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青年座『旗を高く掲げよ』石母田史朗×松熊つる松対談「今、この時代に生きている自分を確かめるために」

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1969年に開場し、まもなく50周年を迎えようとしている青年座劇場。常に新しい創造の場であり続けた青年座劇場で、2017年、演劇界注目の劇作家が書き下ろす新作が連続して上演される。第1弾として取り上げる戯曲は、劇団チョコレートケーキの古川健の『旗を高く掲げよ』。このタイトルは、ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)党歌の名前でもある。

青年座『旗を高く掲げよ』石母田史朗×松熊つる松対談

「模範的な市民は、模範的なファシストになりうる」を基本テーマに、一人の男とその家族が変貌する様を、序章と終章を含む6つの時代を追って描いた本作に、青年座はどう向き合っているのか。出演者を代表して、石母田史朗×松熊つる松に対談をしてもらった。

関連記事:青年座が劇作家の描き下ろし作品を連続上演!第1弾は劇団チョコレートケーキ古川健の『旗を高く掲げよ』

【あらすじ】
1939年9月、ドイツ軍がポーランドに侵攻し第二次世界大戦は勃発した。
物語はその前年から始まる。

歴史教師のハロルドは善良なる市民。妻レナーテ、娘リーザ、妻の父コントラートとベルリンに暮らすミュラー一家は、ごく一般的なドイツ人家庭。
1938年11月、ドイツ各地で起こったユダヤ人に対する組織的暴動事件(水晶の夜)直後、事件を受けて亡命を決意したユダヤ人の友人オットーが今後のドイツを憂える。ナチス支持者の妻レナーテは、時流に乗らない夫に物足りなさを感じている。夫、妻、義父、夫の友人、妻の友人、それぞれの立場からナチスドイツを語る。
その数日後、SS(ナチス親衛隊)の友人ペーターが、ハロルドに歴史の専門知識を活かした仕事をしてほしいとSSへの入隊をすすめる。乗り気のレナーテに対し、二の足を踏むハロルドだったが・・・、ついに入隊を決断する。
1940年7月フランスの降伏、1942年4月ホロコースト(ユダヤ人の組織的大量虐殺)開始、1944年9月ドイツ軍敗色濃厚、1945年4月ベルリン陥落寸前、そして・・・。

ドイツ崩壊が進むにつれ、反比例するかのようにナチスに傾倒していく家族。ナチス独裁政権下のベルリンを舞台に、物語は時を移して転がっていく―。

青年座『旗を高く掲げよ』石母田史朗×松熊つる松対談_4

――まず、今回の戯曲についての印象を教えてください。

石母田:この前、劇団チョコレートケーキの『60’sエレジー』を観た時、何か特別な事件が起きるわけじゃなくて、日常生活を淡々と見せていながら、なんかこう、じわっとくるものがあったんですよね。今回、青年座の『旗を高く掲げよ』は第二次世界大戦下の話だけども、こちらも普通のドイツ人家庭の日常を描いていて、その日常を演じるのは難しいなって思いました。

松熊:ああ、それは私も思った!特にプロローグが難しくて「出来るかしら~?」って。

石母田:それは、僕も本読み段階でそう思った。劇構造としては分かるんだけど、プロローグのシーンに、あのテンションを持ってくるのって結構大変だって・・・。

松熊:そう!これを・・・最初にやるっていうのが大変。きちんと背景を作ってやらないと、最初から嘘くさい芝居になるかもって・・・。

石母田:そうそう!

松熊:正直言って怖いです(笑)。

石母田:その通りですね。でも、芝居のおもしろさとしては、静かなシーンで始まるより、急に切羽つまった状況から始まるっていうのは、分かるなって思います。

松熊:古川さんの仕掛けは大胆ですよね。

青年座『旗を高く掲げよ』石母田史朗×松熊つる松対談_

――作者である古川健さんの印象はいかがですか?

松熊:柔らかいですよね。あの柔らかさから『治天ノ君』のような作品が生まれているのが、すごく不思議な気がしました。でもお父様が社会の先生で、ご本人も歴史好きと聞いて、だから書けるんだなとは納得しましたね。最初は、もっと怖い感じの人かなって思ってたけど(笑)。

石母田:僕は、根が優しい人なんじゃないかって感じました。そういうのが戯曲に現れている気がする。作品の題材は、エグかったり、キツイことも書いているけど、人間を見る目が優しいなって。

松熊:言いたいことがちゃんとあるんだよね。『治天ノ君』を観て思ったんだけど、歴史を通して、ご本人が感じていることを観客と共有したいんだって想いがある気がしたんですよね。

石母田:世代や時代の違いもあるのかもしれない。かつて戦争を扱った作品を多くやっていた時って、今よりまだ世の中が明るかったと思うんですよね。そういう時って、戦争物を、ある意味、他人事としてお気楽な感じで観ることができる空気があったんだろうけど。今、社会状況がだいぶ変わってきているので、“戦争”に対する捉え方が違ってきている気がします。

