『管理人』溝端淳平インタビュー!「観に来てくれた人に何かを持ち帰ってもらえる舞台に」


2017年11月26日(日)より、東京・シアタートラムにて、舞台『管理人』が上演される。ノーベル文学賞受賞作家ハロルド・ピンターの傑作を、数々の舞台で鮮烈な記憶を残す演出家、森新太郎が手がける本作。登場人物は、とある兄弟(溝端淳平、忍成修吾)と、職を失くしたホームレス寸前の老人(温水洋一)の3人のみ。三者三様の魅力を持つ役者を通して、人間関係の滑稽さが奇妙にユーモラスに描かれる。究極の不条理劇に挑む、溝端淳平に話を聞いた。

『管理人』溝端淳平インタビュー

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全てを回収しない、観客の想像力に委ねる舞台

――まず、出演が決まった時の心境を振り返っていただけますか?

世界的に有名な劇作家ハロルド・ピンターの作品、そして森新太郎さんの演出。そんな舞台のオファーをいただけることはもっと先のことだろうと思っていました。そのくらい高いハードルのピンター作品にチャレンジさせていただけることがまず嬉しかったですね。それに、森さんに声をかけてもらえたことも同じくらい嬉しいです。どんな作品も一筋縄ではいかないものですが、今回はより強くそういう覚悟を持っています。「不条理劇」っていうものに対する自分の解釈も変化していくだろうと思います。

――「不条理劇」に対しては、どういった考えをお持ちですか?

観客に委ねて、想像力をかきたてる舞台。テレビドラマなどは分かりやすく答えを提示しているものが多くて、その面白さはもちろんあるんですけど、こういう作品も求められているからこそ、公演をやるわけですよね。時代とか感情を決め付けすぎずにやっている分、色あせないのかなと思います。そういった、人間そのものの深さ、難しさっていうものに触れるというか。そういう意味でも一筋縄ではいかないなって。

――人間の本質があぶり出されるというか、じわじわ考えさせられるような戯曲でした。

階級であったり、人によって態度を変えたりだとか、人間の本来の姿が見えますよね。私欲、支配欲。何が本音なのか嘘なのかわからない。でも、人間ってそういうものじゃないですか。僕はどちらかというと、何でも白黒はっきりつけるタイプではあるんですけど(笑)。でも、グレーな部分や曖昧な部分って人間に必ずあるもの。自分の目の前にいる人は本当のことを言ってるのか、自分は本当のことを言ってるのか。そういうことを考えさせられる戯曲だと思います。

――そうですよね。3人の人間のそれぞれの言動とそれによる展開は、今そばにある人間関係の中でも起こりうるんじゃないかっていうことも考えました。

ノンフィクションでない限り、物語って嘘なんですよね。でも、物語で言ってることは嘘じゃない。劇作家が書きたいこと、役を通して人間が考えていることであって、役者はそれを演じる者。舞台は、そういうことに意味があるって思います。同時に、舞台には筋書きもあるしドラマもあるんですけど、日常を映しているということも強く思います。生きていたら、不条理なこともいっぱいあるじゃないですか?だからこそ、こういう不条理劇は日常に置き換えられるし、そこからの想像力を使うっていう面白さもあるんじゃないかな。

今までにない、作品と役柄へのアプローチ

『管理人』溝端淳平インタビュー_2

――今回のご自身の役どころに対してはどうでしょうか?

お芝居をやるにあたって、「この役がどういう風に生きてきたのか」とかを逆算したり、色々考えてやっていくんですけど、この作品に関してはそれが成立するのか、正直わからないんです。もちろん、役者は作品のことや役のことを理解しなくてはいけないんですけど、「自分の役はこう」「だからこの物語ではこういう展開なんだ」っていうことを明確にしすぎてしまうと、ハロルド・ピンターさんが書きたいこととは重ならないんじゃないかなって苦悩はあります。

――なるほど。

これまでもアーサー・ミラーとかシェイクスピアとか、難解な作品には挑戦させてもらいましたけど、時代や言葉は違えど、言っていることはわかるっていうものが多かったんです。深く関わっていく中で答えが見つかっていたというか。この役がなぜこの言葉を発してるのか、今、何でため息をついたのか、僕はそういうことまで明確にわかってないとダメだと思ってきたんです。

――『管理人』は、これまでのアプローチとはちょっと違うということでしょうか?

うーん・・・この作品でそれをやっちゃうと、役者としてのエゴに見えかねないんじゃないかなって。答えは見つからないかもしれないし、見つけない方がいいのかもしれない。分かりやすく解釈してやっちゃうと、良さが消えるんじゃないかなとか、稽古前から色々考えさせられますね。これからもどんどん変化していきそうです。

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――本読みや稽古がスタートしたら、また変わりそうですよね。

そうですね。森さんがこの作品をどう捉えていらっしゃるのか、どういう考えを持って作りあげてくださるのか、それに沿っていくってことが道標なのかなって今は思っています。もちろん、どの戯曲や台本も監督や演出家の考えっていうのは大事なんですけど、特にそうなる気がしています。基本的なことすら見失ってしまいそうなくらい、ちょっと未知な作品。なんか、すみません。わからないって言っちゃってるようなもので・・・(笑)。

――いえいえ!溝端さんにとって、これまでにはない作風と役どころなんだということが伝わってきます。森さんの演出で楽しみにされていることはありますか?

