舞台『リトル・ヴォイス』が衛星劇場で初のTV放送!主演を務めた大原櫻子が思い出を語る


1992年にロンドンで生まれ、のちに映画化もされた話題の舞台『リトル・ヴォイス』。音楽だけが心の支えになっている少女・LV(リトル・ヴォイス)が、歌を通して少しずつ成長していく姿は世界中に多くの感動を与えた。今年5月には初めて日本でも上演され、その主演を務めたのが、アーティスト・女優として活躍する大原櫻子。11月にCSチャンネル衛星劇場で初オンエアーされる放送に向けて、彼女に公演当時の思い出を振り返ってもらった。

舞台『リトル・ヴォイス』大原櫻子インタビュー

――『リトル・ヴォイス』は90年代に上演された舞台で、映画化もされました。その作品への出演が決まった時は、どのような心境でしたか?

実は、それまでこの作品のことを知らなかったんです。それで、オファーをいただいてから映画を拝見したのですが、作品の中で歌われている往年の歌姫たちの楽曲がどれも素敵で、とても印象的でした。ただ、どの曲もこれまで自分が歌ってきたジャンルにはないものでしたし、歌のシーンがあるとはいえ、ストレートプレイの舞台に出演すること自体が初めてでしたので、最初は“自分にこの役が本当にできるんだろうか・・・”という不安がありました。

――そうなんですか!?実際の舞台からはそんなプレッシャーを抱いているようにはまったく感じませんでした。

本当ですか!?それならよかったです(笑)。

――歌のシーンに関しては、どのように不安を払い除けていったのでしょう?

まず、(シャーリー・)バッシーや(ジュディ・)ガーランドたちの曲を歌うにあたって、声も似せなきゃいけないという課題があったんです。でも、そこにはやはり限界があるので、せめて内面だけでも寄せていこうと考えました。そこで、彼女たちの過去のインタビュー記事などを読み、皆さんの生き方や考え方を調べていったんです。そうしたら、あれだけの才能を持った方たちなのに、彼女たちもステージに上がることにプレッシャーを感じていて。その一方で“自分にしかできないこと”や“自分らしい生き方”というものも強く持っているからこそ、彼女たちは堂々と立てているんだということが分かったんですね。私もステージで歌を表現する同じ人間として共感する部分がありましたので、そこを強く意識して演じていきました。あとは・・・歌姫たちの表情をマネしてみたりもしましたね(笑)。

舞台『リトル・ヴォイス』大原櫻子インタビュー_3

――表情を真似るんですか?

はい(笑)。やはり表情にはその人の心がよく表れるので、マネをすることで内面も一緒についてくる気がするんです。例えば、バッシーはいつもすごく余裕があるように歌うんですが、そこからは「私の歌を聞きたくないのなら帰っていいのよ」と訴えているような自信も感じられました。また、これは姉から聞いた話なんですが、(マリリン・)モンローは子供の頃、誰からも愛されてなくて、舞台で見せる笑顔というのは“だからこそ、みんなを幸せにしたい”という想いから生まれたものなんだそうです。実は彼女の歌を歌うにあたって、有名な「ププッピドゥ」のフレーズをどんな感じで歌えばいいのかすごく悩んだのですが、そのエピソードを知ってからは、聞いている人が楽しくなるようにという想いで表現しました。

――大原さんが演じたLVは無口で、人とのコミュニケーションは苦手だけれど、音楽への愛はとても深い、感受性の豊かな女の子という印象を受けました。

そうなんです。私も、彼女は人と話すのが嫌いなのではなく、本当はたくさんおしゃべりがしたいという気持ちが、軸としてあるのではないかと思いました。ただ、大好きだった父親を早くに亡くし、残った母親との関係もうまくいっていない。そうした環境が彼女の心を閉ざしてしまったんだと思います。

――ステージに立って人前で歌うことも最初は拒否していたけれど、最終的には心を決める。そこにも彼女の隠されたもう一つの“心”があるように感じました。

本当に嫌だと思うのなら、きっと震えてステージに上がることもできないでしょうからね。でも彼女は、ステージに立つと、何かが乗り移ったかのように歌い上げる。それはやっぱり、元々彼女の中にいろんな好奇心があった証拠だと思います。

舞台『リトル・ヴォイス』大原櫻子インタビュー_4

――そんなLVを取り巻く人物たちには実力派の役者陣が揃っていました。まずは母親役・マリーを演じたのが安蘭けいさん。今回が初共演だったそうですね。

はい!稽古前に安蘭さんの舞台を拝見し、終演後にご挨拶をさせていただいたのですが、第一印象は「なんて、素敵な方なんだろう!」という感動でした(笑)。それ以前から、安蘭さんと共演したことのある友人に「とっても優しい方」だという話を聞いていたんですね。でも、それ以上でした!それだけに「こんな素敵な方が、あの凶暴な母親役を演じるって、どんな感じになるんだろう!?」と想像がつかなかったです。

――実際に舞台で向き合ってみての印象はいかがでしたか?