青年座『旗を高く掲げよ』石母田史朗×松熊つる松対談_2

――それぞれが演じる役について、教えてください。

松熊:私が演じるレナーテは、よく考えない人の役だと思うんです。今の日本でも、平和だから、新聞を読んだりニュースを見たりはしても、あまり社会と関わっていない人って結構いるんじゃないかと。レナーテは、表面的な時勢は捉えるんだけど深くは考えない。一般大衆の代表みたいな感じの役です。

石母田:僕の演じるハロルドは、目の前の生活や家族のことをまずは第一に考える。皆、そうじゃないですか。でもこの本では、それを別に悪いと言っているのではなくて。例えば、ユダヤ人のオットー(嶋田翔平)は、自分がユダヤ人であることによって、いろんな差別的迫害を受けているから危機感がある。障がい者のブルーノ(小豆畑雅一)にしてもそう。自分に危機感があるから、ハロルドに対して「こうじゃないですか」って意見を言っていく。一方、ハロルドは「言ってることは分かるんだけど、じゃあどうしたらいいんだ」というように、どのように行動したらいいのか分からない普通の人だと思うんです。

松熊:他から与えられる情報で、大方の人が言ってるから「良いことだ」みたいに思って満足してしまうのが普通の人だよね。

石母田:義父役(コンラート)の山野さんが「歴史に学ばぬ者は愚か者だ」という台詞を言うんだけど、それって大事なことだと思うんです。歴史という、ある意味でいい見本があるわけだから。

松熊:この作品で描かれている前の時代は、第一次世界大戦があって、世界恐慌が起こってドイツ経済が最悪の時代なんだよね。悪い時代があって、ちょっとでも良くなると、やっぱり今やっていることが正しいってことになる。

石母田:そうなんですよ。

松熊:「これがいいじゃん」って思っちゃうよね。それが危険だったりする。

石母田:自分たちに直接被害がなければ、つゆ知らずじゃないですか。他人事ですよね。大多数の人の生活が良くなっていけば、その意見は大多数に流れるわけで。それって、ほんと怖いことなんだけど。

松熊:私が演じるレナーテは、気持ちのどこかで、何か良くないことがあるんじゃないだろうかって思っていても、その時、自分の生活が最低限守られていると思ったら、やっぱりそれでいいじゃないと思ってしまうんですね。

青年座『旗を高く掲げよ』石母田史朗×松熊つる松対談_6

――いよいよ上演が始まりますが、最後にお客様へメッセージをお願いします。

石母田:演じる上で一番難しいことなんですが、芝居を観て何かを感じてくださいということではなく、僕らがそこに生きているっていうことを見せなければいけない。それによって、与えて受け取る関係じゃなくて、一緒に考えて一緒に空気を作っていければいいなと思っています。そこを理想にしたい。そして、若い人にもぜひ観てほしいと思いますね。今回の作品のような日常を描いた作品を観ることで、「戦争」や「人間のあり方」を身近に考えてくれるんじゃないかなって期待感があります。

松熊:今観るべき芝居の一つとして推薦できると思います。考えながら観てもらって、最後のオットーの台詞を聞いて欲しいです。その台詞を聞いた時に、どう思うか。今この時代に生きている自分を確かめるために、この芝居を観てほしいなって。たくさんの方に観にほしい芝居です。

青年座『旗を高く掲げよ』チラシ

◆公演情報
劇団青年座 第227回公演『旗を高く掲げよ』
7月28日(金)~8月6日(日) 東京・青年座劇場
【作】古川健
【演出】黒岩亮

【キャスト】
ハロルド・ミュラー(夫) 石母田史朗
レナーテ・ミュラー(妻) 松熊つる松
リーザ・ミュラー(娘) 田上唯
コンラート・シュルツ(祖父) 山野史人
ロッテ(娘の友人) 市橋恵
ペーター・マイヤー(SSの友人) 豊田茂
バウワー(副官) 鹿野宗健
ヘルガ・シュヴァルツ(妻の友人) 渕野陽子
オットー・ワルター(ユダヤ人の友人) 嶋田翔平
ブルーノ・コッホ(障がい者の友人) 小豆畑雅一

(取材・文・撮影/青年座製作部、編集/エンタステージ編集部)

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(文/エンタステージ編集部)

旗を高く掲げよ

作品情報旗を高く掲げよ

第二次世界大戦下のドイツ・ベルリン。一人の男とその家族が変貌する様を時代を追って描く

  • 公演:
  • キャスト:山野史人、石母田史朗、小豆畑雅一、豊田茂、嶋田翔平、鹿野宗健、渕野陽子、松熊つる松、田上唯、市橋恵

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