイスをいただきました。普段から親しくお話させていただいているのですが、今回もボビー役の先輩としてたくさんの“宝”を受け継いだ気がします。ボビーってちょっと斜め上っぽいところもありつつ、つらい経験を乗り越えてきた人なので、他者に対して思いやりもあるし、スマートで優しいところもあり…実は女性にモテるんじゃないかと思っているんですよ(笑)。

――4年の月日を経て再びラインに立って、心境の変化はありましたか?

4年前に初めてボビーを演じた時は分からないことだらけで、とにかく必死に役と台本とに向き合っていました。あれから時が経って、いろいろな経験をさせていただいて、自分では引き出しが増えたのではないかと感じています…視野も広がったと思いますし。

――ボビーは最初の振り落としで一旦落ちたと思って帰りかけるんですよね。そこでザックに戻されて列に並ぶ…あの時の佇まいを観て、とても繊細なキャラクターなのだと改めて認識しました。

彼はとても繊細です。そしてある意味切り替えも早い。あの場面は落ち込んだり疑問を感じたりというよりは、すぐ諦めて「次に行く」という気持ちで演じています。あとは、グレッグがちょっと恥ずかしい告白をする場面でさり気なく「僕もさ」と助け舟を出したり。分かりやすい形で人を助けるというよりは、誰かが心の傷を見せた時にすっと歩み寄って自然にサポートする…そういう人柄なのでしょうね。

――もし竹内さんが女性だったらどの役を演じてみたいですか?

ヴァルです!

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――即答いただきました(笑)!

僕はボビーとヴァルがすごく似ているように思うんです。二人ともたくさん悲しい思いをしてきた人間で、それを乗り越えようと努力してもがき、今は明るくポジティブに生きようとしています。ヴァルのそういう姿勢にボビー役を演じる身としてはとても共感するんですよ。

――そのボビーやヴァル、グレッグの「乗り越えた」感が「乗り越えられない」ポールとの対比にもなる訳ですね。ラインに立つ17人のダンサーを演じる俳優さんたちの間でお稽古中にディスカッション的なことはあったのでしょうか。

例えばシーラ、ビビ、マギーが「アット・ザ・バレエ」を歌う場面で、他のダンサーは彼女たちの後ろでバレエを踊るんですが、その時僕たちは“現在の自分”として踊るのか、それとも“シーラたちが通っていたバレエスタジオの仲間”として踊るのか、“過去の自分”として踊るのか…全員が統一見解を持ってあの場面にいられるよう、話し合ったりはしました。そういう時に長くこの作品に出ている先輩方からいろいろお話も伺えて、とてもありがたかったです。

――先ほど以前に比べて「引き出しが増えた」「視野が広がった」というお話がありましたが、なにかきっかけとなる作品が?

経験させていただいた作品全てが糧になっていると思いますが、やはり『リトルマーメイド』のエリック役をやらせていただいたのは大きかったです。

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【撮影:下坂敦俊 (C)Disney】

――以前、同じエリック役の上川(一哉)さんにお話を伺って驚いたのですが、海外スタッフからはお稽古場での靴の指定があったとか。

エリックは王子なので、稽古場でも王子らしくということで、ダンスシューズがNGだったんです。革靴を履くように指定され…最初はすごい衝撃でしたね(笑)。革靴の上にジャージというのも変ですので、稽古着も白いシャツにジャケットがメインでした。

――四季の場合は同じ役を何人かの俳優さんが演じられますが、上川さんとはどんな風にコミュニケーションを?

