『サンセット大通り』ノーマ役(Wキャスト)の濱田めぐみにインタビュー!「ノーマは生半可な覚悟では出来ない役です」


ビリー・ワイルダーの名作映画を『キャッツ』『オペラ座の怪人』の作曲家としても有名なアンドリュー・ロイド=ウェバーがミュージカル化した舞台『サンセット大通り』。1995年にトニー賞で7部門の賞を獲得し、2012年には日本でも上演された濃密な作品だ。2015年7月4日(土)に東京・赤坂ACTシアターにて開幕する本作で、主役の大女優、ノーマ・デズモンド役(Wキャスト)に挑む濱田めぐみに役に賭ける今の気持ちをじっくり聞いた。

濱田めぐみ『サンセット大通り』

――製作発表で濱田さんが歌った「AS IF WE NEVER SAID GOODBYE」を聞いて涙が出ました。

わあ、本当ですか?実は私も少し泣いてしまったんです。ノーマはこの歌を歌う時、辛かったんだなあ、と思ったら・・・つい。

――今回の再演で濱田さんがノーマを演じると伺った時「やっとこの時が来た!」と思いました。最初にお話を聞いた時はいかがでしたか?

正直“怖い”と思いましたね。ずっと怖いもの知らずで、がむしゃらに役と向き合ってきたのですが、もう勢いだけで突っ走れる時期でもないし。この『サンセット大通り』という作品がどれだけ世界的に愛されていて、どれだけ評価されているのかを考えただけでも、これまでとは違うモードで取り組まなければいけないと感じました。

この作品は、これまでいくつかの経緯があって今回再演されることになったんです。実際には『サンセット大通り』の舞台に立つことが叶わなかった方たちの思いも一緒に胸に秘めてノーマを演じる訳ですから、生半可な覚悟では出来ない役だと思っています。

――ノーマはこれまで濱田さんが演じた『美女と野獣』のベルから、『デスノート The Musical』のレムまでを思い返しても、全く新しいタイプの役柄です。

そうそう、本当にその通りです!楽譜や資料を受け取ったのは『デスノート The Musical』の稽古に入る少し前だったのかな・・・。でも、レムの稽古に入ったら、その役のことしか考えられなくなるのは自分で分かっていましたので(笑)、『サンセット大通り』に関してはまずはサラっと勉強しよう、くらいの気持ちで楽譜や映像のチェックからはじめました。
ですがサラっと行かないのが私でして(笑)、何か用事をしながらブロードウェイでノーマを演じた俳優さんの動画なんか観ようものなら、全ての事をストップしてその世界に入り込んでしまう訳です(笑)。運転中でも一度気になりだすともう駄目で、わざわざ車を途中で停めて映像に見入ってしまったり。
これまでノーマ役を演じてきた方達があまりにも凄いので、一旦大きく打ちのめされました。今はそこから「ブロードウェイでもロンドンでもこんなに素晴らしいんだから・・・もう仕方ないじゃん!」と、少しずつ浮上している感じです(笑)。

濱田めぐみ『サンセット大通り』

――役に対してのアプローチもこれまでとは変わってくる?

勿論そうです。これまでは自分が演じる「役」に入り込んで、それをコントロールしながら演じて来た訳ですが、ノーマは自分に全くない要素を多く持っている人なので、入り込むというよりは“まとって”いく感じですね。今の私よりずっと年上で、更に栄光を掴んだのちに落ちぶれた彼女の全てにリアリティを持たせて演じるには、これまでのやり方では全然太刀打ちできません。

――濱田さんの出演作をずっと観てきて、前にお話も伺いましたが、その姿から「嫉妬」や「執着」という単語が全く思い浮かびません。

そう!ない!(笑)。さっき言ったこともすぐ忘れちゃうし(笑)。

――ノーマが持つ一種の女優の「性(さが)」みたいなドロドロしたものもない?

