ミュージカル『パッション』クララ役の和音美桜にインタビュー!「大人の恋物語を思いっきり体感してください」


2015年10月16日(金)、新国立劇場・中劇場にて開幕するミュージカル『パッション』。19世紀のイタリア・ミラノで繰り広げられる男女の恋を描いた大人テイストの作品だ。「ミスター・ミュージカル」ことソンドハイムの傑作がどう立体化されるのか…主人公・ジョルジオの美しい恋人、クララを演じる和音美桜に話を聞いた。

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――クララはある“秘密”を抱えて井上芳雄さん演じるジョルジオを“翻弄”していきます。

こういうタイプの役は初挑戦ですね(笑)。最初は「翻弄しないと!」と、意識がそちらに傾いていたのですが、台本を何度も読み込んでいく内に、翻弄する側の人って意識して行動している訳じゃないんだと、役に対するアプローチが変わっていきました。クララ自身、自分の思いを素直に貫いているだけなのですが、それが周囲から見たら“翻弄”に見えてしまう訳で。ですから今は、クララの強い信念をどう表現していけばいいのか…その部分を大事に考えて演じていこうと思っています。

――翻弄してる側の人は実は無意識ってすごく良く分かります。確かにそこを意識して演じてしまうと観客から見てクララが嫌な存在に映るかもしれないですね。

女性がクララを見て「うわー 嫌だ」と感じてしまったら、それは作品の方向性としても違うと思うんです。

――製作発表では演出の宮田慶子さんがクララのことを「女性が感情移入しやすい役」と仰っていましたし。

確かにクララはいろいろ「あらら」な部分も持っている人なのですが(笑)、同じ女性として彼女と似た経験をなさった方も多いんじゃないかと。お客様がクララを見て「うん、分かる」と共感して下さると良いのですが。

井上芳雄さんの第一印象は「ミュージカル界のプリンス」

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――ジョルジオ役の井上芳雄さんとは多くの舞台でご共演なさっています。

最初にご一緒させていただいた時は、どうしても「ミュージカル界のプリンス」という印象が強くて、どうしよう…と思ったりもしたのですが(笑)、何回か同じ舞台に関わらせていただく内に、良い意味で一俳優としてニュートラルな状態で現場にいらっしゃる方なのだな、と、安心して同じ舞台に立たせていただけるようになりました。本当に真摯に作品に向き合う方ですし、スケジュール的にタイトだったり、主演という立場で大変なことも多い中、周囲への気配りもお忘れになりません。“大変”という状況を表にお出しにならないんですね。その姿勢が素晴らしいとご一緒させていただく度に思います。

あとは、同じ作品に出させていただいて、お稽古場で拝見していると「オン」のスイッチの入り方が自分と似ている様な気がするんです。私はお稽古は好きなのですが、稽古場があまり得意ではなくて…なにか恥ずかしいんです(笑)。稽古場に長くいるよりは、なるべく早く本番の舞台に立ちたいと思ってしまうタイプみたいで。井上さんがそうなのかは分かりませんが、お稽古を拝見していると、本番へのギアスイッチの入れ方が私と同じような気がして、とても安心感があります。

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――多くの共演作をこれまで拝見して、お二人の声の相性の良さにもいつも感動しています。『パッション』ではソンドハイムの世界が美しく響きそうですね。

わあ、それは嬉しいです!ありがとうございます!美しく響くよう頑張らないと(笑)。皆さんが仰っている通り、やはりソンドハイムの楽曲は難しくて、最初にCDで音源をいただいて一生懸命聞いたんですが、なかなか自分の中に入って来なくて。全編聞き終わった後も残るフレーズがなかなかなく…これはどうしたものかと(笑)。譜面を前に曲を流しながら音を追うという作業を繰り返したんですが、普段は大体、3回くらいリピートすると何となく全体像が掴めて覚えられるのに今回は全然ダメで、譜読みの段階で「ああーっ!」ってなったり(笑)。歌稽古に入って、他の俳優さんとハーモニーのお稽古をしても、途中で音が行方不明になっちゃうことも多々ありました(笑)。ソンドハイムのナンバーは高いハードルではありますが、なんとか越えて行きたいです。

――製作発表を拝見して、演出の宮田慶子さんを先頭に、もう良い雰囲気が出来上がっているカンパニーだと感じました。

宮田さんは歌稽古の時から立ち会って下さって、途中途中で作品の方向性など、機を見てお話して下さるんですね。歌稽古の段階では宮田さんが仰ることを全て取り入れて完璧に演じられる…にはまだ至っていないのですが、安心して全てをお任せできる方だと思います。

――宮田さんはストレートプレイの演出が多い方ですが、やはりミュージカルがメインの演出家の方と進め方の違いを感じますか?