エリック役の稽古の時に、上川君が言われたことは僕が全て記録をして彼に伝えましたし、僕が稽古をしている時は彼が全く同じことをしてくれました。情報交換も沢山しましたよ。

◆ハードだった『コーラスライン』稽古の日々

――四季の俳優さんは、そういうところが劇団の“強み”であり“あたたかさ”であるとおっしゃいますよね。11月の東京公演が終わると『コーラスライン』は全国公演に向けて旅立ちます。

僕はこれまで『嵐の中の子どもたち』と『赤毛のアン』の時に全国公演に参加させていただいたのですが、もし出演ができたら『コーラスライン』では初めてとなりますのでとても楽しみです。

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――全国公演を経験なさると俳優としての考え方もいろいろ変わりそうです。

それはもう経験する前と後では全然違うと思います。公演が自分たち(=俳優)だけではなく、照明さんや音響さん、技術関係の方たちや地方の劇場関係者の皆さん…本当に色々な方に支えられているのだと実感します…感謝の気持ちで一杯になりますね。劇団四季の場合、公演終了後の撤収作業も俳優がスタッフの中に入って一緒にやるんですよ。

全国公演で、公演各地の方と交流できるのも楽しみの一つです。土地によって、お客様の反応もそれぞれ違いますので本当に勉強になります。伺う土地で美味しいものに出会えるのもいいですね(笑)。

――全国公演中、これはピンチだ!と思った経験はありますか?

全国公演ですと、その日の公演が終わったらすぐに撤収し、次の公演地に向かいます。四季の専用劇場や長期公演の場合は、劇場に入ってから本番まで自分のペースでストレッチをしたり声を出したりといったアップをし、ベストな状態で本番に臨めるのですが、全国公演の時は条件が劇場によって毎回違いますので、自分のペースを掴むのに時間が掛かったりはしますね。

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【撮影:下坂敦俊】

――今回の『コーラスライン』は劇団内でのオーディションもかなりシビアだったとか。

だと思います。もちろん、キャストが決まるまでのオーディションもハードなのですが、稽古が始まってからも毎日が“オーディション”でした。特に『コーラスライン』はダンサーたちがオーディションの場に立つという話ですので、演出サイドの方たちも、僕たちの状態が役とよりリンクするよう、敢えてそういう状況を作ったのだと思います。初日の幕が開くまで誰が出演するのかも全く分からない状態でした。

――そういうハードな状態に心が折れたりはしませんか?

厳しかったですね。今回の稽古は特に自分自身との戦いだったと思います。僕、少し前まではとにかくがむしゃらに…120%の力を出して、役や作品にぶつかっていたんです。そうやって全ての力を出し切ることが自分の中の「OK」ポイントだったんですね。でも、少しずついろいろな経験を積ませていただく中で、最近はやっと少し肩の力を抜けるようになった気がします。

これからはいろいろある中で自分に必要なものをきちんとチョイスできるようになりたいと思っています。今回の『コーラスライン』のオーディションも、力だけで押し切れる年代からステップアップできているのか、4年前と比べてどんなアプローチでボビーを演じられるのか、自ら体感してみたいと思い、チャレンジすることを決めました。

稽古をしていて、提示された課題に対して少しずつそれをクリアできるよう頑張る内に、段々自分が思う「ボビー像」が出来てくるんです。それで「よし、いける!」と思うとまた稽古場でボロボロになって…今回はその繰り返しだったのですが、僕、心のどこかでそれを楽しんでいたのかもしれないです。

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『春のめざめ』のエルンスト、『マンマ・ミーア!』のスカイ、『リトルマーメイド』のエリック、そして『コーラスライン』のボビーと、王子様から少し変わった風情のキャラクターまでを演じ切り、その存在感を舞台上で存分に発揮している竹内一樹。

ノートに自らの思いを書きためたものを持参し、明るく丁寧にインタビューに応じる姿を間近で見て「真面目な人だな」と改めて思う。『コーラスライン』は常にギリギリのところで戦うダンサーたちの物語だ。稽古場で叩かれ、ボロボロになっても、次第に作品の中で生きる感覚を掴んで行くのが楽しかったと語る竹内の笑顔の向こうに、稽古場で流した涙の跡がほんの少し見えた気がした。

◆劇団四季ミュージカル『コーラスライン』
11月23日(月・祝)まで自由劇場(東京・浜松町)にて上演
12月19日(土)所沢公演から全国公演スタート
詳しい日程や公演地は下記のURLからご確認下さい。
https://www.shiki.jp/applause/chorusline/special/map/

(撮影:高橋将志)

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