ない!もう笑っちゃうくらいないです。終わったことにも全く執着がないから、出演した舞台の資料もどんどん捨てちゃって、いつも叱られてます(笑)。とにかく“今”が一番大事なんです。

――先程“怖い”という言葉が出ましたが、製作発表で歌われた「AS IF WE NEVER SAID GOODBYE」はノーマがそういう気持ちを抱えて歌うナンバーですね。

正にノーマの歌を多くの方の前で初めて歌う自分の気持ちと、この時の彼女の心情が全く同じで、そこは製作発表の舞台上でもぴったり重なりました。色々な資料や映像を見る中で、この場面のノーマの状態には最初から寄り添えたんです。虚勢を張っていても本当は怖くて仕方がない、足はガクガク震えている・・・だけど皆の前に出て行かなければならない・・・怖い・・・でも称賛を期待する気持ちもプライドもある・・・そんな感情が凄い振れ幅で揺れている場面の曲。
このナンバーを舞台で歌わせて頂いたことで、初めてノーマと自分の感情が合致したのをはっきり自覚できました。彼女が溜めていた20年分の思いが溢れ出る感覚・・・皆さんの前で歌った事で実感できたんだと思います。

――恋愛という切り口でも、相手に執着して追い込む・・・みたいな役はこれまでにない気がします。

どちらかというと(役の上では)いつも追われる側でした(笑)。ノーマが持つ恋愛に関しての色々な感情も自分の中にはない部分で、これから詰めていかなければいけないと思います。

――そんな濱田さんが演じる“ノーマ”像、一体どんな感じになるのでしょう。

本当に未知の世界の役柄で、皆さんもどんなノーマになるのか想像しづらいと思いますし、実は私が一番想像できていないかもしれません(笑)。さっき、ジョー役のカッキー(=柿澤勇人)とも話したのですが、この作品は一旦真剣に取り組んだら(作品や役から)出たり入ったりということが出来ないと思うんです。多分、プライベートでもノーマやジョーがいつもどこかにいる感じになるんじゃないかと。

――4月に菊田一夫演劇賞を受賞された時の「私は歌や演技、踊ることしか出来ないので、舞台の上にいる姿を評価して頂けて幸せです」というコメントが印象に残ります。そこがノーマと濱田さんを繋ぐ一つの“糸”のような気もしたのですが。

私、本当の自分をさらけ出すタイミングがないまま、いつもどこかに「役」がある状態で生きてきたんですね。それって普通の人にとってはちょっと恐ろしい状態だと思うのですが(笑)、自分にとってはそれが当たり前の日常で。だからかな・・・ノーマをなかなか客観的に見つめることが出来ないんです。
私は“今”が大事で、過去のことはどんどん流して生きていくけれど、ノーマはそれが出来ずに全ての思い出を“溜めて”いる人。表に出る部分は違うけれど、根の部分は実は同じなんです。
自分よりかなり年上の女性を演じることも初めてで、そこには必ずテクニックが必要になってきます。全てにおいて、これまでなかった引き出しを新たに作ってノーマという役を演じていく・・・本当に大きな挑戦です。

濱田めぐみ『サンセット大通り』

――その大きな挑戦を一緒にするカンパニーの中に、劇団四季で一緒にやって来た鈴木綜馬さん(マックス役)や柿澤勇人さんの存在があることは頼もしいですね。

本当にそうですね。(鈴木)綜馬さんは『美女と野獣』で初めて四季の舞台に立った時から厳しく、そして温かく指導して下さる先輩ですし、大先輩である浜畑賢吉さんもいて下さいます。柿澤君も含めて、信頼関係が出来ている方たちと一緒にやれるのは心強いですね。

――個人的な感想ですが、製作発表で歌を聞いて、安蘭けいさんと平方元基さんのチームは「太陽」、濱田さんと柿澤さんのチームは「月」だと思いました。

私もそう思いました!全く個性が違う二組だからこそ、Wキャストとして同じ作品に出演する意味があると思っています。更にその個性の違いを自分たちで意識して役を作っていくのではなく、気が付いたら全く違う二組になっていた・・・というのが今回のペアリングではないかと。
演出の鈴木裕美さんも(製作発表の場で)仰っていた通り、同じことをやっても違う表現になる二組がそれぞれ演じるということが、今回の舞台の醍醐味になるのではないでしょうか。