森さんが全部ぶっ潰して、組み立ててくれるのかなって漠然と思っています(笑)。どこまでも探求して、深く深く潜っていかれるんだろうなって。妥協されない方だと、周りから聞いたり、作品を拝見して思うので・・・。そういう方と一緒に舞台が作れるっていう喜びはめちゃくちゃ大きいですね。才能のある方と僕みたいな凡人が仕事をできるっていうことです!(笑)。自分では絶対越えられないハードルも、才能のある人が見出してくれて、新しい引き出しができたり・・・。共演の忍成修吾さん、温水洋一さんにしてもそうです。

――密度の濃い3人芝居になりそうですね。

このハロルド・ピンターの作品って、役者はみんな悩む作品だと思うんですよね。そういうものにみんなで挑むって素晴らしいこと。“敵”って言ったらあれですけど(笑)、敵が大きければ大きいほど、みんなで挑む喜びや、仲間意識も大きくなるんじゃないかなって、いち役者としては思いますね。人数が少ない分、その場で起きたことが全てっていう、ライブ感もすごくある。単純計算でお客さんの意識が自分に集中することも多いわけですからね!(笑)。とはいえ、3人が一緒に出るシーンはほとんどないので、3人芝居といっても特殊だとも思いますけど・・・。

本読みから千秋楽まで続く苦悩

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――溝端さんは、ご共演の役者仲間や先輩と積極的に話したりされる方ですか?悩みとか、芝居についてとか・・・。

やっぱり、恥ずかしい部分はありますよね。でも、僕は「この人から何か盗みたいな」っていう人には聞きに行ったりするタイプかもしれない。お芝居のことを手取り足取り教えてもらうというよりは、モヤモヤしてる部分をクリアにしてくれるアドバイスをもらうといった感じですね。だから、全然同じ舞台に出てないのに、稽古終わりに吉田鋼太郎さん家に台本持って行ったりしました(笑)。分からないです、出口が見えませんって。

――素敵なご関係です!

常に課題がないと稽古って意味ないなって思ってる節があって。もちろん、お客さんに観せるラインはクリアするっていうのは前提なんですけど、負荷がないと不安になるんですよね。これでいいのかっていうのは千秋楽まで悩んでます。毎公演気づくことがあるんですよね。終わってすぐは「今日は良かった」と思っていても、家に帰ってから、「もっと違う風にもできるんじゃないか」って思ったり。そういうのは相談したりします。でも、今回に関しては役者間でセッションとかしないほうがいいのかも。足並み揃えて呼吸を合わせてやるとダメな感じもしますね、作風的に。

――確かに。家の「管理人」を巡って駆け引きしたり、争ったり・・・。人間関係がズレたり、歪んでいくっていうお話ですもんね。

なんとなくですが、今回はぼんやりしたまま終わると思うんですよね。「すごくハロルド・ピンターのことが分かった!」とか、「森さんと一緒にできてスッキリした!」みたいなのではなくて・・・。初日から千秋楽まで、泥水に顔突っ込んで苦悩して終わるんじゃないかなって思ってます(笑)。そして、それが楽しみでもありますね。

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――ちなみに、溝端さんは“管理人”という立場にはなれそうですか?

僕は完全に管理される側の立場だと自負しております!(笑)。昔、親に「犬飼いたい」って言ったら、「あんただけで精一杯」って言われたくらいです。なんでも管理するの苦手ですね。食べ物もすぐ賞味期限を切らしたり、消耗品も買ってきたら、まだ家にあったとか・・・。管理は苦手です。

――舞台ではどういう立場になるのか、楽しみにしています!最後に、作品の魅力と公演への意気込みをお聞かせください。

ハロルド・ピンター作、森新太郎さん演出、会場はシアタートラム。その3拍子揃っているだけで贅沢なので、役者はこれからの稽古にとことん励みます。不条理劇っていうものに馴染みのない人も多いと思うのですが、どんなものだろう?くらいの気持ちでも、ぜひこの機会に観てもらえたら。エンターテインメント性の高いものやコメディも大好きですが、また違った魅力と見応えのある作品になると思います。ドラマは一番身近に見られるもの、映画はその次、そして舞台は、お客さんが足を運んで時間とお金を贅沢に使って来てくださるもの。だからこそ、何か家まで持ち帰ってもらえるような作品ができたらと思っています。舞台だからこその、回収されないもの、想像力を刺激されるもの。そういうものを体感してもらえたら嬉しいです。

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◆公演情報
『管理人』

2017年11月26日(日)~12月17日(日) 東京・シアタートラム
作:ハロルド・ピンター
翻訳:徐賀世子
演出:森新太郎
出演:溝端淳平、忍成修吾、温水洋一
https://setagaya-pt.jp/performances/201711kanrinin.html

【兵庫公演】2017年12月26日(火)~12月27日(水) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

(撮影/エンタステージ編集部)

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