『イヌの日』玉置玲央×大窪人衛×目次立樹が語る“プロデュース公演”としての作品作りとは?


長塚圭史率いる阿佐ヶ谷スパイダースが2000年、2006年に上演した『イヌの日』が、2016年夏、劇団ゴジゲン主宰の松居大悟の手により約10年ぶりに上演される。劇団公演ではなく、プロデュース公演となる本作には、松居と同年代の実力派俳優たちが顔を揃えた。その中でさらに、“劇団所属”という共通点を持つ玉置玲央(柿喰う客)、大窪人衛(イキウメ)、目次立樹(ゴジゲン)の3人に、作品のクリエーションについて、劇団公演とプロデュース公演、それぞれに感じることなどを語ってもらった。

『イヌの日』インタビュー_1

【『イヌの日』あらすじ】
高校を卒業後、進学も就職もせずに悪友たちと遊び暮らす広瀬幸司。ある夏の始め、仲間の1人である中津正行からある仕事を頼まれる。それは、中津が留守にする間、「ある人たち」の面倒を見てくれというものだった。大金に釣られ安請け合いした広瀬だが、その「ある人たち」とは“監禁”という恐るべき状況下にある人たちだった・・・。

――稽古は順調ですか?

目次:ミルフィーユ方式で進んでいますね。

玉置:なんですかそれ?

目次:一幕一幕をがっつり作っていくのではなくて、薄く重ねていく方法らしいです。松居(大悟)先生が言ってました(笑)。

玉置:初めて聞いた(笑)!

――先ほど少し拝見させていただいた稽古風景が、まさにそんな感じでしたね(笑)。今回、皆さんが演じられる役について、簡単にお話いただけますか?

大窪:僕の演じる洋介は、尾上(寛之)さん演じる中津の同級生で、同じく同級生の菊沢と同時期・・・小学5年生の頃に監禁されるという役どころです。本の中に(役のバックボーン)それくらいしか描かれていないので、探り探りキャラクターを作っていっているところです。

目次:僕は孝之という役なんですけど、中学2年生の時に小学6年生の中津に防空壕の中に閉じ込められます。周りより歳が上という設定ですが、それはあまり気にしないで役作りをしていこうかなと思っている状況です。

『イヌの日』インタビュー_5

玉置:僕は、中津にある仕事を頼まれる広瀬という役です。自分が思うに、お客様は僕が演じる広瀬に近い感覚で観ると思うんですよ。この作品の中心にある“監禁”の当事者ではないし、広瀬の周りにいる突拍子もない人たちともちょっと違うし。だからおそらく、お客様は広瀬に寄り添って芝居を観てくれると思うんです。

でもそうなった時に、「広瀬の成長物語」になっちゃうといやだなって思って。逆に、広瀬が“成長しない物語”に見えたら、楽しいなって思ってるんです。人間性にしても、状況にしても、相対的に観た中身としても、『イヌの日』は芝居を観てお客様が成長するかっていうと、きっとしない。

何もできない広瀬、一歩も踏み出せてない広瀬と、お客様の気持ちがずっと一緒に居続けるようになれば・・・と思っています。

――稽古中、かなりセッションをされているようでしたが。

目次:この作品ではかなり(セッションを)していますね。ゴジゲンが活動休止をする前は(ゴジゲンは2011年から2014年まで活動を休止していた)、ディスカッションをすることはほとんどなかったんです。松居の演出をもとに、あとは個人個人が考えて作っていくような感じでしたけど、活動再開後は、松居と役者が同じ位置に立って作り上げていくスタイルでやっていますね。

『イヌの日』インタビュー_4

――ずっと一緒に作品を作られてきた目次さんから見ても、松居さんの変化は感じられますか?

