中川晃教、加藤和樹、濱田めぐみらが魅せる!ミュージカル『フランケンシュタイン』観劇レポート!


(写真提供/東宝演劇部)

1月8日(日)より日生劇場で上演中の『フランケンシュタイン』。‘14年に韓国で初演されて以来、多くの観客からアツい支持を得るグランドミュージカルだ。主要キャストが一人二役を演じる構成とドラマティックな音楽も話題の本作。東京公演折り返しを迎えた舞台の模様をレポートしたい。なお、本文には作品の内容に触れる表記も含まれるので、ご留意いただければ幸いである。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_2

(写真提供/東宝演劇部)

19世紀初頭、科学者、ビクター・フランケンシュタインは、戦争で死んだ兵士を生き返らせる人体再生の研究を行っていた。ある日、ビクターは戦場で敵兵の治療を行い、銃殺されそうになっている軍医、アンリ・デュプレと出会う。自らの研究にアンリの人体縫合の技術が必要だと確信したビクターは、彼に人体再生の必要性を説くのだが、アンリは「それは神の領域だ」と共同研究の申し出を受けようとはしない。しかし、ビクターの「人々が安らかに暮らせる世界を創りたい」という言葉に打たれたアンリは研究を手伝うことを承諾。次第にふたりは固い友情で結ばれていく。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_3

(写真提供/東宝演劇部)

戦争が終わり、ビクターの故郷に戻ったふたりは、ビクターの姉・エレンや、婚約者・ジュリアに見守られながら、人体再生の研究を続ける。そんな中、ある事件が起き、アンリはビクターの身代わりとなって斬首刑に処せられてしまう。悲しみにくれたビクターは、アンリの“一部”を用いて彼の人体再生を試みるのだが、そこで誕生したのは、アンリの記憶を一切持たない“怪物”だった。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_4

(写真提供/東宝演劇部)

3年後、ジュリアと結婚したビクターのもとに“怪物”が現れ、自らの身に起きた壮絶で哀しい出来事を語り始めるーー。

まず舞台美術の美しさに目を奪われる。崩れた額縁に囲まれた廃墟・・・そしてところどころに咲く赤く小さな花。人間の荒んだ心と、ピュアな思いとを表しているようだ。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_5

(写真提供/東宝演劇部)

ビクター・フランケンシュタインを演じる中川晃教は、死者を蘇らせることが人類のためになると信じながら、言動の端々に“天才”としてのおごりも見え隠れする複雑な人物像を体現。得意とされる高音域ではなく、中音域を駆使して複雑なメロディをドラマティックに歌い上げる表現力は流石の一言。また、2幕では悪役とも言える闘技場の主人・ジャックを軽やかに見せ、まったく曲調の違うナンバーを楽しげに歌う姿が印象的だった。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_6

(写真提供/東宝演劇部)

人の命のはかなさを戦場で見続け、希望を失った軍医のアンリ・デュプレ。加藤和樹が演じるアンリは、全身から哀しみと寂しさとが漂う造形。そんなアンリがビクターの熱意に動かされ、次第に心を開いていく様子が、後の悲劇につながると思うと非常に切ない。アンリがビクターの身代わりになることを決意し歌う「君の夢の中で」は涙なくして聞けないナンバーだ。そんなアンリの一部を持った“怪物”を、加藤は時に愛らしく、そして時に復讐の鬼としてダイナミックに演じる。本作が彼の代表作のひとつになることは間違いないだろう。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_7

(写真提供/東宝演劇部)

また、重要な役割を担うふたりの女優も素晴らしい。1幕で慈愛に満ちたエレン、2幕で怪物を戦わせる闘技場の女主人・エヴァを演じる濱田めぐみは、まったく違う2つのキャラクターを完璧に演じ分ける。エレンのビクターに対する愛情の向け方は母親のそれにも見え、また、弱さがある種の愚かさに繋がる役作りは、この時代の女性の象徴にもなっていると感じた。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_8

(写真提供/東宝演劇部)

ビクターの婚約者、ジュリアと闘技場の下働きの娘、カトリーヌを演じる音月桂も、可憐さと愚かさとを瞬時に切り替えながら二役を魅せる。2幕で“感情を持たない”造形の濱田エヴァと“感情に支配される”音月カトリーヌとの対比が非常に興味深い。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_9

(写真提供/東宝演劇部)

本作『フランケンシュタイン』には、韓国発ミュージカルのひとつの特徴でもある、超技巧的なナンバーがこれでもか!というくらい登場するのだが、出演者全員が役のバックグラウンドや関係性を掘り下げ演じているため、歌ウマのショー状態とは真逆のクオリティになっている。前半部分でアンリがビクターの輝ける生命力と信念とに心打たれ、ふたりの友情が固く結ばれているからこそ、自らを犠牲にし、ビクターの研究を成就させたいというアンリの行動も自然に映った。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_10

(写真提供/東宝演劇部)

唯一の“友”であるアンリを生き返らせようと力を尽くしたビクターが生み出した“怪物”。その“怪物”には、誰よりビクターを信頼し、命さえ捧げて夢を託したアンリの記憶は一切ない。自分を世に送り出したビクターに復讐することだけを考え生きている“怪物”と、その目の奥にアンリの片鱗を探そうとするビクター・・・これほど切ない話があるだろうか。

ミュージカル『フランケンシュタイン』舞台写真_11

(写真提供/東宝演劇部)

ドラマティックな物語と音楽、一人二役というトリッキーな構成に俳優個々のポテンシャルが相まって最高の化学反応を起こしている本作。ビクター×アンリの組み合わせは全4通り。1組観ると、他の組み合わせも観たくなること間違いなしの作品である。

ミュージカル『フランケンシュタイン』は日生劇場にて1月29日(日)まで上演中。東京公演千穐楽後は大阪、福岡、愛知の各都市で上演される。

(キャストは筆者観劇時のもの。Wキャストとして、ビクター/ジャックは中川晃教・柿澤勇人、アンリ/怪物は加藤和樹・小西遼生がそれぞれ演じる)

(取材・文/上村由紀子)

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