ミュージカル『グレート・ギャツビー』主演の井上芳雄にインタビュー!「忘れられないのは、同じ人に2回フラれた思い出です」


1920年代・・・狂乱の時代。作家志望のニックは、毎夜パーティーを開いて大騒ぎをしている隣の住人、ジェイ・ギャツビーの存在が気になって仕方がない。孤独の影を背負った美しき大富豪・・・ニックは次第にギャツビーの秘密を知ることになるのだが――。

1991年に宝塚歌劇団が世界初のミュージカル作品として上演した『華麗なるギャツビー』が、新たな脚本、演出、そして書き下ろしの音楽とともに甦る。

本作『グレート・ギャツビー』で、主演を務める井上芳雄に話を聞いた。

ミュージカル『グレート・ギャツビー』_井上芳雄インタビュー

ブロードウェイの香りがする楽曲

――秘密と影を抱え、愛のために成り上がった孤独な男性・・・井上さんがジェイ・ギャツビーのような役柄を演じるのは、じつは久し振り、という気もするのですが。

確かにそうですね。非常に大人・・・というか、男っぽいキャラクターだと思います。こういう人物を最近はあまり演じていないかもしれないですね。

――製作発表では、演出の小池修一郎さんから「井上芳雄という存在がプレッシャー」というお言葉もありました。

いや、逆に言いたいです「変化球でプレッシャーを返さないでください」って(笑)。小池先生とのお付き合いも長いので、今回はそういう方向性で来たか、と一瞬身構えました(笑)。でも、小池先生は僕の出演作品をほとんど観てくださっていて、いつも気にかけてくださるんです。それは本当にありがたいことだと思っています。

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ミュージカル『グレート・ギャツビー』_井上芳雄インタビュー_2

――本作の舞台、‘20年代は“ジャズエイジ”とも言われる時代ですが、書き下ろしの楽曲はジャズテイストなナンバーも多くなりそうでしょうか?

デモを聞いた限りでは、ジャズっぽい曲調のものも散りばめられていますし、製作発表で歌わせていただいた「夜明けの約束」のような、王道ミュージカルのナンバーもあります。全体としてはブロードウェイの香りがしっかりする楽曲が多い気もしますね。

――今回、女優さんは、ご共演が初めての方ばかりですね。

以前は、特に座長だったりすると「まずはコミュニケーション!」って、相手役や共演者の方に積極的に話しかけたりもしていましたが、今はほとんど自然体です・・・自分からはあまり何もしないかも(笑)。と言うのも、それって結構エネルギーを使うんですよ。やろうと思えば稽古場でテンション高めに振る舞うこともできるんですが、逆に言うと、そうするためのギアを入れないといけないわけで。なので、今は、自分が演じる役をまっとうすることが第一、エネルギーはそのために使おう・・・という立ち位置です。とは言え、長い期間一緒にいると、自然にみんな仲良くなりますよね。

書き続けている“5年日記”とうとうラストイヤーに

ミュージカル『グレート・ギャツビー』_井上芳雄インタビュー_3

――分かる気がします。ちょっと今更・・・という気もしつつ・・・井上さんはその時演じている役が普段の生活にも影響するタイプですか?それともバシっと切り離せる?

基本的には役柄と私生活は分けていられるタイプですね・・・普段の生活に、その時演じている役が憑依するようなことも一切ないです。

――俳優さんによっては、役に影響されて普段着の趣味まで変わったり。

ああ・・・そう言えば、トート(『エリザベート』)を演じている時は、多少、楽屋入りする時の服装に気を付けたりはしていましたね・・・お客さまにあまり違和感を持たせてしまってはいけないので。役を普段の生活で引きずることはないですが、その日の稽古で出来なかったことに対して、稽古場を出ても悩んだり、長時間考え込んだりすることはありますよ。

――そういう時、どうお気持ちを整理していくのでしょう。

日常の中で無意識に“ヒント”を探しているかもしれません。例えば、目の前にある本に書かれた一節とか、ニュースで流れている事柄とか。あとは僕、日記を書いているので、そこにいろいろなことを書き出したりね。

ミュージカル『グレート・ギャツビー』_井上芳雄インタビュー_4

――日記!それはPCに?それとも手書きで?

手書きです。僕、“5年日記”というものを書いていまして・・・今、ちょうど5年目なんですけど、そこに「今日の調子はいまひとつだった」とか、「今日、やっと何かを掴めた気がする」なんて綴ったりしているんです(笑)。

――ぜひ、出版してください(笑)!

出版(笑)!それは僕の死後、どなたか奇特な方が研究してくれるかもしれないですし・・・その時にでも(笑)。

――100年後に生きる人が、21世紀のミュージカルスターを知る文献として井上さんの日記を・・・(笑)でも、5年間って凄いですね。

僕、起きたことをすぐ忘れちゃうんです(笑)。それである時、毎日こんなにいろんなことを体験しているのに、忘れてしまってはもったいないだろうと思って日記をつけ始めたんです。読み返してみると、大体毎年同じ時期に気持ちが落ち込んでいたり、同じ日に同じ人と偶然会っていたり・・・なんてことも分かってなかなか面白いですよ。

ギャツビーも「許されたい」思いを抱えて生きている男

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――井上さんは宝塚版の『華麗なるギャツビー』を杜けあきさんでご覧になっているんですね。

そうなんです。でも当時はまだ若かったですし、自分がギャツビーを演じる日が来るなんて夢にも思っていませんでした。本当に大人の役ですから。

――今回、この役を演じることになって、改めてジェイ・ギャツビーという人物をどう捉えていますか?

