柳下大、太田基裕、吉原光夫らが全身全霊をかけて臨む“再挑戦”ミュージカル『手紙』ゲネプロレポート


2017年1月20日(金)に、東京・新国立劇場 小劇場にてミュージカル『手紙』が開幕した。原作は、直木賞候補にもノミネートされた東野圭吾のベストセラー小説で、ミュージカルとしては、昨年1月に初上演された。ストーリーはもちろんのこと、斬新な演出や丁寧に綴られたメロディ、圧倒的なキャストの熱演熱唱で“日本のオリジナルミュージカル”として新たな爪痕を残した。

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あの公演から1年。直貴役に柳下大と太田基裕をWキャストとして迎え、2017年のミュージカル『手紙』は始まった。演出を手掛けるのは、先日発表された第24回読売演劇大賞演出家賞にノミネートされた藤田俊太郎。公演に先駆けて行われたインタビューで「初演時にいいと思ったアイデアはどんどん捨てていきたい」、「2017年の今、どこで何が起こっているか、という感覚を鋭く持っていたい」と力強く語っていた藤田は“再演ではなく、再挑戦”と銘打った本作をどう見せるのか。

舞台上部で奏でられる音楽が徐々に足並みをそろえ、次第に大きく加速する音色に乗って、客席のあらゆる方向から続々と舞台上に上がっていく出演者たち。最後に、二人きりの家族である兄・剛志(吉原光夫)と弟・直貴(柳下大/太田基裕、取材時は柳下ver.)が並び立ち、物語は始まる。

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両親に早く先立たれ、共に支え合いながら日々を過ごしてきた兄弟。ある日、剛志は、頭の良い直貴を大学に進学させたいあまり、引っ越し作業で訪れた裕福な一人暮らしの老婦の家に盗みに入る。過ちはそれだけでは済まされなかった。犯行を本人に見つかり、手をかけてしまったのだ。

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“強盗殺人犯の弟”。その日から、直貴の生活は一変する。
どこへ行っても白い目で見られる日常と、奪われ続ける夢。刑務所にいる兄から届く「手紙」に最初は返事を書いていた直貴だが、行く先の闇の深さに心を閉ざし、「兄」の存在とそれを知らせる「手紙」に背を向けるようになっていく・・・。

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兄にギターをもらい、嬉しそうに笑う姿。兄の罪を知り、絶望と自責の念で涙ぐむ姿。ライブハウスで音楽に出会い、目の色を変えてステージを見つめる姿。兄の罪で可能性を奪われ、絶望の淵でうなだれる姿。そして、やるべき事に気づき、目の前に広がる絶望の海に足を据えどうにかして生きようと立つ姿。直貴を演じる柳下の、変化に揺れる瞳の奥が見える横顔には目を奪われた。

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直貴の、いつもギリギリのところに立っているような佇まいが、本当に切なく苦しい。「言葉にできないものが、必然的に歌になってしまったもの」。劇中歌について、そう語っていた柳下の言葉どおり、こぼれ落ちるような歌声には、言葉のさらに奥にあるものが見えた気がした。

初日を迎えた柳下は「演出の藤田さんをはじめ、キャスト、スタッフ一丸となって作っては壊しを繰り返し、命をかけて魂を込めて作った作品をようやく皆様にお見せできることを嬉しく思います。2017年、最初の衝撃作をぜひ観にいらしてください。全身全霊をかけて臨んでいます。『ある日突然、人生が裏返しになった・・・』」とコメントを寄せている。

太田の演じる直貴は、どんな横顔をしているのだろう。話題作に次々と出演する実力派の二人が同じ役を演じるというのも、今回の上演の大きな魅力だろう。

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そして、兄・剛志役は吉原光夫が前回から続投している。人間の善悪をより深めた所作と歌声で表現する姿に、腹立たしいほど心が痛む。弟の存在が心の支えであり人生のすべてとして、両親を亡くしたその時から、自分の人生の役割を決めて歩んできたであろう兄。「どうしてこんなことを?」「何かが違ったらこんなことには・・・」観ている側に、どちらの気持ちをも抱かせるほど、愚かで真っすぐな人物像に引き込んでいく。

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そして、この兄弟を取り囲む人々を、藤田玲、加藤良輔、川口竜也、染谷洸太、GOH IRIS WATANABE、五十嵐可絵、和田清香、小此木まり、山本紗也加が様々な形で演じる。同級生、親友、同僚、近所の人、囚人、看守・・・その配役にもまた、強いメッセージを感じた。兄の起こした事件の被害者が別の事件では加害者の母を、遺族が囚人を、直貴をなじった同級生が直貴に恋をし一途に支え続ける。

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この哀しい物語が、誰にでもありうる話だということ。そして、人間というもの不完全さと不確かさ。儚くも強さを秘めた音楽に心を揺さぶられながら、そう想いを馳せたあの瞬間、舞台と客席に境目はなかったと思う。

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二人の兄弟の心の震えが、この目に見えるようだ・・・やり場のない想いを胸に抱え、泣くように歌う姿に、ふとそんな気持ちになった。あらゆる人々の人生が交錯するのを目の当たりにしながら、本当に問われているのは、2017年を生きる“今の自分なのかもしれない”と思った。

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ミュージカル『手紙』は、1月20日(金)から2月5日(日)まで東京・新国立劇場 小劇場にて、2月11日(土・祝)から2月12日(日)まで兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて上演。

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(取材・文/杉田美枠)
(撮影/エンタステージ編集部)

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