目次:そうですね。松居自身も、「自分の世界観を押し付けるだけの作品は貧しいんじゃないか」といった表現をしていました。

――玉置さん、大窪さんから見た演出家としての松居さんについてもお聞かせください。

大窪:僕は、松居さんの演出を受けるのが『神社の奥のモンチャン』(2011年)以来2回目なんですが、松居さんには僕がイキウメでやっているような芝居は求められていない気がしています。だから、稽古に来るのがプレッシャーでもあるんですが(笑)。殻を破られる感じが、きっと本番が始まっても続いていく気がして、いい意味でも悪い意味でもすごく楽しいです。

玉置:個人的には、すごく理想的なクリエーションをする人だなって思ってます。僕、話し合いがある稽古場が好きなんですよ。だから、そうだったらいいなって・・・願っていたわけじゃないけど、期待してたのかな。大悟だったら、そういう現場を創ってくれてるって。

――今お話にも出ましたが、皆さんそれぞれ別の劇団に所属されていますよね。劇団の公演とプロデュース公演の違いは何でしょう?

玉置:特に立樹はずっと大悟と一緒にやってるけど、ゴジゲンの公演とこういうプロデュース公演の時って違うもの?例えば、大悟とゴジゲンだと暗黙の了解でやれていることが、プロデュース公演の時はできないとか。

目次:それは変わらない。ゴジゲンも松居と僕が固定で、あとは毎回違うキャストさんに来ていただいていたので、実は環境的にはあまり変わらないのかもしれない。

玉置:ゴジゲンとして、『イヌの日』をやろうとはならないの?

目次:ならないね。ゴジゲンの軟派な雰囲気じゃこの作品はできないと思う(笑)。環境やスタンスは変わらないけど、キャスティング面ではプロデュース公演と大きく違いを感じるかな。

玉置:確かに俳優としての心構えは、劇団公演でも客演で参加する公演でもプロデュース公演でも変わらないんですよ。違うことがあるとしたら、コミュニケーションが肝であることじゃないかな。劇団って、良くも悪くも1言ったら100理解してくれるような関係の連中とやってるんですよ。でもそれって諸刃の剣でもあって。話し合えば、その倍の200分かり合えるのに、それをしないから100で満足してしまう部分も出てきちゃう。
それこそ、ゴジゲン公演として『イヌの日』をやらないのはなんで?に対する立樹の答えみたいに、生まれるものがなんとなく予想できちゃうんですよね。だから、劇団の外で初めて一緒に芝居を作る人とのコミュニケーションから生まれる“何か”を知りたいと思ってるのかも。イキウメさんはどうなの?

『イヌの日』インタビュー_3

大窪:イキウメはディスカッションが必須なんです。ディスカッション用に稽古期間を長く取ってるぐらいだから、最初はディスカッションに集中してやるんですけど、それもいい面と悪い面が・・・話が膨らみすぎて話があらぬ方向にいったり、芝居したいのにディスカッションばかりが続いてしまうということもあって。
終わってみたら、「あのディスカッションってやってよかったね」ってなるんですけど。やりすぎると集中力がなくなったり・・・ブラック人衛が出ちゃうこともあるんですよね(笑)。

玉置:今回は、少ない時間ながらも「いい作品にしよう」と一丸になっているから、自分たちの経験を踏まえて、クリエーションの下地作りがうまくいっているのかもしれないね。

――大変興味深いお話をありがとうございました。最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

目次:この作品、本として読んでいるだけでおもしろいんですよ。だから、これを劇場で観ることによってもう一歩踏み込んで、ぐちゃぐちゃになってほしいです。そのぐらい、わけのわからないエネルギーで圧倒します!

大窪:架空ながらテーマがすごく重いお話なんですけど、ちゃんとエンターテイメントとして届けられたらいいなって思ってます。

玉置:深読みは無限にできるお話なので、お客様は無限の受け取り方をされると思うんですよ。愛だなって思う人もいれば、残虐だなって思う人もいるだろうし。その上で、スズナリのドアを開けて外に出た時、自分自身もそうだけど、劇場の外に出た時に「今日は特に暑い・・・」ってなったら、この芝居は成功じゃないかなと思います!

『イヌの日』インタビュー_2

◆公演情報
『イヌの日』
8月10日(水)~8月21日(日) 東京 ザ・スズナリ

【作】長塚圭史
【演出】松居大悟
【出演】尾上寛之、玉置玲央、青柳文子、大窪人衛、目次立樹、川村紗也、菊池明明、松居大悟、本折最強さとし、村上航/加藤葵、一色絢巳

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