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浅利慶太が描く優しい戦後の物語。観客の想像力を信じた舞台『思い出を売る男』舞台レポート

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『思い出を売る男』舞台レポート

劇団四季の創設メンバー、浅利慶太。四季を退いた後は、独自の演劇活動を続けている。今年83歳を迎える浅利が20年以上にわたり上演を続けている作品が、この『思い出を売る男』だ。今回の公演は、自由劇場(浜松町)で2016年2月24日(水)から2月28日(日)まで上演している。戦後の街角でサクソフォンを吹く男が見せる、思い出の欠片たち。観客は街の遠い記憶をのぞき見るように、その物悲しい思い出に引き込まれていく……。

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『思い出を売る男』舞台レポート

どこか不思議な雰囲気の漂う薄暗い裏街で、一人の男が古ぼけたサクソフォン(サックス)を吹いている。道行く人に声をかけては「思い出を売ります」と言う。戦後の裏路地に、サクソフォンの寂しげな音が優しく響く。男は三日三晩探し歩いて、やっと思い出を売るのにふさわしい静かな灰色の壁を見つけたのだ。

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男の奏でる音楽にひきつけられるように、さまざまな人が現れる。まだ買える「思い出」を持っていないほど、幼く無邪気な花売りの少女。戦争でうらぶれた世間を、逞しくしたたかに生きる広告屋……。

舞台から客席の真上にかけて、かすかな電燈が灯されている。また、舞台の右手前は観客が覗き込めるほど窪んでおり、戦後の裏街に捨てられたゴミが捨てられている。男がサクソフォンを鳴らすたび、いつの間にか観客もセピア色の裏路地に迷い込んだ気持ちになる。

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そして、一人の女が現れる。暗い雰囲気をまとった女は、男が奏でる『巴里の屋根の下』に耳を傾け、灰色の壁にサクソフォン吹きの恋人との思い出を蘇らせる。もう何年も前、戦争が始まる前の幸せな思い出……。戦争で引き裂かれてしまった恋人と、生き別れてしまった娘との思い出を胸に、女は涙をふいて街の中に消えてゆく。

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その後も、故郷に恋人を残したGI(米国軍人)の青年や、妻を亡くした乞食など、さまざまな街の住人が姿を見せる。
サクソフォンの音色はタイムマシンのように、それぞれの過去を思い出させる。戦前の「思い出」と、戦後の「現在」は、ぱっくりと隔てられてしまった。一人ひとりの過去と現在を丁寧に描き、思い出という過去を見せることで、観客は、戦争がなければ存在したかもしれない幸せな未来を想像してしまう。

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優しいサクソフォンの調べが、少しずつそれぞれの戦争を浮かび上がらせるなか、突然、街がざわめきだす。この界隈の親分である「黒マスクのジョオ」が人を殺し、ピストルを持ったまま逃走しているというのだ。男の前に現れたジョオは警官から逃げるため、男から上着と帽子を奪いサクソフォンを吹き始める。そのメロディーは、街の女が「恋人との思い出の曲」だと涙していた、あの『巴里の屋根の下』だった……。「もしや」と思いながらも、思い出売りの男はジョオの奏でる音色に合わせて歌う。

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ストーリーにひねりがあるわけではない。ただただ丁寧に、戦争を生きた人々を描く。シンプルな物語のなか、誰もがいろいろな「思い出」を持ちながら今を明るく生きる姿に、懐かしさや悲しさ以上に生きることが愛しくなる。サクソフォン吹きの男とともに人々の思い出を見つめるうちに、それがまるで自分の思い出のような気持ちになる、まさに舞台は体験だ。浅利慶太が観客の想像力を信じた、優しい舞台だった。

浅利慶太プロデュース公演第3弾『思い出を売る男』は、自由劇場(浜松町)にて2016年2月24日(水)から28日(日)まで上演。

(文/河野桃子)

(文/エンタステージ編集部)

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