――演出の鈴木裕美さんとは『アリス・イン・ワンダーランド』でも組まれています。

とても明確な意図を持って作品に息を吹き込んで行く方ですし、青写真がご自分の中にしっかりあるので、演技の方向性についてディスカッションになっても、信頼してお話をさせて頂けます。とても繊細に、丁寧に見て下さる方ですね。
5月まで出演していた『デスノート The Musical』は栗山民也さんの演出だったのですが、(鈴木)裕美さんが細かく作品を作っていくのに対し、栗山さんはまず大きな枠をどーんと作って、そこから細かい作業に入っていくという方法でした。お二人ともやり方はそれぞれ違うのですが、最終的な到達点は同じで、稽古中から絶大な信頼をもって作品に参加させて頂けました。

――以前、アンドリュー・ロイド=ウェバーの音楽について「まるで長距離走」と仰っていたのが印象に残っています。

『サンセット大通り』の譜面を見て、更に実際にそれを歌ってみて、改めて“彼の音楽は完璧なんだ”と実感しました。ですからまずは譜面に忠実に歌うことが一番大切です。今回、音楽監督と指揮を担当して下さる塩田(明弘)さんとも、とにかく譜面に忠実にやろう、と話しました。まずはロイド=ウェバーの音楽ありきで、ここをきちんとクリアして、はじめて作品の核心に入って行けると思っています。
同じ作曲家でも、『カルメン』や『シラノ』『ジキル&ハイド』などのミュージカルに出演させて頂いた、フランク・ワイルドホーンはフィーリング第一の方。ある意味真逆ですね。

――ワイルドホーンはその場で譜面を書き換えたりなさいますし。

そうそう!そういう方法も面白いですよね。ロイド=ウェバーの音楽は、まるでエジプト文明のように出来上がった瞬間から完璧で、ワイルドホーンは、その場の状況も加味しながら作り上げて行く近代文明の様な音楽・・・本当に全く逆のアプローチをなさるお二人なんです。

――そういう意味では昨年『ラブ・ネバー・ダイ』でしっかりロイド=ウェバーの音楽と向き合っておいて良かったですね。

確かに!あの作品がなかったらもう少しざっくり譜面を見てしまっていたかもしれません(笑)。『ラブ・ネバー・ダイ』の時はロイド=ウェバーも日生劇場にいらして下さって、彼の前であのナンバーを歌うのはとてつもない緊張でした!
世界的な作曲家と称されるロイド=ウェバーが、作品の題材に惚れ込んで完璧な楽曲を乗せた『サンセット大通り』。ノーマは私がこれまでに演じたことがない役柄ですし、いろいろな方の思いをしっかり引き継いで、相当の覚悟を持って臨んでいきたいと思っています。

濱田めぐみ『サンセット大通り』

「役を生きる」「命を燃やす」・・・普通に聞いたら少々気恥ずかしくなる表現だが、濱田めぐみは舞台上で自らの命を削ってこの言葉を体現する。劇団四季在籍時代には『ライオンキング』のナラ、『アイーダ』のアイーダ、『ウィキッド』のエルファバと三作品でオリジナルキャストを務め、退団後も圧倒的な存在感でさまざまな舞台に立ち続ける・・・その姿はいつも強く、そして美しい。

常に“挑み”続けてきた彼女にとっても『サンセット大通り』はこれまでにない挑戦になるだろう。表に出る部分は自分とはまったく違う、だけど“根”は同じ・・・そう語ったノーマ像をどう演じるのか。間違いなく濱田めぐみにとって大きなターニングポイントとなる本作で、彼女がノーマとして“生きる”瞬間をしっかり感じたいと思う。

◆ミュージカル『サンセット大通り』◆
【東京公演】2015年7月4日(土)~7月20日(月・祝) 赤坂ACTシアター
【名古屋公演】2015年7月25、26日(土・日) 愛知県芸術劇場大ホール
【大阪公演】2015年7月31日(金)~8月2日(日) シアターBRAVA!

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