それは感じますね。『パッション』の歌稽古でも、日本初演ということもあり、歌詞の日本語にとてもこだわっていらっしゃるのが良く分かります。(歌詞の)語順を変えてみたり、歌が芝居として成立しているかということをしっかり見て下さったり、ブレスの位置が(演技の中で)正しいのか気にして下さったり。歌稽古の段階で、芝居的な要素が多く入ったディレクションをなさるので、とても(クララの)気持ちが掴みやすいんです。

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『ルドルフ ザ・ラスト・キス』との出会いで再びスタートラインに立てた

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――和音さんは宝塚の退団後も多くのミュージカル作品でご活躍なさっていますが、ターニングポイントになった作品は何でしょう?

(少し考えて)やはり…『ルドルフ ザ・ラスト・キス』(2012年)ですね。作品、演出家、役(=マリー・ヴェッツェラ)…全てにおいて、人生観が変わる出会いだったと思います。元々歌は好きで、演技も嫌いではなかったのですが、『ルドルフ ザ・ラスト・キス』で演出家のデヴィッド・ルヴォーさんから芝居をする事の楽しさをすごい勢いで注入して貰ったという感じでしょうか。今後もミュージカルの舞台に立つのなら、得意な歌に逃げるのではなく、演技をする事とさらにしっかり向き合わなければいけない…そのことを改めて教えられた作品でもあります。『ルドルフ ザ・ラスト・キス』はミュージカルの世界で、私をもう一度スタートラインに立たせてくれた舞台…今でも心の奥にずっと残っている作品です。

――今後、トライしてみたい役や作品がありましたら教えて下さい。

私、昔から面白い役が好きなんです。面白いって言うのは、ひょうきんって意味ではなくて、ザ・ヒロインという役柄ではなく、ちょっとひねりが入っている様なキャラクターで…。

――良かった!『UTA・IMA・SHOW』で目覚めてしまったのかと(笑)。お稽古場で岡幸二郎さんに「和音さん(アレをやらせて)大丈夫なんですか?」って思わず聞いてしまう面白さでした。

ですよね(笑)私、一応宝塚の出身なのに良くアレをやったな、と(笑)。コメディーも大好きですが『UTA・IMA・SHOW』は大人の壮大な遊び心の集大成ですから(笑)。『ルドルフ ザ・ラスト・キス』のマリー・ヴェッツェラを演じた時に感じたのですが、一人の人間の人生を生き切る役には魅力を感じます。台本に描かれていない部分を埋めて、自分ではない人の人生を生きるって大変だけどすごくやりがいがあるな、と。今後もそういう役柄に巡り会えたら嬉しいですね。

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――宝塚退団後、まだ挑戦なさっていないストレートプレイはどうでしょう?

挑戦したいですね…怖いけど。“芝居の面白さ”みたいなものがやっとわかってきた感じですので、やってみたいと思います。多分、“芝居の面白さ”をまだ知らなかったら、「歌がないのは怖いー 嫌ー」って逃げ回ってたと思うんですけど(笑)。

――そういう意味では、今回の宮田さんの演出は和音さんにとって一つの財産になりそうです。

本当にそうですね。きっととても学ぶことが多いお稽古になると思います。いろいろなことを吸収していきたいです!

――冒頭の“あのシーン”からラストまで目が離せない展開になりそうです!では『パッション』を楽しみになさっている方たちに向けて、メッセージをお願いします。

『パッション』は大人の愛の話なのですが、誰しも経験した恋愛のいろいろを客席で再び体感できる作品だと思います。ご覧頂いたお客様が、心の中にしまった何かを思い出したり、今の自分と照らし合わせてドキドキしたり…良い意味で観て下さった方の心に“波”を起こせるよう“濃厚”な出演者一同頑張っておりますので、ぜひ楽しみに足をお運びください。劇場でお待ちしています!

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宝塚歌劇団を退団後、ミュージカル界の歌姫としてさまざまな舞台で美しい歌声を響かせてきた和音美桜。8月に井上芳雄がホストとなって開催された『僕らのミュージカルコンサート』では「わたしが踊るとき」「夢やぶれて」「ダンシング・クイーン」など色調の違うナンバーを歌いこなして観客を魅了した。

彼女の芝居を観ていると「一本芯が通った佇まい」とはこういうことなのだな、といつも思う。決して自分からガンガン前に出て来るタイプではないのだが、その芯の強さが観客に深い印象を残すのだ。

そんな和音がこの秋挑戦するのは『パッション』で、主人公のジョルジオを翻弄する美しい恋人・クララ役。自身も初めてと語る役柄がどう具現化されるのか…開幕を楽しみに待ちたい。

※『UTA・IMA・SHOW』は、2014年10月に草月ホールで第二弾が上演されたミュージカルコンサート。林アキラと岡幸二郎が中心となり「宝塚100周年を勝手にお祝いする」というテーマのもと、さまざまな趣向が舞台上で行われた。和音も“第二の宝塚ネーム”を引っ提げ登場。

ミュージカル『パッション』は、 2015年10月16日(金)~11月8日(日)新国立劇場 中劇場にて上演。

撮影:高橋将志

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