ミュージカル『ジキル&ハイド』主演の石丸幹二にインタビュー!「アクの強い役にも挑戦していきたい」


19世紀のロンドン、父の病気を治そうと「人間の善と悪を分離する薬」を開発したヘンリー・ジキル博士。周囲の理解を得られない彼は、自らの身体を使ってこの新薬の有効性を証明しようとするのだが、そこには恐ろしい“罠”が・・・。2012年に石丸幹二バージョンが上演され、大評判となったミュージカル『ジキル&ハイド』が帰ってくる!フランク・ワイルドホーンの音楽にのせ、4年振りにジキルとハイドを演じる石丸幹二に話を聞いた。

ドラマの現場での経験を舞台に活かしたい

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――『ジキル&ハイド』4年振りに石丸さんバージョンの再演です!

月日が経つのは早いものですね(笑)。まだ稽古に入っていませんので、4年振りの『ジキル&ハイド』がどんな風になるのかはお伝えできないのですが、カンパニーが集まって2016年版の稽古がスタートした時に、それぞれがどんなものを持ち寄って新しい化学反応を起こしていけるのか、私自身もとても楽しみです。

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――この4年の間に石丸さんご自身も本当にいろいろなお仕事をなさいました。

特に映像の現場を多く経験させていただいて、私の中にも新しいものが色々生まれたんじゃないかと思っています。ドラマで演じた役の感覚を今回の『ジキル&ハイド』でも活かしていけたらいいですね。

――ドラマといえば『半沢直樹』は社会現象にもなり、浅野支店長役は大きな話題になりましたね。

悪い役でしたからね、あの頃、子どもたちに「あ、悪いヒトだ!」って言われるのが何よりキツくて・・・、本当はそんなに悪人じゃないんですよ(笑)。『ジキル&ハイド』では、ドラマで演じた浅野の心の中にあった“野心”をジキルに、“悪意”をハイドに活かせたら面白いんじゃないかと考えています。

――石丸さんご自身はジキルとハイド、どちら寄りでしょう?

うーん、どうでしょう・・・お酒を飲んだらハイドかな(笑)。2012年に初めてこの作品に出演させていただいた時に強く意識したのが、ジキルの“野心”の部分の表現でした。そういう意味では今の僕はジキルに近いかもしれません。舞台でも映像でも、新しい分野の仕事に貪欲に向かって行くという点でジキルに共感しますし、その点は自分と重なると思っています。

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――「野心」がジキル役を演じる上でも、今のご自身にとっても1つのキーポイントになっていると。

4年の間に映像作品に出演したり、歌の仕事をさせていただいたのも僕にとっては“野心”の一つなんです。もしかしたら“野望”と言い換えても良いかもしれない。と言うのも、テレビに出て多くの人に認知していただくことによって、その方たちが実際に劇場に足を運んで下さるきっかけになれば嬉しいといつも思っていますので。少しでも多くの方に、劇場という濃密な空間で生の舞台に触れていただけたらありがたいです。

『ライムライト』のカルヴェロ役で向き合ったこと

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『ライムライト』(2015年7月)写真提供/東宝演劇部

――2015年7月の舞台『ライムライト』は心に響く、とてもあたたかい作品でした。

学生の頃からチャップリン好きだったのですが、まさかあの役(=老道化師のカルヴェロ)を演じられる日が来るとは思っていませんでしたので、お話を頂いた時はとてもうれしかったですし、結果、チャップリンの作品を演じた経験は糧になりました。
『ライムライト』に向き合っていた時は、役柄的にも自分の中にある“老い”に鏡を向けざるを得なくて、そういう点でも考えることが多かったです。確かにハートウォーミングな舞台なのですが、演じる側にはある種の厳しさもありましたね。

――カルヴェロを演じている時はどういうところでご自身とリンクが?

カルヴェロはどうあがいても自分が現役に戻れないことを一番良く分かっている・・・そんな哀しみを胸の内に秘めながら、テリーの将来やネヴィルとの恋をサポートする訳です。『ライムライト』では年を経た人間が誰しも持っているそんな思いをなるべく人間臭く演じたつもりです。私自身、50歳になりましたし、そういう感情が少しずつリアルになってきました(笑)。普段の生活でも「寂しさ」や「切なさ」に対する感覚が、若い頃よりも強くなっているようです。

――劇団時代からずっと石丸さんの舞台を拝見していますが、いつもとても素敵です。

ありがとうございます(笑)。デビューして25年になるんですが、生きてきた内の半分は舞台に立っているんだと思うと、ありがたさと共に感慨深さもひとしおです。今ようやく若い役も大人の役も成立させられるところに達した感じがします。そう考えるとすごく“お得”な世代なんですね。

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人生の転機で出会った二人の作曲家

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――25年間の中で、特に思い入れの深い作品や役がありましたら教えて下さい。

二人の作曲家との出会いが大きかったですね。一人は舞台デビュー作となった『オペラ座の怪人』を作曲したアンドリュー・ロイド=ウェバー。そしてもう一人は『ジキル&ハイド』の作曲家、フランク・ワイルドホーン。

