『陥没』井上芳雄インタビュー!「歌わなくても派手な動きをしなくても、それでも僕は成立するのか」


ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)が昭和の東京を描くシリーズ“昭和三部作”。完結編にあたる『陥没』は東京オリンピック目前の1960年代初頭が舞台だ。高度経済成長に盛り上がる日本の裏側に落ち込んだ人々を描く、コメディでもあり、ファンタジーでもある。今作でKERA作品に初出演する井上芳雄に話を聞いた。

『陥没』井上芳雄インタビュー

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稽古場では意識しないと話せない

――KERAさんと初めてお会いしたのは、『イーハトーボの劇列車』(2013年・こまつ座)の楽屋だそうですね。

そうです。観劇してくださったKERAさんが「一緒にやろう」と言ってくださいました。とはいえ最初は「本気なのかなあ・・・・・・」と。でもシアターコクーンからも正式に依頼をいただいて、「あ、本気だ!」とわかりました(笑)それでもスケジュールが合わないことが続いて、今回『陥没』でやっとご一緒できたんです。

――実際に稽古が始まって、KERAさんに抱いていたイメージは変わりましたか?

良い意味で印象が違いましたね。KERAさんといえばミュージシャンのイメージもあったので、ロックでアバンギャルドな稽古をするのかな、フィーリングで演出をするのかな・・・・・・なんて思っていたんです。でもまったくそんな事はなく、穏やかな稽古場です。
KERAさんご本人については、常にチャレンジしているという姿勢をすごく感じています。いつも様々な作風にも挑戦されていますし、一年間で何本もの舞台をつくっていたりと、エネルギーがすごい。やっぱりどこかロッカーの気質を持っているのかな・・・・・・このスケジュールで今の挑戦を続けるって、すごいですよ。それでずっと結果を出し続けているのは、並大抵の事じゃないなと思います。

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――KERAさんはコメディやシリアスなどいろいろな作品を創られますよね。

そうですね。だから、KERAさんはミュージカルにもすごく合っているんじゃないかなと思うんですよ。ご自身は「ミュージカルは自分の範疇じゃない」とおっしゃっているけれど、KERAさんの作品には今にも歌い踊りだしそうな所がいっぱいありますから。

――相手役の小池栄子さんはいかがですか?『陥没』Webサイトのインタビューでは「小池さんはすべて持っていく印象があったので一緒にやりたくないな(笑)」と仰っていましたが・・・・・・。

一緒にやってみて印象が変わりました(笑)お会いするまでは小池さんのことを、最初から苦労なく迫力ある演技をされる方だと思っていたんですが、実際にはひとつひとつ探りながら丁寧に繊細につくっていかれる方。素敵な姿勢だなと感じてます。他のみなさんも、ベテランから若手まで場数を踏んでいる方ばかりで面白いです。

――過去に共演した方も何名かいらっしゃいますね。

生瀬(勝久)さんや(山崎)一さんとはこまつ座の公演で一緒でしたし、趣里ちゃんとは昨年の『アルカディア』で共演しました。その時には趣里ちゃんと「『陥没』で一緒にやるの、すごく楽しみだね」と話していて、今の稽古場でもたわいもないことを話したりしてます。「今日は全然出番なかったけど大丈夫?」とかね(笑)でも、僕は稽古場ではあまり話さないですね。意識しないと話せないんですよ。僕たちは仲良くなりに来ているわけじゃなく芝居をつくりに来ている、という気持ちなので、芝居をつくった結果、みんなと仲良くなれると嬉しいですね。

台本は未完成。でも不安はない

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――稽古場はどんな雰囲気なのでしょう?

すごく良い雰囲気ですよ。生瀬さんはムードを作ってくださるし、小池さんもみんなとお話しているので、そのお蔭かな。まだ台本が完成していない(※取材時)のですが、ピリピリする事もなく、その日に届く台本を一生懸命稽古しようと前向きですね。むしろ、次がどうなるのかわからないという状況を共有しているので、「大丈夫かな」なんて言いながらチームワークが強くなっている気がしています。

ただ、台本がまだ完成していないことへの心配は、まったくないですね。台詞を覚えられないという不安もない。これまでに井上ひさしさんの新作を2作やらせてもらっているので、その時も同じような感じでしたし(笑)僕たち役者は、台本がないと何もできないので、焦ってもしょうがないんです。
むしろKERAさんが大変でしょうね。昼間は稽古場で演出して、夜に台本を書いているのは、冷静に考えたらすごいこと。ご本人は悲壮な感じではないんですが、かなりクレイジーな状況になっているんじゃないかなと思います。けれど、すでにもらっている台本はすごく面白いですよ!

