『夏の夜の夢』シェイクスピアが奏でる――イタズラな恋の魔法


自由と解放。
この舞台には、この2つのエネルギーがみなぎっている。

自由——演出家ジュリー・テイモアは、想像力を自由にする。
シェイクスピア作品の中でも特に人気が高い『夏の夜の夢』を、
大ヒット、ブロードウェイ・ミュージカル『ライオン・キング』の演出で、サバンナを独創的な世界観で表現したジュリーが手掛ける。
これはある意味、夢の競演!

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これまでも、ジュリーは、400年も延々と上演されている古典世界に新しい風を吹き込んでいる。
シェイクスピア作品の中で最も上演回数が少ないとされていた『タイタス・アンドロニカス』をアンソニー・ホプキンス主演で映画化。残虐で暴力に焦点が集まりがちだったこの作品に、人間の愛と憎しみの深さを見出し、美しきエログロ・ワールドの新境地を開拓した。さらに映画『テンペスト』では、主人公を男性から女性にアレンジして、名女優ヘレン・ミレンが熱演。今までにない新解釈でシェイクスピアの“嵐”を描き出した。
このアメリカ人演出家は、戯曲の本質にダイヴし、自由に泳ぎ、シェイクスピア世界の魅力を表現していく。
イギリス人演出家とはひと味も、ふた味も違った切り口で型を自由に破っていくのだ。

その独創性は、シェイクスピアの世界の“定番”を軽々と飛び越えていく。
戯曲もシャープに編集し、テンポよく物語が進む。
そして今回の演出では、大きな布で自由自在に、シェイクスピアの夢を広げていく。
オープニングは、1つのベッド。
そこから夢の世界へと誘う。
その布は、シーツからテントへ。テントから大空の雲へ。雲から妖精の女王の寝床へ……ふわり、ふわりと夢のごとく、想像力を自由に解放していく。

現代アートのように物体の固定観念を崩し、新しい発見をうながす――それがジュリーの舞台の最大の面白さだ。布が布でなくなり、枕が枕でなくなり、舞台が森に、空に変化していく世界。観客と人間の想像力を楽しむ、遊び心満載の世界が、ジュリー・テイモア・ワールドだ。

さらに本作では、生の舞台を複数のカメラで撮影するだけでなく、何回かに分けて撮影。さまざまなアングルから舞台を撮影し、舞台の臨場感をそのままにしっかり編集して映画のように仕上げている。英国のシェイスクピア舞台では、実はほとんどアドリブはないのだが、ジュリーの舞台ではアドリブもある。シェイクスピア劇でありながら、肩肘張らない自由な空気が、ファンタスティックな世界をさらに盛り上げる。

『夏の夜の夢』_2

そして、この舞台のもう1つのエネルギーが、解放だ。

解放——『夏の夜の夢』は、“さらけだし”の喜劇だ。
自分を解放する。
思いきり。
それは、思いきり愛に突っ走ること。
どんなにかっこ悪くても、
なりふり構わず、ひたすら突っ走る。
これは、そんな恋人たちの物語だ。
着飾っていた洋服(見栄やプライド)をどんどん脱いで、ありのままの自分をさらしていく。
ただ、それにはちょっとした運命のイタズラが必要。
恋が成就するための、あれやこれやのトラブルを演出するのが、妖精たちだ。

シェイクスピア作品の中でも、とにかくにぎやかな作品として有名で、3つの世界が交錯する。
二組の若いカップルの恋のドタバタ。
妖精の王と女王の夫婦ゲンカ。
恋愛とは無縁だったのに、なぜか騒動に巻き込まれていく職人男。
そして、この3つの世界をつなげるのがイタズラ妖精パックだ。
特にパックを演じる女優キャサリン・ハンターにぜひ注目してほしい。
彼女は、男と女、いや人間という領域も超えて、完全に妖精そのもの!

夏の熱に浮かされたような恋。
夢の中をさまよう様に、移ろいやすい心。
シェイクスピアが奏でる恋物語を、ジュリー・テイモアが幻想的に奏でる本作。

「恋は目ではなく、心で見るから」
Love looks not with the eyes but with the mind.

片思いの男を必死に追いかけるヒロインの一人、ハーミアのセリフにあるように、
この舞台は、恋のお話。
ぜひ「目」で楽しむだけでなく、「心」を解放して観ていただきたい。

『夏の夜の夢』_3

ジュリー自ら監督を務める映画『夏の夜の夢』は、2015年11月13日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほかで全国順次公開。

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