台本を読むだけだと目を塞ぎたくなる乱暴な台詞も、安蘭さんを通すとユーモアが感じられるんです。それにヒドい母親なはずなのに、なぜか愛せてしまえる。きっとそれは、安蘭さんからにじみでる品の良さがあるからだと思うのですが、そうした空気感を出せるところに表現者としての素晴らしさを感じました。そうかと思えば、休憩中や稽古が終わると、すぐにいつもの優しい安蘭さんになるんですよね。その姿には本当に憧れましたね。

――大原さんは、あまり切り替えられないほうなんですか?

そうなんです・・・。ものすごく役に引っ張られます。ですから今回も、稽古中から本番が終わるまで、家に帰るとLVのようにひとりで静かにぼーっとしていました。それに、普段はすごくおしゃべりが好きなのに、友達ともほとんど遊びにいくことがなかったです(笑)。

――まさに役が憑依している感じですね。では、LVの運命を変えるレイ・セイ役の高橋和也さんとの共演はいかがでしたか?

高橋さんはお会いした瞬間から「レイ・セイ、そのままだ!」という印象でした。稽古開始間もない頃に帰り道が一緒だったことがあったんですが、別れ際に「じゃ、また!」と爽やかに挨拶をされて颯爽と歩いていく後ろ姿が、まさにアメリカンな感じで(笑)。それに、レイってお金に執着している少し軽薄な男に見られがちですが、LVの目線で見ると、彼に何かを頼まれると断れない魅力があるんですね。それは恋とは違う“人間としての魅力”で。そこが高橋さん自身からも強く伝わってきたので、二人のシーンでは私もスッと芝居の世界観に入りこむことができました。

舞台『リトル・ヴォイス』大原櫻子インタビュー_5

――そして、LVを変えるもう一人の人物が、山本涼介さん演じる青年・ビリー。

LVとビリーのシーンは、唯一「キュン」とするところでしたね(笑)。ただ、お互い淡い恋心を抱きながらもアタックするわけでもなく・・・。二人とも奥手な性格なので、そうした微妙な距離感を出すのが大変でした。

――ビリーとはお互いに夢を語り合いますが、作品では最後まで二人がどうなったのかは描かれていません。大原さん自身はLVにどんな未来が待っていると思いますか?

実は共演者の皆さんとも、よくその話をしていたんです。でも、みんな意見がバラバラで(笑)。私としては、LVは結局母親の元を離れないと思います。きっとまたケンカの日々が続くんでしょうけど、人前で歌う楽しさを知ったLVは、以前までの彼女とは違う。それだけでも大きな一歩だったのではないかと思いますね。

――では最後に、放送をご覧になる方にメッセージをお願いします。

この作品は親子の愛情がテーマであると同時に、「本当の幸せとは自分らしく生きることだ」と気づく女の子の成長物語でもあります。その姿にはきっと誰もが共感していただけるのではないかと思います。また、映像は舞台と違い、出演者の細かい表情も楽しめますので、ぜひそこにも注目してご覧ください。特にセイディを演じられた池谷のぶえさんは、よく見ないと気づかないような小さな動きや表情をたくさんされているんです。私も本番中は自分の役に集中して見られなかったので、今回の放送でじっくり楽しみたいと思います(笑)!

舞台『リトル・ヴォイス』
撮影:渡部孝弘 (C)ホリプロ

◆公演情報
舞台『Little Voice(リトル・ヴォイス)』
2017年
【演出】日澤雄介
【作】ジム・カートライト
【出演】大原櫻子、安蘭けい、山本涼介、池谷のぶえ、鳥山昌克、高橋和也

【あらすじ】
ジュディ・ガーランド、マリリン・モンロー、シャーリー・バッシー、珠玉の名曲の数々が無口な少女の運命を変えた。天才的な歌声をもつ少女を描いた、感動のドラマ!

英国北部の田舎町に住むリトル・ヴォイス(LV)。消え入りそうな小声でしか話さない彼女に、母親がつけたニックネームだ。家に引きこもり、人と会うこともない彼女の唯一の楽しみは、父親の形見の古いレコードを聴くこと。母親のマリーは、酒と男が大好きで、娘のことなど気にもかけずに奔放に遊び回っている。ある日、マリーは新しい恋人、レイを家に連れて来た。うだつの上がらない芸能プロモーターであるレイは、たまたま耳にしたLVの歌声に魅了される。LVは繰り返しレコードを聴くうちに、往年の有名歌手たちの物まねを完璧にマスターしていたのだ。レイは嫌がるLVを町のクラブで歌わせようとするが・・・。

(2017年5月15日~5月28日 天王洲・銀河劇場)

◆CS衛星劇場 放送日
11月12日(日)午後4:00~7:00
11月24日(金)午前8:30~11:30

(取材・文/倉田モトキ)
(撮影/宮田浩史)

ヘアメイク:八戸亜季子
スタイリスト:大竹麻希
衣装協力:ニット(オメカシ/\13,000)、スカート(ハニーミーハニー/\18,000)、その他スタイリスト私物

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