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――どんな作品になりそうなんですか?

シチュエーションコメディーと言っていいのかな。KERAさんも最初に「チェーホフが書く『夏の夜の夢』みたいになったらいい。軽やかなものにしたい」とおっしゃってました。作品にはファンタジー要素もあるし、とても面白くなるだろうと感じています。

――KERAさんの演出はどんな事を言われますか?

台詞のトーンや高さ、アクセントをどこに置くかといったことについては、かなり細かいです。「この言葉に強弱を置いてくれ」と言われますね。その時はなぜそんな事を言われているのかわからないんですが、「この言葉を何回も言っているのは、後半にまた出てくるからだ」と説明してくれることもあります。KERAさんの頭の中では、はっきりしたビジョンがあるんでしょう。

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――以前インタビューでKERAさんが「日本がグーっと成長していった出っ張りの中で、ボコッと“陥没”したところに落ち込んでしまった人達を描く」とおっしゃっていました。

この時代を作品にする時に、たぶん東京オリンピックそのものを描いたらはっきりして分かりやすいと思うんです。でもそうはせずに、周りの人や、前の年のようすを描いたりする。台詞では「オリンピックがどうだった」と言う事はあっても、実際の出来事ではなくそれに至る様子やその後を描く事で、人間を炙り出すという創り方をされているなと思います。だから今回の『陥没』では、派手な事が起こるわけではないと思うんです。そのなかで僕たちは、ひとつひとつの場面を丁寧に演じて、時代も人も炙り出していければいいなと思いますね。

――井上さん自身は、その“陥没”に落ちてしまった人たちについてはどんな印象を持っていますか?

あまりハッキリしたイメージは無かったんですが、稽古をしているといろいろと想像が膨らんできました。終戦からさほど経過してなくて、傷跡もまだたくさんあるだろうけれど、オリンピックができるくらい復興している。家にはテレビがあったりと、高度経済成長の勢いはあるんだけど、自分の親は戦争で死んでいたり・・・・・・今の時代からはなかなか想像しにくい世の中だったんだろうなぁ。戦争の傷と、新しくなろうというエネルギーが、どんなバランスだったのかな、と考えています。

キャリアを重ねるごとに、ハードルが上がる

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――今年は大河ドラマ出演などますます多方面での活躍を期待しています。

ジャンルの壁は無くなったけれど、ハードルはむしろ高くなっている気がしますね。状況が分かるようになったし、年齢も重ねてきて、現場で先輩になることも増えてきました。見えるものが増えてきた事で、プレッシャーを感じることもあります。毎回、稽古中に途方に暮れる瞬間があるんですよ。「うわっ、全然分かんないし、全然できてないと思うんだけど、大丈夫かな?」という気持ちは年々高まっています。そういうヒリヒリしたところが無いと、面白いものはできないでしょうけれどね。

――前の作品で学んだことが、次の作品でも活かされるとは限らないですものね。

そうですね。場数を踏めば多少は慣れてくるけれど、1作品として同じものは無いですからね。演出家も作家も違う。だからいつも「ああ、前回はなんとかやれたような気がするけれど、今回はまた全然違う課題が出てきた。大丈夫かな・・・・・・」という事の繰り返しですね。ずっと続けてきたミュージカルでさえも、安心して臨むことはない。毎回、挑戦ですね。

――では、今作『陥没』での井上さんの課題はなんでしょう?

これから大きな課題が出てくるかもしれませんが・・・・・・今のところは、お芝居を成立させることですね。というのも、今回の舞台は全体的に静かですし、僕の演じる役は派手でもなく、特徴もなく、なにかすごい事をするわけではない。なんでもない事を当たり前のようにこなしながら舞台の真ん中に立つためには、しっかりお芝居をしないと成立しないのでとても難しいです。どちらかというと、走り回ったり2階から飛び降りたりする役の方が分かりやすいですからね(笑)だから今回は、歌わなくても派手な動きをしなくても、それでも僕は成立するのかという、ひとつのチャレンジです。

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◆公演情報
シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017
『陥没』
2017年2月4日(土)~2月26日(日) 東京・Bunkamuraシアターコクーン
【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【出演】井上芳雄、小池栄子、瀬戸康史、松岡茉優、山西惇、犬山イヌコ、山内圭哉、近藤公園、趣里、緒川たまき、山崎一、高橋惠子、生瀬勝久
2017年3月3日(金)~6日(月)3月 大阪・森ノ宮ピロティホール

最新のチケット情報等、
公式サイトはこちら
Bunkamura https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/17_kera3/
キューブ https://www.cubeinc.co.jp

(撮影/大橋祐希)

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