ミュージカル『パッション』 フォスカ役のシルビア・グラブにインタビュー!「ソンドハイムの手ごわさ、実は嫌いじゃありません!」


新国立劇場演劇部門2015/2016シーズンの開幕を飾るミュージカル『パッション』。19世紀のミラノを舞台に、騎兵隊の兵士ジョルジオと、彼を取り巻く二人の女性との恋愛模様が描かれる大人のミュージカルだ。音楽を担当するのは巨匠、スティーブン・ソンドハイム。複雑でありながらクセになるソンドハイムの旋律を最高の技巧者たちがどう歌い上げるのか…。本作でジョルジオに恋する病弱な女性・フォスカを演じるシルビア・グラブに、作品に賭ける意気込みや自身のターニングポイントについて語って貰った。

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――台本を拝読して、シルビアさんがフォスカ役だと伺った時に「おおー!」と思いました。

ねえ(笑)。これまで比較的、明るくぱーっとした役が多かったので、私自身お話をいただいた時に驚きもありました。新しい役柄に挑戦ということで、今回はとても楽しみなんです。

――ブロードウェイの公演でもフォスカは話題をさらった役ですよね。

そうみたいですね。ある意味普通じゃない役って難しいゆえに役者としてはやりがいも感じますし、何とかしてやってやろうと思います・・・これからガンガン壁にぶつかるとは思いますけど(笑)。

――フォスカは“弱く”存在することで、実は誰よりも“強い”・・・そんな女性なのかな、と。

なるほど・・・確かにそうかもしれないですね。まだ本格的な稽古に入っていないので(注:9月上旬)、どういう方向性になるのかは分からないのですが、歌稽古の時に演出の宮田(慶子)さんには「ただの内気な引きこもりではなく、フォスカの繊細さや不安げなところも出した方が良いと思う」と言っていただきました。彼女がああなったのには彼女なりの理由がある訳で・・・触れたらパチンと壊れてしまうような、フォスカのはかなさも表現できればと思っています。

――『パッション』に登場する二人の女性・・・フォスカもクララも多くの“色”を秘めている印象です。

上演時間の中で登場人物たちはびっくりするくらい皆変わって行きます。その変化の理由をきちんと胸に置きながら、それぞれの化学反応を起こしていけたら、と。本読みや歌稽古が動き出して、それぞれがどんな風に自分が演じるキャラクターを作っていくのか、これからどんどん深まっていくと思うと楽しみですね。立ち稽古に入る頃にはどんな形になるのかな・・・なんて。

“意外な作品”で共演していた『パッション』の三人

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――ご共演の井上芳雄さん、和音美桜さんとは『三銃士』(2011年)でもご一緒でしたね。

そうそう!あの時とは全く違った役柄での再共演です(笑)。

――『三銃士』は“一人は皆のために、皆は一人のために”で、『パッション』は三人とも自分の恋のために頑張るという(笑)。

本当ですよね(笑)。製作発表で(井上)芳雄君が「今年のテーマはセクシー」と言っていましたが、確かに彼のそういう面はあまり見たことがないかもしれません。実は芳雄君の初舞台でも共演していて、学生の頃から知ってはいるのですが。

――『エリザベート』のマダム・ヴォルフとルドルフで。

そう!その後にも『ミス・サイゴン』で夫婦役を演じたりして、私の中での芳雄君は“悩める青年”とか“真っ白な王子様”としての印象が強いので、彼がどんなジョルジオを演じるのかすごく楽しみなんです。和音(美桜)さんも、可愛くて清楚なイメージからどうクララにアプローチしてくるのか…私自身も想像がつかないですし、ミュージカルを多くご覧になっているお客様も度肝を抜かれるんじゃないかな、と(笑)。

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――ミュージカルファンも手に汗を握りそうです(笑)・・・二人のファンテーヌ経験者がジョルジオを挟むという。

ああ、本当ですね!カンパニーには(『レ・ミゼラブル』の)アンジョルラスやジャベール、テナルディエの経験者もいますし。佐山(陽規)さんと私はソンドハイム作品に出演経験がありますから、他の方たちがあの難曲にどう立ち向かうのか・・・これもちょっと楽しみなんです。

――やはりソンドハイムの楽曲は手ごわいですか?

手ごわいですね。でも私、その手ごわさって嫌いじゃないんです。楽譜を通してソンドハイムに「ほら、難しいだろ?出来ないだろう?」って言われてる気がするのを「そんなことない、やってやる!」ってはね返していく感じが。

――まさに“パッション”ですね!演出の宮田慶子さんとは今回が初顔合わせになりますが。

私の中では宮田さん=ストレートプレイを主に演出なさっている方というイメージがあって、初めてご一緒させていただくのがミュージカルの現場というのも不思議な気がしつつ楽しみでもあります。多分、ドラマ性をより大切になさるのではないかと。今回は役柄的にもガイドをして下さる方がいないと心細いので、そういう意味では宮田さんの存在はとても大きいです。

――方向性によっては観客が登場人物に共感出来なくなる恐れもある作品ですし。

ソンドハイムの楽曲って難曲ってイメージが強いんですけど、実は詞…“言葉”から曲を作っていくんです。とても言葉を大切にするクリエーターなんですね。『パッション』も音形は英語マターで作られているものを和訳して歌うわけですが、これが本当に大変で。歌稽古にも宮田さんと訳詞を担当なさる竜真知子先生がずっといらっしゃって、歌詞に関してお互いが作り手としてすごいディスカッションをなさっている状態です。時に宮田さん自ら譜面をお読みになって歌われたりして。本番に向けて更にいろいろ動いていくと思いますよ。

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ミュージカルとストレートプレイの一番の違いは「自由度」

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――シルビアさんはストレートプレイの作品にも多く参加していらっしゃいますが、両者の一番の違いって何でしょう?