ギャツビーが歌う「夜明けの約束」には、彼がその時に見た希望や、許されたい気持ちが込められていると思うんです。これまでいろいろな役を演じてきましたが“許されたい”という思いを抱えて生きている人が多かったなと、また今になって実感しています。その“許し”というのはいわゆる“原罪”・・・生まれながらに人が背負っている罪だったりするのですが。

ギャツビーはデイジーというたったひとりの女性を思い、さまざまな手を尽くして生きてきた男性です。そんな彼がやっと彼女と生きていけるとなった時に、それまで自分がやってきたことが“許される”感覚になったのではないかと僕は思うんです。ただ、彼は希望を見つめながら、心のどこかで自らが冒してきたことが簡単には許されないということも理解しているわけで。そういうひとりの人間の葛藤には共感できますし、深いな、とも思いますね。

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――相反する気持ちを抱えながら、それでも希望を信じたいと思うのが人なのかもしれないですね。井上さんの中で、デイジーとのように人生に深く刻まれた出会いがありましたら、うかがいたいです。

それはね・・・中学生の時にお付き合いした人ですね。僕、その時生まれて初めて女性にフラれちゃったんですよ(笑)。

――そんなこと、あるんですね(笑)。

いや、滅多にないんですけど・・・(笑)・・・その人にはフラれましたね・・・それも2回。最初は中学生の時で、それからもう一度付き合えることになって、また高校生の時にフラれたんです。あの時は自分の人生、終わったと思いました。僕、当時は受験生だったんですけど。

――藝大を目指している時に、そんな試練が・・・。

勉強も上手く行かなくなって、彼女とのことを引きずって、人生どうなるのかと・・・(笑)。

――その思いをどう昇華させたのか気になります。

その時からその方とは全く接点はないんですけど、東京に来てから、彼女が銀座の宝石店で働いていると地元の友人に聞いて、並木通りまで見に行ったことがあります・・・もし会えたら、宝石のひとつも買ってやるぞ、って勢いで(笑)。

――会えました?

それが・・・銀座の並木通りって宝石店が山のようにあるんですね(笑)。いろいろなお店を外から眺めてはみたんですけど、結局会うことはできませんでした。でも、それで良かったのかもしれないです。そういえば最近、その方が結婚なさったって噂も聞いたんですよ・・・それもフランスの人と。ああ、やっぱり僕は違ったんだなあ・・・フランス人じゃないしなあ、って(笑)。

――きっと、井上さんのご活躍を遠くから見ていらっしゃるんでしょうね。

大河とかね(笑)。いやでも、本当にフラれてから一度も会えていないんです。女性の方が過去の恋愛を綺麗に振り切りますよね。男は別れた相手にも「本当は俺のこと、まだ好きなんじゃ・・・」みたいなことを勝手に思っていたりしますから(笑)。

ミュージカル『グレート・ギャツビー』_井上芳雄インタビュー_

――そういう意味でも『グレート・ギャツビー』は、男女の代表・・・的なふたりが芯になる物語でもあります。

そうなんですよ・・・だからこの作品は時代を超えて、いろいろな形で上演され続けているのだとも思います。ビターなことを目の当たりにするのはつらいけれど、それもまた人生ですし。また、ギャツビーって、ある意味“貫いた”人じゃないですか。結末がどうであれ“貫いた”人間の生き様を見ると、人はある種の清々しささえ感じるような気がするんです。

もし、人生に勝ち負けがあるとしたら、状況的には負けかもしれないけれど、自分の思いを貫き通したという意味で、じつはギャツビーは勝ったのかもしれないですよね。

――思いを貫き通した末の状況をきっちり受け容れる、という。

僕も含め、人ってなかなかそういう風には生きられないじゃないですか。だからこそ“貫き通した”ギャツビーの生き様を劇場でご覧頂くことに、大きな意味があるんじゃないかと。お客さまが劇場を出る時に、ひとつの思いを貫き通した男の人生に勇気を手渡され、前を見て歩いて下さったら嬉しいな、と思っています。

ミュージカル『グレート・ギャツビー』_井上芳雄インタビュー_8

井上芳雄といえば、ミュージカル界を代表する“プリンス”である。が、近年の出演作を改めて振り返ってみると、いわゆる二の線・・・“華麗”“美しい”“激しい恋に翻弄される”といった役どころが非常に少ないことにも気づく。彼がこの何年かで積極的に選んできたのは、むしろ弱さやダメさを抱えていたり、コメディモードを担うような役どころだ。それはきっと、井上なりの思いや、葛藤、良い意味での戦略があってのことなのだろう。

そんな井上芳雄が次に挑戦するのは“20世紀最高の小説”とも称される『華麗なるギャツビー』を新たに構成した、ほぼ新作のミュージカルだ。そこで演じるのは俳優なら誰もが憧れる“影を抱えた大人の男性”である。さまざまな役柄を経験し、ますます深みを増した彼がどんなジェイ・ギャツビーを体現してくれるのか・・・初日を楽しみに待ちたいと思う。

◆ミュージカル『グレート・ギャツビー』
2017年5月8日(月)~5月29日(月) 東京・日生劇場
6月3日(土)~6月15日(木) 愛知・中日劇場
7月4日(火)~7月16日(日) 大阪・梅田芸術劇場 メインホール
7月20日(木)~7月25日(火) 福岡・博多座

(撮影/高橋将志)

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