ミュージカル『パレード』主演の石丸幹二にインタビュー!「今回の稽古場は“和気あいあい”とはいかないかもしれません」


1913年、アメリカ・ジョージア州アトランタ。南北戦争終結から半世紀が過ぎてもなお、南軍戦没者追悼記念日には、老兵たちが誇り高き顔でパレードに参加し、南部のために戦った自らの誇りを歌いあげている。

そんな土地で白人少女の強姦殺人事件が起きる。容疑者として逮捕されたのはニューヨークから来た実直なユダヤ人、レオ・フランク。彼は少女が働いていた鉛筆工場の工場長だ。さまざまな思惑が渦巻く中、無実の罪で逮捕されるレオ。彼を信じる妻・ルシールは、ひとり声を上げ続け、事態を動かしていく――。

1999年のトニー賞で最優秀作詞作曲賞、最優秀脚本賞を受賞したミュージカル『パレード』が5月より日本での初上演を果たす。

本作でレオ・フランク役を演じる石丸幹二に話を聞いた。

ミュージカル『パレード』石丸幹二インタビュー

この作品はこれまでの自分の“集大成”になる

――たくさんのオファーが届く中、なぜ『パレード』への出演をお決めになったのか教えていただけますか。

今の年齢だからこそできる、社会派のミュージカルに挑戦したかった・・・というのが大きな理由のひとつです。いつかこういう作品にトライしたいとずっと願ってきました。

以前、ソンドハイム作品(『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』)に出演した時は「ミュージカルの楽曲も本当にいろいろで、朗々と歌わない表現法もあるのだな」と、改めての気づきがありました。その後、さまざまな経験を経て、今『パレード』に向き合うことになり、ああ、これまで培ってきたものを活かせる、と強く感じたんです。

――それはおもにどういうところで?

歌と芝居の融合という点・・・でしょうか。ある意味、自分がこれまでやって来たことの集大成になるのではないかと思っています。

――本作は実話が基になっています。石丸さんが実在の人物をモデルにした役柄を演じられるのは『異国の丘』以来でしょうか。

テレビドラマではいくつかそういう作品にも出演させていただきましたが、舞台ではそうなりますね。『異国の丘』で実在の人物をモデルにした役を演じた時に、架空のキャラクターとはまた違う責任感が生まれるのだと痛感しました。やはり自分の思いだけでは役を構築できないんですよね。その人物と役の中に潜るように入っていって、彼ならどうするか・・・彼ならどう思うかということをより綿密に考え、人物像を作っていくんです。

ミュージカル『パレード』石丸幹二インタビュー_2

――今回のレオ役、ご自身とどう繋げていかれるのでしょう。

レオが取った行動の意味を深く考えて、その答えが自分の中にあるものとどう繋がっていくのか、深く探っていくことから始めます。私としてはレオと自分は似ておらず、共通項を見つけるのがなかなか難しいと思っていたのですが、今日の歌稽古の終わりに、夫婦役を演じる堀内敬子さんから「レオとあなたはそっくりだ」と言われ、驚きとともに勇気をもらいました。

――さすが、劇団時代の同期の方のお言葉ですね!

本当ですね(笑)。改めて、自分が自身に対して抱いている印象と、他者から見た印象はまた違うのだな、と思いました。

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――観客側からしても“清廉に事態に立ち向かう”という役柄は石丸さんにピッタリだと感じました。

そうですか(笑)。清廉かどうかはまだ分かりませんが、私が現時点で思うレオという人物は、頑固で不器用なところも多い人間です。だからこそ、罪を着せられるという、冤罪の対象にされたのではないかと。もっと要領の良い人間だったら、上手に切り抜けられた気もします。

もし自分があらぬ罪を着せられてしまったらどうするだろう・・・と、考えざるを得ないのですが、その答えを出すのには、もう少し時間がかかりそうです。稽古の中でしっかり自身に問いかけていきたいですね。

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――妻・ルシール役の堀内敬子さんとは17年振りの共演です。アンドリュー・ロイド=ウェバーの『アスペクツ・オブ・ラブ』以来ですね。

もうそんなになるのですね・・・(笑)。あの時は私が彼女に誤解を与えるような振る舞いをする年上男性の役で(笑)、最終的には結ばれなかったのですが、今回は晴れて夫婦役をやらせていただきます(笑)。堀内さんとは同期という仲間でもあり、気心が知れているので、コミュニケーションはとても取りやすいです。

――ルシールもレオの冤罪を晴らすために、戦い、成長していきます。

この作品が舞台となった時代に、アメリカ南部で女性が自分の意見を主張し、それを貫くのは大変なことです。男性目線で見ても、ルシールの勇気や、心の底から夫を信じ、行動する強さには感動すらおぼえます。『パレード』をご覧になったお客さまも、きっとルシールの生き様から何かを得ていただけるはずだと思います。

人間臭い・・・深みのある役を演じていきたい

ミュージカル『パレード』石丸幹二インタビュー_4

――楽曲についてもうかがわせてください。実際に劇中のナンバーを歌われてみていかがですか。

今の感想を一言で言うと“歌うのが難解”な楽曲揃いです(笑)。作曲家(ジェイソン・ロバート・ブラウン)が楽譜の中にさまざまなトリックを仕掛けているのがひしひしと伝わってくるんですよ。例えば「あれ、ここの部分・・・ちょっと歌いにくいかも」と感じる箇所って、必ずキャラクター(=レオ)が心のどこかで抵抗・・・ノッキングを起こしているんですね。転調も多いですし、違うナンバーが重唱のように重なり合って歌われる場面もあります。そのすべてが、役の人物の心情の表現ですので、一瞬たりとも気を抜けません。ここまで綿密にいろいろなことが仕掛けられている楽譜を読むのは、ロイド=ウェバー作品以来という気もします。