ストレートプレイの方がある意味「自由」なのだと思います。ミュージカルには必ず“音楽”があって、決まった約束の中で役の感情を表したり演技をしなくてはいけない。でもストレートプレイにはその縛りがない分、何でも「自由」に出来る…勿論、戯曲の内容や演出家が示すアウトラインはありますが。

ミュージカルで、“音楽”という縛りにもなり、助けにもなるものがある中ずっと演じていると、「さあ、何でもやっていいよ」のストレートプレイの世界に行った時に、何をどうして良いのか分からなくなっちゃうんです。

――ああ、だからミュージカルの舞台に多く立つ俳優さんがストレートプレイの現場を「怖い」と仰るんですね。

最近一番、そのことを強く意識したのは三谷幸喜さんの舞台『国民の映画』でした。小日向文世さんを始めとするベテランの方たちが本当に自由に現場で“遊んで”いらして、それが羨ましくて仕方なかったです。自分もその中に入って一緒に遊びたいのに、なかなかそこまで自由になれなくて。それ以来、音楽という“縛り”がない中でも自由でいられるようになりたいと、より強く思うようになりました。

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――『国民の映画』は震災直後の初演と、2014年の再演の両方を拝見しましたが、シルビアさん演じるツァラが大きく変わったように思いました。特にフリッツ(小林隆)への思いの残し方が。

ナチスがドイツを支配していた時代の物語と言うことを考えると、初演と再演でどちらの解釈が正しいという事はないと思うんです。ツァラはドイツ人ではなくスウェーデン人という設定ですし。ただ再演の時に三谷さんとお話をして、初演よりフリッツに対して最後まで彼のことを気に掛けるという方向にしていただいた事で、自分の中ではより自然にツァラとしてあの場に立っていられた気がします。

――本当に多くの作品に出演なさっていますが、転機となった舞台や役がありましたら教えて下さい。

それは…『アイ・ガット・マーマン』ですね。最初にやらせていただいたのが2000年だったと思うのですが、エンターテインメント・ショーでありながら、あそこまで“芝居”を追求したのは初めての経験で…。実はそれまで“芝居をする”ということが怖くて仕方がなくて、『アイ・ガット・マーマン』の稽古に入った時に「あれ?このポジション、もしかしてすごく大変かも…」ってあせりました(笑)。

演出の宮本亜門さんにも「ちょっと待って、無理かも」なんて伝えていたんですが、亜門さんは「いや、絶対に出来るから」と言って下さって。この時に亜門さんの演出を受けたことで芝居をする事が楽しくなって、ストレートプレイにも積極的に挑戦しようと思えるようになったんです…稽古中はこてんぱんにやられましたけど(笑)。

――今回のフォスカ役は、かなりご本人と違うチャンネルを使う役柄だと思うのですが、普段はお稽古中の役に私生活が影響される方ですか?それともすぱっと分けられる?

自分ではすぱっと切り替えられるタイプだと思っているんですが、『レベッカ』の初演の時、シングルキャストで3か月公演だったんですね。

――ダンヴァ―ス夫人ですね。

稽古を含めて4か月…だったかな…役柄的に、表情がない人を演じていたので、いつの間にか普段も顔の筋肉が全然動かなくなっちゃって(笑)。家族からは当時良く「ねえ、何か怒ってる?」って聞かれてました(笑)。あの時は声のトーンもすごく低くなっていたり。普段の生活で役を引きずっているつもりはなかったのですが、どうやら違ったみたいです(笑)。そう考えると、今回のフォスカもちょっと危険ですね。本を片手に家の中で人を追い掛けないよう気を付けないと(笑)。

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『エリザベート』ではしたたかな娼館経営者、マダム・ヴォルフを演じ、『レ・ミゼラブル』ではファンテーヌ、『レベッカ』では亡くなった女主人に忠誠を尽くすダンヴァ―ス夫人、『ミス・サイゴン』では夫を支える妻・エレン、更に三谷幸喜作品では『国民の映画』『ショーガール』と、さまざまな作品で全く違う姿を見せるシルビア・グラブ。

華やかな容姿もさることながら、常に前向きに&開いた状態で語る様子に接し、彼女が舞台で光る理由の一つが見えた気がした。

『パッション』のフォスカは決して美しくも明るくもなく、自らの恋をひたすら追い求める病弱な女性。ある意味本人とは対極にあるこの役柄をどう魅せてくれるのか・・・客席でその姿を目撃したいと思う。

ミュージカル『パッション』は、2015年10月16日(金)~11月8日(日)、新国立劇場 中劇場にて上演。

撮影:高橋将志

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