『オペラ座の怪人』は俳優という道を歩む最初の一歩となった作品ですし、『ジキル&ハイド』はフリーになって、初めて大劇場で海外ミュージカルの主演を務めた舞台。お二人の作る音の世界の中で人生の転機を迎えたという感覚がとても強いんです。

ロイド=ウェバーの楽譜はとにかく難しくて、見たこともない記号が暗号のように散りばめられています。その暗号にまるで宝石のような指示が入っているのですが、それを読み解いていく苦しさと楽しさ・・・彼の曲はマラソンのように歌う側にもスタミナがないと成立させられません。

ワイルドホーンの曲には瞬発力が要求されます。音域の幅も広いので、歌い手は馬力がないと歌いこなせない。

それぞれ違った難しさや大変さがあるのですが、やりこなせた時は歌い手としてステップアップ出来たという大きな実感が持てるんです。

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――今後演じてみたい役や作品についても伺いたいです。

これまで演じたことがない、そして50歳になった今だからこそできる役に挑戦していきたいですね。いわゆる“ヒーロー”ではなく、どこかダークさも持った大人の役やクセのある役・・・。ミュージカルですとそういうキャラクターは限定されますが、映画やドラマだとたくさんありますし。『羊たちの沈黙』のレクター博士なんて魅かれますね・・・ミュージカル化されたら面白いと思いますが、さすがに難しいかな(笑)。

和物でも洋物でも良いのですが、人生の深みをたたえた歴史上の人物、なんていうのも演じてみたいです。それこそ大人じゃないと演じられないような役柄を。あ、セクシー系も良いですね・・・『007』シリーズのジェームズ・ボンド的な役にも憧れます。

――石丸さんのジェームズ・ボンド、実現の際は正座して拝見します(笑)。舞台関連でインタビューをさせて頂くと“演じてみたい作品”で『ジキル&ハイド』を挙げる方がとても多いんですよ。

それはね、一つの舞台の中で二つの役を演じるという、役者としてある種の腕試しが出来る作品だということが大きいと思います。体力も必要ですし、二人分のナンバーを歌い分ける歌唱能力と作品の解釈力・・・『ジキル&ハイド』はこの三つがないと成立させるのが難しいミュージカル。そういう意味でも本当にやりがいのある作品なんです。さらにジキルとハイドの心を一瞬にして切り替える演技力も問われますし、しかもどちらもどんどん傷付いていくという展開ですから。

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――ジキルがハイドになるきっかけが切ないですよね。最初はお父さんを救いたいという強い気持ちからで。

私が『ジキル&ハイド』に出演させていただくようになった2012年からは、新たに「知りたい」という曲が足されて、よりジキルの動機が明確になったように思います。ジキルはただ清廉だった訳ではなく、父の病気を何とかしたい、それにはこの薬が必要だ・・・そこから次第に彼の“野心”や“エゴイズム”も顔をのぞかせるようになります。今回もより人間臭く、ある種の“闇”を抱えたジキル像を作っていきたいですね。私のジキル像の柱の一つが彼の“動機”の部分なので、そこはしっかり頭に置いて演じるつもりです。

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『ジキル&ハイド』(2012年3月)写真提供/東宝演劇部

――石丸さんご自身は、エマとルーシー、どちらの女性に魅かれますか?

エマは生まれた時から恵まれた人生が約束されていて、素直にその道を歩んできた人。愛情豊かに恋人を包み込める女性。でもルーシーは生きて行くために常に自分で人生の選択をしてきた女性です。確かに不幸な身の上ではあるのですが、意志をしっかり持って生きている。私のジキル部分はエマに、ハイド部分はルーシーに惹かれるかな。

私はジキルとルーシーの二人がどこか似ているようにも感じるんです。何かを超えようとしたり、手に入れるために“野心”をもって行動するところが特に。同志としてなら、最高の相手だと思いますよ。

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劇団四季在籍時には『オペラ座の怪人』『美女と野獣』『壁抜け男』『アスペクツ・オブ・ラブ』『思い出を売る男』など、多くの作品で活躍し、フリーになってからも、舞台と映像の世界を自在に行き来する俳優・石丸幹二。

今回のインタビューで最も多く発せられた言葉は「野望」。一見、彼の持つソフトで高貴な雰囲気とは相容れない気もするが、その「野望」が新たな役柄への挑戦であり、より多くの観客に劇場まで足を運んでもらいたいという強い思いであることを聞き、深い場所にすっと落ちた。

ドラマや音楽番組への出演で得たエネルギーと、心に燃える「野望」との相乗効果で、4年振りに甦るヘンリー・ジキルとエドワード・ハイドがどんな深化を遂げるのか・・・客席で目撃するのが楽しみでならない。

◇ミュージカル『ジキル&ハイド』◇

(東京公演)2016年3月5日(土)~3月20日(日) 東京国際フォーラム ホールC
(大阪公演)2016年3月25日(金)~3月27日(日) 梅田芸術劇場メインホール
(名古屋公演)2016年4月8日(金)~4月10日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール

撮影:高橋将志

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