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――カンパニーには実力派の大人ミュージカル俳優が集結している感がとても強いです。

本当に凄い顔ぶれの方々が集まっていますよね。作品の深みやテーマを考えると、個性が強く、それぞれのキャラクターをきっちり担える人材が必要なのですが、今回はそれが素晴らしい形で実現したと思います。さまざまな現場で経験を積んだキャストが真剣にぶつかり合って世界観を創り上げていくと思うと、怖さもありますが、ワクワクする気持ちの方が遥かに大きいですね。

この作品に出て来る登場人物たちは、それぞれ異なった価値観を持って生きています。例えば、レオから見たら、ヒュー・ドーシー検事は酷い人間なのですが、検事には検事なりの正義と価値観がある・・・そういう複雑な人間関係をこれから始まる本格的な稽古で、演出の森新太郎さんを筆頭に、皆で紡いでいくわけです。

ミュージカル『パレード』石丸幹二インタビュー_5

――今回は座長としてのご参加になりますね。

確かに座長という立場ですが、稽古では皆と同じ目線でぶつかってゆかねば、この舞台は仕上がらないと思います・・・それだけ大変な労力と熱量とが必要な作品ですから。私の中で、カンパニーの一員として“和気あいあいと楽しい現場を作る”というポリシーがあり、普段はそれを実践しているつもりなのですが、今回は与えられた役柄的にもそうすることが厳しくなるかもしれません。

――詳しくうかがいたいです。

まだ、キャスト全員が揃っての演技的な稽古には入っていないので(注:取材時)断定的なことは言えませんが、いつものように、カンパニーの皆と楽しく明るく過ごしてしまうと、レオという人間のキャラクターがぶれてしまうような気もしているんです。

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――なるほど・・・石丸さんは演じるキャラクターが普段の生活に影響なさるタイプですか?それともバシっと切り離していけるタイプ?

役柄にもよりますね。例えば『スカーレット・ピンパーネル』のパーシーを演じていた時は、比較的切り替えも楽でしたし(役柄を)深く背負って生活するということもありませんでした。『ジキル&ハイド』の時は、ジキルの中にひそむ、ある種のネガティブさをクローズアップして演じたこともあり、普段から少し目つきが鋭くなっていたかもしれません(笑)。

レオはかなり頑固な男で、基本的には自分しか信用していないんです。ですから、カンパニー内でも役の造形の一環として「・・・本当は皆と仲良くしたいんだけどな・・・」なんて思いながら、隅の方でじっとしているかもしれません(笑)。また『パレード』キャストの皆さんは、それを受け容れてくれる方たちばかりだとも思っています。

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――これまで幾度かお話をうかがってきて、石丸さんの中にはつねに“人間臭い役を”というキーワードがあるように思うのですが。

確かにそういう役を演じたいという気持ちが、ある時期からより強くなったところはあると思います。また、自分が観る側になった時も、やはり人間臭い・・・個性の強い役に惹かれるんですね。そういう意味でも、レオという役をご覧になったお客さまには“引っ掛かり”を感じていただけたら嬉しいです・・・そして、レオがだんだんと「どう生きていくのか」「自分の人生はこの道で良いのか」と自身をかえりみたように、皆さんも少し周りを見渡してご自身を見てみる一瞬を持っていただければと願っています。今、この時代の日本だからこそ『パレード』というミュージカルを上演する意味がある・・・その思いを噛み締めながら、初日に向かって、高い壁を乗り越えていきたいです。

ミュージカル『パレード』石丸幹二インタビュー_8

今年1月から2月にかけて上演された『キャバレー』。松尾スズキ演出のこのミュージカルで石丸幹二が演じたのは、顔を白く塗り、唇を紅くして中性的な雰囲気を漂わせるMC役だった。同じく松尾の演出で、かつて阿部サダヲが担当したMCを“貴公子”石丸幹二が演じる…キャスト発表時に多くの驚きの声が上がったことは想像に難くない。

結果、石丸は新たなキャラクターを最高に軽々と…そして退廃的に魅せた。オープニングの「Willkommen」が始まった瞬間、劇場の空気がひとつになったあの感覚は今でも忘れられない。

そして今回、石丸幹二が挑戦するのは、MC役とある意味対極と言っていい役柄だ。頑固で他者に心を許さず、犯していない罪を着せられ、苦悩の中で光を見つけるレオ・フランク。自身がインタビューでも語っていた通り、さまざまな経験を積んで挑むこの作品、そしてレオという役は、彼にとって、これまでの集大成となるだろう。

17年前には結ばれなかったアレックスとジェニーのふたたびの共演に心躍らせつつ、日本初演となる『パレード』の世界観にじっくり浸りたい、と思う。

◆ミュージカル『パレード』
2017年5月18日(木)~6月4日(日) 東京・東京芸術劇場プレイハウス
2017年6月8日(木)~6月10日(土) 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2017年6月15日(木) 愛知・愛知県芸術劇場 大ホール

(撮影/高橋将志)

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